一、SMの語源
東京に出て、私は日大芸術学部に籍を置いた。学校にはほとんど行かず、
小さな芸能新聞の記者をやったり、「りべらる」だの「赤と黒」といった
いわゆるカストリ雑誌に雑文を書いたりしていた。ご存じ「奇譚クラブ」が
世に出たのもこの頃である。
暫くこんな生活が続いたのだが、これだけでは到底欲望を満たすことが
できない。何か良い方法はないものだろうか。性欲の塊りになった女を
とことん追及して見たい。そして考えついたのが、新聞に広告を出して
みることであった。
当時「毎夕新聞」というエロ専門の夕刊紙があって、広告が載りそうなのは
ここだけである。経済的に余裕がないので文面にはいろいろと工夫をこらした。
その頃は奇譚クラブでさえ『耽美なるアブの世界』などと表現していた時代で
「アブノーマル」や「マゾ・サド」では長すぎるし「変態」は露骨すぎて使えない。
どうしたら良いか考えた揚げ句、頭文字を取ってMSとすることにした。
MS倶楽部会員モデル募集 芸 苑 社
こうして、わずか2行の広告が毎夕新聞に掲載されることになった。
実際に載ってみると、MSでは何となく文字のすわりが悪いので、
1ケ月くらい経ってからSMに変えた。
はじめてのSMクラブの誕生である。
或いは同時発生的に使われるようになったのかもしれないが、少なくとも
活字としてマスコミにSMクラブという言葉が登場したのは、これが最初の
筈であった。
結果は、男性マゾからの反応が圧倒的に多かった。私はサディストの方が
多いと思っていたのだが、これは意外だった。この傾向は現在までずっと
続いている。
女性からの応募はほとんどなかったと言って良い。最近のようにSMクラブが
まだ市民権を得ていなかった時代である。自分から変態だと名乗り出てくる
女などいる筈がなかった。結局、女は自分で仕込まなくては駄目だ!
と言うのが、それ以来一貫した私の哲学になった。
初期のころ集めたメンバーは、じっさい街で拾ったり、ヌードスタジオの
モデルを引き抜いたりした連中が多い。強引にセックスしたあと、嫌応なしに
縛り上げると、大抵の女が納得した。
山田和子 21才。
新宿の西口には、闇市風の商店が乱立していた。デパートが進出したのは、
かなり後のことだ。 そこではよく女が拾えた。声を掛けてそのまま近くの
旅館に連れ込む。当時温泉マークとか、逆さくらげと呼ばれていた安旅館である。
屋根の上に必ず赤いネオンの温泉マークがついていた。
彼女も釣針に掛かった女の一人。さんざんハメてから、天井の梁に縄をかけて
吊してみた。何をされても人形のように身体を任せているだけの女で、
ただ肉の塊りを虐めているといった感じだったが、つい先刻まで顔も知らない
女だったと思うと、滅茶滅茶に犯したくなるのが不思議である。
野川徳子 22才。
珍しくモデルとして応募してきた女性で、SMクラブの女王様第一号となった。
ただし女王様としての自覚はゼロで、何人かのマゾ男性の相手をさせて
みたが、これも仕事のうちといった感覚で、下着もつけたまま脱ごうとしない。
それでも当時のマゾ男たちは涎を流して喜んだのだから、まことに良き時代
であった。
山口イキ子 17才。
天才アラーキー以来、ハメ撮りというのが珍重されるようだが、こんなことは
もう30年も前からやっていた。記録に残すときは絶対にハメてから撮る。
それでなければ女をいたぶる意味がない。プライドを、木っ端微塵に打ち砕いて
やることも快楽の一つなのだ。
ハメては撮り、縛ってはハメ、その残骸がカメラに焼き付けられてゆく。
女が何でも言う事をきくようになったとき、こっちの勝ちなのである。
女たちは、ある時はアキラメの表情を浮かべ、ある時は欲情を一層昂ぶらせて
縋りついてくる。その生々しさが私は好きであった。
どんなに取り澄ましていても、女の身体にはどこかにアブノーマルな血が
流れているのだと思う。
それが、業なのであろう。
二、タコ部屋の女たち
当時の変態クラブで働く決心をするには、やはりそれなりの事情があって、
帰る家のない女が多い。そのため、芸苑社では事務所の近くに6帖ひと間の
粗末なアパートを借りていた。
当時は住宅難で、部屋には常時二・三人の女たちが寝泊まりしていた。
従業員の寮といえば人聞きは良いが、早い話が女のタコ部屋である。
部屋にはいつも薄っぺらな布団が敷いてあって、女たちが雑魚寝している。
奥に小さな浴室がついていて、傷ついた身体で銭湯に行かないで済むのが
唯一の救いだった。
そんなところに、住み込みの広告に釣られて迷い込んできたのが石田和枝である。
何をやっていたのか、着ているワンピースがヨレヨレになっていた。
17才になったばかりの垢抜けない田舎娘だが、どこかマゾっぽい雰囲気があって、
仕込めばものになりそうな女である。ほかに働くアテもないというので、そのまま
部屋に連れていくことにした。
「まだ誰も帰っていねえのか?」
ドアをあけると、シミーズ一枚で足の爪を切っていた女が、あわてて座りなおした。
中野恵美子という、24才のマゾ女である。
「こいつを風呂に入れてやれ」
「あの…、私はいいんです」
和枝が、半分尻込みしながら言った。
「そのままじゃ臭くって仕様がねえ。おまんこを洗ってこい」
「エッ、はい…」
和枝は赤くなって、おそるおそる風呂場に消えた。曇りガラスの向こうで
服を脱ぐシルエットはまだ子供である。
湯を使う音が聞こえはじめると、恵美子がちょっと改まった調子で言った。
「あの、お願いがあるんですけど…」
何だ…、女の脂と体臭が滲み込んだ薄い布団にゴロリと横になる。
「あのう、私、結婚したいと思って…」
「ほう、相手はどんな客だ?」
「お客さまじゃないんですけど…」
恵美子は口ごもってモジモジしている。
「客じゃなければ、どうしてお前がマゾ女だってことを知ってるんだ」
「いえ、まだ話してないんです。それで早くこの仕事を辞めたいと思って…」
「馬鹿野郎!」
いきなりひっぱたくと、恵美子はアッと斜めになって、ポカンと口を開けた。
「それじゃ無断で男つくって、タダでヤラせていたっていうのかっ」
「許してください…ッ」
髮の毛をつかんで布団にひき据えると、シミーズの裾が捲れて、
足が宙を蹴った。
「そいつとは何回ヤッたんだ」
「サ、三回だけ…。偶然会った人なんです」
「てめえ、自分が遊ばれていることに気がつかねえのかよ」
「違います、決してそんな人じゃ…」
「この野郎、おまんこ出してみろ!」
「取りますッ、待って…」
恵美子は震える手で、不自由な姿勢のまま足先からパンティを抜いた。
乱暴に股を拡げると、びらびらが幾重にも重なって、年は若いが、
性器は30女のように色づいていた。毎日のように指や道具で弄ばれて
いるうちに、いつの間にか色も厚みも増してくるのである。
「自惚れるな、こんな道具に本気で惚れる男がいると思ってるのか!」
「でもッ、ほ、本当に好きなんです」
この種の女には、情けをかけるより罰を与えたほうが、よほど効果があがる。
有り合わせの腰紐で手荒く手足を縛って、おむすびのようになった
尻の裂け目に、特大の張り形を捩じり込んだ。
「ぎぇッ、お願いやめてェ…ッ」
SM用語で言えば調教だろうが、プロである以上、遊びではなかった。
恵美子が白眼を剥いたとき、風呂場の曇りガラスが開いて和枝が
何気なく顔を出した。
アッ…。服を両手に抱えて、和枝はその場に立ちすくんでいる。
「怖がることはねえ。抱いてやるからこっちに来い」
吸い寄せられるように、和枝はフラフラと近づいてきた。
「お前、本気で働く気があるのかよ」
和枝は、かすかに頷いたようだ。
首筋を捕らえて足もとに転がすと、素裸のまま金縛りにあったように
天井の一点を見詰めてじっとしている。小麦色の乳房がムクッと盛り上がって、
肉づきの良い太腿が突つけば血を吹きそうに張っていた。
マゾ女としての刻印を押すには、ちょうど良い機会である。
「いいか、後悔するんじゃねえぞ」
和枝は、黙って少し脚を拡げた。
毛が薄くて、左右から張り合わせたような縦の線がクッキリと刻まれている。
馬乗りになって、下腹を叩いている男根に手を添えてひと思いに
突きおろした。
「ううム…ッ」
のけ反った少女の身体を圧し潰すように、容赦なく体重を乗せる。
もともとマゾっぽいところのある娘なのだが、和枝は何の抵抗も
示さなかった。反対に懸命になって男根を受け入れようとする。
「お前、生娘じゃねえな」
あらためて肉のはざまを調べてみると、抜いたあとにポコッと小さな丸い穴が
あいていた。風呂で洗った直後なので周囲が赤く充血して、汁はほとんど
出ていなかった。
「いつ穴をあけられたんだ」
「コ、子供のとき…」
和枝が、喘ぎながら言った。
入れなおしてみると、内部にはムキたての鳥賊のようなコリコリした
粘り気がある。
「来い。お前のよりずっと良いぞ」
手を延ばして恵美子を縛った腰紐を解く。
股間に張り型をぶら下げたまま、恵美子は犬のように這い寄ってきた。
男に惚れていても、しょせんはマゾの女である。
「舐めろ!」
絡みあった陰毛の間に鼻を入れて、恵美子はハメぎわの軟らかいところに
吸いついてきた。ときどき舌先が男根に巻きついて、生温かい感触が
伝わってくる。
「うひィ」
奇妙な声を出して、和枝が小刻みに腰を跳ねた。馴れない刺激に、
若いクリトリスがたちまち激しく反応する。
「あッ、ああ…ッ」
そのとき、ガタンとドアが開いて女が戻ってきた。
浪速ローズ、野島愛子…。
二人とも半年ほど前から住み込んでいる女である。
和枝はビクッと身体を震わせたが、立ち直る意思の力がなかった。
脚を大きく拡げたまま、入ってきた女の顔を痴呆のように見上げている。
「恥ずかしくねえだろ。イクところをあいつらにも見せてやれ」
「うぇぇ…ッ」
反射的に和枝は腰を上下に振った。
「ちぇっ、もっとしっかり舐めろ」
恵美子の尻を叩くと張り型が尻尾のようにブラブラと揺れる。
「駄目ッ。キッ、気がヘンになるゥ」
女たちは、身をすくめてこの様子を見守っている。
薄っぺらな布団の上で、まだ幼い田舎娘が海老のように跳ねまわる
光景は、残忍で可憐なマゾ女誕生の淫ら絵図であった。
「よし、思い切りイカせてやれ!」
男根を抜くと、とたんに、恵美子が狂ったように割れ目の真ん中に
顔を埋めた。
「うわアッ、あイクゥ…ッ」
恥も外聞もなく、和枝は全身で痙攣した。
やがて、ぐったりした少女の横で、恵美子が虚ろな顔を上げた。
顎を掴んでこちらに捩じ向けると、ヌルヌルになった唇の奥に精液を
流し込みながら、私は宣告を下した。
「いいか、まともな男とヤリたかったら、もう二度とここに来るんじゃねえぞ」
「うっ、ぐふッ」
結局、恵美子はその日限りで事務所を辞めることになったが、タコ部屋に
住む女の数はまた三人になった。