雨とゴムの狂宴


村井 仁志(36)





 梅雨に入って、ショボショボと嫌な雨が降り続いていました。

 川沿いの土手の道で車を走らせながら、助手席の美紀を横目で見ると、

じっと眼をつぶって込み上げてくる衝動を抑えている様子。

「そろそろ目的地に着くよ」

「はい」

「洋服を脱ぎなさい」

 美紀は無言で、少し俯いてブラウスのボタンに手をかける。

「早く、言われたとうりにしなさい」「わかりました」

 美紀はブラウスを脱ぎ、車の中の不自由な姿勢で上半身を曲げ、

足もとからスカートを抜き取ります。

 その下は、何も着けておりません。

 いえ、家を出るとき縛ってきた縄目が胸に食い込んで、乳房が

紡錘形に変形している筈なのです。ロープは菱形に巻き付いて、

ウエストの一番細いところから今度は縦に、股縄となって後ろに

まわしてあります。

 これが奴隷美紀が私に奉仕するときの正装でした。

「脱いだら後ろのシートに置いて…」

「はい」

「いつものカッパがあるだろう」

「はい」

 後席に手を伸ばすと、黒い厚手のゴムカッパ、美紀が引き寄せ

ようとするのですが、ゴム生地が固いので狭い車内ではとても扱いにくい。

「いいから、外に出てから着なさい」

 河原に降りる土手の道を斜めに下ると、とたんに車ががくがくと

揺れはじめます。美紀はゴムカッパを抱えたまま、慌ててシートに

身を沈めました。

 もう明け方に近い深夜、こんな時間に河原には誰もいる筈がありません。

それでも慎重に行けるところまで車を進めて、ドアを開けると雨は

思ったより強く降っていました。

「外へ出ろ」

 頭からスッポリとゴムを被せて、河原を歩く。美紀は裸足です。

足元がおぼつかないので一歩一歩確かめるようについてきます。

「このあたりで良いだろう。しゃがんでごらん」

 傘をさしたまま立ち止まってズボンの前を開けると、黒いカッパの影が

蹲るように寄ってくる。

 生暖かい舌の感触と、カッパを叩く雨の音が異質のコントラストになって、

私を妖しい幻の世界に誘ってくれます。舐めさせているうちに不覚にも

射精しそうになって、私はさりげなく腰を引きました。

「待て、縄を取ってやろう」

「はぁぁッ、あり…、がとうございます」

 傘を置いて股縄を外しにかかると、ムッとするようなゴムの匂い。

雨の中で、それはいっそう強く、芳香というより媚薬のような強烈な

香りを発散していました。先刻から、美紀はこの匂いに酔っているのです。

 謎めいたゴムの匂いに魅せられた男と女、マゾとサド…。

それが私たち二人の関係のすべてでした。

「ちょっと、お尻をあげなさい」

 ふと思いついて、私は鳩の卵ほどの大きさの意思を拾って、美紀のアナルに

押し込もうとしました。いくら濡れているといっても河原の石です。

これは相当に痛かったらしい。

「あっ、うぅんッ」

「我慢しな。もう一つだ」

 都合三個の石を捩じ込んで、私はつめたく冷えた美紀の身体を抱きました。

 ゴムカッパが一つしかないので、それを河原に敷いて半分を頭からかぶり、

縄で括られた女を抱く。ジットリと雨と違ったヌメリをもった肉のはざまに

突き入れると、薄い粘膜を隔ててコロコロとした石の感触が伝わってきます。

「あぁッ、だんなさま…ッ。ゴム、ゴムの匂い…」

「うむ、もっと息を吸ってごらん」

「ふうっ、たッ、たまりません」

 身体を動かすことはほとんどできません。硬直した肉塊を挿入したまま、

僅かに肌をこすり合わせるだけです。でもそれで十分な快楽でした。

「あぁいいッ、いいわ」

 やがて、ヒクヒクと男根を締めつける括約筋の収縮がはじまる。

「いいのか、そんなにいいのか」

「ど、どうしてこんなに…、あなた、あなたいくッ、いっちゃうぅぅ」

 突然美紀が脚を跳ね上げたので、ガバッとカッパが鳴って、雨が直接

ふたりの身体に降ってきました。

 申し遅れましたが、美紀は二年前、前妻と別れて再婚した現在の家内でございます。


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