プロローグ
プロローグ 出会い
「仏の西さん」と呼ばれて、お年寄りに慕われている役場の係長、背は低く、
ちょっと小太りで、、笑うと目がなくなるその顔が仏のようだと誰からともなく
そう呼ぶようになっていた。「いい人」でずっときた西は、結婚が遅かった。
40歳になり、「一人の人生」を覚悟し始めた頃、高血圧で通っていた開業医で看護婦
みあと出逢った。よく働く、笑顔がかわいい娘で、注射が上手だった。
町内に住んでいるらしく、時々スーパーで顔を見た。気が付くと会釈をしてくれた。
西が保健福祉課の係長になり、予防注射の手伝いに借り出された日、
そこにみあがいた。保健婦に頼まれて予防注射の手伝いにきていたのだ。
注射液を詰める手伝いをしながら、初めてみあと西は、いろいろなことを話した。
みあという娘が、すごく身近に感じた日だった。
一週間の手伝いの間、西はみあと、趣味のこと、、家族のこと、たくさん話した。
みあは、よく笑う娘だった。でも、どこか影がある・・・そんな気がしてならなかっ
た。
しばらくして開業医に受診したとき、西は思い切ってみあを食事に誘った。
「おいしい餃子屋があるんだけど、餃子好きかな。」
みあは、笑いながら「大好き。西さんと食べたいな」と答えた。
誘ったつもりが、誘われたのか。
それからの二人は、ときどき食事をしたり、花を見にでかけたりといっしょに過ごす
時間が増えた。みあといっしょにいる時間は、楽しいし幸せだ、でも・・・
どうしてわたしのようなさえないおじさんと彼女はつきあってくれるのだろう。
もっと若くていい男のほうがいいだろうに。そんなことをふっと思うのだった。
それと同時に、西はもう一つ自分に言い聞かせなくてはならないことがあった。
自分は、みあを幸せにはできない。みあが望む幸せを与えることができない。
ならば、早くみあを傷つけないように離れなくては。40歳にもなって、夢なんか見る
な!
そう自分に言い聞かせるのだ。
みあは・・・?みあは、西といっしょにいる時が一番気持ちが安らいでいた。
変に背伸びをしなくてもいい、きどらなくてもいい、ありのままの自分でいられる安
堵感。
その自分を、うれしそうな眼差しでいつも見ている西。
そばにいるだけで、心があったかくなる。
西と知り合って、みあは毎日の生活の中で、自分に自信がもてるようになったことを
感じた。不思議な感覚だった。人は、丸ごとを受け入れられると、
自信が持てるようになるのだろうか。
丸ごと・・・?本当に?
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