花魁マツの出産
“マツ、朝飯だよ。まったく、お客のとれない花魁なんかに….。”
不機嫌な面持ちの中年女が床板をあげ、半地下となっている座敷牢に
朝食の膳を携えて降りてきた。
“おかみ….さん….、さ、産婆….さんを…..”
その顔を苦悶にゆがめた色白の女が、格子の間から力なく訴えている。
赤い襦袢に身を包んだ女の華奢な体からは想像もできないような
太鼓腹がつきでている。
“おや、まぁ、やっと産気付いたのかい。何人もの男咥え込んで来たんだ。
お産婆さんなんか呼ばなくたって平気だろうに。さっさとひりだして、
お客をとっておくれ。こっちは商売なんだからね”
“い、いた…..はぅぅぅぅぅぅっ”
額に脂汗を浮かべ、格子にしがみついたまま呻き声をあげるマツを尻目に、
中年女は無情にも床板を閉めて出て行ってしまった。一人残されたマツは、
薄暗い座敷牢のなかで一人初産の恐怖におびえていた。
蝋燭の炎がちらちらと揺れる。
“はぁあああああああ〜〜。
だ、だれ……..た…..す…..ふうううう
うううんんん〜〜”
助けを呼ぶはずが、呻き声に変わる。後は激しい息遣いのみだ。
まだ夜も明けきらぬうち、マツは腹部の痛みで目を覚ました。
それから一人で産みの苦しみと闘っていた。
17で遊郭に売られ、それから4年。元々色白で美しかったマツは
遊郭でも1、2を争う売れっ子になった。だが、孕み腹を隠しとおせるわけも無く、
出産まで座敷牢に閉じ込められることとなったのだった。
“ひっぃぃぃぃぃぃ〜〜。うっ、
ううううううぅっ、あああ〜〜〜、ああ〜”
格子を握り締めている両手がじっとりと脂汗で汗ばんでくる。
下腹部の硬い異物感が更に彼女の恐怖を煽った。
日があたらないせいか、時間が止まったようである。
マツは布団に身を横たえ、陣痛の度、両手で端を握り締め、枕に顔をうずめて
“ふむうぅぅぅぅーーーーー”
白い太腿が出血でねっとりと濡れ、布団も血で汚れている。
だが、お産がそれ以上進むことはなかった。
いつしか上から店開きの用意で、バタバタと動き回る音が聞こえてきた。
“ウウウウウゥウ〜んん”
“マツ、まだ産まれないのかい。早くしとくれよ。”
床板が開いたかと思うと、シゲの怒鳴り声が聞こえてきた。
できることなら、早く産み落としてしまいたい。だが、痛みが襲うばかりで
いっこうにその気配はない。
“ふううううーーーんんんっ、
あああぁっ、た、た…..ああっ、
すっうううう〜〜〜”
“今朝方来て見たら産気づいてたんですよ。夕方には産まれるかと
思ってたんですけどねぇ。お願いしますよ。こっちは、これから仕事なんでね。”
“最初のお産はなかなかうまいこといかないもんさ。どれ”
手に湯を張った桶と、手ぬぐいを抱えた産婆が格子を開け、訳知り顔で入ってきた。
日本髪がほつれ、痛みに顔をゆがめたマツの傍らに腰をおろし、
丹念に手ぬぐいで汗をふき取っていく。
“今朝からかい”
マツは苦悶したままうなづいた。
股間にあてた白い手ぬぐいがべっとりと血に染まる。
“あぁ、この調子だね。まだ暫くはかかるだろう。きばるんだよ。お産は苦しいもんさ”
“い、いた…….い。ああっ、
は、はぁ、はぁあああああ。ううっ、
うううううんんん〜〜”
“お前さん、随分腰が小さいねぇ。こりゃぁちょっときばらないと難しいかもしれないねぇ”
産婆は言いながらマツの突き出した太鼓腹をまさぐる。下腹部の異物の様子を
うかがっているようだ。腹を触っただけで何かわかるのか。股間からは
少量の出血が続き、足の付け根にべっとりと付着していく。
“さて、あたしゃぁ、晩飯でもご馳走になってくるかね。”
産婆は尻と股間に手ぬぐいをあてがうと、さっさと店に戻ってしまった。
“ま、待って。行かないで”
“大丈夫。まだ産まれやしないさ。”
バタリと床板の閉まる音がする。
“どうですよ。”
下男達にきびきびと指示を出し、忙しそうに動き回っているシゲが
産婆をみとめ、声をかけてきた。
“どうも、こうも。どうして、流さなかったんだい。相手はあの兵隊さんだろ?”
“騙されたんですよ。流してった言って、三月もたってみたら腹がでてきて…..。”
“高岡の旦那がついてたんだろ。”
“こっちも、旦那の手前、腹の子の父親は旦那だってことにしろと言ったんですがね。
高岡の旦那も半分わかっていて身請けしてくれるってことになってたのに。”
“言っちまったんだね。”
“もう、旦那はカンカンで。以来うちには足を運んでくれてませんよ。とんだ厄介者ですよ。あの花魁は”
“惚れてたんだねぇ”
“惚れた腫れたなんてのは花魁にはご法度じゃないですか。それを……。”
“まぁ、ここまで来ちまったもんはしょうがないさ。ところでちょっくら旦那衆の
夕餉のご相伴にでもあづかれないかね。”
“えぇ、いいですよ。まだ、産まれないんですかい。”
“あぁ、ありゃぁ当分産まれないね。明日の朝くらいに産まれればいいほうじゃないかねぇ。”
“そんなに…..。”
“逆子だしね。”
“…..じゃぁ。”
“死ぬことはないと思うけどね。シゲさんにとっても大事な商売道具だから、そう簡単に死なれても困るだろう。”
“まぁ…..。”
“油を用意しておいてもらおうかね。店が終ったらちょいと手伝ってもらうことになるかもしれないよ。
力仕事はこの年になるときつくてねぇ。”
“はぁぁぁぁぁぁーーーーー。
ああうううううぅぅぅぅーーーーー”
腹を抱えてのたうちまわるマツの傍らに、真っ赤に血に染まった手ぬぐいが放り出されいる。
出血が増し、布団は真っ赤だった。
赤い襦袢の前ははだけ、太鼓腹と黒く変色し、青筋がたっている乳房が二つ露になっていた。
乳房は硬く張っている。
マツは襦袢の腰紐をつかみ、痛みに悶えていた。
“うんんんんーーーー。
ひぃあああアアアアアアア〜〜〜。
ひぃいーーだ…..
いいいーーーーーーー。“
マツは必死に痛みを訴えた。
産婆は、股間の血を丹念にふき取るが、陣痛が襲うたび、股間から
どす黒い血が溢れてきた。産婆はマツの襦袢の腰紐を天井から吊るし、
布団をたたんで、マツをそこに持たせかけた。
“さぁ、これからが本番だよ。いいかい、しっかりこの紐に捕まるんだよ。”
マツはその姿勢のまま、次の陣痛に備えた。が、産婆がじんわりと
マツの黒い乳輪をもみ始めると、更に激しい陣痛が襲ってきた。
“いいああああああああああ〜〜〜〜、
あああああうううううううーーーー。
きゃああああああああああ〜〜〜、
んぐふうううううううううう”
乳輪から乳白色の初乳が滲み始めた。更にもみつづけると、勢いよく初乳が
両の乳房から噴出し、マツの顔にまでかかった。ますます痛みが激しさを増す。
マツは乳房も股間も露にし、全身汗まみれになって泣き叫んでいた。
“ああああああああああ〜〜〜〜”
“ああああああああああ〜〜〜〜”
既に夜も更け、女達はそれぞれお客ととって自分達の部屋に篭っている。
シゲが油を持ってやってきた。バシャバシャ。シゲの目の前でマツは絶叫と共に破水した。
“ああああああああああ〜〜〜〜、
だ〜、だ〜ずぅぅぅーーけーーー
てーーぇぇぇぇぇー。”
さすがのシゲもその光景にたじろかずにはいられなかった。
“おシゲさん、マツを後ろから支えてくれないかね。”
産婆はマツに猿轡をかませた。絶叫がくぐもった悲鳴に変わる。
産婆はシゲの持参した油に手を浸し、マツの股間にも塗り始めた。
“しっかり押えてておくれよ。ほれ、マツの足も抱えて。もっと大きく開かないと出てこないよ。”
マツの肛門には便が滲んでいる。
“いくよ”
“ふぐうううううんんんん
うううううううんんーーーーー。
うんむぐううううううーーー”
マツの股間からは肉片が見え隠れしている。産婆は胎内に戻ろうとする肉片を片手でつかみ、
もう片方の手をマツの膣内に無理矢理差し込んだ。
“んぐおおおおおおおおおお
おおおおおおおおーーーー”
マツが獣のような咆哮をあげる。産む綱を必死につかむので、天井がきしんだ。
マツは必死にもがくが、産婆はつかんだ肉片をはなそうとしない。更に片腕を膣内に突き入れる。
“ぎいいいいいいいいいいーーー
んんんんんーーーー”
“ほら、もっときばって。そんなんじゃぁ出てこないよ。”
“ふんんんんんーーーー
ーーーーーーぐふぅっ、
んんぐぐぐぐっ、いぎいーーーーーーー”
マツも必死でいきむ。乳房から乳が飛び散った。
このときとばかり、産婆は肉片をひっぱった。
無残にもマツの会陰が裂ける。
マツの股間に赤い肉の塊が踏みとどまった。
“んぐふぅおおおおお
おおおおおおおーーー
ーーー、んんぎいいい
いいいーーーー。
おおおおおおおおおおおおお、
おごおおおおおおおーーーー”
マツはボサボサの髪を振り乱し、必死の形相で咆哮を続ける。
“ふううううん、ふぅうう、
んんふうううう”
マツは最後の力を振り絞り、両足を大きく開脚したまま、しゃがみこんだ。
両肩はしっかりとシゲに押えられている。
“シゲさん、腹を押しとくれ。”
“んぎいいぃぃぃぃーーーーー。
ぐうううううううーーーー、
おおおおおおお〜〜〜”
マツは腰を浮かせ、逃れようとする。
頭が半分排出される。
“ぐぎーーーーーー、ぐおおお
おおおおおおおおおおおおお。
ぎゃああああああああああ
ああああああーーーーー。”
物凄い咆哮が続いている。
“んぐううううううう
ううううーーーー、
おおおおおおおおおあ
ああああああああああーーーーー”
産婆が無理矢理頭をずるりと引き釣り出す。おびただしい出血とともに胎児が娩出された。
マツはそのままちからなくシゲにもたれかかった。
“マツ、マツ。しっかりおしよ。”
マツは肩で息をしている。
“し、志郎さんに…..。”
産婆とシゲは顔を見合わせた。
“マツ、気の毒だけど、お前の恋焦がれた人は大店のお嬢さんと結婚したんだよ。”
“この子は、ちゃんと里子に出してもらえる。大事に育ててもらえるさ。
お前は花魁なんだよ。金で買われたんだ。”
“わかったかい、マツ。お前がどれだけ苦しい思いをして産んだって、お前は花魁なんだよ。”
“お、いらん…..”
深い溜息と共に、マツの瞳から一滴の涙がつたった