令室 千代の出産
鍛え上げられた体躯には不釣合いなほどに眉目秀麗な男が胡坐をかいている。女がその股間に顔をうずめていた。
男の目の前には女が一人。華奢ではあるが、締まった色白の肌には荒縄があてられている。両手が左右に縛り上げられ、
乳房の上下にはその膨らみを更に助長させるかのごとく荒縄が食い込む。更に腹部に沿って荒々しく縄が編みこまれ、
太い縄目が恥部を覆っていた。そのせりでた腹部から、女が臨月であることがわかる。女は縛られたまま、
男が果てるのをじっと見つめていた。
股間から女が顔をあげ、手ぬぐいで男根を丁寧に拭い去る。女はうつむきかげんのまま部屋を後にした。
「申し訳ござりませぬ。このような体ゆえ、旦那様の夜伽のお相手を仕ることが…….」
男は寝着を羽織るとおもむろに立ち上がり、女のせりでた腹部に指を這わせた。女の口から吐息がもれる。
「あんずるでない。わが胤を孕んだそなたの務めは、立派な男子を産むことゆえ。」
男は但馬清之助といい、代々若狭藩剣術指南役を務める但馬家の若き当主である。
幼き頃より剣術に明け暮れ、若狭藩随一といわれる剣術使いとなった清之助であるが、
その性癖は尋常ならざるものであった。しかし若くして当主となった清之助に課された最初の使命は
但馬家の世継ぎを残すこと。すなわち、嫁選びである。はじめ、家臣たちは清之助の性欲を満足させる
女人を探し当てることができるのかと思案にくれていたが、反して、清之助はあっさりとその伴侶を決めてしまったのである。
相手は、若狭藩内に道場を構え、古くは京極氏の流れを汲む蒲生家の一人娘、千代であった。
蒲生家の一粒種であった千代は、蒲生道場の師範代を務めるまでの腕前であったが、藩内随一の美女として
藩内では知らぬ者などいない存在であった。その清艶な容姿は道行くものを振り返らせ、清之助とて例外ではなかったのである。
端正な顔立ちの若き当主と匂い立つばかりの美しき師範代の婚礼は、盛大に催された。
その夜、千代は清之助から初めての情けを受ける。白い椿の化身と見まごうほどの千代の白い肌に、
清之助は容赦なく荒縄を当て、あられもない姿で蕾を散らしたのだ。千代は無言で堪え、清之助の責めは夜毎続いた。
暫くは無言で堪え続けた千代であったが、清楚な白椿は、妖艶な色香を放つようになっていった。千代は清之助を受入、
その責めに身悶えし、悦楽の淵に身を沈めた。毎夜のごとく享楽の叫びをあげる千代であったが、
昼間は剣術指南役の奥として、しっかりと務めを果たし、時に、剣術の稽古をつけることもあった。
契りを交わしてから程なくして、千代は懐妊した。懐妊がわかると、千代の代わりに清之助の夜伽の相手をする侍女が
遣わされたが、清之助は全裸に荒縄を当てた千代の肢体を前にしなければ、果てることができなかった。
「今暫くお待ちください。旦那様の夜伽のお相手を仕ることができるのは私のみ。立派な男児を産み落とし、
再び、旦那様のおそばに。」
清之助が、ゆっくりと千代に食い込んでいる荒縄を解いていき、腹部をいたわるように布団に横たえた。
巨大な腹部が天井に突き出す。千代の口から深い溜息が漏れた。
「大事無いか」
「ややが、動きまする。」
腹部をゆっくりとさすりながら千代が答えた。
産み月を過ぎようかというある日。湯浴みをした千代は、寝間着に着替え、肥大した腹をもてあますかのように、
のけぞるようにして寝所へ向かっていた。と、一筋の鮮血が千代の足を伝う。
「千代様……」
千代は腹を抱えたまま、その場にうずくまった。
「あ、慌てるでない。だ、旦那様に……」
千代は急な陣痛に唇をかみ締め、眉をしかめた。
湯屋から付き添った侍女の一人が、清之助の寝所へと小走りに走っていった。千代は、侍女に両脇を抱えられ、
離れに造られた産室へと向かう。
産室に寝かされた千代は、襲い来る陣痛に、布団を握り締め、必死に耐える。
「千代殿、但馬家は戦国の世から代々武芸で成らした家柄。戦場で剣槍を突き合わせるのが殿方の戦なら、
世継ぎを産み出すのはいわば、女子の戦でございます。千代殿も、但馬の家に恥じることなく、
立派にお世継ぎを産み落とされよ。武芸でならした但馬の家の嫁がお産で、泣き叫ぶなど武門の恥辱じゃ。
しっかり、きばられよ。」
千代が産気づいたと聞いて、姑の東光院が産室へ出向いてきたのである。
姑が入ってきたと知って、千代は布団の上に正座し、前を正した。
「但馬の家の嫁となった時より、覚悟はできてございまする。り、立派…….な…….」
しかし、千代の言葉は激しい陣痛に遮られた。千代はひたすら歯を食い縛り、天を仰ぎ、
漏れでそうになる呻きを必死にこらえた。
産気づいて間もない千代であったが、しかし、その陣痛は長く激しく千代を責めたてていた。姑を前にして、
身を横たえることもできず、千代は半ば足を崩しながらも座ったまま、陣痛に耐えていた。
片手で腹を抱えるように、もう片方の手は、硬く布団を握りしめている。痛みが引くと、千代は肩で激しく息をついた。
助産のためであろう、鉢巻を回した侍女が二人、千代の両脇に控えている。一人が、千代の背後に回り、
額に白い鉢巻をまわした。薙刀でも構えていたならば、当に戦時の備えである。産室は、戦場と化していた。
「はぁはぁはぁ……….。」
再び、口を真一文字に結び、布団を握り締める。
「う、ふ、ふぁ……はぁはぁはぁ…….。」
「まだまだですぞ。しっかりしなされ。」
「も、申し訳、ござりませぬ。」
千代は姑の厳しい監視の下、痛みを逃す術もなく、襲い来る陣痛に耐え続けた。
蝋燭の炎がゆれる。
「そうか、とうとう来たか。千代はどうじゃ。」
「はい、只今、奥の院様が産室にお入りになられ、千代様もご立派に。」
「ふん、そうか。頼むぞ。」
清之助は胸の昂ぶりを抑えながら、千代が産気づいた報告を聞いた。清之助の脳裏には、
陣痛に苦しみ喘ぐ千代の肢体が浮かんでいたのだ。産室に男子が入ることは固く禁じられている。
清之助は、産室を覗きたい衝動を必死にこらえていた。
「度々に報告せい。」
「は、はい。」
産室では依然千代が陣痛に顔を歪ませている。
「はぅぅ………。」
顔面を紅潮させて言葉にできない呻きを必死で飲み込む。
陣痛が収まると、腹を抱えたまま大きく肩で息をする千代であるが、ともすると、腹の重みにバランスを
崩しそうになる。侍女が一人、額の脂汗をぬぐった。千代は陣痛が止んでいる間に、傍らのたらいにかけられた
手ぬぐいを掴み取り、己の口の中に押し入れた。姑の前で、これ以上うめき声を漏らすまいとする懸命の処置であった。
東光院は、眉一つ動かさず、陣痛に苦しむ千代を見つめている。
「…………ぐふぅ。…….」
手ぬぐいを噛み締めるが、思わず端から呻きが漏れる。片手で腹部を押さえ、前のめりになった上体を
押さえるように、もう片方の手で布団を握り締めた。痛みから逃れようとするかのごとく顎を突き出したその顔に
見開かれた眼が痛みに絶叫する。尻の辺りが血に染まっている。陣痛が止むと、千代はそのまま前のめりに
崩れ落ちた。手ぬぐいをはずし、激しく息をする。
「も、申し訳、ご、ござりませぬ。」
「千代殿、しっかりなされよ。」
「失礼仕りまする。」
侍女が、上体を起こそうとする千代を仰向けに横たえ、両足を立たせて股間を覗いた。
血液と粘液でねっとりとした股間を布でぬぐう。
静寂が訪れ、産室には千代の息遣いだけが聞こえた。千代は横たわったまま、突き出た腹部を見下ろし、次の陣痛に備えた。
「……………」
布団を鷲掴みにした両手が震える。眉をしかめ、歯を食い縛る。大波はなかなか収まらない。
千代は布団を噛み必死で痛みに耐えようとする。布団を掴んでいた片手が思わず上腹部の帯を握り締め、
耐えかねたように千代は、口を大きく開き、顔を仰け反らせた。
「……..あはぁ…….はぁ、はぁ、はぁ」
大波が止むと、千代はほっとしたように、布団に身を落とし、息を整えた。
「奥の院様、千代様は初産にて、まだまだその時ではございませぬ。夜も大分更けてまいりました。
お体に障りますゆえ、ご寝所にてお待ちください。」
東光院は一瞬眉をひそめ、
「千代殿、ゆめゆめ但馬の家の恥となるようなお産をなさるでないぞ。」
言うと、自室へ戻って行った。
「千代様、お産はまだまだこれからにございまする。お気を強うもって。そのように気張られては、体が持ちませぬ。」
「構うでない。私とて但馬家の嫁、清之助様の女房じゃ。これしきのことで、家中を騒がせたとあっては、
清之助様、ひいては但馬家の恥。耐えてみせます。」
千代は、仰向けのまま、しっかりと目を閉じた。
千代が唇を噛み締め、布団を掴む。顔を左右に振り、顎を突き出す。ゆるくなった襦袢の前から胸の谷間に汗が光る。
「あぁ……….うっ………..はぁぁぁ……..。」
徐々に強くなる陣痛に、無言で堪えようと千代はのたうち回った。
「はぁはぁはぁはぁ…….。」
陣痛が止むと両手を投げ出してぐったりとする。
「う….ふぅ……ふぐぅ………..はぁぁぁぁぁ、ああぁぁぁぁぁ….あぁ…………..」
耐え難い激痛が千代を翻弄した。横向きになり、腹を抱える千代の腰の辺りを侍女がさする。千代は襦袢の帯を握り締め、耐え続けた。
夜が明けようとする頃、道場では清之助が一人、太刀を振るっていた。昂ぶった心と体を鎮めることができず、太刀に託していたのである。
「いやぁっ」
鋭い居合いの声が道場に響き渡った。
離れを囲う但馬家は朝もやの静寂に包まれていた。
だがしかし、
「ぐふぅぅ………..うぐぐうううぅぅぅ………….あぁっ……..」
産室では、千代が激しく打ち寄せる陣痛に悶え苦しんでいた。
腹を抱え、布団を握り締め、時に声がもれ出ぬように、自らの手で口を覆う。全身汗まみれである。
臀部の辺りの布団は赤く染まっている。
「お、おもん、お、帯を解いて、結び目を作って、口を覆っておくれ。」
千代は激しい息遣いの下、侍女に猿轡をかませよと言うのである。
「千代様、そのような……」
「早よう」
いつしか、朝餉の支度が整えられていた。清之助の前に膳が出される。
「千代はどうじゃ。」
「はい、ご立派にお勤めを果たされておられます。」
「いや、どのような様子じゃ、と聞いている。」
「は、はい。初産でござりまするゆえ、今少し時間がかかるかと。」
「そうではない。千代はどうしておるのじゃ。」
「は、はい。大変なお苦しみで、ですが、泣き言一つ言わず、堪えておられまする。」
「そうか…….。」
清之助は朝餉の椀を持ったまま、産室の方向を凝視している。その目には妖光が漂っていた。
その日は普段どおり、稽古が行われたが、清之助の只ならぬ気配に門弟たちは内心恐れおののいていたのである。
「ふぐぅぅぅぅぅぅ……….うぐぐぐぅぅぅぅうううう…….」
固く結ばれた結び目を噛み締める口から、耐え難いうめき声が漏れる。
千代は相変わらず、布団を握り締め、激痛に悶えていた。襦袢の前がはだけ、白い巨大な太鼓腹が突き出ている。
陣痛が収まると、侍女が猿轡をはずした。少し息が楽になる。
痺れをきらした東光院が産室を訪れた。
「千代殿、きばられよ。これしきのことであのような無様な声を上げるとは。そなたが、そのようであるから、
産まれるものも産まれぬのじゃ。」
「も、申し訳ござりませぬ。」
汗まみれの顔をあげた。
「うふぅ………ぐぐ………うぐううううう……」
口を真一文字に結び、陣痛に悶えながら、その手は傍らにあるはずの猿轡を捜す。
必死で掴み、震える手で己の口へねじ込んだ。
「うぐううううう…………うむぅうううううう………」
千代は眉をしかめ、布団を握り締めて苦しみ続けた。
「こればかりは、千代様に急いでいただくわけにもまいりませぬ。今暫くお待ちくださりませ。」
千代の陣痛は規則的に襲うばかりで、お産は遅々として進む気配を見せなかった。既に日は高く昇りきり、
締め切られた産室はむせ返るようである。
千代は姑のことなどに既に構っている余裕はなく、膨らんだ乳房をあらわにして悶えていた。
「ふぐぅぅぅぅぅ……..お、おぉ……..ヴヴ……」
顔を仰け反らせ、目を剥いて激痛に耐える。
誰もが千代のお産が難産であると覚悟していた。千代はひいては寄せる陣痛にひたすら悶え苦しみぬいた。
「で、で…..る……」
「今暫くのご辛抱を。まだ、ややが降りてきておりませぬ。ご辛抱ください。」
言いながら、千代の口に猿轡をかませる。
「ふぐぅうう………….いぎいいいーーーー………。」
白い布団を血に染め、猿轡を噛み締めた口から激痛に耐えかねた苦悶のうめきがもれる。
「このような体たらくでは、産まれるものも産まれぬわ。」
苦々しい顔をして姑が産室を後にする。
「お気になさいますな。もうすぐ、もうすぐ楽になられますよ。」
ぐたりと身を投げ出した千代の恥部をぬぐった布で、盥の水は既に真っ赤になっていた。
一人が、盥の湯を取替えに行く。後には、千代の荒い息遣いが聞こえた。
「千代はどうじゃ。」
「ご、ご難産かと…..。」
「うん。」
日は傾き、夕闇が迫ろうとしていた。
「見たい。」
新しい湯を入れた盥を持ったまま、侍女は耳を疑った。
「見たい、と申しておる。」
「な、何をでございますか。」
「千代だ。」
「な、なりませぬ。産室は、男子禁制。おやかた様といえども、それはなりませぬ。」
「ならぬか。」
「なりませぬ。」
「ふん。」
苦しみ悶える千代の肢体を思い浮かべ、覗きたい衝動に駆られる清之助ではあったが、
そこはやはり但馬家の当主として、一線を越えることに逡巡する。
侍女が産室の戸をしっかりと閉めた後、清之助は産室の戸に耳を当てた。
中から確かに千代のものと思われるくぐもったうめき声がかすかに聞こえてきた。
苦しみぬく千代をその目に焼き付けたい衝動を必死に抑え、しかし、清之助は産室の前に釘付けとなっていた。
清之助のものがいきり立つ。暫く立ち尽くす清之助であったが、振り切るように母屋へと踵を返した。
その後清之助は、行灯の日がともる自室で、一人夕餉をとりおえると、早々に寝所に閉じこもった。
「……….あ……はうう…………..ふぐぅぅ…………..」
千代の陣痛はその激しさを増していた。顔面を紅潮させて耐える。髪はほつれ、股間は赤黒い血液で濡れている。
侍女が産室の大柱の前に床机を置いた。戦国の世、武将たちが己の陣地において使用した現代で言えば、
折りたたみ式の椅子である。出産は女の戦であり、部門の誉れ高い但馬家の女は代々床机にて
胎児を娩出するのを慣わしとしていた。
「千代様、さ、こちらへ。」
陣痛の合間に、千代を抱え起こして床机に座らせる。襦袢を羽織っただけの千代の前が完全に露になった。
「失礼つかまつります」
侍女は、大柱に体を預けた千代の乳房の上と下を、柱へと絹紐でしっかりと縛りつけた。
左右には荒縄がたらされている。千代は猿轡を噛み直した。
「ふぅ……….うぐぅううううううううう………….うぐっ……..」
荒縄をしっかりと握り締め、呻る。
千代の股間から、白濁した水泡が水風船のようにぶら下がった。激痛に歪んだ顔を左右に振り、千代は耐え続けた。
「うぐぅぅうううううう………ふぅうお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛…..んんんんーーーーーー、
ぎあ゛あ゛あ゛あ゛—————————………ふぅぅぅぅんんーーーー」
震える両脚の間から、水泡が大きく膨らんできた。長い陣痛が止んだ。水泡がしぼむ。
侍女が猿轡をはずすと、千代は肩で息をつき、ぐったりと頭をたれる。
「いま少し、いま少しのご辛抱にございますれば。」
黒く変色した乳輪に滲んだ初乳をふき取りながら、侍女が慰めの言葉をかけた。
ほぼ同時に千代の子宮が収縮を始めた。
「はぁああああ………….」
顎を突き出し、口を大きく開ける。再び股間に水風船が膨らみ始めた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛〜〜〜〜っ……….んんんんんんんんーーーーーーーーー…………..」
両の太股を握りしめ、千代が目を剥く。汗の浮いた巨大な腹部が震える。陣痛が激しさを増した。
「んんん、うぐぐぐぐぐっ……….ぎあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛—————————」
股間で膨らみ続け、苦しみに打ち震える千代の動きに合わせるようにかすかに揺れていた水泡が
パチンと割れたと思うと、おびただしい羊水が畳を濡らした。尚も陣痛が続く。
「ふぅううん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛————————ん゛ん゛ん゛あ゛あ゛あ゛…………」
両脚を左右に大きく開脚し、正面を向いて白目を剥く千代の股間に胎児の顔面が覘いた。
「ち、千代様…..、おいたわしい…..」
陣痛が止んだのか、千代の息遣いだけが産室に聞こえた。
「や、ややを……、は、はよ….う…..」
その頃、寝所に篭った清之助は、慰め用の女を縛り上げ、竹刀で責め抜いていた。
「もっと、わめけ。苦しめ」
女は縛り上げられたまま、泣き叫んだ。女の叫び声に交じって、微かに千代の悲鳴が聞こえたような気がした。
清之助は更に激昂し、女の股間に竹刀を突き入れ、ぐりぐりと膣内をえぐった。女は激痛に悲鳴を上げ、
その声は次第によがり声に変わっていった。
清之助は女を後ろでに縛ったまま、背後から抱き上げ、その男根を突きたてた。
泣き声交じりのよがり声が続いた。
「ん゛ん゛ん゛ん゛………….、んんぐぐふぅっ………ひんぎいいいいいいーーーーーー」
千代は、口を真一文字に猿轡を噛み締め、産みの苦しみに悶え続ける。全身汗まみれとなり、髪はほつれ、
汗で顔にねっとりとへばりついている。
股間の胎児の顔面がゆっくりと外へ娩出されようとしていた。
侍女が股間に油を塗る。荒縄を掴む両腕に筋肉が盛り上がる。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛——————、おおっうううううううううーーーーーーー」
股間に胎児の顔面を挟んだまま、千代は目を剥き、全身を痙攣させる。
「今少し、いま少しのご辛抱にございまするぞ」
閉じようとする千代の両脚を左右に拡大し、侍女が胎児を引き出そうとしている。
「は、は、よう……..はぁはぁはぁはぁ……….うぐううううううううあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛————……..」
再び、全身を震わせ千代が息む。しかし、胎児は股間にひっかっかり、それ以上、動こうとはしない。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛————うぐううううううーーー、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
あ゛——————う゛う゛う゛う゛う゛う゛」
産室の外にまで千代のうめき声が漏れ聞こえ、中で出産が行われていることがわかる。
猿轡を噛み、酸欠状態のまま千代が苦しみ悶える。見かねた侍女が猿轡をはずした。
「あ゛あ゛————……….んんんんんんぐぐぐーーーーーーーーーー」
猿轡をはずされながらも、口を真一文字につぐんで、千代は叫び声を必死にこらえた。
「んんんんーーーーーー、じ、じ…ぬ……..、んんあ゛あ゛あ゛あ゛——」
とうとう千代の口から絶叫があがった。会陰がちぎれ、再び胎児が動き出した。侍女が必死で会陰を押し開く。
顔面全体が股間に現れた。
「んぐあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛—————」
長い雄叫びが響き渡る。
「いま少し、いま少しお気張りくだされ」
「や、やめ……で…….あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛—————、
………..、おおおおううううううううっ……あ゛あ゛あ゛————
………んんんんんぐぅううううう」
少しずつ胎児が外へと出ようとする。股間に焼け付くような激痛が走った。
「んんぐぅーーーー………、だぁ、だーずーーけーでーーーー
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛———」
股間に胎児の顔面を覘かせたまま、千代は喘ぎ、悶え続けた。既に虫の息である。乳房は初乳でねっとりと濡れていた。
「千代様、もう一息にござります。」
「んんんぐうううううううううううーーーーーうおおおおおおおおお
あああああああああああああ」
千代は噛まされた猿轡を噛み締め、最後の力を振り絞っていきんだ。
ズブリと胎児の顔面が娩出される。股間から下肢を血に染め上げ、悶え続ける。
「んんんむうううううーーーーーー……..んんんぎぎぎいいいいいい
いいいいいいいいいいいいい」
続いてゆっくりと胴体が現れた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛———」
千代の絶叫と共に産声が響き渡った。
「千代様、立派な若君ですぞ。」
荒縄を握り締めていた両出をだらりとたらし、千代はうつろな瞳で肩で息をしている。
臍の緒を切り、侍女が血まみれの赤ん坊を産湯につかせて洗っている。
千代が眉をしかめ、再びいきんだ。胎盤が娩出される。千代の下半身の血がぬぐわれ、さらしが巻かれる。
「お生れにございます。男子にございます。」
夜明け近く、但馬家は男子出産の知らせにわいた。
「おぉ、千代は、千代はいかがした。」
「はい、大変なご難産でございましたが、お元気でございます。」
「千代、千代」
真新しい白い襦袢を着せられ、産室に横たわった千代が弱々しく声のするほうに目をやった。
ガラリと産室の扉が開き、外の陽光が室内に差し込んだ。縁側で仁王立ちになっている清之助が見えた。
「千代、でかしたぞ。」
千代が弱々しく微笑んだ。
次の年、再び千代は懐妊し、やはり難産の末男子を産み落とした。