淫楽の青い鳥(3)



被虐への旅立ち







    一、最初の爆発

 演劇部の部室は、柱や壁に油の匂いが滲み込んだゴツい部屋である。

兵舎を改造した仮校舎のなかは、もう人の気配も無かった。

 分厚い一枚板の机に上半身うつ伏せになって、好子はヒダの多い

スカートを尻の上まで捲ったままじっとしていた。

「早く、ズロースを脱げ」

 乳房で体重を支えて、両手を後ろにまわすとズロースを膝の下まで

おろす。上半身を机の上に乗せたままなので、そこまでが限界である。

まだ生暖かい布地を掴んで、私はズルズルとふくらはぎから爪先に抜いた。

 今どきの女子高生のようにルーズソックスなど穿いていない。踝までの

白いソックスに運動靴、ズロースを取った拍子に、片方の靴と靴下が

一緒に脱げてしまった。

「もっと脚ひろげろ」

 まだ腰が張っていない、小さな尻の膨らみである。後ろから見ると、

陰毛がまだ土手の奥まで生え揃っていなかった。初々しいというより

どこか平べったい感じで、どちらかといえば透き通っているような印象である。

 だが、もちろんもう処女ではなかった。

 劇の練習が終る度に、一日おきくらいには犯っていたから、おそらく

その痕跡さえ残っていない。そんなことより、旺盛な性欲を持て余している

若者にとっては、まだ固い肉の感触を味わうことの方が先であった。

 硬い木の机に突っ伏しているのを後ろから腰を抱えて、こっちは

ズボンを穿いたまま、ファスナーを下ろして飛び出してきたのを割れ目の

真ん中に当てる。湿り気に添って下腹に力を入れると、少しきしむような

感じでグスグスと半分近くはいった。

 一度引き抜いてあらためて腰骨を引き寄せると、今度はヌメリが

絡んでいるのか、造作なく根元までしっかりと嵌まった。

「よぅし、セリフを言ってみろ。ミチルがお爺さんと別れるところだ」

「さようなら、お、お爺さん…。もうお別れしなくては…」

「続けてっ、もっと大きな声を出せ!」

「ミ、ミ、ミチルは、しあわせの青い鳥を探して、た、た、旅に…」

「おぅおぅ、どこに行くのだね?」

「どッどこか、遠い国へ…、あぁッ」

「どうした、もっとしっかり言わんかっ」

「うぅむッ、青い、鳥は、ど、どこに…」

 油臭い部屋で、とぎれとぎれのセリフを聞いていると、本当に童話のなかの

少女を犯しているような気がする。

 公演の日には、こいつを多勢の観客の前に晒して今言ったセリフを

聞かせてやろう。それは私にとって悪魔的な喜びでもあった。

「あぁうんッ」

 そのとき、突然好子がつま先立ちになって尻を高く揚げた。

「いやぁぁ…ッ」

 とたんに拠りどころのない上半身が、硬い机の上で発条のように撥ねる。

「あぅ、くッくッ、くぅぅぅッ」

 奇妙な神経の爆発である。それが、好子が生まれて初めて感覚の

頂点に達したしるしであることに、私は気がつかなかった。



    二、マゾヒズムの素質


「何やってんだ、暴れるんじゃねぇっ」

 こんな状況の中で、女をイカせることなんか考えていない。私は自分が

満足することに熱中していた。何しろズボンを穿いたままなので、

どうしても感覚が鈍いのである。

「モタモタしていないで机の上に乗れ。股を広げていなきゃ駄目じゃねぇか」

 最初の大波がきて、膝頭がガクガクと震えているのを容赦なく机に

追い上げて、両足の間に割り込む。好子がまだヒクヒクと腹筋を

震わせているのを眺めながら、私はズボンのベルトを外した。

 15才の少女の肉体は、弄んで決して楽しめるものではない。動作は

ぎこちないし、肝心の道具に女としての膨らみが、まだついていない

のである。僅かに生えはじめた陰毛が、ウッスラと割れ目の縦の線を

覆っているところに手荒く突き刺して、私は猛然と腰を上下に揺すった。

「あふッ、あふッ」

 胸を圧迫されて、少女はまるで人工呼吸でもされているような息づかい。

焦点のない目を開けて朦朧と天井を見上げている。

「ま、また、きそう…」

 ほんの一・二分、好子がつぶやくように言った。

「ヘンよ、ねぇヘンなの…」

 まだイクという表現の方法を知らないのである。たちまち両足を突っ張って、

好子はうぅぅ…、と咽喉を鳴らしながら全身で反り返った。

「あぃぃ…ッ、アウッ」

 再び、ビクンビクンと激しい痙攣がはじまる。その時になって、私は

ようやく少女が快感の絶頂に達していることに気づいた。

「てめえ、イッてんのか…?」

「あぅ、あぅぅッ」

 ほとんど苦痛に近い表情を浮かべて、好子は全身で跳ねた。

 それまではただ犯されて、苦痛に耐えるだけだった少女が、

なぜ急にこんな反応を示したのか…。

 強いて言えば、この場の雰囲気とセックスにはおよそ相応しくない

舞台装置が、反対に好子の体内に潜んでいた被虐の素質を引き出した

としか言いようがなかった。

 不思議なことに、好子がイッたことが判ると、私はますます射精する

ことが出来なくなってしまった。男根は勃起しきっているのだが、

どうしても神経が高潮するところまでいかないのである。

「ちくしょう…」

 よく締まった穴から男根を抜くと、呆然としている少女の髪の毛を

掴んで乱暴に引き起こす。

「起きろっ、何をぼやぼやしてんだ!」

「げふッ、うぐぐ…」

 咽喉の奥をいきなり硬直した肉塊で塞がれて、好子は激しく噎せた。

「うげぇ、げほげほ…ッ」

 腰を突き出すと同時に、顔全体をぶつけるように陰毛にこすり付ける。

関節に力が入らないのか、少女はのけ反ったままぐらぐらと揺れた。

「いくぜ、しっかり吸い付いてろ」

 全身がカッと熱くなって、精液の塊りが直接ドボッと食道に流れ出す。

まるで溜っていたエネルギーをいっぺんに放出してしまったような

快い解放感があった。



    三、被虐への旅立ち


 それからまもなく、市の公会堂で開催された演劇コンクールで、

メーテルリンクの『青い鳥』は見事に最優秀賞を獲得した。

 ミチル役の青島好子の演技は抜群で、終戦直後の殺伐とした学園生活の中で

一服の清涼剤となったことは確かである。だがその裏で好子が体験した異常な

性の試練に気がついたものはだれもなかった。

 表面は、幼いセーラー服に身を包んだ新制中学三年生である。まだ乳房も

膨らみきっていないが、およそ半年近くの稽古期間中、好子は暴力的な

若い性欲の犠牲になって犯され続けた。公演の当日でさえ、柔らかな陰毛に

覆われた性器の奥は赤く腫れ上がって、ズキズキと脈を打っていたと思う。

 あるいは、犠牲という表現は当たっていないのかもしれない。お互いに

変態の自覚はなかったのだが、いま思えば、好子は明らかに生まれながらの

マゾヒストだった。

 SMという言葉さえまだ生まれていなかった頃の話で、私にとってマゾ第一号と

なった女である。

 秋の演劇祭が終ると私は卒業、好子は高校受験の準備で、それまでのように

自由に会うことが出来なくなった。

 相変わらず女を虐めてみたい衝動がつき上げて来る。だが学生の分際では、

簡単に街の女に手を掛けることも出来ず、対象になるのは結局好子しか

なかった。

 最近のようにポケベルだの移動だのと通信手段が普及している訳では

ないから、欲求が高まってくると直接家まで行って呼び出すのである。

好子の家は、歩いて30分くらいかかる、町外れの静かな住宅街にあった。

住宅といっても、焼け跡に建てた当時の家はせいぜい6帖と4帖半、バラックに

毛が生えた程度の粗末な木造である。

「おい出てこいよ。話がある」

 裏にまわって窓越しに声を掛けると、好子は一心に勉強していた

様子だったが、無言で立ち上がって親の目をかすめるように家を

抜け出してきた。

「早くこい、時間がねぇんだ」

 少し歩くと焼けたまま空き家になっている3階建てのビルがあって、

そこが二人のセックスの場所であった。好子にとって私は初恋の男

なのだが、とてもデートなどといった甘い雰囲気ではなかった。

 ビルの裏手にまわると扉には鍵もかかっていない。内部はガランとした

事務所造りで、冷たい床のあちこちにコンクリートの塊りが散乱していた。

「おまんこヤリたかったか?」

「うん…」

「じゃ脱げよ。やってやるぜ」

「えぇ」

 会話はいつもこんな調子だった。まったくの独断と偏見だが、好子は

唯々諾々として言うなりになった。

 薄かった陰毛が生え揃って、身体は大人になっている。脚を上げさせて

壁に押しつけると、私は立ったまま強引に好子を抱いた。



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