女王様第一号





   一、温泉宿の姉妹

 そのころ、私は学生時代の友人に誘われて、彼の郷里に旅行したことがある。

 実家は熊本と鹿児島の県境にある小さな町であった。久し振りに戻ってきた

息子とその友人を迎えて、両親も大歓迎してくれた。

 田舎のことで、もてなしと言えばひたすら酒である。彼の高校時代のガール

フレンドやその友達も加えて連日酒盛りが続いた。九州の女は、ほとほと酒が強い。

 そのなかに、鳥飼美代子と美枝子の姉妹がいたのだった。

 姉が24才、妹が21才で、初めのうちは何の関心も持たなかったが、三日目に


なると、ようやく姉の挙動がおかしいことに気づいた。

 当時、九州は列車で30時間近い道のりである。田舎町の女にとって、

東京の男は洗練された別世界の人に見えたのであろう。

 こいつは、ものになる…。

 そうなると、いつまでも友人の家に泊まっているのが煩わしくなった。

 せっかく九州まで来たのだから、温泉をまわってみたいというのを口実にして、

予定を早めて歓迎攻めの友人宅に別れを告げた。

「君たちも、一緒に来ない?」

 妹の美枝子を誘うと、意外と簡単に承知した。何しろ、このあたりは駅ごとに

温泉である。彼女たちにとって、温泉に行くのは日常茶飯事なのであった。

行先は、姉の美代子の提案で、バスで二時間ほど離れた『湯の児』に決めた。

ただし一泊だけの約束である。

 湯の児温泉は、いまでは整備された海辺の観光地だが、当時は鄙びた宿が

二・三軒しかない小さな地元の温泉であった。

 湯上がりの若い女のほてった肌は、たまらなく新鮮だった。部屋は別にとったが、

夜になって姉妹の蒲団にもぐり込んだのはいわば自然のなりゆきである。

美代子も美枝子も、さして驚く様子はなかった。

 田舎ではよくあることで、こうした環境は東京より地方のほうがむしろ開放的

だったのかもしれない。

 話が弾んでやがてとぎれる頃になると、美代子の手が伸びてきて

そっと男根を握った。脚が自然に絡みついてくる。だが私は反対に美枝子の

ほうを狙っていた。

 さりげなく話をしながら、浴衣の前を掻きわけて下腹を探ろうとすると、

美枝子が無言で払いのける。そんな繰り返しが先刻から何回も続いていた。

「やめてよゥ…」

 とうとうたまり兼ねて、美枝子が唇を寄せて息だけで囁く。

「お姉ちゃん、あなたを好きなのよ。わかるでしよう?」

「俺はお前のほうが良いんだからよ。やらせろよ」

「ダメ。私もう眠いんだから、お姉ちゃんと話をして…」

「一度だけやって寝よう。いいだろ?」

 そのとき、美代子が握っていた男根を離した。それから暫く間をおいて、

足の裏で私の腰を蹴った。

「痛え…、何すんだ」

「やんなさいよ、早く…」

 怒ったように、背中を押してくる。

「私、何にも思ってやしないわよ。いいから美枝子とやって…」

 この女、変態じゃないのか…。

 先刻から二人の女に挾まれているので、湯上がりの体温で猛烈にあつい。

私はいきなり掛け蒲団を蹴飛ばして美枝子の上に乗った。

「アッ、駄目だったらァ」

「いいじゃねえか。姉ちゃんがせっかくちんぼ立たせてくれたんだからよ」

 パンティを剥ぎとって、それを美代子の前に投げる。軟らかい太腿を抱えて

腰を落とすと、ズルズルッとひと息に入った。

「アアン…ッ」

「見ろ、ちゃんと濡れてるじゃねえか」

「違うってば…ッ」

 わざと乱暴にやると、穴が自然に卑猥な音を立てた。頃合を見て、

私は美代子の肩に腕をまわした。

「来い、お前も気持ちよくしてやる」

「やめてよ。あなた、美枝子が好きなんでしよう」

「お前だって女だろう。いまさら意地を張ることはねえ!」

 手荒く引き寄せると、美代子はふてくされたように自分から股をひろげた。

「なら、勝手にやって…」

「お姉ちゃんッ、よしなさいよゥ」

「うるせえな、そこで姉ちゃんとヤルところ見てろ!」

 美枝子は身体を丸くして背中を向けた。

 ところが、どんなに酷くやっても美代子はいこうとしないのである。

歯を食いしばって快感を必死に耐えようとする。

 私は牝犬をいたぶるように、執拗に美代子を責めた。

「てめえ、おまんこが破裂しそうだぜ」

「し、知らない…ッ」

 だがそれにも限界があった。男根をハメたまま、指を尻の穴に入れて

掻きまわすと、美代子は突然のけぞって嬌声をあげた。

「ダッ駄目ッ、イッちゃう…ッ」

 とたんに、ビクビクと括約筋が痙攣する。

「イッたぜ。ハマってるところを見るか?」

「いやだァ」

「それじゃ、もう一度お前こい!」

「もうッ、こんなことさせないでよゥ」

 どちらの淫液かわからないが、ヌルヌルになったやつを美枝子にハメた。

 いきそうになると女を換えて、何度目かに美代子を犯っているとき、

突然ドクッと精液が洩れた。

「いけねえ…」

 あわてて男根を抜いたが、精液が二人の腹に飛び散る。

「くそ、半分づつだぜ」

 残りを美枝子の中に出しながら、やがて、少しづつ力が抜けていった。

「お姉ちゃん、どうするつもりなのよゥ」

 私が仰向けになると、美枝子は恨めしそうにこちらを睨みながら言った。

「みんなにわかったら、私知らないわよ」

「面白いじゃねえか。二人一緒に妊娠すれば評判になるぜ」

「へんなこと言わないでよッ」

「いいわよ。出来たら堕ろすから…」

 男根を宿の浴衣で拭きながら、気にしないで…、と美代子が言った。

 いかされた後、人が変わったように従順な女になっている。妹の眼の前で

フェラチオさせても文句を言わなかった。やはり、本気で惚れているのであろう。

 温泉に入って二人の性器を比べてみたが、妹のほうが毛深くて全体に

肉が厚い。微かな匂いもあって、まだ男に磨かれていない感じだった。

美代子のは膨らみは薄いが、大陰唇やビラビラにゴムのような弾力がある。

姉妹でも、かたちはやはり違うのである。

 翌日、美枝子は生理になった。 妹を帰してから、一週間、美代子は

勤めを休んで一緒に温泉めぐりをやった。私はそれほどの金を持っていたわけでは

ないが、費用の大半は女が出した。

 この旅行で、私は徹底的に美代子を仕込んだ。やればやるほどアブノーマルな

セックスにのめり込んでくる。美代子には、あきらかに変態の素質があった。

 私との出会いは、この女の一生を変えたと言ってよい。

 これが、のちに芸苑社の変態女王様として有名になった門田奈子の

正体である。

当時謎の女だったが、いまあかせば九州の田舎町で偶然にめぐり会った

淫乱娘だった。

 熊本には『肥後ずいき』という独特の性具があって、そのころ東京では

売っていなかった。最近の大人のオモチャほど精巧なものではないが、

使ってみるとなかなか面白い。

 別れるとき、私は美代子の財布をはたいて『肥後ずいき』を買わせた。

東京に戻ってから売りさばいて、このとき使った金は、結構回収することができた。



    二、変態コンビ誕生


 まもなく、私は美代子を『芸苑社』に呼んだ。連絡すると、すぐに勤めを辞めて

上京してくるという。私は女のために事務所兼用のアパートを借りて、当分の間

同棲することにした。初期のSMクラブでは、飼育する女の確保は最重要の

課題だったのである。

「明日、医者に行ってリングを入れて来い」

「はい…」

「いいか、これからは遊びじゃねえぞ」

「ウ、うれしいわ…」

 初めての東京の夜、女は涙ぐんで抱きついてきた。久し振りに味わう肉体は、

温泉宿での出来事を懐かしく思い出させてくれた。

 このとき、私は新らしく門田奈子という名前を与えた。したがって、これから先の

記述はすべて門田奈子ということになる。

 私にとっては従順なマゾだが、ほかの男に対して、奈子はかなり激しい性格を

持っていた。セックスさせても、自分は絶対にいかないのである。どんなに

刺激されても、イクときの表情は私以外には見せなかった。それが私への

愛の表現だった。

 客の前でいかないということは、サドの女にとって、重要な条件である。

 ためしに女王様として雑誌に登場させてみると、ものの美事に淫乱な

サディストの女を演じて見せた。いわば、両刀使いである。

 この時代のSM雑誌には独特の権威みたいなものがあって、誌上に紹介

されると、情報はたちまちマニアの間に知れわたる。最近のように

MよりSのほうが楽だから女王様志願が多いという時代ではないので、

奈子女王様といえば、マゾ男たちにとって憧れの的であった。

猥褻で淫乱な謎の女…。奈子はいつの間にか、この世界では知らぬ者のない

イメージスターになっていった。

 そんなある日、外は雨模様だった。

 夜の9時すぎになって、コツコツと遠慮がちにドアをノックする音が聞こえた。

 出てみると、小柄なショートカットの女が雨に濡れて立っていた。見たところ、

如何にも素人っぽい感じである。どこをどう捜してきたのか、用件を聞くと、

どうしても先生にお願いしたいことがあってと言う。

「はいれよ」

 事務所といっても、6帖ひと間の和室である。女は悪びれずにハイヒールを

脱いだ。

 髪の毛の先から雨の滴が垂れている。奈子からタオルを借りて、顔と濡れた

手足を拭くと、部屋の隅の僅かなスペースに膝を揃えてかしこまった。

「すみません。こんなに遅く…」

 それから、アラ…、と軽く首をかしげた。

「あの、もしかして…。こちら奈子女王様でしようか?」

「そうだよ、知ってるのかい」

「アッわたし、気がつかなかったものですから…」

 あわてて、もう一度頭を下げた。門田奈子だと判るということは、その種の

雑誌を何冊も読んでいる証拠である。

「わたし写真で拝見して、ずっと憧れていたんです」

 雑誌のグラビヤでしか見たことのない女王様が眼の前にいる。女は、

眩しそうに奈子を見上げた。思いがけなく門田奈子に逢えた嬉しさに、

女は少し興奮して、ここに来るまでのいきさつを話しはじめた。

 処女を奪われたのは中学生のとき、相手は60才を越えた老人だった。

いくらかのお小遣いを貰って、しばらくその老人の慰みものになっていた。

 高校を卒業して、東京の洋裁学校に通うことになったが、正常な

セックスにはほとんど興味がなかった。男に抱かれても失望するだけ

なのである。そんなときSMの雑誌をみつけて、とり憑かれたように

オナニーにふけりはじめる。雑誌は古本屋で買うのだが、羞かしいと

思ったことは一度もなかった。

 どうしてもこの世界に飛び込んでみたいと思うようになったのは、

半年ほど前からのことだという。

「お前、人並みのおまんこじゃねえな」

「そ、そうかもしれません」

「せっかく決心して来たんだ。それじゃ、思いきって奈子とやって見るか」

「えっ、わたしなんかと…?」

 信じられない…、と女は首を振った。

「今夜は泊まっていけよ。そのかわり本気で変態になるつもりだったら

ここで働け!」

「アッ、はい…」

 これが、志摩喬子である。

 本名は小林育子、当時22才だった。ここでは芸苑社での名前を

使うことにする。

 部屋の外では、雨の音がいちだんと激しくなっていた。

「でも、よろしいんでしようか…?」

 喬子は、まだ奈子の気持を気にしている様子だった。

「構わねえ、こいつは三人でやるほうが好きなんだ。お前より

よほどマゾだぜ」

「はあ…」

 女王様の意外な素顔を、喬子はまだよく理解していないのである。

「変態のおまんこを見たことあるか」

「いえそんな、ありません…」

「おい、見せてやれ」

 奈子はすぐパンティを脱いだ。露出癖があって、誰に見られるのも

平気な女である。

 スカートを捲って尻を高く上げると、薄いピンク色の太腿の間から、

深い陰裂がむきだしになった。奥のほうに色の濃いビラビラが

はみ出している。

 これが、女王様の…、喬子は部屋の隅から身を乗り出すようにして

息を詰めた。

「わたし、たまらないわ」

 暫くして、喬子は呻くように言った。

「やりたくて気が狂いそうだろう」

「は、はい…」

「裸になってこっちに来い!」

 催眠術にかかったように立ち上がって、雨に濡れた服を脱ぐ。

蒲団に転がすと白い腹が発情して波うっていた。

 奈子に眼くばせすると、待っていたように股の間に顔を埋めた。

「あひぃ…ッ」

 女の舌は、男より残酷である。喬子は一分もしないうちにいかされて

しまったようだ。

「待ってッ、ちょっと待って下さいッ」

 いったあと、クリトリスには痺れるような戦慄が走る。それが鎮まるまで、

奈子は待ってくれないのである。唇が吸いついたまま離れようとしない。

 痙攣しながら刺激から逃れようとするのだが、噴き上げてくる淫糜な

衝撃に、喬子はのた打ちまわった。

「くっ苦しいッ。あは…ッ」

 苦痛と快楽が、同時に全身を駆けめぐる。羽毛でくすぐられながら

バイブレーターをかけられているような感じである。

「気持ち良いか?」

「たッ、たまり…、ませんッ」

「くわえてみろ。もっといいぞ!」

 顔に跨がって、真上から咽喉の奥までまっ直ぐに突きおろす。

「グェェッ」

 喬子は顔を真っ赤にして身をよじった。

 30分以上たって、奈子が舌なめずりをしながら、ようやく顔をあげた。

 涎を垂らして、喬子は失神したようになっている。軽く乳房を蹴ると、

ボンヤリとウス眼をあけた。

「まだいけるか?」

「ダ、大丈夫です」

「よし、女王様のを舐めさせてやる」

 喬子の唇を、ゴムのような奈子のビラビラがベッタリとふさいだ。

「可愛い子…、ケツの穴までお舐めッ」

「うぷぅ…ッ」

 夜明けまで、喬子は死にもの狂いで数えきれないほどイッた。

 女王様門田奈子と召使い志摩喬子のコンビは、こうして生まれたのだった。

 マゾとかサドといった領域を超えて、二人とも真性の変態である。

内容は粗雑だがナマの迫力があった。

 灯に誘われる夏の虫のように、魔性の女を慕って男がむらがり寄ってきた。

 『芸苑社』黄金時代の到来である。



(完)