切り裂かれた女たち





    一、変態モデル募集

 昭和30年代の終り、私が主宰していた変態クラブ『芸苑社』に、

奇特なスポンサーが現れた。

 芸苑社で、ある種の写真を撮って貰いたいという。そのための経費は

惜しまない。早い話が、女をさがす費用は向こう持ちで、撮影した後の

モデルはこちらで自由に利用しても構わないという条件である。

 当時、変態クラブは非合法で、とても現在のように公然と女を募集できる

情況ではなかった。一人のマゾ女を発掘して育成するためには

大変な時間と費用がかかる。金に糸目をつけずに女を捜すことができる

というのは願ってもないことであった。

 ただし、写真の内容というのが変わっていた。それが、これからご紹介する

切腹写真のコレクションである。

 切腹というのは文字どうりハラキリの演技で、女がのたうち悶える姿態を

楽しむという変態フェチの一分野である。

商業ベースに乗らないせいか、現在のSMクラブでは扱われていないが、

そのころから熱心なファンがいた。名前は伏せるが、このスポンサーも

そうした隠れマニヤの一人だったのである。

 私は早速モデル募集の名目で、心当たりに声をかけておいた。

 女を紹介すれば手数料は一万円、今の金にすれば四・五万にはなる。

この道で生きているものにとっては、おいしい話である。

 一週間後…、

さっそく最初の訪問者があった。以前からときどき芸苑社に出入りしていた

玉枝という売春婦あがりの女で、連れてきたのは、20才を過ぎたばかりの

如何にも素人くさい小娘である。

「この子なんですけど…」

 玉枝はもの馴れた様子で、オドオドしている娘を前に押し出しながら言った。

「彼氏ができちゃって、その彼氏が借金で困っているんですって…。

いくらか援助してやっていただけませんか」

 どこで捕まえてきたのか、彼氏の借金を身体で返済させて自分も一儲け

しようというのは、いかにも玉枝らしい発想である。

「彼氏には内緒なのかよ」

「そりゃそうですよ。こんなこと誰にも言えませんもの」

 玉枝は卑しい笑いを浮かべながら言った。

昔を思い出したように、瞳の奥に情欲のかげりを見せている。

「裸にするんだぜ。それでも良いんだな」

「悦っちゃん、構わないんでしよう?」

 娘はドギマギして俯いていたが、やがて蚊の鳴くような声で言った。

「あの、身体はべつに…、変なことされないんですね?」

「安心しろ。モデルだからおまんこには触わらねえよ」

 森悦子というのが、その娘の名前だった。

「やりなさいよ。こんな率の良い仕事はないのよ」

 玉枝が狡猾そうに横から口を添える。

「彼氏の借金返して上げられるじゃない。そうすれば結婚だってできるわよ」

「あの人にバレないかしら…?」

 悦子は、不安そうに言った。

「大丈夫だってば…、ここは固いところだから秘密は絶対に洩れないわ」

「そ、それなら…」

 モデル料は破格に高い。玉枝の勧めに抗し切れなくて、悦子は

思い切って決心をしたようであった。

「よし、裸になってみろ」

 問答無用で宣告すると、悦子はびっくりしたように顔を上げた。

「えッ、今すぐにですか…?」

「写真撮るんなら、裸を見せなきゃ仕様がねえだろう。良ければ決めてやるよ」

「で、でも…」

「おい、脱がせてやれ」

 玉枝はちょっと気の毒そうな顔をしたが、こんな場面は何回も経験したことの

ある女である。悦子が尻込みするのを要領よくなだめながら、白いセーターに

手をかけた。

「いやッ。は、恥ずかしい…」

「いいから脱ぎなさいよ、見せるだけなんだから…」

 こうなると、女は残酷なものである。

 ためらう少女を嫌おうなしに乳房を露出させると、玉枝は熱っぽい視線を

こちらに向けた。

「下も取らなきゃ駄目ですか?」

「あたり前だ。モデルはヌードに決まってるじゃねえか」

 おびえる女に情けをかけるのは、かえって逆効果である。ひと思いに

裸に剥いて羞恥心をはぎ取ってしまったほうが早い。

「ワッ、自分でやりますッ」

 玉枝が水玉模様のついたパンティに手をかけると、悦子は後ずさりしながら

夢中でパンティを尻から下ろした。

「肉づきは悪くねえな」

 小さな布の塊りを持って、薄い陰毛を押さえて立ちすくんだポーズは、

小ぶりだが十分に脂肪の乗った育ち盛りの身体をしている。

「彼氏には、何回もイカされたことがあるんだろう?」

 私は、容赦なく追い討ちをかけた。

「おまんこ隠すんじゃねえ。そこでイクときの顔をやってみな」

「ええッ」

 イクときの顔どころではない。悦子は反対に泣き出しそうな表情になった。

「そ、そんなことできない…」

「ちぇっ、ただの裸人形じゃモデルは勤まらねえぜ」

 突き放すと玉枝があわてて口を挟んだ。

「悦っちゃん…! しっかりしてよ」

 ここで不採用になったのでは、あてにしていた紹介料が入らない。

「もっと、勇気ださなきゃダメじゃない」

 叱りつけるように悦子の手からパンティを奪いながら言った。

「ねえちょっと、指で触ってみたら? 気分出してさァ」

「バカやろ、勘違いするんじゃねえっ」

 玉枝を睨みつけて、柔らかく膨らんだ悦子の下腹をピタピタと叩く。

「切腹の写真というのはな、ここを真っ二つに切って、苦しんでいるところを

撮るんだ。その顔がイクときと同じになるんだよ」

「へえぇ…」

 呆れ返ったように玉枝は黙ってしまった。

「びっくりすることはねえだろう。女には初めから縦にワレメがついてるじゃねえか」

「そ、それはそうだけど…」

「おまんこを使わなくても金になる仕事なんだぜ。嫌なら今のうちに止めておきな」

「や、やります…」

 悦子が、呻くように言った。

「ほんとに写真撮るだけなら、私やりますから…」

 翌日、悦子を連れて私は温泉マークにいった。玉枝も一緒についてきたいような

素振りを見せたが、あとは二人きりのほうが好都合である。

「もっと気持ち良さそうな顔をしろ。彼氏とヤッてるつもりで芝居するんだ」

「は、はい」

 初めてなのでこちらも真剣だったが、悦子も必死である。

「おまんこ隠すんじゃねえ。感じるまで本気でヤッてみろ」

 おそるおそる、きっ先を臍の下に当てる。

「腹がメリ込むほど斬ってみろ!」

「ウハッ、ウウム」

「もっと股をひらけっ」

「ヒィッ…」

 いつの間にか恥ずかしさを忘れて、悦子はその場の雰囲気に溶け込んでいった。

ズブの素人だけに演技は稚拙だったが、ナマナマしい肉の匂いが漂ってくる。

 こうして、少女が奇妙な陶酔の表情を浮かべた最初の作品が出来上がった。

 これが、のちにマニヤの間で貴重品となった芸苑社のハラキリ写真の第一作である。



    二、切り裂かれた女たち


 芸苑社のコレクションは、切腹という如何にもクラシックな分野にナマナマしい

性欲を注ぎ入れた作品として評判になった。

 なにしろ、閉ざされた狭い変態社会での出来事である。私はいっぺんに

この道の権威になってしまった。

 モデルの数にして20数名、悦子の事件を記す前に、ここで、その一部を

ご紹介しておくことにしよう。

 田代礼子の場合…、

新宿のヌードスタジオから引き抜いてきた女である。

 今では姿を消してしまったが、そのころ歌舞伎町の裏通りには、

ヌードモデルを抱えて写真を撮らせる店が何軒もあった。

 ワレメを覗こうとして、助平な客がカメラを借りて写すのだが、芸術写真が

建て前で、スタジオ内ではなかなか猥褻なポーズをとらない。

それでも文句を言わなかったのだから当時の客は可愛いものであった。

 もちろん、話次第では売春するケースもあったのだろうが、10分いくらの

ギャラだから連れ出すとべらぼうに高くついた。

「お前、アンネの時は休みなんだろ?」

「うん」

 当時、生理用品はアンネの全盛期で、生理の代名詞になっていた。

「面白いアルバイトやってみねえか?」

 いい加減にシャッターを押したあと、私はさり気なく水を向けた。

「ハラキリのモデルなんだけど、ギャラは高いぜ」

「ハラキリ…?」

 意味が飲み込めなくて、礼子はキョトンとしている。

「アンネの血を塗って、切腹のマネをするんだ。お前、可愛いからきっとウケるぜ」

「それ変態じゃない…」

「そうさ、変態は好きか」

「そういう訳じゃないけど、でもやってあげても良いよ」

 可愛いと言われて気を良くしたのか、礼子は簡単にその気になった。

 いわゆる一番多い日をえらんで、温泉マークに連れ込む。モデルだけに、

裸になることには何の抵抗もなかった。

「股を広げてみな」

 生理用品のアンネを取ると、性器は思ったより荒れていなくて、形の良い

肉唇が両側からぴったりと貼りついている。真ん中の線に乾いた血が

こびりついていた。

「良いおまんこしてるじゃねえか」

 いきなり指を穴の中にいれると、礼子はさすがにギョッとして身体を縮めた。

「いやよゥ、私セックスはしないよッ」

「静かにしてろ、血を取るんだ」

 人さし指と中指にベッタリとついた経血を臍のまわりにこすりつける。

「ウワァ気持ち悪い…」

 黒ずんだ血で、微かに生臭い匂いがした。

「ひぇぇッ、へ、変態…ッ」

 奥を掻きまわして残った血を掬い出すと、礼子はたまりかねて

とうとう悲鳴を上げた。ポーズはキレイなのだが、いまいち迫力がない。

プロのモデルでは、やはりこの辺が限界であった。      

 それに比べて、可哀相なくらい悲惨だったのが原田紀乃…。

 モデル経験ゼロ、男は一人しか知らない18才の家出娘である。

 怖気づいて尻込みするのを無理やり旅館に連れ込んで、バスルームで

写真を撮ろうとしたのだが、どうしても腹を切ってのたうちまわるという

演技ができない。

「無理ですッ。私そんな才能ないから…」

 腹のまわりを血糊でベタベタにしながら、眼を真っ赤にして哀願する。

「その顔で良いんだよ。その顔で切腹やってみな」

「こ、こうですか…」

「馬鹿っ、それじゃ格好になってねえんだ。身体をこっちに向けろ!」

「ハッ、恥ずかしい」

「この野郎、世話をやかせるんじゃねえっ」

 業をにやして、持っていたビニールの紐でひっぱたくと、紀乃は悲鳴を上げて

タイルの上に尻餅をついた。

「刀を腹に当てろっ」

 もう一度、乳首の上を思い切り叩く。

「ギャアッ」

 その瞬間、私はシャッターをきった。

「よし、股を閉じるんじゃねえぞ」

 ひっくり返ったところを、続けざまに写真に撮った。

「やめてェッ、許してくださいッ」

 紀乃は、狭いバスルームの中で鞭の恐怖に七転八倒した。

腹の血糊があちこちに飛び散って、これでは撮影というより無惨な拷問である。

「来いっ、芝居ができないんならほんものを入れてやる」

 引き寄せて、股を開かせると残った血糊を淡紅色のクリトリスのまわり

一面に塗った。

「怖いよゥッ、ほんとに斬らないでッ」

「てめえ、毎月メンスがあるんだろう。血を見て怖がってどうする」

 そのまま太腿を抱えて強引に突っ込む。ヌルヌルした血糊が穴の奥まで

ひろがって、動かすと入口から泡が吹き出してきた。

「みろ、おまんこが気持ち快いと言ってるじゃねえか」

「ひぇぇ…ッ」

 実際に血まみれの女を強姦したら、こんな状態になるのだろう。

 異様な衝動に駆り立てられて、紀乃の首を締め上げながらアッという間に

射精してしまった。出来上がった写真は、女が怯えていたわりにはムードがあって、

スポンサーからも好評であった。

 もう一人、志摩喬子をご紹介しよう。

門田奈子とコンビで芸苑社の黄金時代をつくったマゾ女である。

「私でも良いんですか?」

 当時25才になっていたが、切腹の写真と聞いて喬子はちょっと

怪訝そうな顔になった。

「何故よ、マゾ女の芝居としてはうってつけだろうが」

「それはそうだけど、私痩せてるから…」

 喬子に言わせると、ハラキリの写真はモデルが太っているほど良い、

妊娠8ケ月くらいの太鼓腹なら最高だという。

 これは思いがけない意見だった。

「私、前に妊婦のお腹を割いて子供を食べる鬼婆の話を聞いて、

スゴク興奮したことがあるの」

 と、喬子は言った。

「だって妊娠は女だけのものでしよう。切腹して、なかから子供が出てくるなんて、

責めとしては理想的じゃない?」

「ふうむ…」

「夢かも知れませんけど、女にしかわからない気持ちだと思うわ」

 性心理的に、どうなれば切腹が妊娠が結びつくのか、喬子のような

生まれつきのマゾヒストでなければ言えない言葉である。

異常な変態性欲の世界を、私はまた一つ教えられたような気がした。

「まあ良いから、好きなようにやってみな」

 実際に撮影された志摩喬子の演技は、いきなり性器に刀のきっ先を突き刺す。

つまり、ハラキリではなくてマン切りである。

 ふつう切腹といえば、臍の下を横一文字に斬り裂くものだが、穴の中に

突っ込んで子宮を掻きまわすという喬子の着想は、これまでの常識を超えていた。

「いいね、この女は…」

 スポンサーは目を細めて絶賛した。

「こいつは本物だよ。ぜひ会ってみたいな」

 だが、喬子は会うことは固く拒んだ。もし会えば骨の髄まで抜かれて

しまいそうだと言うのである。

 それもそうだ…、

 私は丁重にお断りすることにした。



    三、失恋騒動


 それから暫くして、夜おそく玉枝からあわただしい調子で電話があった。

「すいません。この間の女の子ですけど…」

「悦子かい、モデルは一度だけだぜ」

「それがねえ。あの子バカだから彼氏に捨てられちゃって…」

「へえ、彼氏にバレちゃったのか」

「違うの。自殺未遂なんです」

「何だと…?」

「いま家に引き取ってるんですけど、とにかく、ちょっと来ていただけませんか」

 驚いたが、まさか本当に腹を切ったわけではあるまい。関わりあいに

なるのは困るが、知らぬ顔で済ますわけにもいかなかった。

 翌日そうそうに行ってみると、悦子を寝かした横で、玉枝が

見張り番でもするようにベッドに腰を掛けていた。

 6帖一間のアパートで、部屋はわずかな家具とそのころまだ珍らしかった

セミダブルのベッドで一杯である。

「ゆンべうちに来て、カミソリで手首を切ったんです」

 玉枝は、これ以上迷惑なことはないという顔をしている。

「いくら男に騙されたからって、なにも私の部屋でヤルことはないじゃない。

お巡りさんでも来たらどうすんのよ」

 毛布を剥がしてみると、悦子はセーターを着たまま、虚ろな視線で

あらぬ方角を見つめていた。玉枝が手当てしたのか左の手首に白い包帯を

巻いている。

「ちょっと、傷を見せろ」

 手首の包帯を取ってみると、皮膚が二つに裂けて、見た目には凄惨だが、

傷は血管まで達していない。切り口の奥に青い静脈が濃く浮き出していた。

「失恋したくらいで意気地がねえな。こんなんじゃ命に別条はねえよ」

 私はわざと平静に言った。事情を聞くと、要するに身ぐるみ貢いだあげく、

あっさりと捨てられてしまったのである。

「それじゃこの間のモデル代もパーか?」

「自分が悪いのよ。お人好しすぎるわ」

 玉枝がいまいましそうに言った。 世間知らずの田舎娘にはよくある

ケースである。私はふと残忍な気持ちになった。

「しようがねえ、助けてやるか…」

「えッ…?」

 雰囲気を察して、玉枝はちょっと顔色を変えた。

「ど、どうかするんですか?」

「このままじゃ可哀相だ。変態に仕込み直してやるよ」

「えぇッ、でも…」

 この上ショックを与えたら、またやり兼ねないと思ったのだろう。

玉枝が盗み見るように悦子の様子をうかがう。

「気にすることはねえ、ズロースを脱がしてみな」

 落ちて行く先は眼に見えている。自棄になって売春婦にでもなるくらいなら、

いっそのことマゾ女として働かせたほうが早い。

「早くしろっ」

 仕方なく玉枝がスカートに手をかけると、それまで呆然としていた

悦子が突然ピクンと身体を硬直させた。

「い、いや…ッ」

 起き上がろうとするのを、強引に肩を抑さえつける。玉枝が、ひと息に

パンティを下までズリ下ろした。

「やッ、やめてェッ」

 とたんに、ぷっくりと膨らんだ腹と、薄い陰毛、パチパチに張った

太腿がムキ出しになった。

「こんな良い身体してもったいねえ。おまんこはもっと要領よく使え」

「ヒィッ」

 土手の肉を握り潰すように陰毛を掴むと、悦子は眼を吊り上げてのけ反る。

「それとも、もう一回死んでみるか? 手伝ってやるぜ」

「や、やめて、放して…ッ」

「おいお前、大人のオモチャくらい持ってるだろう」

 陰毛をむしり取るように動かしながら、振り向いて声をかけると、

玉枝はドギマギと顔を赤くした。

「あ、あるけど…」

「持ってこい。こいつに使うんだ」

 ベッドの横にある鏡台から、チリ紙に包んだのを出してきたのを見ると、

いつ使ったのか、あちこちに淫汁が乾いて滓のようにこびり着いている。

「汚ねえな、お前が使ったのかよ」

「ス、捨てようと思っていたから…」

「まあ良いや、こいつを押さえてろ」

 電池は十分にあった。玉枝に上半身を抑さえさせておいて、ビィンと

独特の音で唸るやつを穴の入り口に当てる。

「ワ、ワッ、やめてよゥッ」

「けっ、死んだつもりになれば何されたって平気じゃねえのか」

「許してくださいッ」

 悦子は、必死で逃れようとした。やはり弄ばれるのは怖いのである。

「死にたかったら勝手に死んでも良いが、その前にイクところを見せろ」

「やだッ、わァッ」

 有無を言わさず捩じり込むと、自然のヌメリが滲み出していて、肉唇を

巻き込みながら残酷に根もとまで入った。

 奥のほうで真珠の球がぐるぐるとまわる。もう一方の細かく振動している

ほうをクリトリスに圧しつけると、悦子はほとんど無意識にピンピンと腰を跳ねた。

「うぅむッ。だめェ…ッ」

 激しく首を左右に振って、淫靡な振動を振り払おうとする。5分ほど執拗な

責めが続くと、やがて、ヒクヒクと震える腰のリズムが変わった。

「アウゥ…」

 悦子は、急にぐったりと全身から力を抜いた。上半身を抑さえていた玉枝が

ハラハラして顔をあげた。

「も、もう止めたら…」

「バカ言え。こいつ、もうすぐイクところなんだぜ」

「ええッ」

 玉枝は、息を呑んで悦子を見つめた。

「やだ、この子本当にイクの…?」

 セーターを乳房まで捲りあげて、悦子は胸から腹にかけて大きく

波打たせている。犬の形をした振動部が、クリトリスの上でヴィンヴィンと

卑猥な唸りをあげた。

 ボンヤリとうす眼をあけて、悦子が恨めしそうにこちらを見つめた。

そして一人ごとのように言った。

「イ、イ、イク…」

 とたんに、シャックリでもするように突然腹筋が収縮した。

「いく…、ウ、ウ…ッ」

 続けざまに5回6回と強烈な脈動がきて、そのたびに苦痛の表情を浮かべる。

それがこの少女が示した絶頂の反応であった。

 自殺未遂の娘を無理やりイカせる嗜虐的な刺激に、玉枝は呆然としていた。

「大丈夫ですか…?」

 二人が部屋を出たのは、その日の夕方である。また手首を切らないかと

玉枝は気掛かりな様子だった。

「心配ねえよ。さんざんイカされたあとの女が、そう簡単に自殺なんかするもんか」

 二重払いになったが、迷惑料のつもりで金を渡すと、玉枝は厄払いしたように

ホッとした様子で頭を下げた。

「いいか、男を恨むんじゃねえぞ」

 帰りの電車の中で、耳もとに囁く。

「今日からマゾに仕込んでやるから、死んだ気で働け」

 悦子はうつむいたまま、包帯を巻き直した手首を握り締めて微かに頷いてみせた。

 これが、森悦子改め上月マリヤの正体である。

2年ほど経って、平凡なサラリーマンと結婚して引退するまで、マリヤは芸苑社で

トップクラスのマゾ女として人気があった。 彼女の過去を知るものは誰もいないが、

現在、一男一女の母である。



(完)