TELSEX奇談






    一、声美人

「あんた、年は幾つなんだい?」

「お恥ずかしいんですけど…、38才です」

「へぇっ、本当に…?」

 これには、私もちょっとびっくりした。

 少し舌足らずで、声質が丸くて高い。電話で聞くかぎり、イメージは

どうしても20代の前半、もしかすると高校生じゃないかと思うほどの

感じである。

「良い声しているね。みんなからそう言われないかい」

「えぇ、ときどき娘と間違えられたりしますけど…」

「ふぅん」

 こいつは拾いものだ、というのが第一印象であった。

「それで、テレホンセックスは知ってるんだな?」

「あの、まだやった事はないんですけど…」

「経験なんかどうだって良い、電話でオナニー出来るかと聞いてるんだ」

「えッはい」

 声は緊張しているのだが、それがかえって初々しく欲情をそそる。

 当時、私がやっていたテレホンセックス、名前を『湯川いづみグループ』といった。

 男が女の電話を待つのと違って、女がスタジオ(と言ってもマンションの

一室だが)に缶詰になって、男からの電話を受ける。いわば現在のテレクラの

原型である。

 顔の見えない電話という防波堤があると女は意外に大胆な本音を

さらけ出すものだ。耳から吹き込む卑猥な言葉で、ヤリ狂う女の声だけが、

不思議にリアルな迫力で伝わってくる。これが評判になって、

マンションに引いた専用の電話は24時間鳴りっ放しに鳴っていた。

「あのゥ、私、働きたいんですけど…」

 深夜、事務所のベルが鳴って、受話器を取ると応募らしい

女の声が聞こえた。それが益田沙代子である。

 はじめ未成年じゃないかと思ったのだが、聞いてみると大人も大人、

中学三年になる娘が一人、離婚して何か率の良い仕事が欲しいのだという。

電話なら身体に触られる事もないし、娘が学校に行っている間パートタイム

のように出来るので、ぜひやってみたいと沙代子は言った。

「それじゃパンティの中に指入れて、クリトリスを触ってみな」

「えッいますぐに…、ですか?」

「だってあんた、テレホンセックスをやってみたいんだろ」

「………」

 沙代子はしばらく黙っていたが、やがて、微かに鼻をすする音が聞こえた。

「おい、感じてるのかい」

「イエ、べ、別に…」

「これまでに変態はやったことあるのか?」

「あ、ありません」

 あとは何を聞いても答えがしどろもどろで要領を得ない。

 だが、声の良さは天下一品である。

 受話器の向こうで本当に触りながら話しているらしく、沙代子はときどき

言葉に詰まって、ヒクッ、ヒクッ、とシャックリのように咽喉を鳴らした。

「どうした、うまく話せないのかい」

「だ、だって、こんなこと初めてだから」

「ふうん、そのぶんじゃ最近男に抱かれていないな」

「いや…、ど、どうして判るの?」

 息遣いで女の指が動いている様子が露骨に伝わってきた。これでは

判らない方がどうかしている。

「ウゥゥ、ヒック…」

 肉体が飢えていることはテレホンセックスにとって基本的な条件である。

声が可愛いだけに、卑猥な映像が頭の中でいっそう鮮明になった。

「よしわかった、うちで働いてみろ。明日から事務所においで」

「えぇッ、もう止めるんですか?」

 思わず口走って、沙代子はあわてて言葉を継いだ。

「ごめんなさい。わ、私、何だかおかしくなっちゃって…」

「いいから、今夜はそのまま寝ろ。明日になれば思いきりイケるぜ」

「は、はい」

 電話はそれで切れたが、翌日事務所に現れた沙代子は、どこかの

スーパーで見かけるような、ごくふつーのおばさんであった。

「あの私、ゆうべお電話した…」

 可愛い声が、まだ耳の奥に残っている。

 精一杯の化粧をしているのだが、実際に目の前に立っている女を

みると、私はふと狐に騙されたような気持になった。



    二、オナニー部屋の女



「あんたかい?」

「はい…」

 沙代子はいかにも自信がなさそうな顔をしていたが、間違いなく

昨晩の欲情を引きずっていた。テレホンセックスの適性は十分に

テスト済みである。

「やるんならすぐ仕事に入れ。女がいなくて困っていたところだ」

「で、でも私、まだ何も…」

「心配することはないよ。いつもやってることを相手に聞かせてやれば良いんだ」

 そのままスタジオに使っている部屋に案内してドアを開ける。日当たりの

悪い安マンションのワンルームである。

「ウェェッ」

 何気なく中を覗いて、沙代子は急に全身を固くして後ずさりした。

「どうした、入れよ。ただし声を立てるな、いま客と電話中だからな」

 窓を閉め切った部屋の隅に裸の女が一人、コードを身体に

巻きつけるように受話器にしがみついて、蠢いている。

「イクわ、イクッ、イクゥゥ…」

 沙代子は眼を逸らすことも出来ず、呆然とその様子を見守るより

他になかった。

 女は顔を歪めたままチラリとこちらを見たが、身を起こすでもなく、

受話器に向かって切羽詰まった息を吹きかけている。

「よく見ておけよ。イクときは真剣にいかなくちゃ駄目だぜ」

「ハハ、ハイ…」

 初期のテレホンセックスは現在のテレクラとはまったく構造が違っていた。

 サクラだのヤラセだのといったテクニックは、初めから考えていない。

部屋にはベッドをひとつ置いて、素っ裸で電話を取らせる。運良く

つながった相手には、最低2回はイクときの声を聞かせなければ

ならないというのが決まりである。

 制限時間は10分、受話器を置くと、間髪を入れず次のベルが鳴った。

 女は2時間で交代するのだが、三・四人相手が変わると、大抵の

女はフラフラになってしまう。ひとりでも欠席すると穴うめで負担は

倍になった。そんなわけで、女はいくらいても良かったのである。

 そのとき部屋にいたのは美枝という26才のバツイチだったが、

私たちが入っていっても受話器を置くわけにはいかない。羞かしさとか

プライドなど捨てなければ出来ない仕事である。

「イ、イ、イックゥッ」

 やがて、美枝は全身を硬直させると、足の爪先がブルブルと

痙攣して、ぐったりとなった。

「おい、交代だ」

「はぁい…」

 受話器を戻すとすぐベルが鳴るので、手に持ったまま、美枝は力の

抜けた声を出した。

「お願いしまぁす」

 濃い陰毛を隠そうともせず、ノロノロと立ち上がって、ベッドの

あちこちに散らばった衣類をかき集めると、無造作に受話器を置いた。

とたんに、ルルルル…、と呼び出し音が鳴る。

「何やってるんだ。早く電話に出ろ」

「エッ、わたし…?」

「当たり前だ、お客さんだよ」

「ま、待ってください」

「バカ野郎、後がつかえてるんだよ!」

 ためらっている余裕もなかった。沙代子はほとんど反射的に

受話器を握った。

「あ、アノ、モシモシ…」

 声の調子が少し上がって、甘くて張りのある女子高生の感じに

変わっている。見かけは何の変哲もないおばさんだが、これは一種の

体質であろう。

「え、えぇ、17才です。ウン…」

 沙代子は自分の半分以下の年令を相手に告げて、チラリとこちらを見た。

 よしやれ…、

眼で合図してやると、受話器を抱え込むように背中を丸めて、

そのままベッドにゴロリと横になった。

 不思議なもので、身体を起こしていたのではあの微妙な女の色気が

出ないのである。

「ウン、ス、好きよ。イヤ、だって、いきなりそんな…」

 そこでまた、沙代子はチラリと美枝のほうを見た。だが美枝は

馴れている…、というより、もうウンザリしているのか、新入りの女のほうを

見向きもしない。そうそうに服を着ると、音を立てないように部屋を

出て行ってしまった。

「アァン、だめ、わたし本気になっちゃう」

 べつに教えたわけではないが、女が持っている自然の媚びというのか、

沙代子は無意識にスカートの上から股間の膨らみを抑えた。

 こうなると身に付けているものはかえって邪魔なのである。



    三、快感の拷問


 ときどきベッドで反転するので、ブラウスが皺だらけになってしまう。

ブラジャーで胸を締めつけていると、ハッハッと息をするたびに

苦しくてならない。

 二人目の電話の相手をしながら、沙代子は自分から少しずつ

裸になっていった。

 手首から先をパンティの中に突っ込んでいるのだが、指の動きが

ままならないのか、しきりに腰を揺すって下にずらそうとする。

だが手が塞がっているので、なかなか思うようにならない。

「アッ、アッ、どうしようッ」

 パンティをずりおろして足先から引き抜いてやると、沙代子は楽になった

膝をくの字に折って、赤く血が滲んだように色づいたワレメをまともに

正面に向けた。

「イクッ、イクわよゥッ。こ、こんなの初めて…ェ」

 まるでバネ仕掛けのように、ピンピンと腰を跳ねる。相変わらず声は

少女なのだが、肉体の反応は間違いなく熟しきった女だった。

 それほど美人でもなく、腹には何本もの妊娠線が浮き上がっていたが、

沙代子にとっては、何年ぶりかで味わう凄まじい性の爆発である。

 若い娘のどちらかと言えば衝動的であっけない性欲と違って、

38才の女の肉体に溜まった欲望にはドロドロとした粘り気があって、

油のように濃厚である。その意味では、絞りたての牛乳と熟成した

チーズとの違いとも言える。

 電話の相手が三人目になったとき、沙代子はもう恥も外聞もなく

全身で狂いはじめた。

 あられもないオナニーを見られながら、その声を知らない相手に

聞かせているといった異様な刺激が神経を麻痺させて、快感だけが

後から後から押し寄せてくる。それでも先刻から何回も絶頂に達して

いるので、次にいくまでの間隔が次第に長くなっていった。

 そのたびに、ぶ厚く皮下脂肪のついた腹筋がヒクヒクと痙攣する。

「も、もっとして、もっとやってぇ」

 股を広げたまま、沙代子は吊り上がった視線を訴えるように

こちらに向けた。

「やってッ、いいから太いのハメてェ」

 指だけではもどかしい、直接入れて欲しいと言っているのだ。

 だがここで抱いてくれと言われても困るのである。

 そうか、それならこいつで感じさせてやろう…、

 ふと思いついて、受話器を持たせたまま身体を仰向けにすると、

拡げた割れ目に容赦なく大人のオモチャを突っ込む。

「アアゥッ」

 反射的にのけ反るのを押さえつけて、ふいごを吹くように

抜き挿しすると、沙代子は受話器を握ったまま白眼を剥いた。

「ヒィィ…、いくゥゥ」

 電話の相手が何を言っているのかお構いなしに、沙代子は

甲高い叫び声をあげた。

「ダッ駄目ェ、死んじゃうッ」

 道具は長さが30センチ近くあったが、ズルズルと半分以上埋まって、

動かすとグシャッグシャッと残酷な音をたてる。思い切り奥まで

受け入れようとして、沙代子は全身でブリッヂになった。

「ウゥゥ…ムッ」

 突然ガックリと身体から力が抜けて、イキきってしまったのか、

関節がグニャグニャになってブリッヂが崩れた。沙代子は、まるで

憑きものが落ちたように肩を震わせて大きなタメ息を吐いた。

電話は切れているのか繋がっているのかもはっきりとしない。

 だが受け持ちの時間はまだ半分も経過していない。耳もとで、

次の呼び出しのベルがけたたましく鳴り続けていた。

 ようやく呼吸の喘ぎを静めて、沙代子はダルそうに腕を伸ばして

受話器を取った。

「ハ、ハイ、もしもし…」

 そしてまた消えかけた性欲の火を掻き立てるようなテレホンセックスがはじまる。

「え? 私、はたちですけど…、ウウン今日はまだオナニーやっていないの」

 今までの狂乱が嘘のように、女の身についた自然の演技である。

「エェいいわ。いまパンティ脱ぐから、ちょっと待って…」

 気がついて見ると、いつの間にか沙代子は自分でオモチャを

穴に突き立てて激しく動かしていた。

「あぁもう、わたし興奮して、こんなに濡れてきちゃった」

 これで良い…、

 沙代子を置き去りにして事務所に戻ると、美枝がソフアの上でパンティを

脱いだまま、陰毛をさらけ出してグッスリと眠りこけていた。おそらく夢も

見ていないのであろう。

まぁ良い、寝られるとき眠っておけ…、

少しでも身体を休ませておかなければ、次の順番がくるまでに回復しないのである。




(完)