闇市の女占い師







     一、となりのおばさん


 明滅するネオンのかげに、ぼんやりと置き忘れられたような『恋愛・金運占い』の

灯がともっている。夜の盛り場で今でも見かける情景である。

 ふと、もの哀しくなる都会の風物詩だが、この歴史は意外に古い。

 戦前にもあったのだろうが、街角の占いの出店は、敗戦直後の闇市時代から

早くも登場していた。

 昼間は「リンゴの唄」や「東京ブギ」、デビューしたばかりの美空ひばりの歌声が

流れる街角の焼け落ちたビルのかげで、小さな台を置いて無表情に客を

待っているのは、40才を過ぎた見栄えのしない女占い師…。

 ときおり、洋パンらしい派手な女が立ち止まって、人目をはばかるように

そっと掌をさし出す。

 なにを占ってもらうのか、気休めに身の上話を聞いてほしいだけなのかも

知れないが、それでも慰めになったのであろう。

 そのころ、私は盛り場に近いバラック同然のアパートに住みついて、闇市で

露店同然の店をまかされていた。

 新宿の駅からわずかに5分、真ん中に三尺のタタキがあって、両側にベニヤの

板戸が並んでいる。便所が共同で部屋は四帖半か六帖ひと間、盛り場に近い

せいで、住んでいるのは水商売の女、ポン引きに闇商人、どこからきたのか

わからない連中が多かった。

 瀬戸口はま子は、このアパートで隣の部屋に住んでいた女である。

 独身で、50才前後…。

 普段は挨拶したこともなかったのだが、ある晩のこと、いつものように

新宿でひろった女を連れ込んでいっぱつ抜いたあと、便所に行くと、

入れ違いに出てきたおばさんに声をかけられた。

「ちょっと、もう少し静かにしてよ。うるさくて寝られやしない」

「仕様がねえだろう。あいつが勝手に騒ぐんだから…」

「ま、いやらしいったら…」

 おばさんは、ガラにもなく顔を赤くして横を向いた。

「ほんと、毎晩なんだから…、すこしは遠慮してよね」

「いいじゃねえか、朝になったら帰すから、今夜は辛抱してよ」

 近ごろのように知識も情報も進んでいないから、当時の新宿にはセックスに

無防備な女たちがウヨウヨしていた。まるで釣り堀同然で、声をかけると

意外に簡単についてくる。

 名前も忘れてしまったが、その晩連れ込んでいたのは、背の低いOL風の

女だった。

 つい先刻まで他人だった女を裸に剥いて、気ままに弄ぶ快味は格別だが、

声がベニヤの壁を通して筒抜けなのである。

 半分は嫉妬もあったのだろう。おばさんはスカすような流し目をくれた。

「お兄さん、わりといい顔してるわね」

「へえ、そうかい」

「モテるんだろうけど、気をつけなさいよ。女難の相が出てるから…」

 皮肉たっぷりに言って、ガタガタと建てつけの悪い板戸を閉めた。

 おおきにお世話だ…、

 便所から戻ると、さんざんイカされた後の女がぐったりと横になっていた。

部屋じゅうにムレた性臭がこもっている。

 私はすぐ、後ろから腰を引き寄せて乱暴に太腿を割った。

「いや、まだやるの?」

 おびえたように女は身体を固くしたが、かまわず陰毛を掻きわけて指を

入れると、反射的に下腹がピクピクと震える。

「あふッ、うう…ン」

「おい、隣のおばさんが五月蠅ってよ」

「エッ、困るどうしよう…?」

「いいから、もっとよく聞こえるように泣いてみろ」

「アッ駄目ェ…、ふうッ」

 たちまち全身をくねらせて喘ぎはじめた。

「ダッ駄目よゥ、恥ずかしい…ッ」

 腰を弾ませると、肉塊が出入りするたびに卑猥な音がいっそう露骨な

リズムを刻んだ。

「ウェッ、い、いくゥ…」

 ザマをみやがれ…、

 隣室はひっそりとして物音もしない。

 壁の向こうで、おばさんが両手で耳を塞いで股を擦り合わせている様子を

想像するとおかしかった。

 翌朝、女を追い帰したあとで板戸をノックしてみたが、何故か返事がなかった。

結局、それきりになってしまったのだが、ひと月ほどたって、思いがけなく

私はこのおばさん、つまり瀬戸口はま子のいざこざに巻き込まれる羽目に

なったのである。



     二、女占い師


 当時、新宿の繁華街といえば駅前から伊勢丹の角あたりまで、

歌舞伎町はまだ出現していなかった。

 夜九時をまわると、人通りも急に閑散となる。それでも流石に新宿で、

一晩中絶えることはなかった。この時間になると、私は自分がまかされていた

店を勝手に閉めて、よく夜の盛り場をうろついたものだ。

 メインストリートを外れると、聚楽から中村屋の裏にかけて、いちめんに闇市が

ひろがっている。人影はもうまばらだった。

 ほの暗い街灯の下に、ネッカチーフで顔を半分隠した女が立っていて、

決まったように進駐軍の洋モクをふかしている。近寄ると意味もなく笑いかけて

くるのもいれば、電柱の影にスッと身を隠す気の弱い女もいた。

 まるで、映画の一場面を見ているような雰囲気である。

 その一角、武蔵野館という古い映画館の横に、ポツンと淋しげな『易占』の灯が

ともっていた。

 珍しく男の客が立っている。気にもとめずに通り過ぎたとき、後ろから突然

けたたましい声が聞こえた。

「なッ、何すんのよウッ」

 びっくりして振り返ると、女易者が腰掛けていた箱から落ちて、地べたに

尻餅をついていた。

「この野郎、渡せといったら渡せッ」

「助けてェ、やめてよッ」

 客だと思った男が手提げ袋を奪おうとしているところだった。女が身体を

丸くして必死にそれを防ごうとする。

「だッ、誰か…ッ」

 何しろ、警官の数よりドロボウの数のほうが多かった時代である。

 とっさに駆け寄って体当たりを食らわせると、男は仰向けにひっくり返って、

頭を激しくコンクリートの壁にぶつけた。

「てめえっ、ブッ殺すぞ!」

 相手が何をするかわからないと思えば、こちらも真剣である。反撃されないうちに

腹と顔を狙って闇雲に蹴りを入れた。

「わッ、やめてェッ」

 思いがけなく、そのとき女が異様な叫び声をあげて倒れている男にしがみついた。

「カンベンしてやって下さいッ。お、お願いだから…」

「退けっ、あぶねえぞ」

「悪い人じゃないんですッ。さっきから話をしていただけじゃないのッ」

「何だと…?」

 振り向いた女易者の顔が、なんと隣りのおばさんだったのである。

「あんたッ、しっかりして…」

 はま子は全身で男をかばいながら甲高い声を出した。これではどちらが

被害者なのかわからない。下手をして、本物のおまわりでも来れば

とんでもないことになる。

 こん畜生…!

 肩で息をしながら私は女を睨みつけた。

 逃げるようにその場を離れてアパートに戻ったのだが、ムシャクシャして

眠ることができない。寝そべってぼんやりしていると、夜更けになって、

入口の戸を叩くかすかな音が聞こえた。出てみると、やはり瀬戸口はま子である。

「ごめんなさい、お兄さんさっきは…」

 言いかけたところを胸ぐらを掴んで引きずりこむと、脚がもつれて、

つんのめるようにタタミに横倒しになった。

「てめえ、いい加減にしやがれ!」

「あッ、ぶたないで…」

 ひっくり返った拍子に、白くてぼってりと肥えた太腿がムキ出しになっている。

「あの野郎、いったいあんたの何なんだ」

「前の亭主だったの。とっくに別れた筈なんだけど、しつっこくて…」

 そうだろうと思った…。

 はま子があそこに店を出しているのを知って、ときどきタカリに来るのであろう。

「そんなら、なにも庇ってやることなんかねえだろう」

「ほんと、もう他人なのにねえ」

 未練とも違う。脚を投げ出したまま、はま子はせつなそうにタメ息をついた。

「私ってバカね。あのとき急にあいつが可哀相になっちゃって…」

「ちぇっ、こっちはいい迷惑だぜ」

 何気なく、つけ根まで露出している太腿に手をのばすと、はま子は一瞬ギョッと

した様子を見せた。が、すぐにこちらの気持ちを探るように、低い声で言った。

「お兄さん、こんなおバァちゃんでも姦るつもり…?」

「年令なんか関係ねえ。女は穴さえあいていりゃ良いんだ」

 虚勢をはったが、50才を過ぎた女を相手にするのは初めての経験である。



     三、女犯の相


「脱げよ、おまんこ出してみろ」

「わ、わかったから、乱暴しないで…」

 はま子はほとんど抵抗しなかった。

 あるいは、初めからそのつもりだったのかも知れない。起き上がって、

抱きつくようにズボンのベルトに手をかけた。

「わたしヤッて上げる。お兄さんも少し気分を落ちつかせて…」

 仁王立ちになったところに、普通より濃い紅のついた唇が吸いついてきた。

 背筋にジンと痺れが走る。半立ちの男根がみるみるうちに硬直して

女の咽喉を突いた。

「ウッ、グフッ…」

 先刻の血がまだ身体の中で躍っているせいかも知れない。快感が

ストローで吸い出されるようにたかまってきて、このままでは簡単に

射精してしまいそうである。

 唇を動かしながら、はま子は上目使いに、それとなくこちらの表情を

観察している。

「放せっ」

 イキそうになって、あわてて乳房を蹴るとグニャッとした重い感触があった。

「あッ、どうするの…?」

「おまんこを出せと言ったろう!」

「いいけど、ガッカリするわよ。若い女の子とは違うから…」

 はま子は、自嘲するように言った。

 力まかせにスカートを引っ張ると、はま子は観念したように自分から腰を浮かした。

 現れたのは、ぶくっと盛り上がった下半身の肉の厚みである。

 たるんだ皮膚が、空気の抜けたゴム風船のように波うっていた。腹から太腿に

かけて、幾筋もの妊娠線が残酷に刻まれている。

 臍の近くまで広がった陰毛の奥に黒ずんだ裂け目があって、両側の土手の

間から、猫の舌のような肉ベラが垂れ下がっていた。

「汚ッたねえ。病気は持っていねえんだろうな」

「ひどい…」

 触るのもうとましい感じで、そのまま覆いかぶさるように穴の入口を狙った

のだが、表皮が捲れこんで上手くゆかない。

「ちぇっ、まだ濡れていねえのか」

「ま、待って…」

 はま子は恥じらいもなく、自分で指にツバをつけて陰裂のまわりに塗った。

 ヌルッと亀頭がすべって、中程まで陥没したとたん、突然何の予告もなく

全身の血が熱くなった。

 うっ…、私は思わず息を止めた。

「あら…」

 びっくりしたように、はま子が下から私の顔を覗いた。

 年上の女の妖気にあてられたのか、こらえようもなく、大量の精液が洩れて

男根が内部で脈動を繰り返している。

「お兄さん、どうしたの…?」

「うるせえっ」

 このまま終わってしまったのでは形無しである。精液を吐きながら、

私はめちゃめちゃに腰を使った。

「もっと、ケツを上げろ!」

「あひぃ…ッ」

 若さもあったが、男根が立ち直ったのは、30才も年上の女を犯すという

猟奇的な雰囲気のせいだ。射精後の痺れるような感覚が去ると、

もういくら突きまわしても平気だった。

「アア駄目ェ、もっとそっとしてッ」

「これからだ、覚悟しやがれ」

 溢れ出た精液で、内股から陰毛のまわりがベタベタになっている。

腹のたるみを鷲掴みにすると、はま子はのけ反って異様な呻き声をあげた。

 奥をえぐるたびに、ボテボテの乳房が不規則にゆれる。女というより、

性器をもった肉の塊りとの、獣じみた絡みあいである。

「あいくゥ、やッ、やめて…ェ」

「いけよ、何回でもいかしてやる…!」

「いィィッ、いくうゥ…」

 盛りを過ぎた肉体から、快感をしぼり出すような淫ら声…。

水に溺れるような恰好で、はま子は重い身体を何回も跳ねた。

「ど、どうしようッ。私好きになりそう」

「知るか、てめえの勝手だ」

「いや離さないでッ」

 突き放すと、すがりついてきて夢中で男根を握った。

「あんたッ、まだ満足していないんでしょ」

「あたり前だ、こんなおまんこじゃ射精する気になんかなれねえよ」

「ど、どうすれば良いのよゥ」

「てめえ易者だろ。そんなこと自分で占ってみろ!」

 男根をくわえさせると、髪の毛を掴んで顔を股間に叩きつけるように揺すった。

「ぐふぐふッ、うげェ…」

 唇の端から涎を垂らしながら、はま子は蛙のように咽喉の奥で啼いた。

 どうやら、こっちももう一度イキそうである。





(完)