マゾ熟女の狂恋










        一、あるマゾ女の秘密

 田代麻里江に再会したのは、まったくの偶然である。

 夕方に近い高円寺の駅前通りを歩いていると、不動産屋のガラス戸に

貼ってある貸間のビラをボンヤリと見つめている女がいた。

「おい、麻里江じゃねえか…?」

 声をかけると女はびっくりしたような顔をしたが、すぐに気がついて

「あら…」

 複雑な笑いを浮かべて頭を下げた。

 私がやっていた変態クラブで、以前働いていたマゾ女である。

 子供が高校を受験するので塾に金がかかるというのが、勤めに出た

理由だった。従順でマゾとしての評判も良かったのだが、どんな事情が

あったのか、ある日アッサリと身を引いてしまった。それからもう3年になる。

 当時すでに40才になっていて、肉体的にも限界だったのだろうが、

いま見ると何の変哲もないフツーのおばさんになっていた。

「こんなところで、何やってるんだ」

「今度、息子が大学に入るものですから、どこか良いお部屋でも

ないかと思って…」

「ほう、もうそんなになるのか」

 早いものだ…、私は急に懐かしくなった。

「ヒマだったらお茶でも飲もう。ちょっとつきあえよ」

 断る理由もなく、麻里江は黙ってついてきた。駅前の喫茶店に入って、

とりとめもない昔ばなしに花がさく。一緒に働いていた女たちの消息や、

馴染みだった客の話をしてやると、麻里江はときどきフッと濡れたような眼をした。

 マゾの女にとって、それは影絵のような過去への郷愁である。

変態クラブで味わった異常な体験は、今でも麻里江の心のヒダに

刻みつけられている筈であった。

「もう一回お店で働いてみたいわ」

 麻里江は、遠くを見つめるように言った。

「でも駄目ですねぇ。この年令では、もう誰も相手にしてくれませんもの」

 そう言えば、服装もあまり上等ではなかった。女手ひとつで、今度は

息子を大学に入れるのに苦労しているのであろう。

「お前、再婚もしなかったのかよ」

「無理ですよ、私なんか…」

 言葉にも微妙なかげりがあった。盛りを過ぎた女のわびしさが滲んでいる。

「好きな男ぐらいできなかったのか」

「そんな人、私にできるわけないでしよう」

 笑って否定したが、顔にかすかな狼狽の色が見えた。

「私なんか、お店を辞めてしまえばただの女ですもの」

「いいマゾだったじゃねえか。毎晩イカされていたくせによく辛抱できるな」

「えッ、ええ…」

 ドギマギして、麻里江はさり気なく視線を伏せた。

「そりゃ、お店を辞めて淋しいこともあったけど…、もう馴れました」

 何か隠しているな…、

 40才を過ぎても女は女である。情事の相手がいたとしても不思議はないが、

今さら詮索してみても意味のないことであった。

 結局、その日は喫茶店で一時間ほど話をしただけで別れてしまった。

 麻里江が突然事務所を訪ねてきたのは、それから一ケ月後のことだ。

「あの実は、ご相談したいことがあって…」

「いいよ、何だ?」

「あのゥ、知り合いで女性を紹介してほしいという人がいるんですけど」

「へぇ、マゾの女をかい」

「は、はい」

 そのころ、女が口込みで新しい客を紹介してくることはよくあるケースだった。

「できれば、若い人が良いんです」

 麻里江は口ごもりながら言った。

「お支払いは私が保証しますから、どなたか良い人いませんかしら」

「なんだ、お前の彼氏じゃねえのか?」

「い、いえ、そんなんじゃ」

 冗談のつもりだったが、なぜか麻里江は急にしどろもどろになった。

「あの、無理でしたら良いんです。そんなに急いでるわけじゃないから…」

「おい、ごまかすんじゃねえよ」

 私は、ジロリと麻里江を睨みつけた。

「はっきりものを言え。そいつは誰なんだ」

「えッ、は、はい」

 絶句して、麻里江は棒を飲んだように私の顔を見つめている。

「そいつは誰だと聞いてるんだ。お前、ここで仕込まれたことを

忘れるんじゃねえぞ」

「あ、あ、あの…」

 みるみるうちに、麻里江の表情が歪んだ。



    二、変態の血脈


「何だと…?」

 私は、あっけにとられて麻里江の翳のある顔を見つめた。

「それじゃお前、子供に強姦されたのか」

「子、子供といったって、私のほうにも弱みがあったし…」

 秘密を打ち明けてしまうと、身を斬られるような羞かしさと劣等感で、

麻里江は涙も出ない様子だった。

「こちらでお仕事していることがバレて、もう無理やりでしたから…」

 当時まだ中学生だったわが子にセックスを強要され、気が動転した

のであろう。それが突然店を辞めていった真相だった。

「それで、今日までずっと息子とおまんこやっていたのか」

「仕、仕方がなかったんです」

「バカだな。お前、息子を大学に入れるために働いてきたんだろうが」

「で、でも、あの子が色気づいて勉強できないのを見ると、可哀そうで…」

 麻里江は必死に弁解しようとした。

「駄目だと言えなかったんです。寝る部屋も同じだったし…」

「それじゃ、毎晩か…?」

「は、はじめは一度だけのつもりだったんですけど、つい、情が

移ってしまって…」

「珍しいな。息子を彼氏にしてヤリ狂ってる母親なんて、そうザラには

いねえぞ」

「そんなッ、ヒドイ…」

「もしかしたら、お前のほうが本気で気持ち快くなったんじゃねえのか?」

「ヒィ〜ィッ」

 それまでの神経の張りが切れて、麻里江は激しく咽喉を鳴らすと

両手で顔を覆った。

「ワッ私ッ、こんなに苦しんで、あの子にも捨てられたら…」

「まぁ、落ち着けよ」

 40才半ばになった女の異常な性欲が炎になって燃えている。いつもなら

思うさまいたぶってやるところだが、私はじっくりと腰を据えた。

「お前、さっき女を世話してくれと言った相手は息子のことか…?」

「は、は、はい…」

 麻里江はいっそう肩を震わせて、ガクガクと首を振った。

「あ、あの子は、もう私に飽きたって…、こんなおばさんじゃ駄目だって…」

「それで、お前は承知したのかよ」

「仕様がないじゃありませんか、こんなこと何時までも続く筈ないし…」

 麻里江は、何かを恨むように言った。

「私のことを嫌だと言われれば、その通りにしてやるしかないんです」

「もう一つ、聞きたいことがあるんだがね」

 私は、苦悶する麻里江の様子を冷酷に観察しながら言った。

「その子は、本当に変態なのかい?」

「………」

 しばらく黙っていたが、麻里江は眼を宙に泳がせながら言った。

「先生…、こういうことって、遺伝するものなんでしようか」

「さぁ、そいつはわからねえな」

 何か決心したように、麻里江は自分からブラウスのボタンを外した。

「嘘じゃないんです、見てください」

 ブラジャーを取ると、少し垂れ下がった乳房のまわりに、青黒い

噛み痕のような痣がいくつも残っている。

「ほう、だいぶ酷くやられてるな」

 震える手でパンティを脱ぐと、ぼってりと脂肪がついた下腹部に、

剃りとられた陰毛が5ミリほど伸びていた。

 ワレメの間から肉ベラがベロッとハミ出して、内腿に爪で引っ掻いたような

新しい傷痕が幾筋も血を滲ませている。熟練したサディストがつけたもので

ないことはひとめでわかった。

 だが母親がマゾ、息子がサドという遺伝があるものかどうか…、

煮くずれたような女の性器を眺めて、私はちょっと信じられない

ような気がした。

「犯られたのは、いつだ」

「ゆうべ…」

 麻里江が、消え入りそうな声で言った。

「私を変態だと言って、いくらあやまっても許してくれなかったんです」

「そんなことは昨夜が初めてじゃなかったんだな?」

「は、はい…」

「わかった、女は貸してやるよ」

 私は、顔を覗きこむように言った。

「立派な息子じゃねえか、俺の跡継ぎにしたいくらいだ」

「そんな、冗談ばっかり…」

 もがき苦しんでいた麻里江の眼の中に、何故か不思議な

恍惚の色が宿っていた。



    三、母子相姦絵図


 それから三日後、私は綾香という22才になる女を泊りで派遣してやった。

小柄で男好きのする淫乱タイプの女である。

 相手が18才の若者だというので、綾香は妙にソワソワと出掛けていった。

「どうだった、面白かったろう」

 翌日、戻ってきたところで聞いてみると、綾香は何となく浮かない

顔で言った。

「凄く興奮したけど、私モテなかったわ」

「なぜよ、若いのは元気が良いから楽しめたんじゃねえのか」

「だってあの子、おばさんとばっかりヤルんですもの」

「へぇ、お前には手を出さなかったのかよ」

「触ったりしたんですけど、興奮してきたら私なんか相手にされなくて…」

 綾香には、それが不満なのである。

「もっと、詳しく話してみろ」

 綾香の話によると、アパートは6帖の二間続きで、奥が寝室、手前が

質素な生活のスペースになっているらしい。おそらく、今でも子供と一緒に

寝ているのであろう。

 麻里江は自分の身代りとして、綾香にはひどく気を使ったようだ。

 夕食を近くの寿司屋から取り、枕もとには真っ赤なバラの花が

活けてあったという。

「よろしくお願いします。わたし今夜は友達の家で泊まりますから…」

 そうそうに寝室の用意を整えて、麻里江は逃げ出すように部屋を

出て行こうとした。

「麻里江、待てよ!」

 息子に呼び捨てにされて、ギョッとして立ちすくむ。

「どこに行くんだ、一緒にいろ」

「喬ちゃん、お願い今夜は許して…」

「何いってんだ、お前がわざわざこの人を呼んだんだろ。イクところを

見てもらえ」

 息子の名前は喬一と言った。

 他人の前でセックスするのは、綾香は馴れた女である。だが母親と

一緒というのは、もちろん初めての経験であった。

「はじめ私だけ洋服を脱いだんですけど、彼はおばさんにも

裸になれと言うのよ」

 そのときの情景を思い出して、綾香は首をすくめた。

「嫌がると平気でひっぱたくんだもん。びっくりしちゃった」

「ふうん、それで3人でヤッたのか」

 高校生のくせに、今から3Pなど生意気なガキだと思ったのだが、

綾香の報告は少し違っていた。

「うぅん、あの子ったら二人の身体を比べるのよね。オッパイとか

おまんちゃんとか…」

「なんだ、それは…?」

「いちいち臭いとか汚いとか言って、おばさんを苛めるんです。

あれじゃおばさんが可哀そうだわ」

 若い綾香の肉体と比較したら、麻里江は惨めなほど見劣りしたに

違いない。だが意外だったのは、そのあとの綾香の言葉である。

「でもあの子、散々ケナしたくせに、おばさんとしかヤラないんですから…」

 麻里江、麻里江…、と名前を呼びながら、喬一は母親にしがみついて

いったという。

「俺、お前が好きなんだよ。絶対に離さねえからな」

「も、もう許して頂戴。アッウゥムッ」

 綾香は、あっけにとられてその様子を見ているより他になかった。

「いいか、お前みたいな女を好きになってくれるのは俺しかいねえんだぜ」

「駄目ッ、入れないで、あの人とやって…」

「そうか、そんなら俺に捨てられても良いんだな?」

「喬ちゃん…ッ」

「ほら、この人にお前の汚いおまんこ見せてやれ」

「いやアッ、お、お願い。お母さんを離さないでェ…ッ」

 綾香の眼の前で、麻里江はほとんど狂乱状態になったらしい。

 それはマゾというより、淫獣の世界に堕ちた異常な情念だったに違いない。

「イケよ、いつもみたいにイッてみろ」

 喬一が容赦なく肉塊を出没させながら、母親を感覚の頂点に誘う。

「お前変態だろ、遠慮することはねえ」

「ウゥゥ、喬ちゃんいくゥ…」

 麻里江がイカされるところは5回まで勘定したが、あとはどうなったのか

良く分からない…、と綾香は言った。

「母の愛って強いですねェ。私、とてもあんなこと出来ないわ」

 何か怖いものでも見てきたように、綾香は眉をひそめた。まるで見当違いの

批評だが、奇妙に的を射ているような気もする。

 肝心の麻里江からは、その後何の音沙汰もなかった。




<完>