一、トリプル夫婦旅行
上越本線、水上のひとつ手前に上牧という小さな駅がある。
昭和30年代のはじめ、当時は急行も停まらない田舎の駅であった。
私たちが列車を降りたのは、もう夜の7時を少しまわったころだ。
ホームには、電灯が規則正しく並んでいたが、それよりも、頭の上に
晩秋の月が皓々と冴えわたって足下を照らしてくれた。眼をこらすと、
透明な闇の奥にくろぐろと山の稜線が沈んでいる。
「うわぁ、凄いお月さま…!」
女は、初めて味わう大自然の夜の情感に、溜め息に似た歓声を上げた。
杉浦世津子にとって、これほど冷たく澄んだ空気と明るい月の光は、
生まれて初めての体験だったのである。
「宿屋は遠いんですか?」
「すぐそこだよ」
心配そうな顔をしている亭主にカバンを持たせて改札口を出た。
まだ迎えの車もなくて、女を真ん中にして月明かりの道を歩く。
水上は古くから有名な温泉だが、そのころ上牧には温泉宿は一軒しかなかった。
目的の上牧館は歩いてもほんの5分位のところである。
「ステキだわ、一生の思い出ね」
石ころだらけの道を亭主の肩にすがって、世津子はうるんだ視線を
私のほうに向けた。驚くほどの美人ではないが、小柄な人なつこい
女である。年令は35才…。
実は、もう三ケ月ほど前から、世津子は私たちの共通の女になっていた。
亭主は小さな印刷所をやっていて、私が経営している変態クラブの
常連である。ふとしたことから自宅に招かれたとき、眼についたのが
女房の世津子だった。
「いい奥さんじゃないか」
人の女房は良く見えるものだが、初対面から何故か他人のような
気がしないのである。
「そうでもないですよ。もの足りなくて…」
「もったいねえ。それじゃ、俺が借りても良いか?」
「はあ、ご自由に…」
こんないい女を放り出して、儲けの大半を変態クラブに注ぎ込んでいる
男がバカに見えた。
この女は必ずものになる…。
三回目くらいのとき、泊まっていくことになって、世津子が恥ずかしそうに
ふたつ並べて敷いた布団に三人で寝た。
「うち狭いから、仕方がないわね」
当時の住宅事情は、どこでも大体こんなものであった。
話がとぎれて、暫くたってから夫婦の布団に手を延ばすと、予期していた
のかどうか、世津子はやはり眠っていなかった。払いのけようとする
腕を掴んで強引に布団からひきずり出すと、身をもがきながら押し殺した
声を上げた。
「ちょっと、や、やめて…!」
「旦那も承知なんだ。泊まったらヤラせるのは当り前だろう」
「あ、あなた…ッ」
亭主は背中を向けたまま、嘘か本当かわからない鼾をかいている。
構わず圧さえつけて太腿を抱えると、世津子は恨めしそうに私を
見上げながら言った。
「ホ、本気なの?」
返事の代わりに、叩けば音がするくらいに固くなったやつを容赦なく
突き刺す。
「ウウム…ッ」
反射的に歯を喰いしばって、世津子は肩にしがみついてきた。
亭主が眠っている横で、女房を犯していると、快感が全身を駆け巡って
性欲がみるみるうちに昂進する。乳房を握って捩じ込むように
射精したときの気持ち良さといったらなかった。
「悪いことする人ね」
うつむいて後始末をしながら、世津子は囁くように言った。
「でも嬉しいわ。主人も、あなたの子供なら良いって言っていたから…」
寝物語にでもそんな話をしていたのであろう。世津子は、まだ亭主の変態に
気がついていないのである。
「子供はできないのか」
「欲しいの。結婚してもう10年になるんですけど…」
そのとき亭主が寝返りを打って、寝ぼけた声を出した。
「うぅン、何やってんだ?」
「えっ、わ、私ちょっと…」
「あそうか、そんなら良い」
亭主は、また背中を向けてしまった。
何とも奇妙で淫靡な匂いに満ちた一夜だったが、それ以来、
世津子は公認とも黙認ともつかず、二人の共有物になった。
こんないきさつがあって実現した、今回の旅行である。
二、湯けむり人魚
温泉宿の夜は長い。
上牧館はほとんど宿泊客もなく、ひっそりとしていた。遅い夕食を終わって、
私たちは3人で大浴場にいった。
亭主の眼の前で犯されることに、世津子はほとんど抵抗を感じていない。
関係はもうとっくに浮気の範囲をこえていた。どうしても子供が欲しいのだが、
同じつくるのなら好きな人の子でなければ…、というのがその理由である。
あるいは、ヘンな浮気をして責められるより、はじめから亭主に子ダネの主を
確認させておきたかったのかもしれない。
湯ぶねの縁で股を拡げてやると、世津子は胸まで温泉に漬かって股間に
しゃぶりついてきた。亭主は知らん顔をして、反対側で身体を洗っている。
「ケツをこっちに向けな」
挿入したまま、ドップリと温泉にひたっている気分は天国である。
後ろから抱えて腰を揺すると、浴槽いっぱいにさざ波がたって
パシャパシャと跳ねた。
「こ、ここでイカないでね。お部屋に帰ってから…」
世津子が喘ぎながら言った。ヌメリがないので、まるで明礬を
使っているような感じである。
「ちょっと、手伝ってよ」
洗い場で寝そべっている亭主を呼んで、背泳ぎの格好で男根を
握らせると、軽くなった尻を抱いて湯面スレスレのところでハメた。
身体が揺れるたびに陰毛がユラユラと浮き沈みして、温泉が淡い波紋を描く。
「ひぇぇ、わッ私イッちゃうッ」
あやうくバランスを取っていた世津子が、そのとき急に悲鳴をあげた。
夢中で反りかえった拍子に、頭からお湯をかぶってザバッと上半身が沈んだ。
湯の中でもがく姿は、全身がピンクに染まった人魚である。
「ぷはぁ…ッ」
「ホレ、旦那にヤッて貰いな」
立ち上がったところを突きはなすと、よろめいて亭主の腰にすがりつく。
「あっあなたァ、やって…」
洗い場に出て、湯けむりの向こうで絡みあっている夫婦の姿態は、
淫らな春画の世界だった。眺めていると、何とも淫蕩な気分になってくる。
そのとき入口の開く音がして若いアベックが入ってきた。ちょうど世津子が
上になって腰を振っている真っ最中だつた。エッという感じで足を止めたが、
引き返すわけにもいかなくて、宿のタオルで前を隠しながら後ろを
すり抜けると、浴槽の反対側に並んで身体を沈めた。
女は顔を見られるのを避けるように、俯いたまま固くなっている。
肉付きの良いはたち前後の女だった。
「おい、そろそろ止めろ。お客さんだぜ」
近寄って声をかけると、世津子はハッと顔を上げた。
「ええッ。誰かいるの?」
「バカだな、気がつかなかったのかよ」
「どっ、どうしよう」
亭主がイキかけていたのを惜しげもなく抜いて、世津子は逃げるように
浴場を飛び出していった。
振り向くと、アベックの男が女の肩を抱いて、照れ臭そうな笑いを
浮かべている。
人に見られたというのがかえって刺激になって、部屋に戻ると、
世津子は狂ったように燃えた。湯あがりの水気の多い肌が布団の上を
転げまわって、充血した陰裂をひらく。
「あ、あなたは駄目ッ」
亭主がイキそうになると、世津子はあわてて腰を引いてこちらに
向きを変えた。
「早くッ。入れて、一番奥まで入れてッ」
亭主の肉塊をくわえて、サカリのついた犬のように尻を高く上げる。
後ろからかぶさると、串刺しになったまま世津子は全身を震わせて
続けざまに絶叫した。
「ひィッいくッ。は、早く出して…ッ」
三十女の大胆さと言ってしまえばそれまでだが、こんな情況に
なっても、子供が欲しいと言う執念で、世津子はしたたかな計算を
しているのだった。
やってもやっても、世津子は一晩中せがみ続けた。快楽というより、
ただれた情痴の狂宴である。
翌朝はまた家族風呂で、私はとうとう四回も射精する破目になった。
上牧の一夜は、世津子にとって忘れることのできない想い出に
なったが、この話には、さらに後日談がある。
三、淫らな再会
どんなに惚れた女でも、肉体の魅力にはやはり限界があった。
すみずみまで味わってしまうと、世津子への思いも自然に醒めていった。
前後して、亭主のマゾ男もいつの間にか変態クラブに姿を見せなくなった。
思いがけなく、世津子が私の事務所を訪ねてきたのは、それから
一年ほどたってからのことだ。
「どうした、何かあったのかい」
世津子は、もうハンカチで眼頭を押さえていた。話を聞くと、あれから
間もなく亭主に新らしい女ができて無理やり離婚させられて
しまったのだと言う。
「それでいま、一人でアパートに住んでいるんですけど…」
「バカだな、何故もっと早く相談に来なかったんだ」
「でも、悪いと思って…」
以前と違って明るさもなく、眼が宙をさまよっている。
「子供が出来なかったもんで、わたし、強いことが言えないんです」
世津子はまた、指で眼頭を拭いた。 それから暫くうつむいていたが、
急に思い詰めたように言った。
「あのう、私…。ここで働かせてもらうわけにはいかないでしようか?」
「冗談じゃねえ!」
かりそめにも、一時は惚れた女である。気持ちは醒めていたが、
いまさら変態男の餌食にするのは忍びなかった。
「ここは変態クラブだぞ。女がどんなことするか知ってるのか」
「主人から聞きました…」
世津子は、自嘲するように唇を曲げた。
「知らなかったものだから、あの人、私じゃ物足りなかったわけですよね。
でも、今ならできるんじゃないかと思って…」
「そんなこと聞いてるんじゃねえっ」
思いきりひっぱたくと、よろけた拍子に脚がもつれて、タタミに
尻餅をついた。
「ワッ私、どんなことでもしますからッ」
「てめえ、男なしじゃ暮らせねえのか!」
引倒して乳房を踏みつけると、世津子は足の下から呻くような声を出した。
「あの時も、こうやって虐めてくれれば良かったのにィ…ッ」
こうなっては、もうただのマゾ女である。
「そうか、そんなに男が欲しけりゃ、そばに置いてやる」
「ほ、ほんと…?」
「ただし、俺の女じゃねえぞ」
「エッ」
世津子は、こわばった顔で私を見上げた。
「おい、誰かカミソリ持ってこい」
情けをかけてやる必要もなかった。隣りの部屋に声をかけると、
暫くしてそっと襖が開いた。隙間から髭剃り用のカミソリを持った女の
白い腕がのぞいている。
「本気で客を取る覚悟があるんなら、毛を剃ってみろ」
カミソリを突きつけると、追いつめられたように、世津子はパンティを脱いだ。
膝を広げてうずくまると、震えながら下腹にカミソリを当てる。
ちょっと息をとめて、ひと思いに手前に引いた。
ザリッ…。
陰毛はそれほど濃いほうではないが、水もクリームもつけてないので、
掻くたびに意外に大きい音がする。
剃り終わってタタミに落ちた毛を集めると、ふんわりと小さな山が出来た。
「よし、立ってみろ」
露出した縦の線にタラコのようなビラビラがはみ出して、白くなった
恥丘がプツプツと血玉を噴いていた。無邪気だった人妻時代に比べると、
変り果てた惨めな姿である。
「変態は世の中にはいっぱいいるぜ。お前の亭主ばっかりじゃねえんだよ」
「ワ、わかりました」
「もっと淫乱になれ、ヤリ狂ってみろ!」
手荒く指を入れると、世津子はよろけながら悲痛な声をあげた。
「アアッ、言わないで…ッ」
それからまた三月ほど過ぎて、いつものように電話のベルが鳴った。
「どうも御無沙汰しちゃって…、私です」
聞きなれた、無責任な声であった。
「珍しいな、何やってたんだ」
「女と別れましてね。またお世話になりたいと思って…、
何か面白いことないですか」
「あるよ」
「へえ、新しい女王様ですか?」
「今度はマゾ女だがね、ヤリ甲斐があるぜ。思いきり遊んでみたらどうだ」
「良いね、ぜひお願いしますよ」
電話を置いて、私はすぐ世津子を呼んだ。
「客だ。泊まりだってよ」
「ハイ」
何も疑わずに、世津子は急いで外出の化粧をはじめた。