淫楽覗かれ妻







    一、浮気への招待

「あのぅ、あのぅ、モシモシ…」

 その電話は、奇妙に濡れた声であった。

「モシモシ、あの、ちょっとお願いして良いでしょうか」

「なんです、何の用だね」

「あッハイ、あの、わたし…」

 咽喉に何か詰まっているような感じで、女はまた言葉を切った。

「はっきり言ってくださいよ。用がなければ切るよ」

「アッすいません、あの実は…」

 女は何かに急かされるように、思い切った調子で言った。

「わ、わたしと、浮気していただけないでしょうか」

「へぇ、おまんこやりたいのかい?」

「えッいえ、あのぅ…」

 そのとき、女の声がヒクッと震えた。

「浮気したいって、あんた幾つなんだ?」

「に、28才です」

「旦那はいないのかい。結婚しているんじゃないの?」

「それは、しているんですけど…、ウッ」

 オヤ…?

 はじめ、オナニーでもやりながら話しているのかと思ったのだが、

それにしては声のテンポが合っていない。

「だったら、旦那とヤレば良いじゃねぇか。不自由はしていないんだろ」

「いえあの、主、主人も承知なんです」

「へぇ、それじゃ旦那が浮気しても良いって言うのか?」

「は、はい」

 そこでまた、女は微かな呻き声をあげた。

「あんた感じるほうなのかい。ずいぶん興奮してるみたいじゃねぇか」

「そッそんなことないけど…」

「嘘をつけ、おまんこベタベタだろう」

「だ、だって、主人が…」

 なるほど、私はようやく電話の向こう側の様子を察知することが出来た。

 女は一人ではない。先刻からヒクついているのは、おそらく亭主に

抱かれながら電話をかけているのだ。恥ずかしがる女房をけしかけて

浮気をしろと言っているのは、実は亭主のほうなのである。

 写真のハメ撮りというのはあるが、女房をヤリまくりながら電話を

かけさせるというのは変わった趣味だ。刺激に飽きた中年夫婦の遊び

なのだろうが、まだこの段階では、相手が本気なのかイタズラなのか

判断がつかなかった。

「ウ、ウゥ…」

 いちばん感じるところを突きまわされながら受話器を握っている女も

大変である。亭主に急かされるのか、そのとき女がうわずった声で言った。

「お、お願いします。よかったら、わたしの家に来て…」

「家はどこだ」

「世田谷の…」

 経堂の近くだという。名前を聞くと、上村小夜子ですと言った。

 世田谷なら、事務所からそれほど遠い距離ではなかった。時計を見ると

まだ9時前である。いったいどんな女なのか、話の様子では、それほど

淫乱なようにも思えなかったが、私はムラムラと好奇心がわいた。

「あんた、本当に一人なんだろうな」

 わざと確かめるように言うと、小夜子は一瞬口ごもったが、すぐに

取って付けたように言った。

「えッ、一人ですけど、どうして?」

 これで騙せたと思っているのか、私はおかしかったが、こうなったら

乗りかかった船である。

「よし、それじゃ今から行ってやろうか」

「ち、ちょっと待ってください」

 急に電話の声が遠くなった。横にいる亭主と相談しているのであろう。

ゴソゴソと受話器を持ちなおす音が聞こえて、何か話し合っている気配が

伝わってきた。

「あの、本当に来てくださるんですか?」

 しばらくして、小夜子がわりとはっきりした声で言った。

「すぐに来られるんなら、お待ちしていますけど」

「わかったよ。1時間以内に行くから、おまんこを洗っておきな」

「あ、はい」

 これは、影にいる亭主に向かって言ったつもりである。いくら飛び入りでも、

いきなり精液まみれになったのを頂くのでは面白くない。

 そうそうに電話をきって、私はバスルームに行った。車を飛ばせば

世田谷までここから20分とはかからないであろう。



    二、唾液と淫汁


 目印のコンビニの前でタクシーを降りると小夜子の家はすぐに分かった。

 同じような造りの建て売り住宅がまとまって並んでいる、そのうちの一軒である。

 待っているという意思表示なのか、玄関に灯がついていた。チャイムを押すと、

中から電話で聞いたのと同じ、少し甲高い感じの女の声が返ってきた。

「ハイ、どなたですか?」

「今晩わ」

「あ、ちょっとお待ちください…」

 まもなく扉が開いて顔を出したのは、スカートに薄い春向きのセーターを着た、

ごく普通の主婦である。

「いらっしゃい」

 緊張しているのか、小夜子はこわばった表情で素早くあたりをうかがう。

誰も見ていないことを確かめると、無言で「どうぞ…」というしぐさを見せた。

 意外だったのは、つい先刻まであんな電話をかけていたとは思えないほど

髪を整えて一応の化粧もしていたことである。部屋に入ると布団が敷いて

あったが、シーツも真新しいものに代わっていた。きっと大慌てで

片付けたのであろう。

 楽屋を見ればひっくり返っているのだろうが、この部屋だけが奇妙に

きちんと整理されていた。部屋の空気が暖まっているのが唯一のセックスの

名残りである。

「旦那は、いないのかい?」

「えぇ、今日は泊まりですから…」

 そんな筈はない。さっきまで間違いなく小夜子を抱いていたのだ。あるいは

女房に浮気を勧めて、自分はどこかに姿を消してしまったのかもしれない。

「どうだい、身体の調子は」

 初対面なので、何となくギコチない感じで肩に手をかけると、小夜子は

内心ギクッとした様子だったが、呼んだのは自分なのだからいまさら

避けることもなかった。

「お茶なんかいらねぇよ、それよりおまんこを見せろ」

 コーヒーいれに行こうとするのを止めて、強引にスカートの中に腕を入れる。

「アッ、ま、待って…」

「公認の浮気じゃねぇか、怖がることなんかないだろ」

「あぅ…」

 パンティはしっかりと穿いていたが、その奥の溝はトロトロに濡れて、

溶けたバターのようになっていた。先刻のヌメリは何とか洗ったのだろうが、

後からまた新しい淫汁が滲み出してきたのに違いない。

「奥さん好きだねぇ。いつもこんなに濡らしてるのかい?」

「いえ、こ、こんなこと、初めてなんです」

「そうかい、でも奥さんがその気ならたっぷりと楽しませてもらうよ」

「でも、満足していただけるかしら」

「良いんじゃないの。こんなのもスリルがあって面白いや」

「そうですか。こんな身体で嫌じゃなかったら…」

 どこかで妙に納得している。別に格好をつけるわけでもなく、小夜子は

自分からスカートをとった。

「いい身体してるじゃないの。これならまだ十分男にも通用するぜ」

「ハッ、恥ずかしい…」

 若い人妻らしく、骨盤の幅が広い。布団に仰向きになると、乳房の膨らみが

いっそう大きく見えた。陰毛は濃いほうで、黒い蝶のように太腿の合わせ目を

覆っている。電気を点けたままなので、肌の白さがナマナマしく、女というより

猥褻な肉の塊りといった感じである。

 小夜子のほうが先に裸になってしまったので、私は女の濃い陰毛を

見下ろしながら、ゆっくりとズボンのベルトを外した。

「おい、舐めろよ」

「あッ、はい」

 声をかけると、小夜子はあわてて起き上がって脱ぎかけのズボンに

しがみついた。そのまま顔を上に向けて、ムグッと男根をくわえる。

半立ちになっていたやつが、たちまち根元から直立した。

 女もこの年になると、男の肉体をしゃぶることは当り前のように馴れて、

何とかして相手を喜ばせようとする。小夜子はしきりに舌を動かして、

呼吸をするたびにビチャビチャと卑猥な音を立てた。

 それにしても、初めて会った女に、ろくな挨拶もしないで舐めさせて

いることが少しも違和感がないのは不思議である。

「そろそろハメるぜ、股をひろげてみな」

「あの、中に出さないでください」

「わかってるよ、おまんこは味をみるだけだ」

 眼を閉じた女の上で、私はべっとりと唾液で濡れたやつを

ワレメの真ん中に当てた。



    三、淫らなカーテン


「あひィ…」

 ぐん、と体重を落としたとたん、小夜子は押し殺したようなうめき声をあげた。

 痛いのではなく、電話をかけたときから生殺しになっている身体が、

亭主と違った肉塊を突き刺されて思い切り反応するのだ。

 締め具合も悪くないが、何しろ唾液と淫汁でベトベトである。挿入を

受け止めようとしてのけ反るように腰を動かす度に、ヌメリが内股の

ほうまで広がっていつた。濡れるという表現ではとても追いつかない。

ドロッとした粘り気のある塊りが、ときどきチューブを絞るように溢れ出してくる。

「ウゥ、ウゥゥ…」

 顔をしかめて、小夜子は何回も全身を硬直させた。クリトリスの感覚が、

普通ならイクたびに大きな波を描くのだが、上昇したまま降りてこないのである。

反対の言い方をすれば、最後のとどめとなる神経の爆発がどうしても

起こらないのだ。

 興奮し過ぎているためであることは分かるが、たかが男一匹くわえた

ぐらいでどうしてこんなに興奮してしまうのか、その理由が謎であった。

 でも現実には、こんなことをいちいち考えていたわけではなかった。

私にしてみれば、思いがけなく飛び込んできた女の据膳を楽しむだけ

楽しめば良い。

 上半身を起こして、私は小夜子の両脚をくの字に曲げて肩にかついだ。

こうすると穴の角度が上を向いて根元までずっぽりと入る。

「あいぃぃ…ッ」

 小夜子が跳ねた拍子に、乳房がプルプルと揺れた。

「ウゥムッ、タ、助けて…」

「そんなに頑張っていないで、イキたかったら何回でもイケよ」

「くぅッ、くッ、くッ」

「イカねぇと、もっと奥まで突くぞ」

「うぇぇ、イ、いかして…ェ」

 そのとき、ふっと背中に異様な雰囲気を感じた。思わず振り返って

みたが、もちろん何も変わったことがあるわけではなかった。

 くそ…!

 ようやくすべてを察して、私はカッと頭に血がのぼってくるような気がした。

 そうか、これじゃ女が興奮するわけだ…。

 何故いままで気がつかなかったのか。この家はごくありふれた建て売りで、

隣の家とは壁と壁が擦れ合うくらいに接近している。間隔は1メートルも

ないほどであった。そこに申し訳ないような窓がひとつ、カーテンがかかっていた。

開けても見えるのは隣の板壁だけなのだが、内側からみれば一応は

飾り窓である。そのカーテンに覆われた窓が、ほんの少し開いていた。

 部屋の中が明るいので外の様子はまったく分からないのだが、私は

その向こう側に、蛇のような亭主の目がじいっと光っているような気がした。

「おい、こっちを向け!」

 かついでいた脚をほうり出して、小夜子を引き起こすと、いきなり身体を

窓の正面に向けた。

「わッ、な、何をするの…ッ」

「いいから、股を広げろ。存分にイカせてやる」

「カッ、堪忍してェ」

 後ろから内股をすくって抱え上げるように腹の上にのせると、黒い蝶が

真っ二つに割れて、熟した柿のような濃い色の肉の裂け目が剥き出しになった。

「アァッ、駄目…ッ」

 入り口が向こうをむいているので、男根を挿し込むことができない。

私は狙いもつけずに容赦なく後ろの穴を突いた。

「ギャアァッ」

 グスッと鈍い音がして、いちばん太いところまで、いっぺんに女の尻に埋まった。

 人形を踊らせるように腰を揺すると、小夜子は首をぐらぐらと振りながら

うわごとのように言った。

「イ、イ、いくぅ」

「てめぇケツの穴がそんなにいいのか、もっとイクところを見せてやれ」

「や、やめて、助けてッ」

 だが一度崩れた堤防はもう元に戻らなかった。止めようとしても、身体が

言うことを聞かないのである。

「あいく、あいく、いくいくゥッ」

 そのとき突然、小夜子の身体が海老のように跳ねた。

 亭主に覗かれながら見知らぬ男に抱かれるという発想は、もちろん小夜子が

思いついたことではあるまい。だがこの淫靡な環境が女を狂わせていた。

 窓の外で、淫欲に濡れた亭主の眼が異様に光ってその様子を見つめて

いるように私には思えた。





<完>