一、異様な関係
どこで聞いてきたのか、その日『芸苑社』にちょっと変わった客があった。
名前は小野寺沙月、30才…。美人だが、どこか暗い感じがする憂欝そうな
女である。
「あのう実は、主人の母のことで…」
沙月は下を向いたまま、こちらの様子をうかがうように言った。
「どなたか良い方がいらっしゃいましたら、紹介していただけないかと思って…」
「へえ、お姑さんにかい?」
当時の芸苑社には、ときおり女からも男を紹介してほしいという依頼があったが、
こんなのは初めてのケースである。
「いったい幾つなんだ」
「たしか54才だと思いますけど…」
「その年令で、まだ男を欲しがるのかよ」
苦笑して、私は女の顔を覗きこんだ。
「いえ、別にそういうわけでは…」
「じゃどうして、義理の母親に男の世話までしてやらなけりゃならないんだ」
「そ、それは…」
沙月は、たちまちしどろもどろになった。
「私だって、こんなことしたくはないんですけど…」
「話してみろ。事情がわかれば協力してやっても良いんだぜ」
何かある…、
それが、その時の第六感であった。
「あの、実は…」
口ごもりながら、沙月が告白した話を聞くと、要するに嫁と姑の三角関係である。
結婚してまもなく三年になるのだが、その間、気持の休まる暇もなくいじめられ
続けてきたのだという。
「昨夜だって…」
と、沙月は感情を抑えた低い声で言った。
「寝ているところにいきなり入ってきて、そんなヤリ方じゃ赤ちゃんできないわよ。
なんて言われて…」
「ヤッてる最中にか?」
「えッ、えゝ…」
「旦那は、何て言ってるんだ」
「笑ってるだけで、あの人は、お義母さんの人形と同じなんです」
亭主がひどいマザコンで、幼いときから母親の言いなりに育てられてきた。
いまふうに言えばバッチリ冬彦さんなのである。
「毎晩、寝室を覗かれてると思うと、私これ以上、ガ、我慢できないんです」
涙声が、いつの間にか恨めしそうな怨念の響きに変わっている。
「それに、結婚する前から二人は…」
肉体関係があったに違いないと沙月は言うのである。
「だって、主人は今でもときどき義母の部屋で寝ているんですもの」
「ほう、面白いじゃねえか」
「だからヤキモチじゃないんです。そんなことされて、わ、私…」
よほど口惜しいのであろう。唇が小刻みに震えている。
「もう我慢できないんです。それで、私からということは絶対ヒミツにして…」
「わかった、男を抱かせて仕返ししたいんだな?」
「えッ…」
それが本音なのである。沙月は一瞬、凍りついたようになった。
「よし、本気でやる気があるんだったら婆さんを呼び寄せるんだ」
この女自身、かなり異常な感覚に取りつかれている。
方法はいくらでもあった。無雑作に手を握ると、沙月はあわてて身を引こうとした。
「望みは叶えてやるよ。しばらく身を隠せ」
「ワッ、私、そんなつもりじゃ…」
「気取るんじゃねえっ。お前、浮気したことはねえのか?」
「あ、ありません。そんなことしたら何をされるか…」
「ちぇっ、いまさらそんな亭主に義理だてしてみたって仕様がねえだろう」
「ヒェッ」
ソフアに突き飛ばすと、大袈裟にひっくり返って足の裏を天井に向けた。
「や、やめて…ッ」
逃げる間も考えるヒマも与えずパンティを下ろすと、押さえた指の間から、
人妻らしい艶のある陰毛が見え隠れする。
「もったいねえ。いつまでも変態ばばァの餌になってることはねえんだよ」
「ま、待って、わかったから…ッ」
よく張った尻を抱えて、ムレたような肉のはざまに容赦なく腰を入れた。
「アアッ、ううむ…」
とたんに、穴の奥からドッと淫汁が溢れ出してきた。
二、姑の言い分
沙月が計画的に家を出たのは、それから三日後のことだ。
寝室の屑籠の中に、さり気なく電話番号のメモを捨ててきた。姑の須賀子が
見つけるに決まっていると沙月は言ったが、なるほど、次の日の午後になって
聞きなれない女の声で電話があった。
「モシモシ、そちらに小野寺沙月というものがお世話になっておりませんでしようか」
「あゝいますけど、どちら様…?」
「沙月の家のものでございますが…」
中年過ぎにしては甲高い、ヒステリックな響きである。
「モシモシッ、おりましたらちょっと出していただけないでしようか」
来たぜ…。 目くばせしてやると、沙月はこわばった顔で首を左右に振った。
「いま仕事中ですがね、何か御用ですか」
「仕事って、なにを…?」
「うちは変態クラブだからね。だいたい想像がつくでしよう」
「エエッ」
「まあ、本人が好きでやりたいと言うから、やらせてるだけで…」
「沙月は結婚しているんですッ。す、すぐに止めさせてくださいッ」
「いきなりそう言われても、こっちも商売ですから…」
「困ります、わたしが許しませんッ」
言葉の端々に姑の権威がチラついている。適当にあしらっていると、
受話器の向こうからまたヒステリックな叫び声が聞こえた。
「とにかく、すぐに迎えにまいりますから、どこにも出さないで…。捕まえて
おいてくださいッ」
ガチャッ、と電話が切れた。
「おい、来るってよ」
「怖い…、どうしよう」
これまでの習性というか、沙月はマジで身体を震わせている。
「案外うまくいきそうじゃねえか。心配することはねえ」
じっさいに須賀子が事務所に姿を見せたのは、それから三時間後、
夕方に近くなってからのことであった。
事務所に入ってくると、落ち着きのない視線であたりを見まわしながら、
須賀子は精一杯の虚勢を張って言った。
「うちの嫁を帰してください。沙月はどこにいるんですッ」
頭に白髪が混ざっている。どう見ても50代の半ばを越えているのだが、
どこか性欲的な匂いのする女である。
「さっき客がつきましてね。ホテルに出掛けましたよ」
「何ですって、あ、あの子は…」
「おかあさん、あんたが仕込んだんじゃなかったのかね?」
入り口の鍵を締めて、私はゆっくりと振り返った。
「可哀相に、毎晩お姑さんのお古じゃもの足りねえんだってよ」
「ど、どういう意味なんですッ」
「あんた、自分の息子と大っぴらに関係しているって本当かい」
「そんなことを、サ、沙月が…?」
須賀子は、棒を呑んだようになった。
「いい年令して、あんた相当な変態だな。まだ性欲が抜けねえのかい」
着物の襟に手をかけると、須賀子は激しく振り払いながら叫んだ。
「な、何するんですッ。私、そんなこと存じません…ッ」
「うるせえっ」
横っ面を張ると、よろめいてソファにドシンと尻餅をついた。
「女は一生セックスしたがる動物だっていうが本当かい。確かめてみよう
じゃねえか」
「ケッ、警察に…」
「自分で恥をさらすつもりなら、どこへでも行ってみな」
こうなっては、こちらも後には引けなかった。立ち上がったところを帯を掴むと、
案外簡単に解けて足もとにとぐろを巻いた。下に薄い肌着とパンティを
つけていたがこんなものは問題ではなかった。
力では敵わないと思ったのか、ソファに横倒しになって、須賀子は
白い眼でこちらを睨みつけている。
乳房がひしゃげて、たるんだ腹の肉が盛りを過ぎた女の過去を象徴していた。
「お姑さん、おまんこにはまだ白髪は生えていねえのかい」
年のわりに盛り上がった陰毛を指先で掻き分けると、突然、須賀子が
怨念をこめた低い調子で言った。
「覚えてらっしゃいよ、沙月…。トキオは渡さないからね…」
三、しおれた花びら
トキオというのは、マザコン息子の名前であろう。
腕力ではどうしようもないので、須賀子は意外なほどおとなしかった。
覚悟を決めた様子で、着物の前をはだけたままソファに横たわっていた。
ヤルならヤッてみなさいよ…、といった感じである。
その代わり、胸の中にはどれほどの怨みが燃えているのか誰にもわからない。
このあたりが世間知らずの若い娘と違って不気味である。
近ごろでは、50才を過ぎても立派に通用する女が多いが、須賀子の肉体は
まぎれもなく婆さんであった。自称は54才だが、あるいはもう60に近かった
のかもしれない。
見下ろすと、臍のまわりにタルんだ皮膚がシワを作って細かい波を
描いている。太腿に手をかけると、筋肉が柔らかくなって、掌にブヨブヨした
感触が残った。
陰毛だけが黒々と生い茂っているのが、何とも異様な眺めである。
「こんなおまんこで、まだセックスがやりてえのか」
使い込んだというより、しおれた花びらのように垂れ下がった肉片をつまんで
指を入れると、それでも内部には粘り気のある液体が滲み出していた。
「トキオとは、いつ頃からヤッてたんだよ」
「………」
「返事をしろっ」
もう一度ひっぱたいてみたが、須賀子は返事をしない。
「この野郎…」
私は、奇妙な焦りを感じた。
どうしても、男根がボッキしてこないのである。当時私は30代の前半で、
二度や三度の射精も可能だった。こんなことは、今までになかったことだ。
くそ…!
ズボンからベルトを抜いて、いきなり萎びかけた乳房に叩きつけた。
「ぎゃあッ」
反射的に跳ね上がって、須賀子は身をよじった。これにはさすがに
度肝を抜かれたようであった。
「アッ危ないッ。助けて…」
「ナメるんじゃねえっ」
もうひとつ背中にベルトの鞭を喰らわせておいて、私は隣の部屋の襖を開けた。
「出てこい、いつまで隠れてるんだ!」
息をひそめて様子を窺っていた女を引きずり出す。
沙月は猫が首根っこを押さえられたような格好でいざり寄ってきた。
「舐めろっ」
「ぐッ、ぐぇぇ…」
髪の毛を掴んで嫌おうなしに半立ちの肉塊を押し込むと、沙月は顔を
真っ赤にして、両手を宙に泳がせる羽目になった。
「沙月ッ、やっぱりあんただったのねッ」
振り向くと、須賀子が血相を変えて立ち上がろうとしていた。たちまち、
ムラムラと新しい力がこみ上げてくる。
「ようし、お前はそこで見てろ」
沙月を突き放すと、私は斜めに硬直した男根を須賀子のほうに向けた。
ギョッとして後ずさりするのを捕らえて、絨毯に転がす。脚をひらくと、
沙月の唾液を吸って膨らんだやつを容赦なく萎れた肉唇の真ん中に当てた。
「けッ、けだもの…」
「息子とツルみやがって、どっちがけだものなんだ」
のしかかって体重を乗せると、何の造作もなく中程までひと息に埋まった。
独特の吸い込まれるような弾力はやはり感じられない。だが白髪混じりの
女を犯すという行為はそれなりに淫靡で、アブノーマルな快感があった。
たるんだ肉の感触はまるで別世界の動物とヤッているような気分である。
「おツユはまだ干涸びていねえな。やっぱり気持ちが快いのかい」
「あふッ、ウウム…」
ゆっくりと腰をつかいながら、言葉でいたぶる余裕もあった。
「メンスは、とっくにあがってるんだろ?」
眉を寄せて、須賀子はかたく眼を閉じている。腰を入れるたびに、
張りを失った乳房がユサユサと揺れた。
「おい、そろそろイクんじゃねえのか?」
たしかに、それらしい兆しが見えはじめていた。抜きさしを激しくすると、
自然に尻を浮かして筋肉が細かく痙攣している。
「遠慮しなくても良いんだぜ。沙月にもイクところを見せてやれ」
「ウェェ…ッ。ヤッ、やめてェッ」
とうとう、須賀子はせっぱ詰まった悲痛な嬌声を上げた。
「イッ、イッ、くくく…ゥッ」
沙月が、呆然とそれを凝視している。