セックス掃除婦





    一、他人の情事


 そのころ新宿歌舞伎町の裏、JRの大久保から新大久保の駅に

かけて、ラブホテルの密集地帯だった。紫苑、御苑荘、石亭といった

当時としては豪華な温泉マークが立ち並んでいた。

 最近のようにマンションに専用のスタジオを造るといった時代では

ないので、SMクラブを経営していると、ほとんど連日のように

こうしたホテルを利用する。ホテル側にもある程度了解を取って

おいた方がよい。というわけで、私は新大久保にあるラブホテルと

親しくなって、女無しでも自由に出入り出来るようになっていた。

 ラブホテルの経営も、裏からみるとなかなか楽ではなかった。

 備え付けの化粧品がなくなるのは毎度のことで、なかには

バスルームのお湯の栓を全開にしたまま帰ってしまう奴もいれば、

シーツならともかく、ベッドの芯まで生理の血で汚してゆく女もいる。

 そのホテルは3階建てだが、各階に2人ずつ後始末専門の

従業員をおいて、客が出ると間髪を入れず部屋に飛び込んで、

掃除と次のアベックを入れるための準備をさせるようにしていた。

 欲望を満たした客が去ったあと、汚れてしわくちゃになった

シーツを取り換え、精液が溜まったコンドームや、射精した後を拭いて

陰毛が絡みついたティッシュを捨てて、取りあえず情事の痕跡を

消すことに専念する。職業としては最低だが、仕事は楽なので、

働きにくる女はけっこう多かったようだ。

 後藤フミヨも、そんなホテルの掃除婦の一人だった。

 いつ頃から働いていたのか、年令は40才を少し越えたくらいで、

それほどのブスというわけではないが、背が低く小太りで

如何にも掃除のおばさんといったタイプである。

 私がフミヨを食事に誘ったのは、気安く口を利くようになって

しばらくしてからのことだ。

 いつも女たちの後始末をさせているので、それまでにも

時折タバコなどを渡してやることはあったが、このへんにも気を配って

おかないと何を言い出されるか知れたものではない。もちろん、

変な下心があったわけではなかった。

「あらいいんですよ。私は仕事ですから…」

 口ではそう言いながら、フミヨは嬉しそうにニコニコと笑った。

「まぁ良いから、中華料理なんかどうだい」

「悪いですネェ、私みたいなオバチャンが一緒でもいいの?」

「まだオバチャンという年でもないだろ。休みはいつだ」

 結局、約束が決まったのはそれから三日後の午後のことであった。

 まさかラーメンというわけにもゆかないので、場所は新宿の町中にある

中程度の中華料理店、いちおうコースでBというのを注文した。

それでもフミヨは大満悦で、しきりに悪いですネェを連発する。

彼女にとっては、中華のフルコースなど今まで食べたこともない

豪華版なのであろう。

「あんた、独りなのかい」

「えぇ、亭主に浮気されて…。男って、仕様がないものですネェ」

「それじゃ寂しいな。あんなところで働いていて、思い出さないのかい?」

「そりゃタマには、若いアベックなんか来るとムラムラすることも

あるけど、もう諦めてますから」

 次々に出てくる料理に眼を丸くしながら、フミヨはすっかり口が

軽くなっていた。

「若い人が部屋を使った後に入ると、何かこう、セックスの匂い

みたいなものが残っていて…、息が詰まりそうになるんです」

「想像すると興奮するだろうな」

「想像って言うより、もっと生々しい感じですね。可愛い女の子が

どんなことをやったのかと思うと…」

 その刺激が、案外この女の性欲を満たしているのかもしれない。

覗きとも違うが、他人の情事の跡を見続けてきた女でなければ

言えない言葉である。

「どうだい、あんたも一度お客になってみないか。相手になって

やっても良いんだぜ」

「えッ」

 それまで動いていた口許が止まって、フミヨはチラリと

上目使いに私の顔を見た。

「嫌ですよゥ、からかわないでください。私そんな、そ、そんなこと私…」

 吃りながら首筋まで真っ赤になっている。

「いいじゃないか、久しぶりなんだろ。まだおまんこに蜘蛛の巣が

はるような年じゃないぜ」

 私はニヤニヤと笑いながら言った。



    二、卑猥な人魚


 ラブホテルの掃除婦として、日に何回となく、見知らぬアベックが

残していった情事の後始末をしている女なのだが、自分が逆の立場に

なるなどということは考えていなかったのであろう。

「そ、そんなつもりで私、ご馳走になったんじゃ…」

「それとこれとは別だ。あんた、まだ十分に男にも通用する

身体なんだぜ」

「え、えッ…」

 フミヨは見ている方がおかしくなるほど、ドギマギとあがっていた。

 こちらとしても、ほんの遊び心である。冗談半分に誘ったのだが、

こうなるとゆくところまでゆかなければ収まりがつかない。

「行こう。俺に任せておけ」

 食事を終って連れ込んだのは、フミヨが働いているホテルから

いくらも離れていない、新装開店したばかりの新しいホテルだった。

 それでもその頃はまだ現在のように全自動になっていないので、

カウンターを通る時、フミヨは従業員に顔を見られないように

ハンドバックで顔を隠して私の背中に張り付いていた。

今では女もおおっぴらで恥ずかしがることもないが、その頃はよく

こんなタイプの女がいたものである。

 部屋にはいって私が無造作に着ているものを脱ぐと、フミヨはまるで

それが習慣のように、丁寧にたたみはじめた。

「そんなことしなくても良いから、お前も早く脱げよ」

「えぇ、はい…」

 それでもまだグズグズしているので、遠慮なくブラウスの

ホックを外しにかかる。

「あッ、ま、待って…、自分でします」

「早くしろ、子供じゃないんだ」

「わ、私、自信が…」

「今ごろになって、何言ってるんだ。そんなにもったいぶることはないだろ」

 委細構わず脱がせてみると、出てきたのは40才を過ぎて

少したるんだ乳房と、皮膚の下に脂肪が透けて見えるような、

意外に白い素肌である。年令相応に腰幅があって、膝の上から

太股にたっぷりと肉がついている。陰毛は、それほど濃い方ではなかった。

「風呂に入ろう。先に行ってお湯を出してきな」

「あ、気がつかなくて…」

 男の視線から逃れるように、フミヨはバスルームに消えた。

「あのぅ、お風呂が入りましたけど」

 すぐにドアが開いて、フミヨが声だけで言った。行ってみると

背中を向けてタイルに正座している。身体はまだ濡れていなかった。

「何だ、入ってなかったのか?」

「先に入ってください。私あとで…」

「いいから一緒にはいろう。おまんこを洗ってやるよ」

 尻込みするのを、二の腕を掴んでザブリと浴槽に漬ける。

後ろから腰を抱えるようにして一緒に身を沈めると、とたんに勢い良く

お湯が溢れだした。

「わ、わたし太ってるから…、うェッ」

 かまわず尻の割れ目から腕を入れて、分厚い肉の襞をひらくと、

フミヨは奇声をあげて湯の中で身体を二つに折った。

「お前さっきから相当濡らしていたな。ヌルヌルしてるぜ」

「うわ、や、止めてくださいよゥ」

 指で探ってみると、クリトリスや肉ベラにもかなりのボリュームがあった。

 目の前で蛇口からお湯が出し放しになっているので、それ以上前に

逃げることができない。指を二本、簡単に穴の中に差しこむと、

フミヨはそれきりおとなしくなった。と言うより、気が動転して抵抗することが

できないのである。

「う、う、うぅッ」

「すごく感じるみたいだな。セックスは何年ぶりだ?」

「はぁッ、も、もう…、や、めて…」

「どうして、本当に止めても良いのかよ」

「いぇぇ、お、おかしくなっちゃうッ」

 指先にヒクヒクと肉が締まる感触が伝わってくる。これは、なかなか

絶妙な快感であった。

「クリトリスがこんなに固くなってるじゃないか。もう、おかしくなってるんだよ」

「あ、あッ」

 そのとき、突然バシャッとお湯がはねて、フミヨが腹筋を痙攣させた。

「クッ、ウムッ」

「おい、イッてるのか」

「あぁッ、たまんない、たまんないィィ」

 そのたびに、ビクンビクンと全身が脈動する。

「だッだめッ、いッくゥゥ…」

 小太りの女の身体が、魚が跳ねるように湯の中で何回も躍った。



    三、淫事のあと始末


 一度肉体の芯を掻き回されてしまうと、フミヨは人が変ったように

大胆になった。

 長い間絶えていた男の肌に触れて狂ったのか、仕方がないと

諦めてしまったのか、悪く言えば中年女の図々しさである。

 ひとしきり湯の中での狂乱がおさまると、フミヨは夢から覚めた

ような顔でお背中を流しましょうと言った。それでもやはり

恥ずかしいのか、どうしても身体の正面を見せようとしないのである。

「おい、こっちも洗ってくれよ」

「えッ、そこはご自分で…」

「バカいえ。お前が大好きなところじゃねぇか、念を入れて洗え」

 ようやく前にまわって、股の間にしゃがみ込むと、フミヨは両手に

石鹸をつけておそるおそる男根を握った。

 慣れない手つきでしごかれると、ときどきバネのような弾力で

先端が天井をむく。

「こんなに硬くなって、痛くないんですか」

 分かりきったことをさも不思議そうに聞きながら、さりげなく

感触を楽しんでいる。

 やがて、たまり兼ねたようにザッとお湯をかけると、四ッン這いのまま

蛙のような姿勢でムグッと口にくわえた。それはテクニックというより、

本能的な女の願望であろう。

 結局、すっかり打ち解けてバスルームから出るまで、およそ小一時間ほども

ジャレあっていたと思う。

「出よう、ノボセそうだぜ」

 部屋に戻って無造作にベッドの覆いを剥ぐと、フミヨはフッと我に返ったような

顔になった。

「ここに、寝るんですか?」

「そうさ、ベッドじゃねぇか」

「悪いわ、せっかく綺麗にしてあるのに…」

 なるほど…、

 いつも自分が取り換えて、次の客のために整えているラブホテルの

シーツを汚してしまうのが忍びないのであろう。妙な職業意識と

言えないこともないが、フミヨにとってはごく自然な感情であった。

「なに言ってんだ。お前お客さんだぜ」

 そのまま押し倒すようにベッドに仰向けにして、私は容赦なく

女の股を広げた。

 体型が小振りなので、脚を曲げて割れ目を上に向けると、

まるで絵に描いたような三段腹である。薄い陰毛が二つに割れて、

色付いた肉のヒダヒダがモロに露出していた。若い娘の青臭い新鮮さに

比べて、熟れすぎたトマトを貼り付けたような情景である。

 だがそれはそれで、弄ぶには手頃な面白い玩具だった。

のし掛かって柔らかい三段腹の上で腰を弾ませると、フミヨは息も

絶え絶えに咽喉を鳴らしながら再び絶頂にかけ上がっていった。

「助けてくださいッ。イ、イッちゃう!」

 若い張りを失った乳房が、腰を突かれるたびにユサユサと

前後に揺れる。

「アヒィッ、ぐぇッ…」

 もう何回目か、女が硬直したところで、引き起こして後ろから

尻を抱えた。丸々と脂がのった尻タブを掴んで、思い切り左右に

広げる。そこだけはまだ手付かずで、濃い色をした肉のつぼみが

小さく閉じていた。

 ヌメリは十分にあるので、手加減する必要はなかった。

突き破るように腰を入れると、ブチッと中程の太いところまで入った。

「ギャッ、ひィィィ…」

 一瞬呼吸が止まって、フミヨは、それから引きつったような

悲鳴を上げた。

「逃げるんじゃねぇ、もっとケツを上げろ」

 シーツを掻きむしってズリ上がろうとするのを、骨盤を押さえて

強引に戻す。まだ新しいつぼみだったが、発情した女は思ったより

痛がらないものだ。

「あつうッ、いいッ、死、死んじゃうゥ」

 気持ち快いのか苦しいのか、フミヨにも良く分からなかったのだろう。

散々しゃぶらせたり、いじらせたりしているので、こちらももう限界である。

盛り上がった太股の肉を跨いで、陰毛を尻タブに擦りつけるようにして

射精したとき、女は力が尽きたように腹這いになったままヒクヒクと

痙攣していた。

 2時間の休憩時間はあっと言う間に過ぎたが、延長するつもりは

なかった。早々に帰り支度をして部屋を出ようとすると、フミヨがふと

立ち止まって、つぶやくように言った。

「悪いわ、こんなに汚してしまって…」

 確かにシーツはよれよれ、風呂場は水浸しである。だがこれくらいの

後始末は、ラブホテルなら当り前だろう。

「良いじゃないか、今日はお客さんだぜ」

「はい…」

 明日からは自分がこの役目をしなければならない。フミヨは振り向くと、

急に真顔になって深々と頭を下げた。

「有り難うございました。こんな贅沢させてもらって、バチが当たりそう…」


<完>