一、戦後レイプ事情
レイプ…、すなわち強姦である。 終戦直後の米兵による強姦事件は、
闇から闇に葬り去られてほとんど問題になることもなかった。被害者の
大部分は、いわゆるパンパンガールである。
兵隊が売春婦を輪姦した集団レイプ、女を買ったあと金を払わないヤリ逃げ
など、実態はまったく不明だが、巨大な男根で性器を引き裂かれたり、穴が
爛れるほど凌辱された売春婦を私はそのころ何人も知っていた。
女たちはその日の食いものにも事欠いていたし、戦勝国の豊かな物資にも
憧れていたから、つけ込まれるスキは十分にあった。
それでも米軍の規律は良好で、一般の女性にはあまり手を出さなかった。
日本の軍隊が中国や朝鮮半島で犯した強姦虐殺事件に比べれば
まだ幸せであったと言える。
それよりも悲惨だったのは、敗戦の泥沼に落ちこんだ女たちの生活である。
強姦というより残酷姦…。
戦災孤児になった少女が、焼け跡で復員してきたばかりの男に犯されても、
誰も見向きもしない。女子挺身隊に徴用されていた高校生クラスの若い娘が、
食うために身体を売らなければならなかった。
どちらも、年齢は12才から18才くらいの、処女であることがあたり前のような
娘たちである。
戦争が終って平和になったというのは言葉の上のまやかしで、戦後の
混乱はまだまだ続いていた。
そのころ、私は新宿で露店のアルバイトをしていた。
夜9時を過ぎると時折どこかで女の悲鳴が聞こえる。ただのケンカなのか、
誰が何をされているのかも解らない。終戦直後の新宿は街全体が異様な
雰囲気に包まれていた。
私自身、自分の店に迷いこんできた14才の少女とセックスしたことがある。
母親は日本人相手の街娼で、カリコミと呼ばれる一斉取締まりに
引っ掛かって検挙されてしまったらしい。店の横に蹲っているのを
見つけたのだが、寒さと空腹でフラフラになっていた。
可哀相だが残酷な興味もあった。進駐軍横流しの菓子を食わせて
やったあと、結局犯してしまったのだが、あまり後味の良いものではなかった。
そんなとき、当時世間を騒がせた大久保清の事件が起こった。
買い出しに来た女に食料を世話してやると声をかけて、女を次々に
犯しては殺していった。戦後の世相を代表する強姦殺人事件である。
犯られたのは20代の人妻から40才を過ぎたおばさんまで、リュックサックに
一杯の芋が欲しいばかりに、彼女たちはいとも簡単に股を広げ、そして
殺されていった。
大久保事件と並んで、もうひとつ小平事件というのがあった。こちらは
変態魔で、狙ったのは都会に住む若い娘たちである。 戦後50年を過ぎて
人々の記憶からは消えてしまった事件なのだが、その根底にあったのは、
敗戦という現実がもたらした飢餓と貧困の修羅地獄である。
二、売春のすすめ
先刻の少女の場合もそうだが、新宿の盛り場で露店などやっていると、
ときどき思いがけないカモが引っかかることがあった。
「お兄さん、これ、引き取って貰えないかしら?」
はたちをちょっと出たくらいの、化粧もしていない痩せた女である。
「母の形見なんだけど…」
握っていた手をひらくと、それほど豪華なものではないが、素人眼にも
いちおうダイヤとわかる指輪である。
「ふうん…」
そのころの闇市は、売れるものなら何でも扱っていたが、まだ若かった
私にはダイヤの値ぶみなど見当もつかない。
「3百円くらいでどうだ?」
いまなら2万円といったところか…。
とっさに胸に浮かんだ値段を3分の1にして言うと、女はひどく失望した
顔になった。
「そんなもんですか…?」
「いまどき、指輪なんか買う奴はパンパンくらいしかいねえよ」
女は途方に暮れた様子で黙っている。
黙って指輪をポケットに入れると、女はあわてて取り戻そうとした。
「あ、やめます。返して…」
「いいじゃねえか、もう少し高価く売ってやるよ。しばらく預けておきな」
「こ、困るの。大事なものだから…」
「だったら、なんで売る気になんかなったんだよ」
いきなり、女の細い手首を握った。
「なあ、金が欲しいんなら相談に乗るぜ」
「ええッ、でも…」
「どうせ一人なんだろ? いい男紹介してやるからよ」
「そんな…。私、駄目よ」
「バカだな、おまんこのほうが指輪なんかよりずっと金になるんだ」
「よ、よして…」
女は必死に腕を振りほどきながら言った。
「わ、私、そんな事やったことないから…」
「知らなけりゃ教えてやるよ。あとはやる気と腕次第だ」
「………」
「それとも、母ァちゃんの形見を売るか?」
20分ほど押し問答が続いて、女はとうとう首を縦に振った。やはり、
豊かな暮らしがしたいのである。
「で、でも私、本当に何にも知らないのよ」
「わかってるよ。パンパンやれって言ってるんじゃねえんだ」
「そ、そんなら良いけど…」
名前は松崎佐知代、21才…。
「お前、本当に男とヤッたことねえのか?」
「えッ、ええ…」
「ちぇっ仕様がねえな。それじゃ今のうちに穴をあけておかねえと痛えぞ」
私はさり気なく言った。どうせ犯らせるなら、処女のまま廻わすテは
なかろう。
「イヤ怖い…」
佐知代は、急に不安そうな顔になった。
「大丈夫だよ。穴は俺があけてやるから任せておきな」
今ならこんな無知な女はいないと思うが、戦時中の教育を受けた女たちの
性知識はだいたいこの程度のものだったのである。
三、強姦と和姦の限界
露店といっても形ばかりの屋根があって、9時をまわるとベニヤの
戸板を立てる。
私は早々に店をしまって、佐知代をなかに入れた。
「スカートを脱いでみな」
「ねえ、どうしてもやるの…?」
「あたり前だ、自分のためじゃねえか」
まるで縁台のような細長い板張りで、立ち上がると天井に頭がぶつかる。
佐知代は中腰になって、オズオズとスカートを脱いだ。
構わず仰向けにして、無造作にパンティを抜き取る。風呂に入って
いないので、ムレたような淫臭が鼻をついた。
青白く透き通ったような内股のつけ根にかなり濃い陰毛が盛り上がって
いる。40ワットの裸電球を股の間にかざして、指でふたつの肉唇を
ひらくと、鶏のササミのようなベロの真ん中にポコッと小さな穴が
あいていた。
「へえ、ほんとに処女なんだな」
緊張しきっているのか、そのとき、突然佐知代がうわずった声を上げた。
「あ、あの、指輪は…?」
「そんなもん、あとで返してやるよ」
「でで、でも…」
「うるせえな、静かにしてろ!」
怒張したやつを握って眼の前に突きつけると、佐知代はヒィッと息を引いた。
「見ろよ、こんなのが入るんだぜ」
「ウゥゥ…」
「せっかく穴を開けて貰うんじゃねえか。もっと嬉しそうな顔をしろ」
スペースが狭いので、自由に動くことができない。二ツ折りにした
脚を肩にかついで、そのままのしかかった。
「怖がることはねえ。一度ハメておけばあとが楽だからな」
前戯もなく直接ワレメの真ん中に当てる。 思い切って体重をかけると、
ブチッと何かが潰れるような微かな手応えがあった。
「ギェ…」
その瞬間、佐知代はクワッと眼を見開いてこちらを凝視した。
「イ、イ、痛い…」
「辛抱しろ、誰でも最初は痛えんだ」
「ウッ、ウウム…ッ」
あとは、情け容赦のない上下運動である。
「クゥッ、ま、まだなの…ッ?」
「もうちょっとだ。ちゃんと穴があくまで我慢してろ」
「ハッ、ハイ…」
佐知代は全身をカチカチにして、焼け火箸でえぐられるような痛みに耐えた。
「イクぜ…」
これが強姦といえるのかどうか…。少なくとも、女は納得の上だったのである。
若かったせいもあるが、とくに処女を犯したという感慨はなかった。
精液を排泄してしまったあと、奇妙な虚しさだけが残った。
翌日、私は闇屋の兄貴分に話をつけて、たしか三千円で女を渡した。
その男がどうやって客を取らせたのかは知るよしもないが、
佐知代はそれきり店に戻って来ることはなかった。
指輪も、結局それきりになってしまった。