M女エルの犯され日記




        一 『きゃら』のママをご存じですか

「それじゃ、犬とセックスしろと言われて、できなかったの?」

 洋式のバスタブにゆっくりと脚を伸ばして、ママが言った。言葉使いは普通だが、

エルにとっては身体が震え出すほど怖い。

 通称『きゃら』のママ。年令は29才、経営者がニューハーフで、しかも女王様という

SMクラブは、東京にはここしかない筈であった。

麻布十番の商店街から少しはいった3DKのマンションで、広告は出していないが、

口込みでかなりハイレベルの会員が集まっていた。

 プレイルームもあったが、これはママの専用で、女達は出張システムを

とっている。あとは応接と控え室。

 メンバーは、ママの他にアシスタント女王のソフィア、マゾ女のピケとムク、

それにエルの合計五人で、全員が真性のサド、マゾヒストである。それだけに

女達への躾けは厳しかった。

「解っているだろうね。お前はマゾ女だよ」

 目の前でかすかにお湯がゆれ、浴槽に浮かんだママの美事な胸が眩しかった。

エルは、裸のままタイルに正座してうなだれている。

「お遊びじゃないのよ。『きゃら』に入る時、ちゃんと誓ったはずじゃなかったの?」

「ハイ」

「だったら、どうして逃げ帰ってくるの。犬とやらせてもらえるなんて、光栄じゃない」

「やろうとしたんですが、相手がどうしても思うとうりにならなくて…」

「一生懸命になれば、できないはずないだろう! お前がいい加減だからよ」

 浴槽から、頬にビシッと平手打ちが飛んだ。

「すみません…」

「いったいどうやってきたの。はじめから言ってごらん」

 エルの頭の中に、先刻までの生々しい情景が甦ってきた。それは毛の長い、

栗色の大きな犬であった。



         二 犬としたことありますか


「こいつは贅沢な奴でな。人間としかやらないんだ。そのためにわざわざ

お前を呼んだんだから、ちゃんといかせるんだぞ」

 飼い主の男に言われて、エルは立ちすくんだ。本当に人間としかやらないように

仕込まれているのかどうか、そんな事を考えている余裕はなかった。

ハッハッという荒い犬の息ずかいが、女に飢えた獣の歓びの声に聞こえた。

「どうした、こいつと夫婦になるのが嫌なのか!」

「イイエ、します。させてください…」

 思わず、おうむ返しに答えた。犬と同じ色の首輪で繋がれ、絨毯に引き据え

られると、男から言われるとうりエルは尻を立て、背中から覆いかぶさってくる

犬の動きに合わせようとした。だが初めてのせいか、なかなかうまく入らない。

「ほら、しっかり股をひらけ…。穴をもっと上に向けろ!」

 男が焦って後ろから無理に嵌め込もうとするので、犬の爪が素肌に何本も

赤い線を描いた。

「馬鹿野郎、ちゃんと腰を振れ、ワンワンと啼いてみろ!」

「ごめんなさい、待ってください…」

 エルは姿勢を変え、後脚の間にもぐりこんで柔らかい毛に覆われたところに

顔を埋めた。口で立たせてから、仰向けになって上から入れようとしたのだが

やはり駄目だった。それからも散々しゃぶったりしごいたりして、気がつくと

犬は何時のまにか、エルの腹の上に射精していた。

「このブス女、犬にまで嫌われるようじゃ仕様がねぇだろう。それじゃ

てめぇが犬になれ」

 罵倒され、うまく行かなかった腹癒せに、四ッん這いにさせられて

アナルを犯られた。

「ほら啼け、キャンキャンと啼け!」

 男は乱暴に腰を動かしながら言った。筋肉が裂けそうな痛みをこらえて、

エルは自分が本当に犬だったら良いのにと思った。

「それで結局、その人はイッタのかい?」

「ハイ」

「お前のケツの中に出したんだね」

「ハイ」

「それならば、良いけど…」

 一応納得したようで、ママはザッと音を立ててバスタブを出た。

 長い髪、均整のとれた女の姿態、だがその中心にある筈の縦の割れ目の

部分には、取り残されたように、男そのものの形をした異様なものが

垂れ下がっている。

「臭くならないように、お道具を綺麗にしておくんだよ…」

 うつむいたエルの背中を軽く蹴って、ママはバスルームを出て行った。



        三 エルは変態でしようか


 エルが『きゃら』に入ったのは三ケ月ほど前、それまでは新宿のデザイン学校に

通っていた。

 もちろん、SMについての知識はほとんどなかった。自分が変態だという自覚も

なかったのだが、そのかわり男の数は20人以上知っていて、セックスには、

やる度にのめり込むような快感があった。あの快感はたまらない、もっと貪欲に

貪ってみたかった。学校にはもう飽き飽きしていたし、変わったセックスをしたら

快感も強くなるかもしれないと思ったのがここにきた動機と言えば動機である。

 エルを面接したのは、アシスタントのソフィアだった。応接でひと通りの説明の後、

彼女はごく自然な調子で言った。

「しゃぶるの好き?」

「ハイ」

 少し不安だったが、エルはすなおに頷いた。きっとそう答えたほうが

採用になると思った。

「飲まされるのも、好きなの?」

「ハイ…、すきです」

「相当なインランだね、そんなに男のものが欲しいのかい?」

 エルは、曖昧に笑った。本当は、精液を美味しいと思ったことは一度もなかった。

でも滅茶滅茶に汚されてみたいのは確かである。淫乱と言われて、エルは

何故か身体中がゾクゾクして急に熱いものが込み上げてきた。

「誰のでも良いんだろ、言われれば皆んな飲むんだろ」

 ソフィアは乱暴に手を伸ばして、パンテイの横から割れ目の中に指を二本入れた。

それは否応なしといった感じで、エルは小さな声を上げた。

「あたしも変態だけどさ、あんたも相当な変態になれそうよ」

 指を曲げて恥骨の裏側にひっかけ、引き寄せながら

「もう濡らしてるの? 素質があるわよ。このくらい興奮しやすいほうが…」

 その部分を前に突き出すようにして、エルはヨタヨタとよろめきながら

彼女のそばに寄った。

「こうやって、虐められてるのが良いんだろう?」

 立ったまま突っ込まれている指の動きががたまらない。やられているうちに、

どうしようもなく尿道口が熱くなってきて、オシッコが洩れてしまいそう。

この人は、どうして私の気持ちいいところを知っているんだろう…。

エルは歯を食いしばった。

「いきそう…、デス」

 クックッと咽喉を鳴らしながら腰を引こうとすると、刺激がいっそう強くなって、

シビレが脳天まで突き上げてくる。のけぞって股の筋肉に力を入れ、思い切り

締めつけようとしたとき、卑猥な音と一緒に指が穴の外に出た。

「駄目よ、まだ…。結構イキやすいんだね」

 ソフィアはティッシュで二本の指を丁寧に拭きながら言った。

「お前が本気で人間捨てる気があるんだったら、やってごらん」

「ハイ…」

「今日からお客をつけるからね。出来るかどうか、あとは自分で決めて頂戴」

 エルは頭の中が真っ白になって、ほとんど思考力を失っていた。

括約筋がまだヒクヒクと痙攣している。



        四 初めてのお客様


 その日、エルには客が一人ついた。

 赤坂のホテルで、教えられた部屋番号をノックすると、議員バッヂをつけて

威張った男が待っていた。初めての客だと思うと、覚悟はしてきたのだが、

さすがに膝が震えた。

 男はベッドに腰掛けたまま、股の間にしゃがんでちんぼを舐めろと言った。

咽喉が詰まって何回も噎せかえりそうになったが、男は容赦しなかった。

髪の毛を掴んで下腹部にこすりつけられているといつの間にか感覚が

麻痺したようになって、手足から力が脱けた。それは、一種の陶酔と

言っても良かった。

「待ってろ。お前もいかしてやる」

 男はバイブレーターを持ってきて、エルを床に転がすといきなり突き挿した。

スイッチを入れると、まるで腹の中を掻きまわされるような気がした。

すぐにぬめりが出て、バイブレーターは楽に動くようになった。

「自分でやって、イッテみろ」

 バイブレーターをエルに持たせて、男は頭のほうにまわった。

「ちゃんと顔を見せろ。いいか思いきりいけよ」

 歪んだエルの顔を覗き込み、乳房を鷲掴みにして前後に揺すった。

刺激が強すぎるせいか腹筋がピクピクと跳ねる。エルは呻き声をあげた。

「何やってんだ、馬鹿!」

 ビシャッと乳房が鳴った。痛みというより、電気が触れたようなショックだった。

それがエルの身体に火をつけた。

「あ…、いく」

 途端に、エルは堰を切ったようにいきはじめた。のたうちまわる姿を

見られることが、いっそう感覚を上昇させた。男はその様子をいちいち

実況放送するように、卑猥な言葉で喋り続けた。喋りながら、脚を広げて

クリトリスを摘んだり、乳首を引っ張ってプルプルと振ったり、その度に

下卑た笑い声をあげた。

「ほう、まだいくのか? いけいけ、もっとやれ!」

 時間一杯、数えきれないくらいいかされたあと、男はエルの顔の上に

跨がって、袋から尻の穴まで舐めさせてからようやく口の中に出した。

 終ったのは夜の11時ちょっと過ぎ。

 ガックリと疲れはてたが、とにかく無事に済んだことで、エルはよかった

と思った。『きゃら』に戻ると、ママがご苦労様と言ってムキ出しの現金で

一万八千円くれた。何の感情もなく、見知らぬ男の玩具になって、

その代償として支払われた僅かな金は、エルにとってこの上なく純粋で

尊いものに思えた。



        五 ちがう星から来たのです


 次の日から、エルは麻薬にとりつかれたように『きゃら』に通った。

昨日までの生活がまるで嘘のよう。22才になるまで、ライブハウスで踊ったり、

名もないロックバンドを追いかけ回したりしていた自分が馬鹿みたいに思えた。

 三ケ月の間に、エルはすっかり変貌した。男たちは次から次へと現れて

遠慮なくエルを犯していった。その度に、私は変態のマゾなんだ…と、

嫌というほど思い知らされた。いつの間にか、新しい客がつくたびに淫靡な

期待で股間が濡れるようになっていた。

 だから、犬とやれなくてママに叱られたことは、エルにとって初めての挫折である。

 一人になると、エルは残り湯を胸にかけ、おまんこの中まで指を入れて

丁寧に洗った。惨めさが込み上げてきて、自然に涙が出た。

「エル!」

 バスルームのドアが開いて、ソフィアが女王様のコスチュームで入ってきた。

目尻をキリッと上げ、全身黒のエナメルレザー、腰につけた太いペニスバンドが

踊っている。

「何を遊んでるの! プレイルームにお客様だからね。早く支度して!」

 それはママを中心に、ソフィアとマゾ女たちが演じる筋書きのない凌辱プレイ。

客は見ているだけでも、参加して女を弄んでも良いのだった。

 あわてて身体を拭き控え室に戻ると、ムクが首輪をされて待っていた。

小柄でエルより少し年上か、要所要所に革の拘束具をつけただけで、ほとんど

素っ裸だった。腰にレズ用のペニスバンドを巻いている。これは内側にも

ペニスがあって、ムクの穴の中にもぎっちりと嵌まっている筈であった。

「いいかい、今夜はエルと絡んでもらうからね」

 ソフィアは鞭の先で、毛の薄いエルのふくらみをピタピタと叩きながら言った。

「お互いに本気になって、ちゃんといくまで責めるんだよ。手加減するんじゃないよ」

 虐げられることに馴れて感情を失ってしまったのか、ムクは表情を変えずに頷いた。

 それから、ソフィアはエルにラバーマスクをかぶせ、乳房を絞り出すような形の

ボンデージベルトをつけた。金具が締まると、エルはまるでサイボーグ人形のような

姿になった。

「ムク、エル…、早く出ておいで!」

 プレイルームから、ママの甲高い声が聞こえた。

「はーい、ただ今まいります」

 ソフィアは鞭を鳴らし、二匹のマゾ女の首輪につけた鎖りを引いた。

よろめきながら、エルはラバーマスクの中で、これから客の前に引き出され、

人工ペニスで犯される哀れな自分を想像した。どんなに酷くやられても、

抵抗できないサイボーグ…。

 私はきっと、どこかちがう星で生まれたのね…、

微かな意識の底で、エルはそう思った。



<完>