一、あらしの街
昭和33年9月、その日、土砂降りの雨のなか…。
のちに狩野川台風と呼ばれた暴風雨である。
新宿でつい遅くなって、気がつくと電車がとまっていた。気象情報がいまほど発達
していなかった時代で、街には帰りそびれた人の群がまだあちこちに残っている。
私が立っていたのは小さな三階建てのビルの軒下で、すぐ横に、髪の毛から
ポタポタと雨の雫を垂らしながら、30才を過ぎた感じのOL風の女がすくんでいた。
「ひどい降りだね」
「ええ…」
声をかけると、チラリとこちらを見ただけで相変わらず途方にくれていた。
傘は持っているのだが、ほとんど役に立ちそうもなかった。
「これじゃ、ちょっと帰れねえぜ」
「………」
「よかったら休んでいかねえか、良いところがあるよ」
「家で心配しますから…」
気弱わそうな女で、誘われて怖くなったのか、無理に歩き出そうとする。
だが一歩道に出ると、たちまち横風に煽られて傘が斜めになった。
「待ちなったら…」
追いかけて、後ろから腕を掴む。
「いや離して…」
「いいから来いよ。風邪をひくぜ」
振り放そうとするのだが、雨の中で自由がきかない。通行人の姿はあったが、
振り返えるものもなかった。それぞれ激しい雨の中で歩くのが精一杯なのである。
「やめて…ッ」
少しくらい悲鳴を上げても、雨に消されてしまう。
「どッ、どこへ行くのッ」
「すぐそこだよ。さっさと歩け!」
もみ合いながら、ひきずるように街の角を曲がると、急に人通りが絶えた。
その先は、温泉マークの連込み旅館が密集している暗い道である。
「カッ、帰して…ッ」
「バカ野郎、こんな雨ン中、帰れるわけねえだろう」
だが、女はまだ逃げようとしていた。
傘を捨てて、夢中で表通りに馳け出そうとする。とたんに、河のように
水が流れている地べたに足がもつれて、前のめりにつんのめった。
「それみろ、言わねえこっちゃねえ」
もう靴の中からスカートの奥までズブ濡れである。引き起こすと、ベッタリと
上着が胸に貼りついて、ブラジャーの形がそのまま透けて見えた。
路地の奥に六甲ホテルという温泉マークのネオンが泳いでいる。ようやく
入口のところまで来ると、女はまた動かなくなった。
「いやッ、こんなところ…」
「休んでいくだけだ。おとなしくしてりゃ何もしねえよ」
「ワ、私、結婚しているんですッ」
こうなれば、こちらも意地である。
「なかに入れっ、いつまで濡れてるんだ!」
骨がバラバラになった傘で腰のあたりを殴りつけ、腕を捩じり上げるようにして
玄関のドアを開けた。
無理やり連れ込んだことは、ひと眼でわかる。見てみぬふりの女中に案内させて
部屋に入ると、すぐズブ濡れになった洋服を脱がせにかかった。
「やめてッ、は、恥ずかしい…」
「脱がなきゃ仕様がねえだろう。干しとけばスグに乾くさ」
年令がいっているわりには純情というか、思い切りが悪い。
奪うように上着を取ってブラジャーのホックをはずすと、今度は両手で乳房を
抱えてうずくまってしまった。
「ここまできて、いちいち恰好つけるんじゃねえっ」
ふくらはぎに絡みついたスカートを力づくで引き抜く。パンティに手をかけると、
女は真剣に恐怖の表情を浮かべた。
「助けて、私まだ経験ないんです…ッ」
「嘘をつけ、さっき結婚してると言ったじゃねえか」
「違うの、カンニンしてくださいッ」
強引に指を入れると、なるほど穴の入口に輪ゴムを巻いたような
独特の感触があった。
「い、痛い…ッ」
「ヘンだな。外側はヌルヌルで糸を引いてるんだぜ」
本当にバージンなのか…。
年令からいってもちょっと信じられない、純情といえば純情だが、奇妙な女である。
二、フェラチオの味
濡れた素肌が冷たくなって、鳥肌がたっている。とにかく温まることが先決だった。
後ずさりするのを突きとばすようにバスルームに入れる。捕獲したばかりの
女の肩を抱いて、ドップリと湯に浸ったときの気持ち良さといったらなかった。
湯ぶねの中で、女もさすがにホッとしたのか、少しは落ち着きを
取り戻したようだ。
「名前は、何ていうんだ?」
「モモ子です」
「年は…」
「あなたより、ずっとお姉さんよ」
女は視線をそらしたまま、つぶやくように言った。
このとき、私は27才である。
明るいところで見ると、たしかにモモ子のほうが年令が上のようだ。そのかわり
成熟した女に特有の、こすると脂肪が滲み出してくるような軟らかい肌をしていた。
「へえ、でも良い身体してるじゃねえか」
湯の中で太腿に手をのばすと、女は亀の子のように丸くなって脚を縮めた。
だがここまでくれば、どんなに抵抗してみたところで結末は同じである。
私は浴槽の縁に腰を下ろして、遠慮なく股を広げた。
「こっちに来い!」
乱暴に引き寄せると、ザバッとお湯がゆれた。
「尺八やってみろ。経験が無いわけじゃねえだろう」
眼の前に、太くなったやつが斜めに突っ立っている。ギョッとして、モモ子は
あわてて身を避けようとした。
「ちぇっ、モタモタすんじゃねえ。こうやってくわえるんだよ!」
「わ、わたし駄目…ッ」
無理ヤリ口の中に入れようとするのだが、歯を喰いしばってなかなか
開こうとしない。
「ぐふッ、ぐぇぇ」
「この野郎っ」
それほど大きな浴槽ではないが、力まかせに後頭部を抑さえつけて
湯の中に沈めると、髪の毛が海草のようにユラユラと揺れる。
やがて、ブクブクッと大きな気泡が浮き上がってきた。
手足が不規則な形でもがいている。しばらく時間をおいて引き上げると、
モモ子はヒューッとかぼそい音で咽喉を鳴らした。
そのまま、容赦なくザブリと湯の中に漬ける。四・五回繰り返すと、さすがに
抵抗力を失って全身がグニャグニャになった。
溺れかけた身体を洗い場のタイルに引きずり出すと、とたんにゲェッと
飲んでいたお湯を吐いた。かまわず仰向けにして、大の字に股を拡げる。
熟しきって脂肪がつきはじめた女の、何とも無防備な裸形である。
なだらかに膨らんだ腹の奥に、もうひとつ小さな膨らみがあった。
そこから薄桃色に染まった股のつけ根にかけて、ワレ目がわからないほど
濃い陰毛が密生している。掻き分けて奥をさぐると、湯上がりだというのに
ヌラヌラと別の粘液が滲み出していた。
やっぱり気分だしてるんじゃねえか…。
モモ子はときどきシャックリでもするように胃袋を痙攣させていたが、
陰肉を触られても、ぐったりして起き上る力はなかった。
構うことはねえ…、
穴の真ん中に狙いをつけて、私はためらいもなく体重を乗せた。
「ぎぇぇッ」
そのとたん、女の上半身がのけ反って頭がゴツンとタイルで音を立てた。
あれっ…、折り重なったまま、私は思わず女の顔を見つめた。
もしかしたら、本当にバージンじゃねえのか…?
たしかに、妙な手応えがあったのである。
だがハメてしまったものは、今更どうしようもあるまい。前後の見境もなく、
私は腰をゆすった。
「やめてェ…ッ」
タイルの上なので身をよじることができない。激痛に耐えながら、モモ子は
とぎれとぎれに呻き声をあげた。
「せ、責任を…、とって…ッ」
「知るか、こうなったのはてめえの勝手じゃねえか」
「つぅッ、酷い…ッ」
5分もしないうちに、たちまち射精しそうになって、私はあわてて女の顔を跨いだ。
真っ赤になった肉塊を突きつけると、モモ子はほとんど無意識に口を開けた。
握っていた手を離すと同時に、ドボッと大量の精液が咽喉の奥に流れこむ。
「うっぷ、げほげほ…ッ」
モモ子は蒼白な顔で、二度三度と激しく噎せかえった。
三、オールドバージン
射精したあと、さすがに可哀相になって、布団の敷いてある部屋に
連れ戻してやったのだが、モモ子は今日の天気のように何時までも
泣き続けていた。とてもじゃないが、いい年令をした女の泣き方ではなかった。
バージンだったのは意外だが、聞き出したことは、22才のとき結婚の約束をした
男がいたのだという、ただそれだけである。
「おまんこは、させなかったのかよ」
「や、やりません。そんなこと…」
「じゃ棄てられたのかい」
「違うわ!」
またしばらく、絶え間のないすすり泣きがはじまった。
「せ、戦死…、したんです。南方で…、船が沈んで…」
この女が22才のころといえば日本は戦争の真っただ中である。
当時、女も知らずに戦地に駆り出されてゆく若者のために、出征直前になって、
かたちだけの結婚式を挙げさせた例は数多くあった。残されて戦争未亡人に
なった娘たちこそ、いい迷惑である。
「それじゃ、お前は死んじゃった男のために今日まで処女でいたのか」
「だ、だって…」
泣き声が、いっそう激しくなった。
「いつか、か、帰って来るかもしれないと思って…」
あきれ返って、私は女の肩を抱いていた腕を放した。美談のようだが、
いくら待っても何の甲斐もない、無駄な義理だてである。私は真剣に腹がたった。
「折角のおまんこをよ、もったいねえ!」
「あッ、いやよ」
毛深い女の股間を鷲掴みにすると、モモ子は全身を固くして
恐怖の表情を浮かべた。
「我慢しろ。てめえにはもう一度しっかりと男を教えてやる!」
「ひぃッ」
初体験だというのに、たっぷりと脂がのった成熟した肉体である。
「女って奴はな、こうやって男を楽しませるもんだ。覚えておけっ」
グシャッと何かが潰れたような感じで肉塊が突き刺さると、モモ子は
夢中で背中に爪をたてた。
「ウゥゥ…ッ」
もう、泣いている余裕などなかった。
組み敷かれて、身体に杭を打ち込まれるような苦痛に、モモ子は
のたうちまわった。
それからまた一時間…。
二度目の精液を吐いて、うつ伏せになった身体を仰向けにすると、
ただれた陰唇が捲れて、赤紫色になった肉ベラの間からブクブクと精液が
泡を吹いていた。
神経が麻痺してしまったのか、女は痴呆のように表情を失っている。
「すこし休め、明日また可愛がってやる」
雨は、まだ降りつづいていた。 射精した疲れもあって、私はそのまま
眠ってしまったのだが、気がつくと朝になっていた。
相変わらず表情のない視線で、モモ子がじっとこちらを見つめている。
おそらく一睡もしなかったのであろう。
手をのばして引き寄せると、べつに嫌がる様子も見せないのは意外だった。
「わたしに、こんなことして…」
女が、思い詰めたような低い声で言った。
「もう離さないわね?」
「仕様がねえだろう、バージンを犯ったんだからな」
「わたしが年上でも…?」
「まあいいさ、どっちみち俺の女だ」
そしてまた眠ってしまった。次に眼が覚めたのは昼近くである。
洋服にはまだたっぷりと湿り気が残っていたが、温泉マークを出ると
昨日の雨はまるで嘘のようにあがっていた。
傷が痛むのか、歩くときガニ股になっている。これだけ残酷に犯されても、
モモ子はなぜか恨みごとひとつ言わなかった。
「こんど、いつ逢ってくれる?」
「当分はおまんこが使いものにならねえだろう。癒ったら逢ってやるよ」
結局、約束は一週間後、場所は最初に出会ったビルの前…。
その日、私はわざと遅れて約束の場所に行った。
遠くから確かめてみると、思ったとうり、モモ子はまだ待っていた。
愚かで一途な純情である。
だがあの女は、決して私に惚れているわけではあるまい。処女を奪われ、
肉体を弄ばれて、他に生きる道がないと思い込んでいるだけのことだ。
下手にとりつかれたら、とんでもないことになる。
約束の時間は、もう二時間も過ぎていた。
あばよ…、
気づかれないうちに私は背中を向けた。可哀相だが、それしか方法がなかった。