淫虫に憑かれた女 (2)







     一、意外な名器

 安藤幸子(35才)は、夜行列車で偶然出会った、いわば行きずりの

女である。初めから未練や愛情があるわけではなかった。

 忘れていた落し物が向こうから飛び込んできたような気持で、

私は女を部屋に入れた。

「それじゃお前、あれからずっと男に抱かれていねえのかよ」

「えッ、はい…」

「半年もヤッてねえんなら、おまんこにカビが生えてんじゃねえのか」

 無遠慮に顔を覗き込むと、夜汽車のデッキで無理やり犯したことを

思い出して、ムラムラといじめ心が湧いた。あのときは後ろから

強引にハメたが、スカートは穿いたままだったし、いつ人がくるか

わからない情況で、ゆっくりと感触を味わっている余裕などなかった

のである。

「ちょっと、おまんこ出してみな」

「ええッ」

「驚くことねえだろう。商売の道具を見せろと言ってるんだ」

「こ、ここで…、ですか?」

「当り前だ、お前働く気で来たんだろ」

 いまさら中年女の性器を見たいわけではないが、これも一種の

テクニックである。

 当時の変態クラブはまだ非合法で、やることも徹底していた。

人権など、初めからないに等しい。女に客を取らせるためには

まず裸にしてプライドや羞恥心を徹底的にはぎ取ってしまう。

肉体がただの商品であることを思い知らせておく必要があった。

 どうせ使い捨てだ…。

 容赦なく上着に手をかけると、幸子はとっさに身を引こうとした。

「この野郎…!」

「わッ脱ぐからッ。叩かないで…」

 列車の中でブン殴られたことを思い出したのか、幸子は悲鳴を上げて

抵抗を止めた。

 震えながら、ブラウスのボタンを外すと、人一倍大きな乳房が

ムキ出しになる。

「ほう、良いオッパイしてるじゃねえか」

 ビシャッと平手で乳房を張ると、全体がブルブルと左右に揺れた。

「お、お願い、ぶつのは止めて…」

「だったら、自分で裸になってみろ!」

「わ、わかったから…」

 観念したように、幸子はスカートのホックに自分で指をかけた。

「後ろを向くんじゃねえっ」

「ヒェッ」

 尻ぺたを叩くと、よろけながらあわててこちらを向く。

「股を広げてみな」

「い、いや…ァ」

「てめえ、まだわからねえのか…?」

「わッ、ま、待って…」

 立ったままヨタヨタと足をひらく。だが正面を向いた姿は、

やはり35才の女だった。

 色が白いのが取り柄だったが、胴回りが太くて、下腹部にタップリと

肉がついていた。陰毛はそれほど濃いほうではないが、透けて見える

ワレメの奥に、色づいた肉ベラが僅かに垂れ下がっている。

無造作に指を突っ込むと、いつ興奮したのか内部が溶けたバターの

ようになっていた。

「何だこれは、てめえ淫乱か…?」

「はッ恥ずかしい」

 幸子は今にも泣き出しそうな顔で、小刻みに腰を前後に振った。

 おや…?

 女が腰を振る度に、指先にヒクヒクと微妙な筋肉の痙攣が伝わってくる。

これは走っている列車の中でハメたときには気がつかなかった

感触である。

「おい、ちょっと横になってみな」

 私は、さり気なく語調を変えた。

 恥ずかしさと緊張で太腿が固くなっているのを構わず、土手の陰毛を

両手で掴むと思いきり左右に拡げる。

「へえ、良い道具もってるじゃねえか」

 クリトリスに触ると、括約筋がキュゥッと内側に縮んだ。まるで、

別の生き物がついているような感じで、ムキミになった粘膜が

周期的に収縮と膨脹を繰り返している。

 こんなのは私も見たことがなかった。名器というよりは珍品である。

「も、もういいでしよう…?」

 幸子が、かすれた声で言った。

「ワ、わたし年だから、汚いのよ…」

 感じ過ぎる身体に、自分で気がついていない。これでは夜汽車で

犯されたとき拒みきれなかったわけである。

「こいつは男が喜ぶぜ」

 私は、わざと乱暴に言った。

「よし、明日から客を取れ。これからは男のオモチャだってことを

忘れるんじゃねえぞ」



    二、助平ボクロ


 次の日、夜おそくなって、幸子は眼の縁を潤ませて戻ってきた。

「どうだった、上手くできたのか?」

「えッ、ええ」

 返事をしたが、視線がトロンとして焦点が定まっていない。

 相当犯られやがったな…、

 これまで男っ気がなかったところに思いきりハメられて、身体が

言うことをきかなかったのだろう。イカされるだけイカされてまだ足もとが

フラついている様子だった。

「相手は、何回イッた?」

「さ、三回くらいです」

 顔を見られるのが恥かしいのか、幸子はうつむいたまま言った。

「そりゃご苦労だったな、まあこっちへ来いよ」

「えッ…」

 ビクッと怯えたように後ずさりする。

「イヤ今晩はカンニンしてください。もう身体が…」

「自惚れるな、誰がハメさせろと言った」

 引き寄せると、幸子は身をすくめてうわずった声を出した。

「な、何すんの…?」

「何もしやしねえよ。身体をしらべるんだ」

 絨毯に転がして、有無を言わさずパンティを引き抜く。陰裂を開けると

ビラビラが水飴を塗ったように光って充血していた。

 クリトリスが相変わらずビクビクと脈を打っている。この中にまともに

挿入されたのでは、たまったものではあるまい。

「これじゃ、亭主とヤルより快かったんじゃねえのか」

「そ、そんなことないけど…」

「こんなに濡らしやがって、お前、よっぽどセックスが好きなんだな」

「ち、違う…」

「嘘をつけ、それじゃこれは何だ」

 淫汁をすくって指を口の中に突っ込む。

「ウムム…」

「美味いか、おまんこの味だぜ」

 残った汚れを臍の周囲になすりつけると、幸子は世にも情けない顔で

眉をしかめた。

「初めからあんまり気分出すと、身体がもたねえぞ」

 幸子は股を拡げたまま、ぼんやりと天井を見つめている。

初めての体験はやはりショックだったようだ。

「明日も予約が入ってるんだ。こんな身体で大丈夫なのかよ」

「あッ、はい…」

 ハッとわれに返って、幸子はあわてて起き上がりながら言った。

「まだ馴れてないから、一晩寝ればなおりますから…」

 翌日…。

 幸子は時間通り事務所に来て、指定された新宿のホテルに

出掛けていった。

 戻ってきたのは午前3時である。相変わらず足もとがおぼつかないほど

イカされて、肩で息をしていた。

「お前、我慢することができねえのかよ」

 裸にしてみると、二の腕や乳房のまわりに青黒い噛み傷や、唇で

吸われた痕がベッタリと残っている。

「な、何だか分からないけど、自然におかしくなって…」

 クリトリスを刺激されると感覚が暴走して止まらなくなってしまうらしい。

 淫乱と言ってしまえばそれまでだが、あの性器を知っているだけに、

これは一種の特異体質のように思えた。

 三日目には見るも無惨に陰毛を剃り取られて、トラ刈りなって

帰ってきた。

「馬鹿野郎、毛剃りは別料金だぞ」

「す、すいません…」

「ちぇっ、剃ってから謝っても仕様がねえだろう」

 舌打ちしてふと気がつくと、陰毛を剃り取られたあとに

小さなホクロがひとつ…。

「何だ,これは…?」

「エッ」

 幸子は恥ずかしそうに手の平で隠しながら言った。

「わ、私も初めて気がついたんだけど…」

「なるほど、毛の中じゃわからねえよな。こういうのを助平ボクロって

いうんだぜ」

「へぇぇ」

 自分でも不思議そうな顔で、幸子は剃り跡のホクロをつまんだ。

「私って、やっぱりそうなのかしら…」

「縁起が良いじゃねえか、明日も昼間から予約が入ってるんだ」

「あ、はい」

 幸子は、従順にうなずいて見せた。

 外見は何の変哲もないフツーのおばさんだが、まるで変態男のオモチャに

なるために生まれてきたような女である。



    三、変態のきづな


 次の日もまた次ぎの日も、幸子は客を取り続けた。前の晩泊りになって、

事務所に戻るとすぐにまた次の予約が待っている。休む間もないほどの

酷使である。

 はじめは二三人も客を取れば上出来と思っていたのだったが、それ以来、

あの吸盤のような道具をじっくりと味わってみる余裕もなかった。

 最近のSMクラブと違って、非合法の変態クラブはそれほど沢山の

女を抱えているわけではなかった。目立たないように、せいぜい一人か

二人…、その代わり女がボロボロになるまで使い切ってしまうのである。

 それでも、幸子は三ケ月以上もった。

 毎晩イカされて帰ってくるので、ひと月もしないうちに、熟れきって

脂肪の乗った肉体が40キロそこそこになっている。

 このままでは、せっかくの珍器が台無しになってしまう…。

 使い潰してしまうのは惜しい。商売は商売として、私はもう一度

あのときの新鮮な反応を楽しんでおきたいと思った。

「おい、旅行に行くぜ」

「エッどこへ…?」

「まだ決めていねえが、一緒に来るか」

 幸子は嬉しそうな顔をしたが、すぐ真顔になって小さな声で言った。

「でもあの、お客さまは…」

「構やしねえよ。タマには骨休めだ」

 そのころの旅行といえば、たいてい箱根か熱海どまりである。

 それではあまり芸がないので、結局、選んだのは山中湖だった。

今なら簡単に行けるが、当時東京から列車とバスを乗り継いで

五時間近くかかった。

 ひとかけらの愛情もなかった女を連れて旅行するなど、私には

珍しいことだが、二人で静かな湖畔にただずんだときには、不思議と

ロマンチックな気持ちになった。

「ボートに乗ろう」

 湖面には何艘かの手漕ぎボートが浮いていた。幸子を鞆に乗せて、

力任せにオールを漕いで湖の真ん中に出る。

 見まわすと、富士山が眼の上に覆い被さるように聳え、周囲は

遮るものもない森林であった。

「寒くねえだろう。裸になれよ」

 私は、オールを漕ぐ手を止めた。

「わ、私、身体が汚いから…」

「わかってるよ。富士山におまんこ見せてやれ。気持ちいいじゃねえか」

 ボートが微かに揺れて、幸子は無言でブラウスを脱ぎ、

スカートを取った。

 間近に見る幸子の身体には、たしかに以前のような豊満な

面影はなかった。連日連夜、快感を絞り取られてきた報いは

歴然である。乳房がたるみ、ゲッソリと腹の脂肪が落ちて、昨夜の客に

やられたらしい鞭の条痕が赤紫の痣になって残っていた。

 ボートに腰を下ろしているので、自然に広げた股の間から、陰毛を

けずり取られた肉裂がパックリと口を開けている。垂れ下がった肉ベラの

奥で、べつの生き物のような粘膜が密かに息ずいているのが見えた。

 当時、私はまだ20代だったが、このとき、幸子はすでに36才である。

 私は、急に幸子が可哀相になった。特異な体質とはいえ、骨の髄まで

セックスの虜になってしまった女が哀れだった。

「こっちへ来い。ハメてやるよ」

 声をかけると、揺れるボートの中を這うようにして幸子は私の側に寄った。

 不安定な姿勢で、ようやく向かい合わせに膝を跨ぐ。ゴツゴツと

凹凸のあるボートの中で、もの凄くヤリにくい態位である。

「うれしいわよ…」

 冷たい肌でしがみつきながら、幸子はひとことだけ言った。

 オールを放して舟底に仰向けになる。

 腰を突き上げると硬直した肉塊がメリ込むように女の粘膜を分ける。

とたんにボートが激しく揺れた。

「ウゥゥ…ムッ」

 歯を食いしばって、幸子が無意識にオールを握った。

 湖面を掻くように胸をそらせると、思いがけなく下腹に力が入って、

はっきりそれとわかるほど括約筋が収縮する。

「もっとやれ、ボートを漕いでみろ!」

「こッ、こうですか…」

 衰えた体力をふり絞るように、幸子が身をのけ反る。ギリギリと

穴が締まった。

「あ快いッ。イッちゃうゥ…」

 私は、あらためて30女の凄まじい性欲を見せつけられるような気がした。

「アァァ、いくッ、いくゥッ」

 湖の真ん中に、女の裸体が蠢いている。

 富士山から見れば、それは木の葉のように揺れる小さな白い点だったのである。




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