堕ちてきた女





       一、家出の原因

 伊藤香代子が事務所に転がり込んできた理由は、よくある人妻の

よろめきである。

 亭主は長距離トラックの運転手で、めったに戻ってこない。そんな心の

スキ間に魔がさして、15才も年下の男に惚れてしまった。貢いだあげく

家をとび出したのだが、相手は学生だし、持っていた金は部屋を借りる

ために使い果たしてしまったので、何とか働かせて貰えないだろうかと言う。

家出と言えばたいてい若い娘がやることだが、香代子の場合、

もう36才になっていた。

 平凡な家庭生活しか知らない女が、愛欲の虜になるともう止めようがない。

昔ながらの女の宿業である。まして熟れた果実のようにどこを押しても

淫汁が滲み出してくる年頃の肉体では、必死になって男を追いかけるのも

無理からぬことであった。

 SMクラブはまだ非合法の時代で、それだけに収入も多く秘密は厳重に

守られていた。最近のように、女王様だの奴隷だのという区別があった

わけではなく、女たちは共通して男の玩弄物にすぎなかった。捕らえた獲物は

強制的にマゾ女に仕立て上げる。強姦、脅迫は当り前、そのための訓練も

苛酷だった。逆に言えば、客に対して真物を提供せざるを得なかったのである。

この意味で、非合法時代のほうがはるかに迫力があった。

「働くのは良いが、知らない男のオモチャになるんだぞ。それでも

構わないのか?」

「仕方がありません。あの人にわからなければ我慢できると思って…」

「お前、まだ男に貢ぐつもりなのかよ」

 止めておけ…、と言ったつもりなのだが、女は俯いたまま黙っていた。

 顔にはっきり未練という字が書いてある。

 気持はわかるが、何となく考え方が甘い。大丈夫かなと思ったのだが、

とにかく男を抱かせてみることにした。

 その晩、最初の客をつけてやると、香代子は一時間もしないうちに

戻ってきた。

「私いやだわ。あんな人…」

「何だと…?」

「会ったばかりなのに、いきなり汚いところを舐めろっていうんです」

「それで帰ってきたのか」

「だって私、そんなこと彼氏にもやってないんですもの」

「馬鹿野郎…ッ」

 張りとばすと、女はアッと斜めになって部屋の隅までスッとんでいった。

「てめえ何を考えてんだ。客が舐めろと言ったらケツの穴まで舐めろ!」

 頬を押さえて蹲ったところを蹴り上げるとガツンと顎にあたった。

 さえぎろうとして、両手を無意識に宙に泳がせている。構わず拳骨で

殴ると、香代子はあっけなく尻餅をついた。

「アッごめんなさいッ、ぶたないで…」

「冗談じゃねえ。お前には客に向かって注文をつける権利なんか

ねえんだよ」

「ヒィーッ」

 顎を掴んでぐいと上に向けると、唇が切れたらしく涎が赤く染まっている。

恐怖に歪んだ顔にスーッと一筋鼻血が垂れてきた。

 ひっくり返った拍子に、大きく広げた股の奥に白いパンティが見えた。

「この野郎、下着も脱がずに帰ってきやがって…」

「やめてお願いッ」

 太腿に絡みつくスカートを力まかせに引くと、ビリッと音がして縫目が裂けた。

「脱ぎますッ、脱ぎますから…。お願いぶたないでッ」

 ブルブルと指先を震わせながら香代子はスカートと白いパンティをとった。

下腹部にかなり濃い陰毛が三角形に広がっている。

「男とヤルときの恰好になってみろ!」

「ヒェェッ」

 あわてて仰向けになって脚をひろげた。膝を少し曲げて、無意識に

両手で濃い陰毛を隠すように恥骨の上を押さえている。

「それだけか…?」

「は、はい…、ぎゃっ」

 膨らみの真ん中を蹴ると、香代子は腰をくの字に折って丸くなった。

鼻血の顔を引き起こすと、もう恥もプライドもなかった。

「許してくださいッ。ワ、私、本当にどうやって良いかわからないんです」

「考えが甘いんだよ。本気で客のオモチャになる気があるのかい」

「ハ、はい…」

「いい年をして男に貢ぎたかったら、ちんぼ舐めるくらい当り前だ。

出来ねえんなら、さっさと家に帰れ」

「イエやります教えてください。一生懸命にしますから…ッ」

 いつもなら、ある程度仕込んでから出すのだが、その日は申し込みが

多かったせいもあっていきなり客をつけたための失敗である。

どっちみち、香代子への調教はもう一度やり直す必要があった。



       二、舐め女への変身


 そのとき、仕事を終った女が戻ってきた。飯島セツという、香代子より

三ツ年上のマゾ女である。

 髪を振り乱して折檻されている香代子の様子を見ると、セツはハッとして

足を止めた。それから横をすり抜けるようにして、そっと隣の部屋に消えた。

 今では飼い馴らされたマゾだが、この女も以前徹底的に調教を

受けたことがある。新入りの女を気の毒だとは思っても、なるべく

関わりたくないというのが本音であろう。

「これが汚ねえか…?」

 ズボンから出したのを突きつけると、香代子は首を振って、

反射的に口を開けた。

 だがやらせてみると、喘ぐばかりで唇や舌の使い方を知らない。

舐めたことがないというのもあながち嘘ではないようであった。

「ちぇっ、そんなんじゃ男はイカねえよ」

「すいません。げほっ…」

 香代子はタメ息をついて、ようやく止まった鼻血をチリ紙で拭いた。

下唇が腫れて眼のまわりに青黒い痣が浮かんでいる。

「いいか、女の道具はおまんこだけじゃねえんだぞ」

「ワ、わかりました」

 だがこのままではどうにも使い道がない。ふと思いついて隣りの襖を

開けると飯島セツが息を殺して身体を固くしていた。

「お前、今夜は穴を使ってきたか」

「はい…」

「何回なかに出した?」

「2回…、です」

 スカートを捲ると、セツはパンティを穿いていなかった。

習慣になっていることもあるが、毎晩のように弄ばれるので、

腫れていて穿かないほうが楽なのである。

「穴をこっちに向けろ」

「はい」

 年増女の性器は軟らかくて、刺激にも強いものだが、相当酷く

犯られたことはひと眼で判った。太腿から内股にかけて、クッキリと

縄の痕が残っている。

 ツルツルになった恥丘が擦り傷で赤くなっていた。ほとんどの客が

カミソリを使って遊ぶので陰毛が伸びるヒマがないのである。

 爛れたようにムケたクリトリスの先端からピンクの珠がとび出して、

ビラビラの間に白く固まった精液が溜まっていた。

「よし、こいつを舐めさせてやれ」

 ようやく目的を知った香代子が、身ぶるいして後ろにさがろうとする。

「逃げるな!」

 引き戻してムキ出しの尻を蹴った。

「あっ、やめて下さいッ」

 犬が追われるように、香代子はヨタヨタとセツのところまで

這い寄っていった。

「見ろ、お前もすぐにこうなるんだ」

「いやあ…っ」

 はじめて見るマゾ女の無残な性器である。

 尻込みするのをいきなり後頭部を押さえて前に倒すと、香代子は

つんのめるように汚れた股間に顔を突っ込んだ。

「誰かの精液だ。汚くなんかねえよ」

「ぷはぁ…ッ」

 限界まで押さえておいて手を離すと、香代子は腫れた唇のまわりを

ベタベタにして顔を上げた。虚ろな眼で、救いを求めるように

あたりを見まわす。

 ダメだ…、と観念したのか、今度は自分から割れ目に吸いついていった。

眼を閉じているセツの足首がときどきピクピクと震えるのは、なかで舌が

動いている証拠である。

 こうして二日間、香代子は徹底的に舐め女としての訓練を受けた。

 眼のクマはまだ残っていたが、あらためて客をつけてやると、

人が変わったように従順に言うことをきいた。ただし当分の間は

勤めを果たしたかどうか、終ったあと身体検査を受けるのが条件である。

 三日もしないうちに、香代子は名前も知らない男に陰毛を剃り落されて

帰ってきた。

「これじゃ彼氏にも隠しようがねえな」

「いいんです。彼とはもう別れます」

「未練はないのかよ?」

「どうせ、いつかは別れるんですから…」

 検査のあと、香代子はまだ残っている精液を拭いて、プツプツと

血が滲み出した剃り痕をいたわるように撫でながら笑った。

「私、毛が濃いから、これからが大変だわ」

 逃げ出そうとしないのは、やはり変態の素質であろう。

そのほうが、結局この女のためなのである。




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