一、 たそがれマダム
「やっぱり無理なんでしょうか、こんな素人では」
「無理と言うより、あんたSMなんてやったことがあるのかい」
「耳学問でいろいろと話しは聞いているんですけど、経験はまだ」
「そうだろう。だからヘンなものに手を出すのは止めておけって
言うんだ」
「でも今のうちに手を打たないと、このままでは借金もかさむ
一方だし」
肩を落としたまま、萌子は溜め息混じりに言った。
「何とか助けていただけないかしら、恩に着ますから」
期待していると言うより、ワラでも掴みたいような気持ちなのである。
「止めておきな、悪いことは言わねぇよ」
萌子は上眼づかいにチラリと私の顔を見たが、また俯いてしまった。
若作りはしているのだが、やがて五十才に近い。化粧の奥に、
生活に疲れた肌の弛みは隠しようがなかった。
これが、あのころ華やかだった銀座『エンペル』のナンバーワンかと
思うと、いささか可哀相な気もする。全盛時代には、私など相手にも
されなかった女なのだが、どこをどう間違ったのか、今では池袋で
小さなバーをやっていると言う。
昭和四十年代の後半、オイルショックが終って間もなくの話である。
客は少ないし、場末では女の子も居着かない。このままでは
ジリ貧なので、思い切って当時私が経営していたのと同じSMクラブを
やってみたいと言う相談なのだが、こればかりはお勧めできる話では
なかった。
「SMはそんなに甘いもんじゃねぇよ。同じ水商売でも、酒を扱うのと
女を扱うのとでは中身が違うんだ」
「それは、分かってるつもりですけど」
萌子は肯いたが、ちょっと不満そうな顔色を見せた。
私だって、この年になるまで酒と男に揉まれて生きてきたんですと
言いたいのである。
「それにしても、どうしてこんな商売に興味を持ったんだ」
「いえ、ただ何となく、お客様のなかにやってみたらと言う人が
いたものですから」
「昔の客で、誰か面倒を見てくれるパトロンでもいるのかい」
「いないこともなかったけど、この年になってはねぇ。いまさら」
萌子は自嘲気味に笑ってみせた。たしかに年は取っているが、
夜の銀座で名を売ってきた往年の色香は、まだタップリと残っている。
こんな女を剥き上げて性欲をさらけ出してやったら、さぞかし面白かろう。
私はふと、残酷な好奇心に駆られた。
「女にSMクラブが出来るかどうか判からねぇが、そんなに言うんなら
いちど試してやろうか」
「えッ、私をですか?」
「そうさ、何ごとも体験だぜ。それで出来ると思ったらやってみるがいい」
「それは、考えてみますけど」
萌子は、それを肉体関係が出来れば援助してやっても良いと言う
意味に受け取ったようだ。やはり水商売の女である。
「保証はしないが、成功すれば、今の店なんかアッと言う間に
立ち直る筈だぜ」
「でも、本当に応援していただけるのかしら」
「だから、あんた次第だと言っているだろ」
最後の一言が、萌子をワラを掴む気持ちにさせた。
「ど、どうすれば良いの?」
「とにかく、裸になってみることだな。話はそれからだ」
無遠慮に腕を伸ばすと、萌子はビクッと身体を固くしたが、避けようと
する様子はなかった。
「いい洋服着てるじゃねぇか、さすがに銀座の一流は持っているものが違う」
「そんな、も、もう昔の話ですから」
声が、かすかに震えていた。
「脱いでみな、幾つになっても女は女だ。中味を見せろ」
「え、えッ」
「自分が裸にならないで、他人の女を裸にすることが出来るかよ。
昔のプライドなんか棄てろっ」
「で、でもせめて、お布団のあるところで」
「馬鹿野郎、勘違いするんじゃねぇ」
「・・・・・・」
「おまんこは客の遊び道具だ。SMはセックスするだけが目的じゃ
ねぇんだよ!」
事務所の椅子に腰掛けたまま、萌子は呆然としてこちらを見つめた。
二、犯される味
「早くしろっ。子供じゃねぇんだ」
「はは、はい」
それでもまだためらっているのを、襟がみを掴んで引き寄せると、
膝の上に抑えつけていきなりスカートを太もものあたりまで捲くった。
「いいか。女を裸にするときはな、こうやってやるんだ」
「ひいッ、脱ッ、脱ぎますッ」
手を放してやると、椅子からズリ落ちて絨毯に膝を突いたまま、
萌子は恨めしそうな眼で私を見上げた。恥ずかしいと言うより、
盛りを過ぎた肉体を鑑定される屈辱がたまらないのであろう。
「酷い。こ、こんなおバァちゃんを」
「まさか、今日まで男に不自由していたわけじゃあるまい。
恰好つけるんじゃねぇ」
スリッパの先で無造作に脇腹を蹴ると、萌子はヨタヨタと立ち上がって
ブラウスのボタンに手をかけた。
「脱げと言われたら、どこまで脱げば良いか判ってるだろ」
無言で上着を取り、震える手でスカートを下ろす。萌子にとって、
これは自分との斗いであった。
薄い絹のスリップを肩からすべるように落としてブラジャーとパンストに
なると、どう隠しても身体の線が丸見えである。コルセットは付けて
いるのだが、膨らんだ腹の弛みがかえって無残だった。
「ほほう、やっぱり年は年だな。まぁいい、もっと奥まで見せろ」
若い娘なら次はブラジャーと言うことになるのだろうが、萌子は
ブルブルと震えながらコルセットをはずし、身体をくの字に折って
パンティをパンストごと爪先から抜いた。
「こっちを向いて立て」
顔が引きつっているのを直立させると、本能的に手で陰毛を隠そうとする。
「余計なことするんじゃねぇっ」
「ひッ」
パァン、とスリッパが張りを失った尻タブの上で鳴った。
「ブラはどうするんだ。早く取りな」
「カッ、カンニンしてください」
「まだ分からねぇのか。SMクラブじゃ女は人間扱いされねぇんだぜ」
「わ、分かっています」
「いまさら、恥ずかしがってみたって仕様がねぇだろう。グズグス
するんじゃねぇっ」
「あぁッ、ぶたないで」
黒々とした陰毛をさらしたまま、萌子はあわてて腕を後ろに回すと
ブラジャーのホックをはずした。
現れたのは人一倍の巨乳だが、先端がダラリと垂れて、身体を動かせば
ブラブラと揺れ動きそうな肉の塊りである。
これでは、まともに見られるのは死ぬほど恥ずかしかったに違いない。
「面白いオッパイじゃねぇか、女のなれの果てって言う感じだな」
乳首を摘まんでブルブルと左右に振ると、歯を食いしばって必死に
耐える様子は惨めとも滑稽とも言いようがない。
これが、若いころ銀座の夜を華やかに泳いでいた女の実態かと思うと、
残忍な気持ちがいっそう昂まってくるのが不思議だった。
「股をひろげてみな。おまんこの具合を確かめてやる」
「うッ、ひくッ」
陰毛はかなり濃いほうで、外側からは肉の合せ目が見えない。
スリッパの底でピタピタと内腿を叩くと、萌子はまるでしゃっくりを
したときのような声を出した。
「毛深いおまんこだな。水商売なら毛の始末ぐらいちゃんとやっておけよ」
容赦なく指を毛の中に入れて奥を探ると、意外なことに、内部はもう
ズルズルに濡れて淫汁が滴っていた。
「何だこれは」
指を抜くと、股間からキラキラと光る銀色の糸がツゥッと30センチ
くらい伸びた。
「見ろ、いい年して、あんた本物の淫乱じゃねぇのか?」
「し、知らない…」
別に発情しているとも思えないのだが、女の肉体とはわからないものだ。
試しに指先でクリトリスを圧しつぶすように捏ねてみると、萌子は
膝頭をガクガクさせて、ウゥゥムッと獣のような声を上げた。
快感と言うより、むしろ苦痛に耐えているような呻きである。
「ほう、この調子じゃ近頃はあまりヤッていないようだな」
「ユ、許してもう、あ、あッ」
「さんざん男を食ってきた道具じゃねぇか。ネを上げるのはまだ早いぜ」
指3本を束にして、下から突上げるように捻じ込むと、私は手荒く奥を
えぐった。
三、ダルマ転がし
女は八十才を過ぎても男を受け入れることが出来るものだという。
その意味で萌子の肉体には、まだまだ恥ずかしいほどの淫汁が
残っていた。陰毛は若い女特有のしなやかさがなく、ゴワゴワと
粗く縮れていたが、内部は淫臭の強いヌメリでいっぱいである。
肥大して変形した肉ベラが、まるで蜂蜜を塗ったように指のつけ根に
貼りついてきた。
「歩けっ」
突っ込んだまま手首をかえすと、反対に萌子はヨタヨタと二三歩
後ずさりした。
「許してッ、抜いてください」
ガニ股で、ともすれば重心を失ってよろめきそうになる。
その度に巨大な乳房がユサユサと揺れた。
「イ、痛い。裂けちゃうッ」
「穴は始めから広がっているよ。心配することはねぇ」
口では言ったが、動かすとけっこう手応えがあって、括約筋は意外に
しっかりと締まっていた。濡れ方がひどいので、ともすれば手のほうが
滑って押し戻されそうになる。
「よし、それじゃ手を後ろにまわせ」
手の甲の近くまで埋っていたのを抜くと、私はべっとりと付着した
ヌメリを乳房になすり付けながら言った。
「まだ縛られたこともねぇんだろう。縄の味を教えてやるから
よく覚えておきな」
いつもの綿ロープで、後ろに組み合わせた腕を容赦なく縛る。
身体が硬くなっているので、それだけでもかなりの苦痛だった。
ロープを首にまわして胸を絞めると、飛び出した乳房が風船のように
膨らんで、今にもジトジトと脂が滲み出してきそうな感じである。
「脚を曲げろ」
足首と太ももを一緒に結んで、あぐら縛りにする。それだけで、
萌子はもうハッハッと肩で苦しそうな息をしていた。
背中から廻したロープで、たっぷりと脂肪のついた腹をギチギチと
絞め上げると、くびれた肉が異様に盛り上がっていわゆる俵締めの
状態になった。残ったロープを臍から股間を通して後手に縛った
結び目にかけ、私は容赦なくグイッと手前に引いた。
「ぎぇぇッ」
二重になったロープにワレメの肉ベラを噛まれて、萌子は
仰け反るような悲鳴を上げたが、ほとんど身体を動かすことが出来ない。
「辛抱しろ。おまんこが崩れてるからいけねぇんだ」
「ひ、ひ、ひィ」
息が苦しいので言葉にならない。眼をカッと見開いたまま、萌子は
糸を引くように咽喉を鳴らした。
「ホラ、楽にしてやるよ」
ドンと背中をつくと、ダルマ状態のまま身体が前倒しになって、
萌子は避けようもなく額と鼻柱を直接絨毯にぶつけた。
尾蹄骨を頂点にして、おむすび型の三角形である。
無防備にさらけ出された尻の丸みに、私は五六発、手荒くスリッパの
鞭をくれた。みるみるうちに尻タブが真っ赤になって、スリッパの痕が
そのまま浮かび上がってくる。だが五十才に近いSM初体験の女を
責め上げるのは、この辺がまぁ限界であろう。
髪の毛を掴んで引き起こすと、私はズボンから半立ちになったのを
掘り出して、萌子の鼻先に突きつけながら言った。
「立つまでちゃんと舐めろ。出来なかったら縄は解かねぇぞ」
「うぇぇ」
「もっと奥まで、おまんこの替りに咽喉を使うんだ」
後頭部を抑え付けて前後にゆすると、身体全体がガクガクと大きく揺れた。
「面白いだろう。どうだい、これでもSMクラブをやるか?」
「ウゲッ、ゲッ、ゲッ」
顔を真っ赤にして、ズボンの前が涎でべとべとになったが、私は結局
射精することはなかった。
「やれるものなら死んだ気でやってみな。力になるぜ」
手を放すと、萌子は転がったままぐったりと動かなくなっていた。
それから間もなくオープンしたのが、新しいSMクラブ「熟女の檻」である。
資金がないので、当分は萌子が自分で客を取る。女が足りなくなったら
手数料を取ってこちらから廻してやると言う契約だった。
それでもはじめのうちは何とか客もついたようだが、所詮女の細腕では、
SMクラブの経営は無理だったのであろう。半年もしないうちに
つぶれてしまったようだ。
その後萌子がどこに流れていったのか、女たちに聞いても知っている
ものは誰もなかった。哀れな銀座の女の末路である。