いけにえの記録





   一、面接からデビューまで

 昭和40年代の前半、SMはまだ非合法に近かった。

それだけに隠れた需要はかなり多く、私は四谷三丁目のマンションに

専用の事務所と調教室を持っていた。店には女を置かず、ある程度

仕込んでから会員に連絡する。一種の秘密クラブで名前を『芸苑社』

といった。

 女は口込みや紹介もあったが、新人発掘の方法として、さり気なく

募集広告を出したりもする。あとは面接のとき相手の反応を見ながら

素質のある女を選び出していった。

 長谷川澄江もその中の一人である。

「あんた、幾つだね」

「33才です」

 髪の毛の長い内気そうな女で、こいつはいけそうだな…、と何となく

直感があった。

「結婚しているの?」

「ちょっと訳があって、別れたんです」

「男がいなくて、淋しくないのかい」

「………」

「毎晩、どうやって処理しているんだ?」

 面接で聞かれることではないので、澄江は返事に詰まって黙ってしまった。

「ここに来たら,何を話しても羞かしがることはないんだぜ」

 澄江はしばらくオドオドとあたりを見まわしていたが、ようやく、普通の

オフィスとは雰囲気が違うことに気がついたようだ。

「あの、お仕事は…、受付けではないんですか?」

「受付けだよ。だから変態クラブだと言ったろう」

「えっ…?」

 いきなりブラウスに手をかけると、澄江は反射的全身を固くした。

下に良く締まった白いブラジャーをつけている。

「ああ、いや…」

 強引に乳房を掴み出すと、かなり大きな乳首を持っている。摘んで

軽く揉むと、上半身がピクピクと震えた。

「みろ、感じてるくせに体裁作るんじゃねえ」

「い、いえ私、そんな…」

「嘘をつけ」

 指を離すと慌ててブラウスのボタンをはめながら、それでも何故か

うつむいたまま逃げようとしない。刺激されると拒絶できなくなる

タイプの女なのである。

「明日からうちに来い、その気なら仕込んでやるよ」

「あの、勤めても良いんですか…?」

「お前次第だな。その代わり、わがまま言うんじゃねえ」

「わ、わかりました…」

 澄江は眼のふちを赤くしながら言った。今ならとんでもないセクハラ事件に

なりかねないところなのだが、何故か次の日から、澄江は『芸苑社』に

通うようになった。

 乳首を弄んだだけなのがかえって欲望に火を付けたようで、澄江は何かを

期待している様子だったが、翌日からはフェラチオで二・三回精液を飲ませた

程度で、性器には全く手を触れなかった。

 仕事は会員からの電話を専属の女たちに連絡してやる単純な作業で、

その女がいったいどんなことをされているのか澄江には想像もつかない。

それが妄想になって、澄江の女としての飢えは次第に昂まっていったようだ。

 初めて客をつけたのは、それから3週間ほど経ってからのことである。

「そろそろ、お前も客を取って見るか?」

「私なんか、自信ありません…」

 澄江は尻込みしたが、それは私への取り繕いである。本心は自分も

やってみたくてウズウズしている筈であった。

 紹介してやったのは三人組の乱交グループで、かなりハードな常連である。

相手が三人と言うことは澄江には黙っていたが、相当やられるだろうという

予感があった。

「いいか、何をされても逆らうんじゃない。覚悟していけよ」

「怖い…、私にできるかしら」

「心配ねえ、お前なら良い女になれるぜ」

 まだ少し不安そうな様子だったが、言われるままに約束の場所に

出かけていった。

 翌朝…。

 澄江はほとんどよろめくような足取りで帰ってきた。三人がかりで徹底的に

弄ばれたのだろう。眼が宙をさまよっている。

「何回いかされた?」

「わ、わかりません…」

 首に巻いたハンカチを取ってみるると、首筋の目立つところにベッタリと

濃いキスマークをつけている。

「上着を脱いで見ろ!」

 調べると、乳房の回りに青黒い痣のような噛み痕が無数にあった。

背中には爪で掻かれたような赤い筋が何本も交叉している。恥丘の周辺が

どうなっているか、およその見当がついた。

「懲りたか?」

 澄江はうつろに笑って顔を横に振った。それから崩れるように足もとに蹲ると、

夢中でズボンのファスナーに手をかけた。

「お願いやって、私を犯ってよゥ!」

 また一人、淫乱なマゾ女の誕生である。



   二、静子夫人の火遊び


 それ以来、澄江は『芸苑社』の受付けをやりながら、犯され役専門で

ほとんどの会員に抱かれた。評判もなかなか良くて常連もついたが、

私は相変わらずフェラチオしか許さなかった。女は飢えさせておくのが

原則である。

「先生、お電話です…」

 澄江の取り次ぎで、出てみると初めての女の声で是非お会いしたいと言う。

「ある方に教えて頂いたのですが、そちら様で、私を買って頂けないかと

存じまして…」

「うちはね、変態クラブだよ。売春クラブじゃないですよ」

「いえ、お金はよろしいのです。ただマネごとだけでもさせて頂けないかと…」

 人妻からセックスの相手欲しさによく電話がかかってくることがあったが、

話してみると何となく様子が違う。とにかく来てごらんと時間を指定して

澄江を迎えにやった。

 まもなく一緒に戻ってきたのは小柄で痩せた和服姿の女である。

奥様というにはどこか色っぽい感じだ。挨拶も丁寧で、名前は武藤静子、

年令は39才だといった。

「わがまま言って申し訳ありません。主人が出張とか、都合の良い時しか

出られないものですから…」

 亭主は自衛隊の陸佐とかでエライのだろうが、しょせん人妻の

火遊びである。だが、確かにマゾっぽいところもあるようで、こちらにも

ムラムラと悪戯心が湧いた。

「じゃ、今からでも良いのかい」

「先生にやって頂けますの?」

「そうだな、真物かどうか、とにかく中味を試してみよう」

「ありがとう御座います。おっしゃるとうりに致しますから…」

 静子は礼儀正しく両手をついた。さっそく澄江に命じて奥の和室に

支度をさせる。

 裸にしてみると、固太りで半球形の乳房がピンと張っていた。成熟した

女らしく厚い肉の上に黒くて濃い淫毛が盛り上がっている。

「毛が濃いな、奥さん相当な淫乱だろう」

「ああ、そうなんです。私、本当に淫乱なんです。わかって下すって、

うれしいわ…」

「股をひらけ、まだこれからだよ!」

 ドンと肩を突くと、大袈裟にひっくり返って、足の裏を天井に向けた。

「は、早く、御覧になって…」

 毛を掴んで両側にひらくと、充血した肉のまわりに膿のような粘液が

ヌラヌラと濡れ光って、爛れたようになっている。

「おい、タオルを持ってこい」

 事務室で息をひそめていた澄江があわててタオルを持ってきたが、

襖を開けたところで手に持ったまま立ちすくんでしまった。

「おまんこ拭いてやれ。見っともねえ、こんなに出しやがって…」

「は、はい…」

 澄江は考える余裕もなく、静子の股の間に身を屈めて割れ目に

濡れタオルを当てた。

「ご免なさい、汚れてるの。ああ、ご免なさいね…」

 うわ言のように口走りながら、女は脚を拡げた。

「そこで犯るところ見てろ!」

 澄江を横において、いきなり上からのしかかるとグェッと咽喉を鳴らして

のけぞる。腰を動かす度に淫汁が絶え間なく流れ出して異様な音を立てた。

ハメたまま片脚を持ち上げると、澄江は反射的に手を伸ばして

ベトベトになった穴のまわりを拭いた。

 ほどよく軋むようになったところで、再び抜き差しを続ける。

「あああ、もういきそう…」

「イクんじゃねえ、我慢してろ」

 絶頂に近ずくと抜き、淫汁を拭かせてまたハメる。

「お願いッ、いかせてぇ…」

「駄目だ!」

 女は、眼を吊り上げて狂い回った。自分にはやられたことのない光景を

眼の前に見て、澄江は茫然としている。

「そろそろ、こっちがいくぜ」

「あッいやッ、まっ、待ってくだ…さいッ」

 やがて、一方的な射精が始まると静子は身を捩って哀願した。

だが男の生理はもう止まらなかった。

「いやァ…ッ!」

 女は、絶望的な呻き声を上げた。

 ようやく脈動がおさまると、抜いたのをそのまま澄江の口の中に入れる。

「穢しやがって…、キレイに舐めろ」

「ウグッ」

「よし、こいつの後始末もしておいてやれ」

「は、はい…」

 脚をひらいて、ぶくぶくと溢れ出してくるのを拭いてもらいながら、静子は

起き上がることができなかった。

身体が、まだヒクヒクと痙攣している。



   三、潮吹き女と子持マゾ


 静子からは、もう一度犯して欲しいといって縋るような電話が何回もきた。

断るたびに澄江は気の毒そうな顔をしたが、内心はゾクゾクするほど

嬉しかったに違いない。

 生きている玩具だと思えばこそ、徹底して女をいたぶることが出来るのである。

普通に抱いてしまえばただの火遊び…。

同じようなケースは、これまでにもたびたびあった。

 牧野純子(36才)の場合。

 新宿のデパートの家具売り場に勤めているハイミスである。

 嫌がるのを無理に縛り上げて大股開きにすると、盛り上がった肉の間から

もうヌメリが滲み出していた。

「いやっ。み、見ないで…」

「見られて羞かしいほどの道具かよ」

「やめてッ、そこまでにして…」

 遠慮なく割れ目を開くと、なかは意外に整った形をしていた。剥かれた

赤貝が喘ぐように、収縮しながら動いている。指を入れて掻きまわすと

純子は激しく首を振った。

「駄目ぇ、出ちゃうッ!」

 途端に、ピュッという感じでクリトリスのあたりから水流が飛んだ。

「てめえ、潮吹きか?」

「ああ、いやっ」

 ピュッ、ピュッと指で奥を突くたびに噴き上げる。かなり熱い透明な水で、

微かにナマ肉の匂いがした。おそらく腎臓の働きが極度に活性化して

いるのだろう。ちようど、水と小便の中間くらいの液体である。

「ひいッ、いっちゃうぅ…っ」

 その瞬間、指を抜くとシュルシュルと噴水が1メートル近い弧を描いて飛んだ。

 快感が治まってくると、純子は縄つきのまま上眼使いに媚びるように言った。

「どうして、私を犯らないの?」

「自惚れるな。お前の穴なんか当てにしちゃいねえよ」

「酷い…」 純子は急に涙声になった。

潮吹きは五・六人経験したが、この女が一番凄かった。結婚できない理由も

わかるような気がする。

 梅村京子(41才)の場合。

『私、離婚歴のある独身女性でございます。いじめられることが好きで、

毎晩悩んでいます。今は自由ですので、どうかよろしくお願いいたします。

お返事お待ちしております』

 何ともとりとめのない手紙だったが、自宅が近いので訪ねてみると、

思いがけなく4才と2才の二人の子持ちだった。これでは自由どころか

子育てで精一杯である。本人に聞くと、時たまオナニーをするだけで、

男に触れる機会もなかったと言う。

「それでつい、あんなお手紙を出してしまって、すぐ後悔したんですけど…」

「今夜は、決心がついてるのかい」

「この年で恥ずかしいんですけど、せっかく来て頂いて、もうお願いするしか…」

 とにかく、子供が寝てからということにして時間を待った。母親はしきりに

寝かしつけようとするのだが、知らない客がいるせいかなかなか寝ない。

ようやく眠りに入ったのは夜10時を過ぎてからのことだ。

「ごめんなさい、お待たせして…」

 子供を起こさないようにそっと立ち上がると自分から裸になった。

ぶ厚く脂肪がついてさして美人ではないが、久し振りの男を全身で

期待している様子がいじらしかった。

「遠慮なくやるぜ」

「お、お願い…、します」

 布団に転がして、ありあわせの道具で股を拡げる。粗い淫毛に覆われた

クリトリスを踏みつけると押し殺したような悲鳴を上げた。

 足の裏でゴシゴシとこすると、なま暖かい粘液の感触が伝わってくる。

ぜいぜいと荒い息を吐いて腹が波打っている。声を出さないように女は

必死で堪えているのだった。

「いきたいか、思い切りいかせてやるぜ」

「ぐうッ、はああ…ッ」

「痩せ我慢することはねえ。いってみろ!」

「た、たまんない…ッ」

 いきなり足の親指を突っ込んでやると、京子はとうとう絞りだすような

声を出した。

「ぎぇっ、いくぅ…」

 それまで抑圧されていた性慾がいっぺんに吹き出して、もう止まらな

かった。女がとめどなく身を捩っているとき、夢から覚めたように子供が

甲高い声を出した。

「ママぁ、ママぁ…、どうしたのよゥ」

 初めて見る母親の奇怪な姿に怯えて、4才になる上の娘が激しく

泣きはじめた。

「起きちゃだめ、だめっ、ああだめぇ…」

 あるいは、これが子持女の醍醐味なのかもしれない。



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