アブない高校生




    

 終戦後しばらくの間、ヒロポンは町の薬局で、誰にでも自由に買えた。

 マルピーの商標で50錠入りの緑色の小瓶に入っている。よく安手の

ポルノ小説に睡眠薬をビールに溶かして女を犯すというのがあるが、

無味無臭のヒロポンなら簡単にそれができた。ただし睡眠薬ではないから、

女は眠るどころかひたすらハイになってしまうのである。

ビールに溶かすなどと面倒なことをしなくても、粉にして食べ物に混ぜて

やるだけで良い。何も知らずに大量のヒロポンを食べさせられた女は

10分もしないうちに確実な反応を示した。

 当時私は高校三年で、演劇部のキャプテンだった。

相手は一年生の青島好子…。

前にも紹介したが、私にとってマゾ第一号になった女である。

 クスリを使うようになったのは、処女を奪ってひと月ほどたってからのことだ。

 マゾと言っても、最近のようにビザールだの浣腸だのと、ファッション化した

SMではなかった。若い性欲と好奇心が先にたって、狙いは性器に集中する。

16才の少女には苛酷な責めであった。だが、どんなに酷く犯しても、

好子には被害者意識がまるで湧いて来ないのである。あるいは、

これもクスリの効用だったのかも知れない。

 虐待は、次第にエスカレートしていった。

 放課後、私はいつものように好子を演劇部の部室に呼び出して

ジャムつきのコッペパンを与えた。ジヤムの中には定量の五・六倍の

粉末が入っている。好子はうすうす感づいている様子だったが、

食えと言われると何のためらいもなく口にいれた。

「食ったら早く脱げよ」

 スカートの中に腕を入れて生え揃ったばかりの淫毛をわし掴みにすると、

好子はよろめいて悲鳴を上げた。

「脱ぎますやめて…、ア痛ッ」

「こっちへ来い!」

 窓際に引きずって、自分でズロースを脱がせる。

学校の中なので丸裸にするわけにはいかなかったが、制服のスカートを

捲って、上半身を窓の外に押し出すようにして後ろからハメた。

ズボンを穿いたままなので、ファスナーのまわりに銀色に光った淫液が

ベッタリとついた。

「いやアッ、誰かくる…」

 好子は、前のめりになる身体を腕で必死に支えながら、

おびえた声を出した。

「見られたって良いじゃねえか」

 たしかに、校庭にはあちこちに生徒の影が残っていた。

まだあまり大きくない好子の尻を抱えて前後に揺すっていると、

ふと今まで考えたことのないアイデアが浮かんだ。

「お前、あいつらとヤッてみるか」

「えっ…?」

「いつも同じじゃ飽きるだろ。お前が他の男に抱かれてるところを

見てえんだよ」

「やめてッ。お願い…」

「甘えンじゃねえ」

 突き飛ばして、思い切り頬を張った。

「てめえ、そんなんで俺の女か!」

「ごめんなさいっ」

 歯車は、もう止まらなくなっていた。

逃げ出さないようにセーラー服とスカートを脱がせて、私は校庭に出た。

 見つけて声をかけたのは、ネズミと言うあだ名の小男で剣道部の

同級生である。

「おい、ヤチをケッてみねえか?」

 ヤチ(女性器)ケル(犯す)は当時の高校生の隠語である。

「いま、うちの部室に来てるんだけどよ。良けりゃやらせてやるぜ」

「本当か?」

「逃げられねえうちに早くしろ」

「よし行こう!」

 持ってきたセーラー服を見せると、ネズミはわけも聞かずに走り出した。

 部室に戻ると、好子はメリヤスの肌着一枚で片隅の机の陰に蹲っていた。

髪の毛を掴んで引きずり出し、机の上に乗せて強引に脚をひらく。

淡い色の淫毛とくっきりとした縦の線を覗き込んで、ネズミはテレたような

笑いを浮かべた。

「犯ってみな、まだ中に出してねえから汚くねえよ」

「大丈夫かい、ヤバくねえか?」

 したいのは山々なのだが、何となく尻込みしている様子だった。

「見られるのが嫌なら、時間をやるぜ」

「悪いけど、そうしてくれる?」

 内心チェッと思ったのだが、私は気を利かせたつもりで部屋を出た。

 歩きながらセーラー服の匂いを嗅ぐと、汗と思春期の女の香ばしい

かおりが染みこんでいる。いまごろ、どんな恰好で犯られているだろうと思うと、

急に何とも言いようのない後悔と嫉妬が込み上げてきた。

 畜生、犯らせてたまるか…、

まだ10分も経っていなかったが、何か大切なものを失ってしまうような

気がして、私は急ぎ足で部室に戻った。

 しばらく廊下で気配をうかがってみたが、内部はシンとしていた。

矢も盾もたまらなくなってドアを開けると、尻をこちらに向けて

ギコチなく腰を動かしていたネズミが、ぎょっとして振り返った。

「おい、そろそろ時間だぜ」

 わざと大きな声で言うと、ネズミは慌てて体を起こした。

いま射精したばかりのところだったらしく、道具の先端から粘り気の

強い液が糸を引いて垂れ下がっている。

「どうだ、気持ち良かったろう」

 ムラムラとくる嫉妬を抑えて、私はできるだけ平静に言った。

「あ、あゝ、快かった…」

「もう一度やるかい?」

「いや…」

 ネズミは未練そうに好子を見たが、眼の前でもう一度やる度胸は

ないようであった。机から降りてゴソゴソとズボンを穿いているのを

無視して、私は好子のそばに寄った。

「いったか?」

 好子は、微かに首を振った。虚ろな焦点のない視線が私を凝視めている。

「この野郎、何でいかなかったんだ!」

「ごめんなさい…」

「抱かれたら必ずいけと言ったろう」

「いきます、自分でしますから…。お願い指でやらせて…」

「いかねえと、おまんこ蹴飛ばすぞ!」

 オズオズと脚を拡げる。好子は右手を伸ばして自分のクリトリスに

指を当てた。

 穴のまわりに射精されたばかりの精液が溜まっている。

それを見ると、また激しい嫉妬が沸き上がってきた。

「もう俺の女じゃねえな。汚ねえ!」

「いや捨てないで、捨てないで…ッ」

 指を動かしながら、涙ぐんで眼を大きく見ひらいている。

 私は、ゆっくりとズボンを脱いだ。

「うぐうっ、くうッ…」

 やがて、好子は咽喉の奥から呻くような声を出した。

「い、いくわ。もういれて…」

「てめえ、この中に入れさせる気か…?」

「はやくッ。イッ、いっちゃう!」

 指の動きがいっそう早く、小刻みになっている。

その手を払いのけると、膨らんで今にもはじけそうになったところに、

ゴムマリを突き破るようにいきなり挿入した。

「ううむッ、いくぅ…」

「いけ、いけッ、もっといけ!」

 凶暴な衝動に駆られて抜き差しを激しくすると、机がガタガタと鳴って、

卑猥な音がいっそう残酷なリズムを刻んだ。

「ヒィィ…ッ」

 好子は腰をはね上げて、続けざまに二度、三度と絶頂に達した。

 ネズミの姿は、いつの間にか消えていた。


  

芝園館の伝説



 あの時の嫉妬はほんものだったが、いちどやってしまうと、

好子への思いは急速に醒めた。どんなに惚れた女でも弄ぶ肉体には限界があった。

 そのころ『りべらる』だの『猟奇』『赤と黒』だのという、いわゆるカストリ雑誌が

出回っていたが、よく出入りしていた貸本屋のおやじにこの話をすると、

眼の色を変えてとびついてきた。

「頼むよ、兄ちやん。その子を連れてきてくれ。お礼はするからよ」

 今でいうブルセラである。頭の禿げたおやじは狡猾そうに笑いながら、

裏で売っていたガリ版刷りのエロ本を3冊くれた。

 堪忍して…と好子は哀願したが、誰とやらせるのももう同じだった。

大量のヒロポンを食べさせて、私はエロ本3冊で貸本屋のおやじに好子を売った。

 クスリの影響がなかったとは言えないが、高校生にとってヒロポンより

モク(煙草)を持っているほうがヤバかった時代である。

 やがて大学に合格して、私は東京に出ることになった。新幹線もなく

東名高速もまだ走っていない。東京は遠い大都会だった。

卒業したら追ってくるようにと好子を説得して、結局それが別れの宣告になった。

 四月、私はつてをたよって、芝公園の近くにある芝園館という映画館に

住み込んで、そこから学校に通うことになった。

 芝園館は今はもう跡形もないが、古い映画ファンには懐かしい名前である。

大正末期の建築で堂々たる煉瓦造り、奇跡的に焼け残って、

日本でも有数の由緒ある劇場だった。

 ふつうのビルなら3階にあたるスクリーンの横に倉庫のような小部屋があって、

窓を開けると眼の下に芝園橋、金杉橋、浜崎橋へと続く運河が光っていた。

東京タワーも銀座のネオンもまだ先の話で、すぐ横に増上寺の大きな屋根が

ポッカリと浮かんで見えた。私にとって初めての独立した自由な空間である。

 女子大生などまだ数えるほどしかいなかった頃だが、私はよく映画を

観せてやるという口実で学生を誘った。映画館にタダで入れるということは

一種の特権である。ほとんどの女が何の疑いもなく誘いに乗ってきた。

 高峰秀子、折原啓子、岸恵子などというのがその頃のスターたちである。

 場内は最近の映画館よりずっと暗かった。となりの席に座って、

ころ合いをみてさり気なく手を伸ばす。乳房を弄んでも黙っているような

女はほとんど餌になった。スカートの奥を探ると、きまってヌルヌルと

熱い淫液を出している。なかには指を突っ込むと震え出す女もあった。

 その中の一人が宮下敬子、一年先輩の文学部の学生である。

 映画は『誰か夢なき』という純愛もので、主演は藤田進。

終ってからスクリーン横の私の部屋に連れて行くと、敬子はもの珍しそうに

あたりを見まわしていた。

「ハメるぜ先輩、いいだろう?」

 肩に手をかけると、夢から醒めたようにあとずさりした。

「やめて、私、今日は本当にメンスなの」

「関係ねえ、やらせろよ。子供ができねえから丁度良いだろう」

 少し抵抗したが、強姦されかねない雰囲気になると、敬子は震えながら

自分から洋服を脱いだ。上級生といってもやっと20才になったばかりの

女である。まだスレていないし、男には臆病だった。

あとは人形のように何でも言うことを聞いた。

 小竹ふみよの場合、可哀想なくらい無知で純情なバージンである。

辛抱強い女で、映画を観ながら指を入れたのだが、痛さをこらえて

黙っていたので気がつかなかった。

子犬をいたぶるように裸にして突っ込んだとき、初めてそれとわかった。

「てめえバージンか?」

「痛い…。わ、私どうなるの?」

「何で早く言わなかったんだよ。ハメてからじゃ仕方がねえだろ」

 ふみよは眉を寄せ唇を噛んで、それでもまだ我慢している。

グリグリと腰をまわすと、胸が波を打って苦しそうな息を吐いた。

たちまち快感が襲ってきて、ドクッと大きな塊が抜けていくような

射精が始まった。

 溢れ出してきた精液は、綺麗なピンク色をしていた。

 芝園館の地下室には管理人兼守衛の父娘が住んでいたが、

離れているので全く干渉はなかった。娘は表の事務所に勤めて

テケツ(入場券売場)やモギリ(集券)をやっている。

名前は、田代美佐子といった。

 ピカピカの大学生には初めから関心があったようで、美佐子が

親の目を盗んで地下室から通って来るようになったのは、

ごく自然のなり行きである。セックスにも十分に飢えていて、

私にとってはお誂えむきの性欲処理の相手になった。

 女さえできれば、コンクリートの冷たい倉庫部屋もまた別天地である。

そのころの私はセックスに飽きることがなかった。

 一晩中ヤリ続けても平気という性欲が保てるのは一生のごく短い期間だと

思うが、ちょうど、そんな年代にあたっていた。

 オールナイトの興行などまだなかったころで、部屋で抱いたあと

女を連れて客席に出ると、場内は森閑として人の気配のない椅子だけが

闇の中に規則正しくならんでいた。

「あそこに、幽霊が出るのよ」

 指さしたのは真っ暗な2階の隅で、特攻隊で戦死した恋人のあとを追って

若い女がそこで自殺したのだという。

「行って見ようか」

「いやよ、気味が悪い!」

 美佐子は真剣に首を振った。嫌がる女を引っ張って2階に上ると、

ガランとした椅子席のあちこちで、姿のない観客が一斉にこちらを

振り向いたような気がした。

「怖い!」

「おい、ここでやろうぜ」

 立ったまま腰を突き出すと、美佐子は恐怖から逃れるようにしがみついてきた。

 椅子に両手をつかせて、高く上げた尻にタップリと唾をつける。

先端を尻の穴に当てると、美佐子は急に身体を固くした。

「いやどうするの?」

「おまんこよりこっちの方が、なかが熱くて気持ちが良いぜ」

「だめよ、わ、私はじめてなの。そんなとこ怖い…」

「気にするな、馴れりゃ同じだよ」

 指を尻の穴に入れると、思いのほかきつく締まっている。

許してもらえないことを知って、観念した様子でおとなしくなった。

「痛くしないで、そっとやって…」

 美佐子はウッ…と息を詰めた。両手で骨盤を引き寄せると、

沼地に杭を打ち込むように太いところまでメリメリと埋ってゆく。

「痛ッた…いッ」

「もっとケツを立てろ。逃げると痛えぞ」

「痛ぅっ!」

 わずかな常夜灯の明りにアナルを犯す影が大きなシルエットになって、

周囲の壁で揺れていた。まるで自分が幽霊になり代わったような

気持ちだった。快感が上がってくると、引き抜いてそのまま口にくわえさせた。

「ほら、糞を舐めろ」

「ゲフ…ッ」

「美味いか?」

 太腿の奥でコクコクと顔が頷く。クスリを飲ませてあるので、

強制的にやればやるほど女は従順な家畜になった。

穴の入口はひどく狭かったが、内部は洞穴のように拡がっていて、

いくまでにはタップリと余裕があった。

「も、もう許して…。出ちゃうよゥ」

 二・三度繰り返してから、はらわたを掻きまわすように射精する。

腰が抜けたように蹲まったのを引き起こしてみると、唇のまわりが

汚れた淫汁でベタベタになっていた。

 ヒロポンは、連用しなければ中毒症状を起こすことはなかったのだが、

芸能人や闇商人一般の主婦の間にも蔓延して、ポン中患者が激増すると

大きな社会問題になった。かくして昭和26年、覚醒剤取締法が発効する。

 もともと特攻隊の若者を死の戦場に駆りたてるための精神昂揚剤として

生産されたものだというが、そんなことには口を拭って当局は一斉に

取り締まる側にまわった。

 芝園館の幽霊の話は根も葉もない噂だろうが、いまではそのことを

語るものもいない。



(完)