幼女ちどりの場合







    一、新宿の街角で


昭和20年代前半の新宿といえば、賑やかな人の流れは駅の東口から三丁目、

つまり伊勢丹の角あたりまで…。それでも24時間絶えることはなかった。

進駐軍の兵隊は、決まって若いチリチリパーマの女を連れていたし、

空ビルの蔭で両足のない白衣の戦傷兵がアコーディオンを

弾いていたりした。現在の聚楽の横には、
当時新宿で巾を利かせた

尾津組のマーケットがあって、

ここだけは実に雑多な物資が溢れているのだった。

東京に出てほんの暫くの間、私はこの通りで、あやしげなアルバイトを

していたことがある。

周囲をベニヤ板で囲った間口一間半、奥行き一間に足りない小さな店で、

屋根があるだけ辛うじて露店ではなかった。そこで砂糖豆とナイロンのベルト

という、何ともアンバランスな商品を売っていた。

場所は三越の筋向かい、当時は廃墟のような空ビルが残っていた。

経営者が尾津組と関係あったのかどうか、今となっては知る由もないが、

新宿のド真ん中で平気でこんな商売ができた時代である。

今のようにネオンがないので、九時を過ぎるともう店を閉めた。

歩く人の姿もめっきり少なくなって、時折どこかで女の悲鳴が聞こえる。

壊れかけた板戸の前を、五・六人の男の足音が駆けて行く。ときどき、

掏りが空の財布を隙間から放り込んでいったりした。

住込みというにはあまりにもお粗末な、縁台みたいなベッドがひとつ…。

昼間はこれに腰掛けて商売しているのだが、何しろ泊まり込んでいないことには

石油缶入りの砂糖豆など一晩で消えてしまうのである。

そんな時間に、この雑踏の中で眠れるわけもなくて、私は店を閉めると

よく外に立ってボンヤリと周囲を見ていた。街を流している女たちとも、

すぐに親しくなった。

「お兄さん、すいませんけど、ちょっとだけお店を貸して貰えません?」

「どうしたの?」

「ちょっと、薬をつけたくて…」

 初めての顔であった。二十五・六才の、売春婦としてはすこし年かさのほうだ。

「いいよ」

たて掛けた板戸を外してやると、女はすいませんと言いながら売り場の台の

下から潜り込んで、隅のほうでフレアの多いスカートを捲り上げた。

「どうしたの」

「昨日からもう、痛くて痛くて…」

 強いメンソールの匂いのする軟膏を指先につけて、股の間に塗っている。

「大したことじゃないと思っていたけど、こんなに痛いとは知らなかったわ」

「怪我したのかい?」

「トバ口が切れてるんだと思うけど…」

 客を取り過ぎて傷ついたのだろう。女は暫くゴソゴソやっていたが

「ありがとうございました」

 わりと礼儀正しく言ってスカートを下ろした。それから思いついたように

「お兄さん、しますか?」

「何を?」

「私と、ハマリたければ…」

「………」

「お金はいいんですよ。お礼だから…」

そう言われても、穴が擦りムケるほどヤッてきた女と…、何をうつされるか

知れたものではない。私は流石にためらった。

「だって、怪我してるんだろう」

「じゃ、手でさせてください。お願いね」

ちょっと場所を借りただけで義理がたいことだが、女はズボンの前にしゃがむと、

中から生硬くなっているのを掘り出して、ぎこちなく手首を動かしはじめた。

「ねぇ私、下手でしよう?」

「そうでもないよ」

「気持ちいいですか?」

「うん…」

 それが彼女にできる精一杯のテクニックであるらしい。一生懸命にしごきながら

「早く馴れないと…。何時までもこんなじゃ困っちゃう」

「はじめて間がないのかい?」

「だって、昨日からですもの」

「……?」

「昨日が初めてだったのよ。それまでは男知らなかったの」

 本当かい…、と私は半信半疑だった。

「どうして、客をとる気になったの?」

「お金を持ってこなかったし…。私、くにでは結婚したくないの」

 女はそれ以上話したくないようであった。

 やがて、手の中でカンカンに張った男根が二・三度跳ねると

「あ、イキます?]

「ウン」

女は急いでハンカチを出して、亀頭を包んだ。立ったまま、その中に溜まって

いたのを吐き出すと、自然に腰がガクガクと震えた。

「ありがと…」

 精液でグチャグチャになったハンカチを丸めて、女は真顔で頭を下げた。

「あんた、名前は何ていうの?」

「セツ子…」

「また遊びに来いよ」

「ええ…」

「今度はちゃんとしたところでやろうぜ」

「ハイ」

その夜から、セツ子はよく店の前を通るようになった。あるときは男と一緒

だったし、あるときは一人で、ゆっくりとした足取りで歩いていた。

目が合うと軽く会釈する。だが向こうから声をかけてくることはなかった。

ひと月ほどたって、こちらから誘って御苑荘という連れ込み旅館に行った。

もう、あの時の怪我の跡かたもない。僅かの間に、セツ子は気狂いのように

ヤルことが好きな女になっていた。一晩中ハメていてもまだ物足りない

顔をしている。穴のまわりもすっかり軟らかくなって、身体全体が男に

抱かれることに馴れていた。

二度とヤル気にはならなかったが、こんな女が生きているというだけでも、

新宿は不思議な街であった。

  1. 幼女ちどりの場合

その年の秋も終りに近くなって、バラックの外はかなり寒く、ベニヤの仕切りが

バタバタと風に鳴る夜であった。

風の音とは別に、先刻からベニヤの向こう側でゴソゴソと人の気配がする。

時折コソ泥が内部を窺うこともあったので、私はどなりつけてやろうと思って

店の外に出た。

「何やってんだ…!」

見ると、浮浪児にしてはそれほど汚れていない。セーターをきて、スカートの

下で膝を丸めた女の子が蹲っていた。

「どうしたんだよ、こんなとこで」

「………」

少女はシュンと鼻をすすって、二の腕で顔をこすった。聞いてみると、

毎晩新宿に仕事に出て朝方帰ってくる筈の母親が、五日ほど前から家に

戻ってこない。思いあぐねて探しにきたのだという。

「家はどこだ?」

「板橋…」

年は十四才だと言った。何も食べていない様子なので、興味も半分、

とにかく店の中に引っ張り込んだ。怯えて立ちすくんでいるのを無理に座らせて

「母ちゃんは、なにやっているの?」

「知らない…」

「きっと、売春か何かで捕まってるんだと思うけどな」

「そんなこと、ないでしよう?」

「いや当分は戻らねぇよ。金もってないんじゃ、お前明日からどうする気だ」

 小刻みに鼻を啜って、少女は涙を拭いた。

「母ちゃんみたいに、客とって稼ぐ気はあるのかい?」

「できない…」

「男とやったことねぇのかよ」

「………」

「なけりゃあ教えてやるぜ」

巣から落ちた幼な鳥…。痩せてはいるが結構背が高く、胸も膨らんでいる。

たちまち背筋に残酷な期待と衝動がこみあげてきた。

「どうせ家には帰れねぇんだろ。今夜は泊めてやるから母ちゃんは明日探せ」

肩を突くように押し倒してスカートを捲った。

太腿のつけ根までの白いズロースを穿いている。それをグイと引っ張ると、

平べったい腹と、ほとんど毛の生えていない恥骨の膨らみが剥き出しになった。

「あ、嫌…」

「いいから、言うとうりにしろ。そうしたら砂糖豆をやるよ」

ツルッとしたクリーム色の肌に、クッキリと深い縦の溝を見ると、ズボンの中が

痛いほど硬直して、私は容赦なくベルトを外した。

「やめて…」

「男とデキるようにしてやるからよ。ちょっと我慢しな」

脅かしたわけではないが、嫌応なしに両脚を開かせると、圧倒されたように

少女は抵抗力を失っていた。

「ホラ見ろよ、こういうのが入るんだぜ」

ズボンを足で蹴飛ばして、下腹を叩くほどそり返ったやつを鼻先に突きつける

と、少女はぼう然と見詰めたまま…。

「お前も母ちゃんみたいによ、早くヤレるようにならなくちゃな」

若い性欲は凄まじい。怒脹した男根に手を添えて、まだ固い割れ目の間を

滑らせ、ひと息に腰を落とした。

「ギェ…!」

そのまま、グリグリと動かそうとするのだが、濡れていないせいか、

表皮が切れそうに引き吊る。覗くと両側の肉を押し潰すようにして、

僅かに亀頭だけがメリ込んでいた。

無理に入れようとして腰をひねると、突然言いようのない快感が湧き上がって

きて、全身がクワッと熱くなった。私は慌てて女を離し、力一杯に男根を握った。

「チェ、一度イッてからだ…」

とっさにオカッパの髪を掴んで顔を捩じ向け、手荒く陰毛にこすりつけた。

食いしばった歯ぐきに男根をこじ入れて、握っていた手を離と、少女の

上顎の奥に、ドボッと精液の塊りが溢れだした。

「グフッ、ゲホッ…」

「バカ、吐くんじゃねぇッ」

 少女は唇を押さえて激しく噎せた。

板戸の外を、声高な話し声が通り過ぎて行く。最初の快感が駆けぬけると、

流石に可哀想な気がして、私は一握りの砂糖豆を膝元においてやった。

「食べな。まだ全部終ったわけじゃねぇんだからよ」

たしかに、男根にはまだタップリと余韻が残っていて、萎えようと

しないのである。

「名前は、何て言うんだ?」

「新山…、ちどりです」

少女は、かすれた声で言った。騒ぎ立てるでもなく、どこかあきらめに似た

表情が浮かんでいた。

五分もしないうちに、私は砂糖豆を食べている少女をもう一度横にして、

足を拡げた。先刻の残り汁が滲み出している。それをまんべんなく亀頭に

塗りまわして、凹みの真ん中に当てた。コリコリと直接骨をこするような

感触が伝わってきた。

「イタイ…!」

「我慢しろ」

「イタイ、痛いョ」

 構わず力を入れると、ヌルッと根元近くまで、いっぺんに入った。

「ヒィィ…」

女性特有の柔らかい厚みが、まだついていないのである。動かすと、

何かにしぼられるような、窮屈だが緊張感のある刺激がたまらなかった。

ときどき抜いて見ると、縦割れの肉が真っ赤に充血して、無毛の恥丘に

乾いた血がこびりついていた。

 次に射精するまで一時間以上…、持続力は十分にあった。

二度目にイッたとき、薄いピンクの泡が、幼い小陰唇の間からブクブクと

溢れ出して、新山ちどりは眼を開けたまま放心状態になっていた。

このまま店に置くわけにもゆかず、手放す気持にもなれず、私は少女を

自分のアパートに連れ込んで、毎日貧しい食糧を運んでやった。店が終わると、

半ば強制的に抱いた。粘膜はまだ腫れていたが、次の日からは、それほど

痛がることもなかった。

一週間位たって、店の砂糖豆が石油缶ごとゴッソリと盗まれる事件が起きた。

私は泊まりをサボッた責任でクビになり、それと前後して、少女も

アパートから消えてしまった。金を持っていない筈なのに、どこに行ったのか

分からない。残ったのは、数枚の写真とマン拓だけであった。

(完)