女の密売人
一、女の密売人
昭和30年代の初め、戦後の復興が一段落して東京に華やかな
歓楽の灯がともりはじめたころ、若い女の家出が急激に増えた。
実際にはまだ貧しかった日本だが、大都会の生活に憧れて地方から
飛び出してくる娘が後を絶たない。当時、上野駅に降りたつ家出娘の数は
一日に二十人とも三十人ともいわれ、そのために専門の交番まで
設置されていた。
だが、夢だけで上京してきた女たちの眼にうつる東京は、まるで海のように
広かったのである。
「お姉ちゃん、何処に行くの?」
途方に暮れている女の横に、巡回の眼を盗んで得体の知れない男が
マムシのようにスリ寄ってくる。
「どう、今晩安く泊まれるところを世話しようか?」
「………」
「心配することはねえよ。働くんなら仕事の面倒見てやっても良いんだぜ」
アッと思うまもなく、男は荷物を奪って歩き出している。
「ま、待ってッ、ちょっと…」
女があわててその後を追う。
危険だとわかっていても、太刀打ちできる相手ではなかった。
たいていは近くの安宿か男の家に連れ込まれ、その日のうちに犯されて、
やがてもぐりの淫売宿か、当時まだ非合法だった売春もどきの風俗の店に
売られることになる。
これがジンバイ、いわゆる人身売買の実態であった。
私が経営していた変態クラブ『芸苑社』にも、時たまこの種の女が
うさん臭い男に連れられてやって来ることがあった。
「二・三日前、私を頼って田舎から出てきたんですがね。使ってやって
貰えませんか」
女を入口に立たせておいて、男が声をひそめて売り込みにかかる。
「田舎はどこだ?」
「福島の農家なんです。この子の父親と懇意だもんで…」
嘘は初めからわかっている。だが、変態の女を募集する広告など
出すことが出来なかった時代、こうした手段もある意味では必要なルートだった。
「幾らだ?」
「実家でまとまった金を欲しがってるんで、12万位でどうでしよう」
今なら2百万くらいか、女ひと晩の泊り料金が三千円だった頃の相場である。
「冗談じゃねえ、そんならほかを当たれ」
「だって、まだ18才ですぜ」
男も本性をムキ出しにして、少しでも高価く売りつけようとする。
「見てやって下さいよ。やっと女になったばっかりで、良い身体していますから…」
顔だちは悪くない。なか身は裸にしてみなければわからないが、
仕込めばウケそうな感じは十分にあった。
「来てみな、調べてやる」
手招きすると、少女は小さな手提げ袋を抱えてオズオズと寄ってきた。
「名前は何ていうんだ?」
「カ、加藤…、トモ子です」
年令のわりには大人びた感じで、故郷を出るときかけてきたらしい
パーマが小刻みに震えていた。
「お前、そんなんで本気で働く気があるのかよ」
「わ、わかんない…」
「大丈夫か。ここは、そう楽に勤まるところじゃねえんだぜ」
「そんなにおどかさないで下さいよ。大体のことは話してあるんですから…」
たまりかねて男が横から口を出した。
「なあ、一生懸命にやるって言ったんだろ。逃げ出したりなんかしねえよな」
よほど怖いめにあってきたのであろう。男が肩に手を置くと、トモ子は
ビクッと後ずさりした。
「何にも知らねえもんで、まだこんな調子ですがね。本人にはちゃんと
納得させてありますから…」
「こんな田舎っぺじゃ仕込むのに手間がかかるぜ。いいところ10万だな」
「仕様がねえなぁ」
顔をしかめて見せたが、案外そのへんが狙い目だったようだ。男は簡単に
承知して少女をこちらに押出しながら言った。
「可愛がってやって下さい。両親にも義理があるんで…」
「嘘をつけ、いい稼ぎじゃねえか」
「そ、そんなことはねえよ」
「まだ決まったわけじゃねえぞ。ぜんぶ調べてからだ」
立ちすくんでいる女のセーターの下に手を差し込むと、新鮮な乳房は
思いのほか熱くて軟らかだった。スカートの中をさぐると陰毛はもうしっかりと
生え揃っていた。
「あ、いや…」
トモ子は、反射的にうずくまろうとする。
「こら、ちゃんと立て!」
穴の縁に指を引っかけて持ち上げると、悲鳴を上げてヨタヨタと腰をのばした。
「痛ッ、い、いたい…ッ」
「何だ、中がグシャグシャじゃねえか」
「ヒィッ」
その拍子に、ヌルッと指がすべった。
「汚ねえな。あんた、ここに来る前に射精してきたのかよ」
「えっ、いや…」
汚れた指先を拭きながらふり返ると、男はバツが悪そうに横を向いた。
「こいつ生娘だったんじゃねえのか? 穴をあけた後じゃ10万は無理だぜ」
「そりゃァねえよ。道具なんて客を取らせればみんな同じでしょうが…」
「馬鹿を言え、初物ならいくら払っても良いという客だっているんだぜ」
自分が売られる交渉を、トモ子はまるで魂が抜けたように聞いている。
「それだったら、まだ十分に初物で通ると思うけどね」
「商品に手をつけるもんじゃねえ。孕ませたらどうする気だ!」
売り買いの感覚は、品物とまったく同じである。人権がどうの、差別がどうのと
言った次元の話ではなかった。
「もっと良くなかを見せろ!」
「いやあッ、ハッ離して…」
押し倒してズロースを剥ぐと、割れ目にあたる部分が汚れて、洩れた
精液で冷たくなっていた。
「駄目ッ、見ないでェ」
恥ずかしいところを隠そうとして、少女は必死に身体を捩じった。
「静かにしろっ」
太腿を踏みつけておいて、もう一方の脚を強引に拡げる。
割れ目の奥に、爛れた肉ベラが厚ぼったい感じでハミ出していた。
指で拡げようとすると、トモ子はヒィッと咽喉を鳴らして内股の筋肉を痙攣させた。
「見ろ、こんなに腫れてるじゃねえか。かたちも変わってるぜ」
「そりゃまあ、あんまり馴れていなかったもんで…」
覗きこんで、男がちょっぴり気の毒そうな声を出した。
「そんなに酷くヤッたつもりじゃなかったんですがね」
「使い古しならともかく、生娘を犯れば値打ちが下がるのは当り前だろ」
どっちみちいつかは同じ結果になるのだったが、これも駆け引きである。
「もったいねえ。初ものなら高価く売れたのによ。助平根性出しちゃ駄目だよ」
「ちぇっ、かなわねえな…」
根負けして、男は結局8万円で渋々納得する破目になった。
二、マゾ強制の日々
女がマゾであろうとなかろうと、強制的に仕込みあげるのがこれからの
仕事である。当時『芸苑社』は女不足で、客は幾らでもいた。じっさい明日からでも
働かせたいというのが本音だった。
ふてくされた顔で男が消えると、私は泣き倒れているトモ子の髪の毛を掴んで
乱暴に引き起こした。
「帰してェ、もう帰してよゥ」
「好きで家出してきたんだ。いまさら後悔することはねえだろう」
「ごめんなさいッ、カッ帰して…」
立ち上がって、フラフラと戸口のほうに歩き出そうとする。
自分が売られたという現実が、トモ子にはまだピンとこないようだ。
「馬鹿野郎、お前が帰るところはここだ!」
二の腕を掴んで引き戻すと、また犯されると思ったのか、犬のように
腰を引いて後ずさりした。
「嫌ァ、もうヤラないで…ッ」
「あばれるな、何にもしやしねえよ」
手を放すと、よろめいてゴツンと壁に頭をぶつけた。
「お、お母ァちゃん…ッ」
「甘ったれるんじゃねえっ。いい加減にあきらめろ」
横っ面を殴りつけると、鈍い音がして少女は他愛なく尻餅をついた。
「わァッ、や、やめてェ…ッ」
「これからは自分勝手なことは出来ねえんだぞ。よく覚えておけ!」
「ゲフッ…」
夢中で起き上がろうとしたところを、もう一度乳房を蹴り上げると、トモ子は
壁にもたれて大股をひろげたまま、グッタリと動かなくなった。
ズロースを脱がされているので、縦の線がムキ出しになっている。
タラコを潰したようにふくらんだ小陰唇の真ん中に、クリトリスが無残に
垂れ下がっていた。男からやりたい放題に弄ばれたあとの残骸である。
「来い。おまんこを洗ってやる」
風呂場に引きずって、ちぢこまった身体を嫌おうなしに裸に剥いた。
田舎育ちのせいか、均整のとれた小麦色の肌をしている。
乳房は良く発達しているが、太腿のあたりに、まだ幼い少女の固さが
残っていた。
「ハ、恥ずかしい…」
「もう子供じゃねえんだ。いちいち世話をやかせるんじゃねえ!」
頭から水をぶっかけて、女たちが使う消毒液を薄めて穴の中に
流し込んだ。これでも気休めの避妊のつもりである。
「ヒェェ…、やッやめてッ」
指を突っこんで掻きまわすと、トモ子は腰を浮かしてうわづった声を上げた。
「我慢しろ。放っておくと病気になるぞ」
「じ、自分でするからッ。お願いですッ」
よほど痛かったのだろう。手の平で割れ目に蓋をして必死に哀願する。
「それじゃ奥のほうまでしっかりと洗え」
手拭いを渡すと、中腰になって腫れあがったところを押さえるように
洗う恰好は何とも惨めだった。
「お前、いつ東京に出てきたんだ?」
「三日まえ…、です」
ようやく少し落ち着いたらしく、トモ子はうつむいたまま、かすれた声で言った。
「田舎じゃ男知らなかったのかよ」
「彼氏なんかいません。そんなこと好きじゃないし…」
「だったら、どうしてあんなやつの言うなりになったんだ」
「だって、無理に連れて行かれて放してくれないんだもん」
手拭いを消毒液に浸して、トモ子はまた鼻をすすった。
「捕まって、すぐ犯られちゃったのかい」
「嫌だって言ったんだけど、お財布とられちゃったから…」
「ひでえ野郎だな」
東京ジャングルとはよく言ったものだ。昔なら、一人旅の娘をねらう
追剥ぎである。
「逃げると殺すって。ワ、私、こんなことするつもりじゃなかったんですゥ」
「泣いたって仕様がねえ。もともと自分が悪いんじゃねえか」
非情なようだが、処女を奪われて売られてきたのも、結局は自業自得であろう。
「甘い考えは捨てろ」
私はわざと怖い顔になって言った。
「おまんこさえあれば、女はどこでも喰っていける。これからはお前も
心を入れかえて働くんだぞ」
「な、何をするの?」
トモ子は不安げな視線を上げた。
「変態の相手をするんだよ。わがまま言ってると、またひどいめにあうぜ」
「イヤッ、カンニンしてェ…」
少女は、引きつったような声を出した。
「私できないッ」
「痛いのはすぐになおるさ。心配ねえよ」
だが完全に治るまでには、かなりの時間がかかりそうであった。
怪我は可哀相だが、このまま客をとらせるのも仕方あるまい。
「せっかく女になったんじゃねえか、男がとびついてくるのは今のうちだぜ」
たしかに本気で痛がってくれたほうが、客は悦ぶのである。
ひと月もして、ただの女になってしまえばそれまでのことだ。
歩くのもギコチなく震えているのを風呂場から出して、素裸のまま
薄い布団の上に突き倒した。
「馴らしてやるから股を広げてみろ」
そのころ出来たばかりの大人のオモチャ、熊ン子というのを出すと、
ひとめ見て何をされるのか察して、トモ子はあわてて布団の端を掴んだ。
「やめてよゥ、そんなこと…ッ」
「いいから眼をつぶってろ!」
足首を捕らえて引き寄せると、プンと消毒液の匂いが漂ってくる。
「じっとしていねえと痛えぞ」
重なりあったヒダを押し分けて、ヌメリの取れた肉のはざまに熊ン子を
捩じりこんだ。
「ぎゃッ、ぎゃあァッ」
「我慢しろ、ちょっとの辛抱だ」
飛び出してこないように、尻から毛の生え際にかけて×の字にガムテープで
抑さえて、ダルマのように丸くなった身体に毛布をかぶせた。
「あした良い服を買ってやるから今夜は裸で寝ろ。はがしたら承知しねえぞ」
こうして裸にしておけば、脱走することはまず不可能である。
次の日、昼近くなっていってみると、トモ子は眼を真っ赤に泣きはらして、
毛布にくるまったまま震えていた。
「どうだ、もうそんなに痛くねえだろう」
小便がうまくできなかったらしく、ガムテープが濡れてヨレヨレになっている。
熊ン子を抜くと白くて粘り気のつよい汁がベッタリとついてきた。
「男に抱かれるのも、嫌じゃねえな?」
一晩の寒さと飢えで自分の運命を悟ったのか、涙を拭いて、トモ子はコクリと
うなずいてみせた。
「よし。やり方は教えてやるから、早く馴れるように練習しろ」
本名の加藤トモ子では平凡なので、このとき新しい名前をつけた。
この不運な田舎娘が、後に芸苑社のナンバーワンと言われた
愛川まゆみである。
一週間ほどすると、傷は痛がらなくなったが、相変わらずハメるとき
怖がって腰を引こうとする。嫌がるのを徹底的に打ちのめされて、
トモ子は女になっていった。
女が美しくなるときは不思議なもので、家出してきたころの垢抜けない様子に
くらべて見違えるほどの変貌である。
ためしに雑誌のグラビヤに登場させると、愛川まゆみの名前はたちまち
マニヤの間に知れわたるようになった。
こうなると、男は甘いものにたかる蟻のように寄ってくる。
買い取ったときの借金は、問題なく回収することができた。
「あの人、何してるのかなァ。こんな写真を見たら逢いにきてくれないかしら…」
ある日、トモ子が自分が載った雑誌をひろげて、つぶやくように言った。
「へえ、お前まだあの男のことを忘れてなかったのか?」
「だって、私には初めての人だったもん…」
恥ずかしそうに笑った眼が、少しうるんでいる。
私はふと、女ごころの奥を覗いたような気がした。