最低年齢の女




一、ベタらしょ

終戦後三・四年の間、日本はセックスの無法地帯だった。

街には進駐軍の若い兵士の腕にブラ下がって歩くパンパンガールが

溢れていたし、女たちはその日の食い物を得るために、驚くほど簡単に

肉体を提供する。彼女たちにとって、それは嫌応なしに残された

最後の手段だったのである。

干瓢を巻いた銀シャリののり巻が一本十円だった時代、食糧難と

いっても、金さえあれば何でも買えた。そのころの私は新宿の闇市で

露天の手伝いをやっていたから、資金は豊富だった。

闇市で賑わっていたのは進駐軍払い下げの衣料雑貨店と、

縁台のような粗末な長椅子を並べただけの露天の食堂である。

メニューはドンブリ一杯の雑炊やさつま芋のスイトンが多かったが、

時おり銀シャリのいなり寿司やのり巻なども売っている。そんな店を

探して私はよく闇市の雑踏の中を歩いた。

「お兄ちゃん…」

振り向くと、どこからついて来たのかまだ十二・三才くらいの子供である。

浮浪児というのではないが、どこで買ったのかダブダブの大人の

ブラウスを着ていた。

「あっちにのり巻があるよ。いっしょにベタらしょ」

ベタると言うのは食べるの逆さ言葉で、そのころ浮浪児の間で

よく使われていた隠語である。

「いいでしょ。ねぇ、ベタらしょ」

少女は左手の指で丸い輪をつくって、その中に右手の人さし指を

出し入れしながら精一杯の笑いを浮かべた。

これは当時進駐軍が女を誘うときに使った合図である。

「何だお前、パン助か?」

「違うわよゥ、でもベタらしたらやってもいいよ」

「お前、そんなんでおまんこ出来るのかよ」

「出来るってば、ねぇいいでしょ」

こんな子供では進駐軍はもちろん相手にしない。日本人でもよほどの

物好きでなければ抱く気にもならないだろう。

「いったい幾つなんだ。いつからそんなことやってるんだよ」

「十六才なんだけど、駄目?」

笑顔を消して少女はちょっと心配そうな顔になった。十六才など

嘘であることはミエミエである。

「名前は?」

「ミチ子…、です」

「腹へっているんなら、ベタらせてやっても良いぜ。その後で

ズラかるんじゃねぇぞ」

「そんなことしないわよ。約束まもるから」

「よし、一緒にこい」

ミチ子が見つけたという銀シャリを売っている屋台に案内させて、

のり巻といなり寿司のセットをとった。それぞれ2個ずつ乗っていて

一皿で五十円、現在の金額にすれば五千円に近い。



二、未熟な獲物


「お前、いつから客をとってメシ食わせてもらってるんだ」

「わかんない、そんないつもじゃないよ」

「嘘つけ、腹は毎日へるんだぜ」

「うん、でも我慢するときもあるから…」

要領を得ない返事だったが、もう一皿いなり寿司の追加をとって

聞き出したことは、半年ほど前に中年の男に犯されたのがセックスを

おぼえた最初だという。

「ふぅん、その小父さんがメシを食わせてくれたのかい」

「いい人よ。そのときは雑炊だったけど、お腹空いてたからおいしかった」

銀シャリを頬ばりながら、少女は無邪気に笑った。

ちょっと信じられない話なのだが、これは現在でも貧しい国の子供たちの

間では現実に起こりつつある問題であろう。

「それで痛くなかったのかよ」

「平気よ、もう馴れたもん」

「そうか、初めてじゃねぇんだな」

それなら構うことはない…乳房がやっと膨らみかけた程度で、

身体にはまだ女らしい曲線を持っていない少女である。

私は衝動的に激しい欲望を感じた。

「ちゃんとハメさせろよ。逃げるんじゃねぇぞ」

「うん…」

「よし行こう、腹一杯になったろう」

ミチ子は無表情に立ち上がった。これから始まることが、女にとって

惨めで辛いことだと言う自覚もないようであった。まだ明るい闇市の

雑踏の中を逃がさないように腕を掴んで歩く。捕らえた獲物を

屠殺場に引きずって行くような気分である。

「ねぇどこ行くの」

「すぐそこだ。近いから心配ねぇよ」

私が預かっていた店は、そこから歩いて5分くらいのところにあった。

店と言っても、周囲がベニヤ張りの一坪半ほどの掘立て小屋で、

屋根がついているだけ辛うじて露天ではなかった。

私はそこで砂糖豆と進駐軍放出のナイロンベルトという、何とも

アンバランスな商品を売っていた。

「入れ、誰もこねぇよ」

建てつけの悪い扉を開けて、戸板の上に並べた商品の下を潜って

中に入ると、奥に幅が3尺にも満たない木の長椅子が置いてある。

いつもはここに腰をかけて商売をしているのだが、夜になると即席の

ベッドになった。泊まりこんでいないと、当時貴重品だった砂糖豆など

一晩で消えてしまうのである。

「脱げよ。おまんこを見せてみな」

「………」

何の抵抗も示さず、ミチ子は俯いたままダブダブのブラウスの

ボタンに手をかけた。

「スカートも自分で取れ。狭いから、売り場の台にぶつからないように

気をつけろ」

「うん」

風呂場の脱衣場で着ているものを脱ぐように立ったままズロースを

下ろす。出てきたのは肋骨が見えそうな薄い胸と、思いがけないほど

白くて小さな尻の丸みである。

「こっち向け。おまんこ出してみな」

「あ、いや…」

「いいじゃねぇか、何でもヤラせると言ったろう」

腰に手をかけて身体を正面に向けると、陰毛はもちろんまだ生えて

いなかった。



三、青い果実の味


あちこちの隙間から外の明るさが洩れてくる。戸板一枚向こうは、

ざわざわとけたたましいほどの闇市の雑踏である。

「そこに寝ろ。可愛がってやるよ」

舌なめずりするような気持ちで、私はズボンを脱いだ。

当時まだ十代の若者である。情けをかけるよりも残酷な好奇心のほうが

先であった。狭い板の寝床に横にして、すこし折り曲げた膝を左右に

開くと、固いゴムまりのような肉の膨らみがムキ出しになった。

色は無毛の下腹部の白さと同じである。

「いいか、こんなのが入るんだぜ」

怒張して反り返ったやつを顔の上に突きつけると、ミチ子はぼんやりと

焦点のない視線を向けた。性欲の影もなく、ただあきらめと自分の運命を

哀しく受け入れようとする眼の色である。スペースがないので、上から

のしかかって先端をワレメの真ん中に当てる。小便の匂いに近いかすかな

淫臭が鼻をついた。無造作に腰を入れると、まわりの肉を巻き込んで、

表皮が引きつって痛いような感触があった。それ以上深く刺すことが

出来ないのである。

「ちぇっ、濡れていねぇのか」

腰を引いて先端に唾液を塗りまわすと、容赦なくもう一度体重を乗せた。

そのとたん、ヌルッと肉の門をくぐり抜ける感じがして、いっぺんに

根もと近くまで埋まった。

「あぐッ…」

うめくような低い声で、ミチ子が咽喉を鳴らした。全身を棒のようにして

衝撃に耐えている感じである。

「痛ぇのか?」

「へ、へいき…」

意外だったことは、固いのは入口だけで内部は思ったより軟らかくて、

それまで私が知っていた女の感触とさして変わったところはなかった。

それでも若かったせいか、乱暴に腰を揺するとたちまち最初の射精がきた。

「イクぜ、もっと股を広げろ!」

「アァ、ウムッ」

快感がある筈もないが、ミチ子はブルブルと身体を震わせて硬直した。

「くそ、まだ終りじゃねぇぞ」売り場の台に置いたズロースで

溢れ出してくる精液を手荒く拭いて、ゴムまりのような肉の合わせ目を

広げて見ると、外観が幼いのに比べて、内側は真っ赤になって

早くも女の形状を示していた。

「へぇ、たいしたもんだぜ。これならいくらでもデキそうじゃねぇか」

男根にはまだ最初の余韻が残っていた。射精してすぐにまた勃起したのは、

何と言っても若さの特権である。

それから一時間、二度目の射精までにはタップリと余裕があった。

三十キロそこそこの身体を弄んですべてが終ったとき、ミチ子は苦しさうに

肩で息をしていたが、それでも精一杯の媚びを見せて言った。

「お兄ちゃん、あした遊びにきても良い?またベタらしょ」

娼婦と言って良いものかどうか、年令も不明だったが、ミチ子は私が経験した

おそらく最低年令の「女」である。


(完)