一、売春酒場
昭和20年代の半ば、池袋は人生座の近くにあった飲み屋街…。
今はもう跡形もないが、このあたり戦後の闇市から復興した盛り場で、
道幅の狭い路地にギッチリと小さな店が並んでいた。赤線や青線とも違う。
ほとんどがモグリの売春バーで、いわば風俗の無法地帯である。
危険といえば危険だったが、おかげで現在では考えられないような
猟奇的な経験をすることもできた。
「いい女いねえかい」
冷やかし半分に店を覗くと、40がらみの太った女がこちらに顔を向けた。
「いま出ちゃってるの、少し待ってもらえば帰ってきますけど…」
「ちぇっ、二番目じゃ仕様がねえな」
先客とヤッてきたばかりの女に、折り返しハメるのでは芸がない。
「アッ、お兄さん待って…」
店を出ようとすると、カモを逃がしてなるものかとばかり女が止めにかかった。
「そうそう、いい子がいるのよ。顔だけでも見てってやって…」
「売れ残りならいらねえよ」
「そんなんじゃないわよ。待ってていま聞いてくるから…」
太った身体を窮屈そうに曲げてカウンターを出ると、女は小走りに
どこかに消えた。
客があれば互いに女を融通する。飲み屋の売春に独特のシステムである。
アテにもせず椅子に座っていると、5分もしないうちにあわただしく
戻って来た。
「いま来ますって…」
それからちょっと一息おいて、意味ありげに言った。
「あんまり馴れてない子ですから、気をつけて下さいね。シロウトだからね」
「ふん、そうかい…」
こんなところに、セックスに馴れていないシロウトなんかいるものか…。
薄いハイボールを舐めながら時間を潰していると、30分近く経って
ガタピシとガラス戸が開いた。
「今晩わ…」
いい加減待ちくたびれて、不機嫌な顔で振り向く。とたんに、オッと思った。
まだ16か、17才そこそこの小娘である。
急いで化粧をしてきたのか、口紅がやたらに濃くて、少しも似合っていない。
普段着らしいネズミ色のセーターを着て、長い髪の毛を無造作に束ねていた。
「ママは、大丈夫だった?」
「うん…」
少女はチラッとこちらを見て、戸口に佇んだままうなずく。
「どういい子でしょ。こんなこと滅多にないのよ」
太った女が得意そうに言った。
もちろんシロウトではないだろうが、そうかと言って、売春バーで働いている
スレからしにも見えなかった。
こいつは面白いかも知れない…、
私は、黙って立ち上がった。
二、屋根裏の淫売
料金は前払いで、客を取った女は後でこの店から割戻しを受け取る
ことになる。
「ありがとう御座いました」
女の声を背中で聞いて外に出ると、少女はもう歩き出していた。あとを追うと、
立ち止まったのはほんの七・八軒先で、灯のついていないひどくみすぼらしい
店の前である。
「ここかい、お前の店か?」
「そう…」
なかに入ると、真っ暗で営業している様子はなかった。カウンターの横の
急な階段を上ると、天井が低くてほとんど屋根裏部屋といって良い。
歩くだけで家全体が揺れそうなバラック造りである。
「こっちよ、気をつけてね」
少女が、抑揚のない声で言った。
足もとに布団が敷いてある。
二階はひと間しかなくて、路地に面して小さな明り取りの窓が開いている
だけであった。
アッ…、
そのとき、敷いてあった布団が突然ムクムクと動いた。びっくりして
飛び退こうとすると、今度はむき出しの梁にゴツンと頭をぶつけた。
「おいっ、誰かいるんじゃねえか」
「ママが寝ているの、ごめんなさい」
少女が、部屋の隅に布団をもう一つ敷きながら言った。
「病気だから仕方ないのよ。商売ができないから…」
「へえ、お前のかあちゃんかよ」
「うん」
暗がりを透かしてみると、寝乱れた女の髪の毛が後ろを向いて
息をひそめている。
「大丈夫よ。顔なんか見えないから気にしないで…」
太った女がどういう話をしたのかわからない。あるいは、これしか方法が
なかったのかも知れないが、少女は初めからそのつもりなのである。
「お前、名前は何ていうんだ?」
「まさ江です」
「男とヤッたことあるのかよ」
「決まってるじゃない、私だってお客さん多いもん」
馬鹿にされたと思ったのか、まさ江はうつむいて怒ったように言った。
そうか、それなら遠慮はいるまい…、
ムラムラと変態の虫が首をもたげる。私は母親の寝床を跨いで
少女の側に寄った。
「かあちゃんの病気は何だ」
「リューマチ…」
「そうか、可哀相だな」
病人はじっと背中を向けたまま動こうとしない。構わずセーターを
脱がせてみると、下は何もつけていない裸だった。
「何だ、ズロースも穿いていねえのか」
「さっき身体を拭いたから…」
まさ江は、恥ずかしそうに言った。 抱き寄せると、骨がゴツゴツして
皮下脂肪がほとんどついていない。まだ固い太腿をひらくと、陰毛は一人前に
生えていたが、微かな淫臭が漂っていた。
「あ、サックはめて…」
まさ江が、急に思い出したように身体を縮めた
三、淫らな孝行娘
「ハメるぜ」
私はワザと母親に聞こえるように言った。
「もっと脚を広げろ。おまんこ開けてみな」
仰向けに脚を伸ばしたところに、のしかかって一息に腰を落とした。
「アゥ…ッ」
声を出すまいとして、少女は固く眼をつぶっている。
湿り気が足りなかったせいか、コンドームが引き吊るような感じで、男根が
半分くらい埋まった。構わず腰を揺すると、平べったい土手の奥に、
コリコリと括約筋が触れる。
「も、もっとそっとして…」
まさ江が、かすれた声で言った。
「まだだ、ぜんぶ入っちゃいねえぜ」
「くッ、くゥッ…」
振動は、いやでも隣りの布団に伝わってゆく。少しづつズリ上がりながら、
少女は両手で肩にしがみついて来た。
腰を抱え込むようにして抜き差しを激しくすると、ギシギシと二階が揺れる。
ヌメリが滲み出してきて、動きが急にらくになった。
「あふ、あふッ…」
「お母さん、そんなに気を使わなくたって良いんだぜ」
いきなり腕を延ばして、ひと思いに病人の布団を剥ぐ。着古した浴衣が
はだけて、その下に青白い乳房の膨らみが見えた。
「おい、こっちを向けよ」
強引に顔をこちらに向けると、40才を少し出たくらいの目鼻立ちの
しっかりした女である。健康なら如何にも水商売風の美人なのだろうが、
リューマチで関節の自由がきかないようだ。
「や、やめ…、てェよゥ」
ガクガクと首を振りながら、まさ江がとぎれとぎれに言った。
「かッ、かあちゃん、病気なんだから…」
「心配することはねえよ。ちゃんとイクところまで見せてやれ」
「アッアッ、やめて…」
女は虚ろな眼で娘の裸を見たが、すぐに視線をそらして、投げやりな
調子で言った。
「イキませんよ。まだ子供なんだから…」
眼の前で娘を抱かれて、気持ちは動転しているのだろうが、必死に
感情を抑さえている様子だった。その顔を見ながら腰を突き上げると、
急激に快感が昂まってきた。
「アァいい…ッ、いいッ」
まさ江が、突然うわずった声をあげた。
「ホラいくってよ。お母さん…!」
横を見ると、不自由な手で布団を掻き上げて、女がじっとこちらを
見つめている。
「ウゥゥ…ッ」
そのとき、まさ江が全身を硬直させて反りかえった。とたんに溜まっていた
精液がドッとコンドームの中に溢れ出す。
涙を隠して、女はあわてて布団に顔を埋めた。髪の毛が微かにふるえている。
「早く快くなって商売しろよ。この子ならけっこう客がつくぜ」
部屋を出るとき、私は別に百円札を一枚、母親の枕元にほうった。
この時代、こんな場所にも売春のスペースがあった。いまはもう、
はるかに遠い青春の思い出である。