穢された人形





    一、ビデオの時代

「どうしても10万円欲しいっていう女の子がいるんですがね」

 と、その電話の声は言った。まだ高校生らしい若者である。

「月謝を使い込んで滞納しているんで、すぐ払わないと親にバレちゃうんだ」

 それで、大至急まとまった金をつくりたいのだと言う。

「その子は幾つなんだ?」

「高1ですけど…」

「お前の彼女なのかよ」

「ええ、まあ…」

 ブルセラだのコギャルだの、まだ話題にものぼらなかった昭和40年代の終わり…。

それが本当なら掘り出し物である。

「たった一日で、ちょっと高過ぎねえか」

「はあ…、じゃ5万円で良いです」

 すぐ半額に値下げしたのはご愛嬌だった。

「とにかく連れてこい。その代わりビデオに撮るぞ」

「あ、良いですよ」

 若者は、あっさりと言った。

 そのころから、町には派手な貸ビデオ屋の看板が増えはじめていた。

 初期のAVには、どこか秘密めいた変態的なものが多かった。典型的な例が

いわゆるウンコビデオの出現である。それまでは見ることの出来なかった

女の放尿や排泄シーンを眼の当たりに再現できるのは、ビデオだけが持つ

特権であった。

 べつにウンコと限ったことではないが、カメラの前でいたいけな少女に

痴態の限りを演じさせるというのは、新しい責めの手段としても面白い。

 日曜日、私は買ったばかりの機械一式を車に積んで約束の場所に行った。

 そこは私鉄の小さな駅で、改札口のところにひと眼でそれとわかる高校生と

通学カバンを持った背の低い女の子が立っていた。

「お前か、電話をかけてきたのは…」

「はっ、そうです」

 声をかけると、若者は精一杯格好をつけて頭を下げた。

「女はどれだ?」

「ああ、こいつです」

 振り向くと少女は黙って下を向いた。丸顔のまだあどけない女の子である。

「夜の10時が門限なんで、それまでによろしくお願いします」

「よし、女だけ車に乗れ」

「あのう、金は…?」

「終ってからだ。この子に渡してやるよ」

「はあ」

「門限までには帰してやるから安心しろ」

「わかりました…」

 良いようにあしらって、少女を助手席に押し込むと車を出した。

「名前は何ていうんだ?」

「山本博子です…」

「どうして月謝を使い込んだりしたんだよ」

「………」

「お前、彼氏に貢いじゃったのと違うか」

「それもありますけど…」

「本当は、あいつにもっと稼いでこいと言われたんだろう」

 博子はうつむいて黙っていた。見掛けは子供だが、身体のどこかで

もう哀しい女の性が育ちはじめている。

「どこに行くの?」

 高速道路に乗ると、少女は不安そうに窓の外を眺めながら言った。


「心配すんな。安心して裸になれるところに連れてってやるよ」

「えっ…」

「ビデオを撮ることは聞いてきたんだろう」

「で、でも私、そんなこと一度もやったことないから…」

「関係ねえ。彼氏はお前に何をやらせても良いと言ってるんだ」

 走りながら乳房を掴むと、博子はギョッとしてこちらを向いた。

「オナニーは知ってるのか?」

「友達に話は聞くけど…」

「おまんこしかやったことねえのかよ」

「エッ、はい…」

「それじゃ、初めから教えてやろうか…」

 スカートが捲れて、幼い太腿がムキ出しになっている。

「パンティを脱いでみな」

 催眠術にかかったように、博子はパンティを膝の下におろした。

「股の間に指を入れろ」

「………」

「濡れているか?」

「ハ、ハイ。うぅっ…」

 車は中央ハイウェイを百二〇キロを超えるスピードで飛ばしていた。



    二、モデル汚し


 連れ込んだところは、八王子の郊外にある離れ家式のラブホテル…。

よろめくように部屋に入ると、眼の前にドンとダブルベッドが据えてある。

「さっきの続きだ、オナニーやってみろ」

 裸にしてベットに突き飛ばすと、博子は仰向けにひっくり返って両手で

顔を覆った。全身の肌がパンパンに張って、育ち盛りの若い乳房が

半球形に固く盛り上がっている。まだ量は少ないが、艶のある真っ黒な毛が

こんもりと膨らんでいた。

「もっと脚を拡げて、なかまで良く見えるようにやれ」

 唇を噛んだ博子の目尻から、スルスルと涙が落ちた。

「泣いていないで気分出せ。金を持たずに帰ると彼氏に叱られるぞ」

「クゥ…、ンッ」

 指をわずかに曲げて、割れ目をなぞる。

 化粧をしていないだけに、表情はかえってナマナマしかった。快感が

昂まっているわけではないが、内部はグチャグチャに濡れている。これは、

カメラに犯される女の本能的な生理現象である。

「もっと深く、指を穴に入れろ」

「こ、こうですか…」

 涙をこらえて、何とか要求に応えようとする。だがいつまでオナニーを

撮っていても、それほどの変化があるわけではなかった。

 可哀相だが、これはまだほんの入り口である。

「そんなオナニーじゃ駄目だ、来い」

 引き起こしてバスルームに連れて行くと、プラスチックの洗面器を持たせて

私はまたカメラを構えた。

「その中にションベンを溜めろ」

「ここへ…?」

 手の甲で涙を拭いて、途方にくれたように洗面器を見つめている。

「外にこぼすんじゃねえぞ」

「はい…」

 タイルにしゃがんで、洗面器をこわごわ股の間に入れた。

 ジョ、ジョッ、ジョオッ…。

 意外に大きな音がして、みるみるうちに泡と一緒に三分の一近くまで

琥珀色の液体が溜まった。

「お前、クソも出るだろう」

「エエッ」

 オドオドと、おびえた顔を上げた。

「で、出ないと思うけど…」

「いいから、頑張ってみろ」

 嫌おうなしにもう一度洗面器を跨がせると、博子は言われるとうり浴槽の縁に

つかまってこちらに背中を向けた。

「もっとケツを上げろ」

「く、臭いかもしれない…」

「当たり前だ、臭いのを気にしてたら便所になんか行けねえよ」

 丸い尻の真ん中が膨らんだり凹んだりしている。二三度それを繰り返すと、

博子は顔を真っ赤にして全身でイキミをかけた。

「ウウム…」

 ニュルニュルと思ったより太い塊りが生き物のように押し出されてきた。

たちまちムッとする異臭がバスルーム全体にひろがる。

「うぇぇ…ッ」

 車の中で乳房を握られてから、まるで何かの暗示にかかったように、ここまで

必死にやってきたのだったが、異様な匂いを嗅ぐと、とうとう声を上げて

泣き出してしまった。今の言葉でいえば、プッツンである。

 そのとき、ビッと尻の穴が鳴って糞の塊りが洗面器の外に飛んだ。続いて

今度はユルいのがダラダラとタイルの上に溢れ出す。

「汚たねえっ、ちゃんと洗面器に戻せ」

「ご、ごめん…、なさい」

 泣きじゃくりながら、博子は夢中で柔らかい糞の山を掌ですくって

洗面器に入れた。羞ずかしさと精神的な衝撃で、神経が無重力状態に

なっている。穢なさはほとんど感じていないようであった。

「こ、これ…、トイレに流してくる」

 手が汚れているので涙を拭くことが出来ない。少女はしゃくり上げながら、

洗面器を持って立ち上がろうとした。

「いいから、そこに置いて風呂に入れ」

「あ、はい…」

 身体を洗わせて貰えると思ったのか、博子はおぼつかない足どりで、

まだ湯の入っていない浴槽の縁を跨いだ。

「こっちを向いてみな」

 何気なく、振り返ったとたん…。

「ぎゃァッ」

 バシャッと顔に洗面器の汚物をぶつけられて、惨めな悲鳴をあげた。

 乳房から太腿にかけて大小便の混じり合ったドロドロの液体を浴びて、

博子は崩れるように尻餅をついた。



    三、博子のウンゲロ


 もう泣いている余裕はなかった。

 尻餅をついたまま、乳首についた糞片を摘まんでゴキブリを払うように棄てる。

両足をVの字に突っ張って支えていないと、滑ってウンコだらけになって

しまうのである。

「まだ、汚れが足りねえな」

 カメラを置いて、ズボンのファスナーを下ろす。

「アッ、いや…」

 何をされるのか察して、博子はとっさに顔をそむけようとした。その上に、

小さな滝がビシャビシャと飛沫をあげる。

「あぷぅ…ッ」

 汚れた手で無意識に顔を覆うと、鼻筋から唇のまわりにベッタリと茶色の

指の跡がついた。水流は顔を狙って絶え間なく降ってくるので、息をすることが

出来ない。博子は全身をくねらせてもがきまわるしかなかった。

「わッ、うわ…ッ」

 ようやく小便がおさまったとき、少女は浴槽にへばりつくように俯せになっていた。

「この野郎、ちゃんと顔をあげろ!」

 滑る身体を反転させると、髮の毛が頬に貼りついて、ところどころに正体不明の

カスが付着している。タイルに密着していた乳房と腹の柔らかいところに

泥のような汚れが塗りまわされ、まだ溶けていない塊りが濡れた陰毛に絡んで

ぶら下がっていた。

「もっと汚せ。身体中にクソを塗ってみろ」

「あぁぁ…」

 博子は哀願するようにカメラを見上げた。

 それからノロノロと手を伸ばして、浴槽の隅に溜まった汚物を掴むと

ベチャッと腹の上に乗せた。

「こ、これでいい…?」

「ついでに指をしゃぶってみな」

 クソまみれの手をじっと見つめて、博子は一瞬、笑っているような表情を見せた。

もう完全に思考力を失っている。

「ニガい…」

 中指と薬指をを口に入れて、ちょっと眉をひそめる。

「馴れていねえからだ。ホラ飲んでみろ」

 石鹸箱の蓋に濃い液体をすくって、カスと一緒に強制的に何杯も

唇に流し込んだ。

「グフ、グフ…ッ」

「こいつもやるぜ、ちゃんと食えよ」

 白い歯が黄土色に染まっている。押し込んだ塊りを嚥みこむことが出来なくて、

博子は虚ろに眼をあけたまま、しばらく放心状態になっていた。

「喰えっ」

 突然、ゲクッと腹が大きく波を打った。

「ウゲェッ」

 思いがけなく、大量の嘔吐が始まった。

 唇のまわりから、腐った粥のようなものを噴きあげると、続いて糞便の色をした

粘液が胃の内容物と混ざって溢れ出してきた。

「ゲェッ、オェェ…」

 美事なウンゲロのクライマックスである。

 いつの間にこんなに糞を喰っていたのかと不思議なほど、博子は背中を曲げて

苦しそうに何回も吐いた。ゲロとウンコにまみれて、浴槽の底でヌルヌルと

滑りながら博子は瀕死のまだら鯉になってのたうちまわった。

 まだ腹筋が痙攣していたが、浴槽の栓を抜いて頭からシャワーをかける。

 身体中のヌメリを洗い流すまで、たっぷりと一時間かかった。

 脚をひらくと、濡れた肉のはざまが真っ赤に充血してザクロのようになっていた。

 タイルに転がしてハメてみたが、すべての気力を使い果たしたあとの肉体は

もう抜け殻だった。いくら残酷に犯しても、まるで屍体を弄んでいるような感じである。

 イクことは知っている筈だが、喘ぐばかりで全くその気配はなかった。

 結局、さんざん弄んだあげく一方的に射精してしまったのだが、まだ身体中に

ウンコの臭いがしみついていた。

 部屋を出る直前になって、博子はようやく自分を取り戻すことが出来たようだ。

「どうせ彼氏に取られちゃうんだろう。これで月謝を払え」

 ギャラとは別に5万円渡してやると、博子は怯えたように後ずさりした。

「何にもしなくても良いの?」

「もう終りだ、彼氏に貢ぐんじゃねえぞ」

「ハイ…」

 受け取って、大切そうに教科書の間に挟むとカバンの中にいれた。これで

どうやら月謝だけは払えそうである。

 定刻に私鉄の駅に戻ると、博子は手をそっと私の膝の上に置いて言った。

「有り難うございました。ほんとに…」

 それが、この少女が示した唯一の意思表示だった。

 電柱の陰に、昼間の高校生が立っている。車から解放されると、博子は小走りに

男のほうに駆け出していった。




<この項終り>