寿賀吐露聖女






    一、便所覗き考


 最近の公衆便所は管理も行き届いて清潔感があり、なかには変った

デザインのトイレが地域のシンボルになっていたりするところまである。

 ひと昔前、つまり昭和30年ころの公衆便所といえば、ようやく水洗に

なってはいたが、便器は糞尿にまみれ、異様な臭気のたち込める

不潔な場所であった。周囲は板仕切りで、扉の錠が壊れているのは当り前、

もちろん、トイレットペーパーが置いてあるところなど一か所もなかった。

 便器は枠だけで、現在のように吸入口などついていない。水洗と言っても

トイレ全体が大きな便壺になっていて、いきなり直下に落とすのである。

そのまま下水に繋がっているのか、1メートルくらい下をジョロジョロと

水が流れていた。

 たまにタンク式の水洗もあったが、たいていは把っ手が壊されていて、

新聞紙やゴミで便器が詰まって、中にウンコの山が築かれている。

板壁の周囲には、びっしりとイタズラ書き、「おまんこやりたい」といった

単純なものから、下手な絵や女の住所など、ところ構わず書き散らしてある。

隣の便所との境には、決まって親指が通るくらいの穴が開けてあった。

いわずと知れた、便所覗きの仕業である。

 彼らはまるで蓑虫のように、一日中汚れた便所の中に籠って、そこで弁当を

食い、持ち込んだ水を飲んで、ひたすら女が来るのを待っているのだった。

 別に縄張りがあったわけではないが、権利はすべて先着順で、三つ並んだ

扉の真ん中をノックすると、コンコンと軽く打ち返してくる。それで、すでに

先客に場所を占められていることがわかる。

 こんなおぞましい場所で用を足す女など、よほど差し迫った場合でなければ

いないと思うが、それでも条件の良いところでは一日にかなりの数の

利用者があった。

 顔も名前も知らない女が、後ろを振り返りながらあわただしく

便所の扉を開ける。

 汚れた便器を跨いでズロースを下ろすと、しゃがむ間もなくジョーッと

勢い良く小便の飛沫を上げ、ときとしてニュルニュルと太いウンコを

下の水溜りに落したりもする。

 小さな覗き穴から、じっとそれを凝視している男の眼…。

 やがて、カサカサと紙を使って女は外に出て行くが、男は決してその後を

追おうとはしない。まるで、影絵のような無言劇である。

 そのころ、私は奇妙な習癖を持った女を捕まえたことがあった。

 宮本恭子という30才を少し過ぎたばかりの水商売の女である。

 場所は、新宿駅南口の陸橋を御苑のほうに向かって降りていくと

左側にある、お決まりの公衆便所…。

「ちょっと、あんたスカートにウンコがくっついているぜ」

「ええッ」

 出てきたところをいきなり声を掛けると、女は飛び上がらんばかりに

驚いてスカートの裾を摘んだ。

「わっ、嫌ッ」

 実際にはそれほど汚れていたわけではないが、大袈裟な悲鳴を上げて、

少し濡れたところをハンカチで拭おうとする。

「あんた、今日もここでクソしたのかい?」

 女は、ムッとした顔で私を睨みつけた。

「そんなに、おまんこを見られるのが好きなのかよ」

「何よ、それ…」

「ごまかすんじゃねえよ。常習の癖に」

「………」

「あんた、隣りに覗きが入っているのを知ってるんだろう?」

 実をいうと、私はこの女が何回となく同じ公衆便所から出てくるのを

目撃していた。

 どこか近くの店で働いているのだろうが、いつかは網にかけてやる

つもりだった。たまたま出くわしたのが文字どうりウンの尽きである。

「俺も見せてもらったけどよ。けっこう良いおまんこ持ってるじゃねえか」

 カマを掛けると、女は眼を伏せて、黙ってソワソワとスカートの裾を

拭いている。

「隠すことはねえさ。べつに悪いことしてるわけじゃなし…」

 有無を言わせず、私は女の腕を掴んだ。

「店はどこだ。良かったらこれから一緒に行こうぜ」



    二、スカトロ人集合


 弱味を握られた女の抵抗はモロかった。

 その日のうちに働いている店を確かめ、私は恭子のアパートに行った。

「お前、人にクソしているところ見られるのが好きなら、それで

商売したらどうだ」

「だって、そんな…」

「俺が紹介してやるよ。世の中には女のクソを喰いたい奴だって

いるんだぜ」

 恭子は呆れて私の顔を見つめている。

「便所通いをはじめたのはいつ頃からだ?」

「高校のトイレで、男の子に覗かれていたことがわかって…」

「見られると興奮するのか」

「そういうわけじゃないけど、誰かに見られていると思うとつい…」

「オナニーとか、やったことはねえのか」

「出来ません。考えたことはあるけど…」

 さすがに、素性のわからない痴漢の前では勇気がなかったのであろう。

 だが話を聞いてみると、新宿周辺の公衆便所の状況には

驚くほど詳しかった。

 代々木駅の近くには汲取り口のついている便所があって、そこから

潜り込んだ覗き男が便壷の横から見上げていたとか、あるビルの

トイレはタイル張りだが、壁の下に18センチくらいの隙間があって、

午後になると光線の加減で股の奥まで見えるとか、マニヤが聞いたら

涎を流しそうな情報を持っていた。

 好きな道というのは不思議なもので、いつの間にか女の顔から

不安そうな表情が消えて多弁になっている。

「良く知ってるじゃねえか。そんだけのめり込んでいりゃ上等だ」

「だってもう10年近くなるんですもの。でも今日みたいな目に

あったことは初めて…」

 恭子は、はにかんだように笑った。

 同じ変態仲間だけに通じる奇妙な親密感のようなものを感じるらしい。

気分がほぐれたところで、私は話を本題に戻した。

「でもウンチ食べる人なんか、本当にいるんですか?」

 恭子は眼を丸くして、信じられないといった顔をしている。

「いるさ、ニンニクをいっぱい食って、うんと臭いをつけてやれ」

「イヤ、汚い…」

 笑いながら、口ほどに嫌そうな顔はしていない。内心は

興味津々なのである。
「私なんかに出来るかしら…?」

「相手を便器だと思えば良いじゃねえか」

「そうねえ、でも何だか可哀相…」

 話が弾んで、結局恭子は糞喰いマニヤの相手をすることを承知した。

 当時コプログラニーと呼ばれていたが、いわゆるスカトロマニヤは

少数ながら実在していた。女の小便はネクタール、大便は黄金と

呼ばれて、彼らにとってのプレイは、ほとんど幻想の世界に

すぎなかったのである。それほど設備の整ったSMクラブが

あったわけでもなく、実現するとなると、場所は連れ込み旅館の

浴室を使うより他になかった。

 当日集合したメンバーは、私と通称ネリ夫という34才のスカトロ男。

ネリ夫と仮にペアを組ませたマゾ女の北条美紀、それに宮本恭子である。

それぞれ別れて旅館に入り、内部で密かに合流することになったが、

連れ込み旅館を利用するにも、そのくらい気を使わなければならない

時代だった。

 うまく4人がまとまると、私は早速マゾ女の美紀を裸に剥いた。

「ションベンの観賞会だ。お前から先にやってみろ」

 トイレのドアを開け放しにしてしゃがませると、陰毛を剃り落されて

いるので、嫌応なしにパックリと白い二枚貝のような肉が口を開けた。

「お願いします。こっちを向いて、ボクが飲みやすいように…」

 ネリ夫が真正面からそれを覗き込みながら言った。飲尿常習者の

特徴で、あばら骨が浮き出すくらい痩せている。

「で、出ます…」

 ポタポタと尻の曲線を伝わって、滴が落ちた。緊張しているので、

勢い良く噴流となって飛ばないのである。

「あ、もったいない…」

 両手を差し延べると、落ちてくる滴を掌に受けてズルッと啜った。

途端にジョジョーッと飛沫が前に飛んだ。

「キャーッ」

 恭子があわてて飛び退く。 きんかくしが後ろなので、跳ね出した

水流がそのままタイルの床に落ちてビショビショになった。

ネリ夫が口を開けて直接受け止めようとしのだが、位置が悪くて

うまく入らないのだ。

 小便はそれきり止まってしまった。美紀は半分腰を浮かして

オロオロしている。

「バカやろ、ぜんぶ無駄になっちゃったじゃねえか」

「ス、すいません…」

「ねえ私、お風呂場でやってあげる」

 恭子が、ネリ夫の腕を掴んで言った。

「ここじゃ狭いから、そのかわり誰も来ないで…」



    三、クソ洗いの現場


 二人がバスルームに消えると、私は別室で美紀を抱きながら

待つことにした。

 マゾ女になってからそれほど経っていないので、私の相手を

させられるのはいわば破格の待遇である。美紀は悲鳴を押し殺して

必死に私の攻撃に耐えた。

 イキそうになると口にくわえさせたり、尻の穴に刺しかえたりして

暫く遊んでみたが、身体には弾力があって締め具合は悪くなかった。

たが私には単調で、さほど眼新しい刺激でもない。

 二人が何をやっているのか…。

興味はやはりそちらのほうに向いていた。

「来い、あいつらと一緒に遊ぼう」

 首根っこを掴んでヨタヨタしているのを構わず浴室の前に引きずって

行った。ドアを開けると、湯気と一緒に立ち込めていた猛烈な臭気が

ムウッと鼻を衝いた。

「臭ッせぇ!」

 さすがに変態に馴れた私も、ちょっと呆気にとられた。

「嫌よゥ、見ないで…ッ」

 タイルに横になって、ネリ夫に身体を洗わせていた恭子が

びっくりして声を上げた。

 こいつら、いったい何なんだ…?

 二人とも全身糞だらけ、というよりお互いに糞で身体を洗いっこ

しているのである。

 どっちが出したのか、恐らく二人でやったのだろうが、大量の

糞便をタオルになすりつけてゴシゴシと肌を擦っている。

 最近のように、女の排泄物に憧れて、遊びでちょっとやってみる、

といった程度のものではなかった。

「ほらっ、お前も一緒に洗ってこい!」

 首根っこを突くと、美紀は前のめりになってバスルームに飛び込んで

いった。ヌルヌルのタイルで危うく転びそうになって、糞まみれの

ネリ夫の身体にしがみつく。

「ぐえぇ…ッ。ぷっ」

 抱き止めたネリ夫が、そのまま美紀の唇をしゃぶりはじめた。

本当に糞を食っているのか、歯が茶色に染まっている。

「ぶはッ、タッ助けて…」

 顔をそむけて、夢中で逃れようとするのだが、唇のまわりに

べったりと汚れがついた。

「ううッ、ま、また出るゥ」

 ブブッと穴が鳴って、恭子の尻からミミズのように細い糞の断片が

美紀の腹に飛んだ。すぐにネリ夫が掬って乳房のまわりに塗りまわす。

たちまち全身に汚物の地図ができた。

「お肌がツルツルになるのよ。あんたも美人になんなさいよゥ」

 恭子が胴体に巻きついて、太腿で陰毛のない縦の割れ目を

こすり上げた。

「うわァ、カ、かんにんしてェッ」

「出すのよッ、あんたもウンチたくさん出さなきゃ駄目ッ」

「ぎゃっ」

 糞が眼に入ったのか、美紀が異様な呻き声を上げて

顔ぢゅうを掻きむしる。

 その横で、重なり合った二人が腰を使いはじめた。なにしろこの連中に

とって、糞の匂いは最高の媚薬なのである。

 恭子が上になってベロベロと顔の汚れを舐めあいながら、汚物まみれの

男根をモロに挿入している。人糞には、触れると肌が火照るような

独特の刺激がある。おそらく、穴の中は火のようになっている筈であった。

「あっ、あっ、あっ…」

 弾みをつけて腰を上下に振りながら、絶頂に達していく様子が

ありありと見えた。

「見てェ、ほらッ出たわよ。出てるわよッ」

 突然、恭子がタイルを指差して歓声を上げた。

 失神したように動かない美紀の股間から、新しい汚物が溢れ出して、

ぶくぶくと泡と一緒にタイルに広がっている。それは黒味を帯びた

固まりと違って、艶のない黄土色をした下痢便であった。

「気持いい、いくッ」

 恭子は男の上に身を伏せると、ベチャッと黄土色の中に指を入れた。

「い、いく…ゥ」

 背中が、痙攣して何回も波を打った。

 糞溜りの横を、美紀が洩らした小便が小川のように流れてゆく…。

 惜しいことには、恭子との糞尿プレイはこれが一度限りで、

新宿の店からも姿を消してしまった。本人は自覚していないが、

希にみる強度のスカトロマニヤである。

 もう一つ、こんな状況の中で、美紀が何故タレ流しをやったのか、

理由は謎であった。少なくともはじめから下痢をしている様子はなかった。

あるいは、これがマゾ女の本能的な習性だったのかも知れない。

 北条美紀については、その後もう一度悲惨なアナル責めを

体験させているので、それはまた後日ご紹介することにしよう。



<この項終り>