美尻娘の追憶




    一、砂浜の幼女

 Jリーグで有名なサッカーの町、清水市のはずれに、袖師海岸という

美しい海水浴場があった。

 今ではどうなっているかわからないが、これは、私がまだ旧制の中学生

だった頃の話である。つまり、敗戦の色がようやく濃くなってきた昭和18年…。

 夏休みに親戚の家に遊びに行って、私は久し振りで家族と一緒に

海水浴にいった。

 そのころは人影もまばらで、海の家などもちろん建っていない。それぞれが

勝手に服を脱ぐ場所を決めて海に入るのである。

 男は褌、女は袖のついたワンピースの水着というのが、その頃の

スタイルだった。

 海辺には、戦争の重苦しさをすっかり忘れさせてくれるような、明るい太陽と

快い潮の香りがあった。

 一緒に行ったのは五六人だが、波打ち際ではしゃいだり、遠くまで泳ぎに出て

波間に見え隠れしている。私は泳ぎつかれて、砂浜でのんびりと甲羅を

干していた。

「おにいちゃん…」

 振り向くと、香代子がせっぱ詰まったような顔で立っていた。一番年下の

従姉妹で、そのときたしか小学校二年生だったと思う。

「ん…? どうしたんだ」

「あの、あの、ウンチしたい」

「ええっ」

 香代子は小刻みに地団駄を踏んで、唇を歪めている。

「仕様がねえな、何故ちゃんと出して来なかったんだよ」

 小便なら海の中でやってしまうが、でかいほうはそういうわけにもゆかない。

あたりを見まわしたが、どこにも便所らしいものはなかった。その上女の子の

水着は、排便にはひどく不便な作り方になっていた。

「おにいちゃんッ、出ちゃう」

 下腹をおさえて、香代子がべそをかきはじめた。

「待ってろ、いま穴を掘ってやる」

 思いついて、両手で足もとの砂を掻く。だが柔らかい砂は、いくら掘っても

それほど大きな穴にならなかった。

「早く脱げよ、いいからこん中にしろ」

 とにかく水着を全部脱がなければ、尻を出すこともできない。香代子も

恥ずかしかったのだろうが、そんなことを言っている場合ではなかった。

 あわてて水着を脱ぐと、小麦色に灼けた少女の裸体が嫌おうなしに

眼に入った。

 まだ乳房も膨らんでいない。胴まわりと腰の太さが同じで、毛は一本も

生えていなかった。そうかと言って、赤ん坊のような感じでもないのだ。

もう、どこかで女の成長が始まっている。思春期の私には、クッキリと

刻まれたワレメの線が奇妙にまぶしかった。

「うぇぇ、み、見ないで…」

 香代子は背中を向けて、スリ鉢のような砂の凹みに尻をおとした。

だが大便が出てくるところは、後ろからのほうがずっとよく見えるのである。

 たちまち、ヌルヌルと意外に太い塊が砂の上にとぐろを巻いた。

今朝出してこなかったせいか、長さは30センチ以上あった。可愛い女の子の

身体から出てきた思いがけないほど大量の糞便に、私は息をのんだ。

 排泄は、それから少し細くなったのが何回も出た。広い場所と潮風の

おかげで、匂いはほとんど感じなかった。

 香代子はスリ鉢の中でうずくまったまま、なかなか立ち上がろうとしない。

やがて、救いを求めるように言った。

「カ、カ、紙…」

「バカ、そんなもんねえよ」

 衝動的に、私は少女の尻たぶを掴んだ。

「もっと股をひらけ。砂で拭いてやる」

「ヒェッ」

 乾いた砂を握ってこすりつけると、香代子は軽い悲鳴を上げて

腰を浮かした。

「まだだよ、じっとしてろ!」

 いきなり、後ろから指でワレメをあける。

「誰にも言うんじゃねえぞ。拭いてやったんだからな」

 砂のついた手で、毛が生えていない土手の周囲を撫ぜまわすと、

香代子は腰を浮かしたままウッウッと咽喉を鳴らした。今でも眼の裏に

残っているのは、薄いピンク色をした鶏のササミのような肉の切れ込み

である。クリトリスは凸起していたが、二枚の肉ベラはまだそれほど

発達していなかった。

 香代子とは、その後なにもなかった。 女学校に入ってからも、私と顔を

合わせるとふっと恥ずかしそうに下を向く。その度に固かった幼い性器の

感触を思い出した。

 21才のとき、香代子は重い腹膜炎にかかって、おそらく処女のまま死んだ。



    二、野グソの君


 長野県、安曇野…。

 四方を山に囲まれた盆地だから、それほどのことはあるまいと思うと、

これが意外に広い。

 近くに日本アルプスの山並みが見えるが、盆地の中にローカルの空港が

あったりして、あとは見渡す限りの田んぼと畑である。点在する小さな美術館や

道祖神めぐりが観光ルートになっていることを知る人も多い。

 私が安曇野を訪れたのは、今から10年ほど前のことであった。一緒に

連れていったのは横川真弓、そのころセックスの相手をさせていた19才の

女子大生である。

 車で塩尻峠を越えて安曇野に入る。 国道を曲がると上高地まで

一本道だが、時間はタップリとあった。

「いい空気だな、ちょっと歩いてみよう」

 運転にも疲れたので、私はすぐ横の原っぱに車を停めた。

 外に出ると、草の匂いのする空気が爽やかだった。

 このあたり、安曇野のド真ん中である。

 道祖神というのは男と女の神様が抱き合っている姿を石に彫ったもので、

路傍に立っているというが、案内書を持っていないのでどこにあるのかも

良くわからなかった。

 あたりにぽつぽつと人影はあったが、細い畑の道はハイヒールの真弓には

ひどく歩きにくそうであった。それでも30分ほど歩いて、そろそろ車に戻ろうと

したとき、引き返そうとした草むらの陰に、女が一人うずくまっているのを

見つけた。

「何だ、病人じゃねえのか…」

 私は、ごく自然に足を止めた。

「えッ、どこに?」

「ほら、そこの畑の下よ」

 女のほうではとっくに気がついていた様子で、顔を見られないように

両手で頬を押さえて背中を丸めている。

 土地の娘らしく粗末な仕事着だが、ズボンを膝まで下げて、太腿と

真っ白い尻がこちらを向いていた。

「あ…!」

 野グソだと気がついて、眞弓はとっさに眼をそらした。

 畑で仕事をしている間にもよおしてきて、草むらで用を足しているとき、

突然私たちが通りかかったのであろう。立ち上がることもできず、

女は私たちが気づかずに行き過ぎてくれることを祈っていたに違いない。

 眞弓が気をつかって早く行こうと腕を引っ張るのだが、私は意地悪く、

わざとその場に立ち止まっていた。

 ほんの1分足らずだったが、相手にとっては気が遠くなるような時間

だったろう。

 しばらくして、女はチラリとこちらを見たが、パッと身体を起こすと、

ズボンを上げる余裕もなく両手で押さえたまま一散に畑の向こうに

駆け去っていった。

 後ろ姿はまだ10代の健康そうな娘である。

「あいつ、ケツ拭いて行かなかったぜ」

「仕方ないわよ。かわいそう…」

 眞弓は同情した声で言った。

 ただそれだけの出来事だが、私には何よりも安曇野を印象づけた

思い出になった。

 その日は上高地の近くにある温泉に泊まって心ゆくまで眞弓を抱いた。

旅に出ると女は不思議に性欲をかき立てるものだ。

 翌日は雄大な日本アルプスの景観を眺めながら高原を歩く。前の晩

腰が抜けるほどイカしたのだが、眞弓はもう回復していた。

 足もとに、手ですくって飲めそうな清冽な流れが瀬音を立てている。

槍ヶ岳に源を発する梓川にそそぐ支流である。

「おい、ここで野グソを垂れてみろ。気持ちが良いぞ」

 昨日のことがまだ頭にあって、私は眞弓を振り返って言った。

「えッ、いやよ」

「誰も見ちゃいねえよ。やってみな」

 川の石を跨がせると、なまなましく割れた陰毛が清流のしぶきで濡れる。

「冷たい…」

 その直後、ジョボジョボと異質の音が川面で鳴った。続いて固い糞の

塊がポトンと川の中に落ちた。

「ウウゥ…ムッ」

 顔を真っ赤にして眞弓が踏ん張る。

 ボトボトッとかなりの量が排泄された筈だが、すぐに流されて跡形も

なかった。

「よし、ケツの穴を洗え」

 手を延ばして、眞弓はバシャバシャと前後の穴に川の水をかけた。

「洗ったらもう一度ハメてみようぜ。思いきりイカせてやるよ」

 私は遥かな高原を見わたしながら言った。

 今思えば、あの清流を汚したことはまことに申しわけないが、澄み切った

空気の下で、これは実に爽快なゲームだった。



    三、赤 い 雪


 昭和40年の初め、東京に大雪が降ったことがある。市街地で20センチ、

郊外では50センチ近くつもった。

 私はそのとき、女と一緒に八王子の町外れに新しくできたモーテルにいた。

相手は小宮葉子という25才の女優である。

 雪は夕方からチラチラと降りはじめていたのだが、現在のように気象情報が

発達していないから、まさかこんなに降るとは思わなかった。さんざん

ヤリまくって夜の10時過ぎにモーテルを出たときには、あたり一面が

銀世界…、真っ暗な空から白い花びらが舞うように降りしきっていた。

 何とか車を走らせようとしたが、チェーンは巻いていないし、通行量が

少なくなっているので、道路につもった雪でともすれば立ち往生しそうになる。

「おい、これじゃ帰れそうもねえぞ」

「どうすれば良いの、困るわ」

 葉子は、途方に暮れたように言った。

「こんな所に来たことがバレたら、私…」

「そんなこと言ったって仕様がねえだろう」

 それほどの女優でもあるまいし…、と心の中で思ったのだが、とにかく

この雪から脱出しなければどうにもならない。

 だが東京の道路は、雪が降ったらバカ同然である。懸命にアクセルを

調節して甲州街道を調布のあたりまで来たとき、完全に車輪が食われて

動かなくなってしまった。

 ここにたどり着くまで、すでに一時間以上経過している。このころから、

葉子の様子が急におかしくなった。

「ト、トイレはないかしら…」

「トイレつきの車なんかねえよ。したかったら外でやれ」

「駄目よ、外なんか出られない」

「それじゃ辛抱しろ、モラすんじゃねえぞ」

 イライラしてアクセルを踏むと、車輪が無駄に空回りする音だけが聞こえた。

 さすがの甲州街道も、もう走っている車はなかった。すぐ前に、同じように

エンコした小型トラックが停っている。

 30分ほど経って、とうとう我慢しきれなくなったらしく、葉子は外に出して

くれと言った。

 ドアを開けてやると、車の横につもった雪は柔らかくて、足がズボッと

膝のあたりまで埋まった。これではパンティを下ろすことも出来ない。

仕方なく車の中でパンティを脱いで、葉子は中腰のまま、ジューッと

雪の上に小便の穴をあけた。

「ねえ、紙持ってない?」

「なんだ、今度はウンコかよ」

「そ、そうじゃないけど…」

 泣きそうな顔で、葉子は車のドアにしがみついている。

「あ、あの…、生理が出ちゃったのよ」

 そう言えば、モーテルにいたときから何となくメンスっぽかったのである。

 脱いだパンティを手にとってみると、ワレメが当たるところにべったりと

血が付いていた。先刻からソワソワしていたのは、小便よりこのためである。

「てめえ女優のくせに、何でタンポンくらい持って来ねえんだ」

「だ、だって、一週間も早かったんだもん」

 ウエーブのかかった髪に、火山灰のように雪が降りつもっている。ドアに

しがみついたまま、葉子は震えながら言った。

「あ、あなたが、あんまり激しくヤルからいけないのよゥ」

「冗談じゃねえ、こんなんで汚されてたまるかよ」

 このままでは車のシートにも血がついてしまう。これには、さすがに参った。

「ちょっと後ろを向け、股を広げてみろ!」

 ドアから上半身を乗り出して、雪を掴むといきなり葉子の股の間に

なすりつけた。

「キャアッ、冷たいッ」

 苺ジャムのような赤い血が、雪を溶かしてボトボトと下に落ちる。

二三度繰り返して、乾いたパンティでゴシゴシと拭いた。

「寒いッ。なかに入れてェ」

 葉子は歯をガチガチ鳴らして転がり込んできたが、その後も一時間おきに

外に出しては滲み出してくる血を雪で落とす。その度に、ドアのまわりに

氷イチゴみたいになった雪のかたまりが散乱した。

 とうとう一睡もせず、ようやく車を動かすことができたのは翌日の昼近くである。

 葉子は濡れたパンティを股に挟んだまま、うずくまっていたが、電車の駅の

近くまでたどりつくと、よろめくように車を降りて歩いて行った。

葉子とは、結局それきりになってしまった。

 あれからまた血が落ちてきたら、どうするつもりだったのだろう。蛇足だが、

その後テレビにも映画にも、小宮葉子の名前が出たことは一度もなかった。



<この項終り>