売春街の女ボス






一、 女の訓練所


戦後2・3年の間、当時の闇市は一種の無法地帯だった。

自分の身は自分で守らなければ生きていけなかった時代である。

それぞれが縄張りを持ち、権利を主張しておかないと

アッと言うまに乗っ取られてしまう。自然、厳しい掟に縛られた団結が

出来あがっていたが、今でいうヤクザの組織とは基本的に違う。

そこには何が何でも生きていかなければならない人間の、ナマナマしい

日々の営みがあった。彼らにとって、厳しい掟はギリギリの生活を

守るための自衛手段だったのである。

私が知っているのは、新宿の花園神社一帯を縄張りにした小さな闇市だが、

駅前の尾津組マーケットが進駐軍の放出物資で溢れかえっているのに

比べて、こちらは細々と日常の生活用品や密造酒、闇タバコなどで

生計を立てているものが多かった。

その反面、ウラで売春婦が多かったのも花園の特徴である。

木田多美江と言うのが、通称花園のママ、彼女たちのボスであった。

四十がらみの大柄な女で、はじめは何の変哲もないカツギ屋の

オバさんだったのだが、面倒見が良いのと押し出しが強そうなので、

半年もしないうちに、このあたりで息がかかっていない女はいないほどに

なっていた。

自分では売春はしないが、新入りの娘に客の割り振りからアブれたときの

面倒まで、キメ細かく世話を焼く。時には冷酷非情な一面も見せたが、

身寄りのない女たちがタヨリにして信頼を得ていたことは確かである。

この多美江が何故か私を気に入って、男でなければ出来ないことは

時おり相談を持ちかけてきた。

「ねぇ坊や、また一人困っている子がいるんだけど、助けてやってくんない?」

ゴム紐とズボンのベルト、スカーフを並べて売っている自分の店から

顔を出して、多美江は中年女独特のスカすような眼で私を見つめながら言った。

「商売はじめたいって言うんだけど、初めてらしいのよ。このままじゃ

可哀想だから…」

「へぇ、幾つなんだよ」

「十九だって言ってたけど、今ここに来るから会ってごらん」

「良いのか?しくじったって知らねぇぞ」

「大丈夫よ、あんた天才だから…、十九ならちょうど良いでしょ」

どこが天才なのかわからないが、多美江は卑猥に歪んだ笑顔を

見せながら言った。

「あの子が商売できるようにしてやつてくれれば、何やっても良いわ」

「ふん」

要するに、簡単に売春ができる身体を作るのである。

どこから迷い込んできたのか、肉体を売る以外に食うすべがない女が

処女のままではどうにもならない。可哀想だが、これもやむを得ぬ

生活の手段なのである。

まもなく現れた女は、粗末なブラウスにもんぺを穿いた、見るからに

貧相な娘だった。

「あんた、少しならお金を貸して上げるからさ。明日までに服を買いなさいよ」

ものも言えずに固くなっている娘に、多美江は有無を言わさぬ調子で言った。

「今夜は、このお兄さんに可愛がってもらいな。わかってるわね」

それがあんたのためよ、と言わんばかりの調子である。だが娘は俯いたまま、

顔を上げようとしない。

「明日から客をまわして上げるから、しっかりしなきゃ駄目よ」

「ハ、はい」

「あそう、じゃお兄さん、お願いね」

娘を押しつけると、多美江は私の耳もとに口を寄せて、早口で囁くように言った。

「逃がさないようにしてよ。全然わかっちやいないんだから…」

そのまま知らん顔をして仕事に戻る。娘を商売道具としてしか扱っていない

ところは、さすがに女ボスの貫禄である。

女の二の腕を掴んで人通りがまばらになった闇市を抜けて神社の裏に廻ると、

そこは当時爆発的に増えた売春オカマの巣になっていた。怯えて足元が

縺れそうになるのを引きずるように境内を出てしばらく行くと、新築だが

バラック同然のアパートが建っている。

「俺んちだ、入んな」

建て付けの悪いベニヤの扉を開けると中は四畳半、薄明るい豆電球の下に

万年床…。

「寒くねぇだろう、裸になれよ」

恥ずかしさより女は恐怖で声も出ない。掴んでいた腕から微かな震えが

伝わってきた。

「明日から商売するんじゃ、あんたも大変だな。男とヤッたことねぇのかい」

「えッ、は、はい」

「そうか。なぁに、そんなたいしたことじゃねぇんだよ」



二、淫売づくり


今なら処女は貴重品だが、終戦直後はこんな女がゴロゴロしていた。

べつに有難いとも思わず、多少恩に着せるくらいの気持ちで無造作に

ブラウスを剥ぐ。素裸に剥き上げるまで何の手間も要らなかった。

「巧くやってやるからよ。ちょっと痛ぇかも知れねぇが我慢しろ」

「あ、あ」

突き飛ばすように万年床に転がして上からのしかかると、娘はそのとき

はじめて両手で拒むような仕草を見せた。

「何やってんだ。いいからもっと脚を上げてみな」

可哀想なほど痩せて、おっぱいも平べったい女である。膝小僧を掴んで

強引に左右に開くと、膨らみの薄い太ももの奥に、意外に毛深い陰毛があった。

「いいか男とヤルときはな、自分で開かねぇと毛切れするぜ」

陰毛を引っ張って露出した赤い肉の間に、容赦なく指を二本、グサッと入れた。

「グェッ」

引きつったように咽喉を鳴らして、女は腰を引こうとしたが、それがこの女の

処女とのお別れであった。ズリ上がらないように両手で首を絞めるかたちで

抑えつけると、硬直した先端を真ん中に当ててグイと体重を乗せる。

ブチッと濡れた粘膜が鳴る音がして、女は仰け反ったまま白目を剥いた。

「よぅし、どうだ簡単だろう」

構わず前後に腰を揺すると、筋肉がまだ軟らかくなっていないのか、

コリコリした感触があってこっちの快感もたちまち上昇する。

だがここで射精してしまったのでは役目を果たした事にはならないのである。

いい加減我慢の限界がきて、私はズコッとひと思いに肉塊を抜いた。

「よしッ大丈夫だ。明日から客が取れるぜ」

半分イキそうになったのを左手で握ったまま、私は何の感情も加えずに言った。

「痛ぇのは二、三日だけだ。あとは楽に出来るようになるから安心しな」

ショックと激痛で、女は気を失ったように動くことが出来ない。もう一度

指を突っ込んで見ると、ピクンと身体を震わせはしたが、穴は完全に

貫通していた。それでも前に比べれば、まわりの肉が柔らかくなって、

腫れさえ引けば明日にでも十分使いものになりそうである。

「起きろよ。早くママのところに行って、終りましたと言って来い」

しばらく間を置いて、女はノロノロと起きあがった。鈍い動作でパンティを穿き、

乱れた髪の毛を素手で撫で付けると、呟くように言った。

「ごめんなさい。こんな身体で…」

「まぁいいや。おまんこは商売道具だ、早く馴れたほうが良いぜ」

「はい…」

処女を失ったことにはほとんど感情を動かしていない、と言うより、そんな感傷さえ

持てなかったのであろう。

多美江ママから借りた洋服代には強制的に一割の利息がつく。ためらっている

余裕などなかった。女が出ていったあと、微かな淫臭が漂っている布団に

横になって、やり場を失った性欲の始末に男根をしごく。いくらもしないうちに、

私はカサカサに干からびたタオルの上に大量の精液を吐いた。

女ボスの多美江がこのアパートを訪ねてきたのは、それから三日後のことである。

「この間はどうもありがとう。これ、お礼のしるし…」

たしかキャメルだったと思う。十個入りの洋モクのケースは、当時としては

豪華なプレゼントだった。

「どうした、あの女はちゃんと商売やっているかい」

「ウン何とか…、お兄さんのおかげよ」

例によって、独特のスカすような目つきでこちらを見つめながら多美江は言った。

「でもどうして、一晩であそこまで仕込むことが出来たの?私ビックリしちゃった」

「どうってことねぇよ。ただ穴あけてやっただけだ」

話を聞くと、娘は翌日から痛いのをこらえてキチンと客を取るようになったと言う。

「当り前じゃねぇか、自分から淫売になりたいと言ったんだろ」

「それが、なかなか計画どおりには行かないものなのよ」

多美江は軽くタメ息をつきながら言った。

「いろいろと面倒かける子が多いんだけど、若いのにさァ、お兄さん凄い腕ね」

それから突然思いつめたようににじり寄って、耳もとに唇を当てた。

「お願い、お兄さん私にもやって、ねぇお願い私を犬みたいにしてぇ」



三、爛れた尻


冗談じゃねぇ、と言うのがその時の正直な気持ちである。

女はいくらでもいる、こんなオバさんの相手をさせられてたまるものか。

だがボリュームのある中年女が、全身に欲情の匂いを発散させて

迫ってくる迫力は相当なものだ。口臭のある唇を押しつけられ、

ブヨッとした感じの乳房が貼りついてくると、途端にムカムカと

腹が立った。

退けよっ、離せ…!

反射的に腕を振って払うと、手の甲がバシッと多美江の顎に当たった。

だが女は怯もうとしない。

「もッ、もっとやってェ、私をめちゃめちゃにしてッ」

「馬鹿やろ、いい加減にしろ」

見かけはただのオバさんだが、曲がりなりにもこの辺りの顔役と言って良い

女ボスである。下手に揉めごとを作ると後がヤバい。この場は何とか

取り繕うしかないと思った。

「あんた、ちょっと可笑しいんじゃねぇのかい。女なんか、俺はおまんこの

道具としか思っちゃいねぇよ」

「だからッ、私を道具にして、ハメてくれなくても良いの。お願いぶって、虐めてェ」

こいつ、変態か…?

そのとき初めて、私はこの女の正体を見たような気がした。

「そうかい、それじゃ遠慮なくひっぱたいてやろうか」

開き直ったように言うと、多美江はハッと息を引いてこちらを見上げた。

だが視線にはいつもの女ボスの威厳も貫禄もなかった。怖れと期待に

おののく家畜の眼になっている。

「お、お兄さん、あんたやっぱり…」

やはり変態の直感であろう。何時の間にか性根を見抜かれていたテレもあって、

私は居丈高になって言った。

「文句を言うんじゃねぇぞ。このブタ、今日から俺の家畜だ」

「わ、わたし前から…」

「いちいち口を利くんじゃねえっ」

いきなり胸元を蹴り上げると、グニャッとした感触があって爪先が乳房にメリ込む。

「グェ…!」

仰向けにひっくり返りそうになって危うく後ろ手に身体を支える。そこにもう一発、

小気味良く乳蹴りが入った。

「淫売の手伝いなんかさせやがって、どうせならもっと良い玉を連れて来い」

襟首を掴んで力任せに引っ張ると、ビリッと音がしてブラウスのボタンが

飛んだ。とたんにシュミーズの間から、巨大な乳房が揺れながらブルブルンと

顔を出す。

「あんなんじゃ興奮しねぇよ。もう少しマシな女はこねぇのか」

「うぅむ、クゥッ」

乳首を指の間に挟んで捩じ上げると、多美江は歯を食いしばって唇を

への字に曲げた。

「ま、待って、そのうちきっと…」

苦しそうに顔を歪めて、多美江は途切れ途切れに言った。

「で、でも、わ、私は、どう、なるの…?」

「てめぇなんか女じゃねぇよ。初めからブタだと言ったろう」

すぐ横に、闇市で売っているナイロン製のヘヤブラシがあった。針のように

とがった穂先を乳房に圧しつけてグリグリと捏ねる。

全体が弛んで軟らかいのでメリ込んだようになったが、何本かの穂先が

皮膚を破って突き刺さったようだ。

「アヒィッ、も、もっとやって…ッ」

ひと口にマゾと言っても、羞恥や玩弄に耐えて悦ぶ女と苦痛そのものを

求めるタイプがある。多美江の場合は明らかに後者だった。

ブラシを取って見ると、プツプツと肌が凹んで赤くなった穴から、幾つか

血玉が噴き出してきた。

「ちぇっ、おっぱいブヨブヨじゃねぇか、ケツを出せっ」

四ッん這いにして、よく張った尻の肉をめがけて容赦なくブラシで叩く。

尻一面にたちまち無数の小さな赤い痣が出来た。多美江が全身で

痙攣を始めたのはそのころである。

「あぁいく、いくッ」

脚もとから顔を上げて舐めに来ようとするのだが、身体が撥ねて

自由が利かない。今ならこんな女にハメてみるのも面白いのだが、

若かった私にはそこまでの執着はなかった。

「もう帰んな。オバさん、商売の時間だぜ」

爛れたように腫れた尻が、まだヒクヒクと痙攣しているのを見下ろして、

冷たく言ってブラシを捨てる。

多美江とは、結局性器に手を触れることもなく終ってしまった。

その後、多美江は何人か女を紹介してきたが、すべて売春志願の

行き場所のない娘たちである。だがこんな時代がいつまでも続く

筈もなかった。やがて世の中が落ち着いてくると、何時の間にか

多美江の姿も闇市から消えてしまった。




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