息子の犯罪




一、強姦未遂罪


「あのう、ちょっと」

東横線、中目黒の駅の改札口を出たところで声をかけられて、

私は足を止めた。見ると黒いワンピースに風呂敷包みを抱えた

地味な女である。

「何です」

「あの、目黒の警察には、どう行ったら良ろしいんでしょう」

「あぁ、この道をまっすぐ行って左側だよ」

ぶっきらぼうに言って、私は礼の言葉も聞かずに女から離れた。

お巡わりに顔なじみは多かったが、警察はあまり好きではない。

出来るだけ近づきたくない場所である。

そのときは女に道を聞かれた事などすぐに忘れて自分の用件に

向かったのだが、仕事が意外に手間取って、終ったのは一時間ほど

経ってからであった。

帰り道、駅に戻って電車を待っていると、すぐ横のベンチに腰を下ろして

俯いているのが先刻の女だった。

寂しげな、というより打ちひしがれて、物思いに沈んでいる様子である。

私はつい声をかけてみる気になった。

「警察は判ったのかい」

「あ…」

びっくりしたように顔を上げて、女はすぐに思い出したらしい。

立ち上がって挨拶しようとするのを止めて、私はその横に腰を下ろした。

「何かあつたのか。警察なんて、あんたみたいな人の行くところじゃないぜ 」

「ええそれが、ちょっと息子のことで…」

そのことで頭の中が一杯なのであろう。大きな溜息をついて、女は

つぶやくように言った。

「本当に好い子だったんですけど、とんでもない事をしてしまって、

警察のご厄介になっているものですから…」

「へぇ、万引きでもしたのか」

「そのくらいなら良いんですけど…」

「泥棒かい、タタキでもやったのか?」

微かに笑って、女は首を横に振った。

「そんな元気のある子じゃありませんよ。どうしたら良いのか、

私、誰にも話せなくて」

身内にも相談できる事ではないと、女はもう涙ぐんでいた。

美人ではないが、グレた息子を持った母親の、どうしようもない

困惑と哀しみが全身から滲み出ている。その様子が奇妙に

私の興味をそそった。

「まさか人殺しをやったわけじゃあるまい。貰い下げぐらいなら

相談に乗ってやっても良いぜ」

「えッ、そんなことが、出来るんでしょうか」

別に釣るつもりはなかったのだが、何気なく言った言葉に、

女は藁をも掴むような気持ちで縋りついてきた。

「あの、本当にお願いできるんでしょうか」

「コネがあることはあるが、弁護士じゃないから先はどうなるかわからねぇぞ」

「弁護士の先生も国選で、まだ決まっていないんです」

女はまた心細い顔つきになって言った。

「罪にもよるが、あんたの息子はいったい何をやったんだよ」

女はしばらく口篭もっていたが、やがてさも言いにくそうに

俯いたまま口を開いた。

「あ、あの、どこかのお嬢さんに、け、怪我をさせて…」

「殴ったのかい?」

「い、いえ…」

そこで、ようやくピンときた。私は母親の顔を睨みつけるように、

強い口調で言った。

「強姦か?」

「よ、よく判らないんです。ゆうべ突然警察の人が来て、

息子を目黒署に留めてあるからって」

女は気もそぞろで、ろれつも回らないようであった。

それで取るものもとりあえず面会に来たのだが、留置場の息子に会って

気持ちが動転しているのであろう。だがこれは容易な事ではなかった。

当時は万引きか軽い交通事故くらいなら、知り合いのお巡りに頼めば

何とかしてくれることもあったが、強姦ではまごまごすると裁判になって

執行猶予もつかないケースである。

「息子は幾つだ」

「 十九才です」

それでは子供扱いにするわけにもゆかないだろう。これは無理だと

思ったのだが、どうせ乗りかかった舟だ。

行くところまで行ってみるか、と私は心を決めた。

世間ずれしていない女の弱みにつけこむのは、赤児の手をねじるより

簡単である。

「まぁいいや、詳しく話してみな」

私は女を促して、押し込むように次に来た電車に乗った。



二、暗い部屋


女の名前は塚本与利子といった。四十三才というが、主人に死に別れて

五年間独身である。若いとき亭主を亡くしたせいか、まだそれほど

崩れてはいない。子供はひとり、それが達夫という今回の事件を

起こした息子だった。

家は東中野にあって、ちょうど良く帰りの道筋に当たっているので、

私は途中下車してそのまま与利子の家に入りこむことになってしまった。

「どうぞ、汚いところですけど」

一軒建てだが、家の中は暗くてガランとしている。如何にも盛りを過ぎた女の

後家住まいといった感じで、部屋に入ると、与利子は少しでも明るくしようと

思ったのか、昼間なのに灯りをつけた。

話を聞くと、達夫はさして不良と言うわけでもないが、デートに誘った女友達を

どこかの公園に連れ込んで、嫌がるのを強引に犯してしまったらしい。

その女がたまたま処女だったことから事が面倒になった。

娘が泣いて戻ってきたのを親が問い詰めて白状させ、激怒したあげく

医者の診断書をつけて訴えたから逮捕は当然である。

だが話を聞いているうちに、私は何故か腹が立った。

「診断書だと?それじゃ親が娘のおまんこを医者に診せたっていうのか」

「わ、私はよく判らないんです」

「若いもん同士がセックスするのは当り前だろう。はずみで処女を失った

おまんこを、わざわざ医者のところに晒しにもって行く親があるかっ」

バージンなど、いつかは無くなってしまうに決まっている。

それを警察にまで訴えた相手の親の根性が癪にさわるのである。

「やっぱり、刑務所に行くんでしょうか」

「それは判らねぇな。近ごろは警察も厳しいから…」

わざと難しい顔で言うと、与利子はお茶をいれながら、動揺を隠す

すべもなかった。

「でも、うちの子が刑務所なんて…」

「刑務所かどうか、そりゃあ向こうが決めることだ。法律は法律だからな」

「な、何とかならないでしょうか。お礼はしますから」

「礼なんかいらねぇよ」

吐き捨てるように言って、女の様子をうかがう。

「そんな気持があるんなら、罪滅ぼしに、あんたもその娘と同じ気持に

なってみたらどうだ」

「えぇそれは、もう…」

与利子は、まだこっちの目的に気がついていない。殊勝な顔で頷くのを見ると

気が咎めないでもないが、こんな棚からボタ餅のようなチャンスを見逃す

テもなかった。

第一、いくら怪我をさせたと言っても、処女膜を破ったくらい

どうと言うことはあるまい。娘が成人に達しているのであれば、それほどの

罪にはならないというのが、そのときの直感である。

「あんただって、タマには男に抱かれたいと思うことだってあるんだろう」

「え、えッ」

ギクッとして、与利子は茶をいれる手を止めた。

「そのお嬢さんだって案外その気になっていたのかもしれない。

無理に犯ったからって、べつに文句を言われる筋合いはねぇな」

いきなりスカートからはみ出している膝頭に手をかけると、与利子は

ヒッと息を引いたきり、身体が固まってしまったのかそのまま身動きもしない。

「そんなに悪いと思うなら、どうなるか自分の身体で試してみろ!」

「あ、あ、あ…」

ぐいと膝頭を持ち上げると、スカートを抑える余裕もなく、手に持った茶瓶が

ガチャンと大きな音を立てた。

「あんたの息子がやったことを教えてやる。脚を開けっ」

「あッ何を…」

「何をって、子供じゃねぇんだ。それとも息子を助けたくねぇのか」

「許して下さいッ、いやぁッ」「騒ぐんじゃねぇよ。強姦されたお嬢さんの

身にもなってみろ」

これではどっちの味方か判らない。ずいぶん勝手な理屈だったが、

雰囲気ではそんなことはどうでも良かった。強引にスカートを捲くると、

思いがけなく真っ白で透き通るような太腿が露出する。

「ひィィッ」

「ズロースを脱ぎな。脱がないと本当に犯るぜ」

「まッ、待って、脱ぎますッ」

四十を過ぎた女のとっさの打算である。与利子は震える手で下穿きに指をかけた。



三、ある強姦の記録


「ほ、本当に、達夫を出して貰えるんでしょうね」

「知らねぇよ、俺は弁護士じゃないと言ったろう」

「そんなッ、じゃ何故こんなことを…ッ」

「あんたにまだ男を誘う魅力が残っている証拠だ。そう言われると嬉しいだろ」

笑いながら乗りかかってゆくと、与利子は眼を大きく開けたまま、

口をパクパクさせて喘いだ。

「息子が他所の娘にどんな事をやったか想像してみな。興奮するぜ」

「ひ、ひどい…」

構わず、閉じた肉の間に指を入れると、なかはまだ濡れていなかった。

年のせいかタップリと脂肪がついて、グニャグニヤとしたナマ肉のように柔らかい。

「勿体ねぇ、このぶんじゃ大分ご無沙汰していたようだな」

少し粗い感じの陰毛を掴んで引っ張ると、与利子は呻き声を上げて腰を浮かした。

「止めてくださいッ、どッどうしてこんな」

「悪く思うなよ。口惜しかったら後で警察に行け」

こっちは悪人になればなるほど性欲が昂進する。みるみるうちに充血して

脈を打ちはじめた奴を容赦なく穴の真ん中に当てた。

「くぅむッ」

ひと突きで陥没させようとしたのだが、濡れていないせいか肉ベラを

巻き込んで、与利子はのけ反って咽喉を鳴らした。

「しっかり腰を使えっ、蜘蛛の巣が張ってるんじゃねぇのか」

「くぇぇぇ…ッ」

それでも一度腰を引いて突きなおすと、グスグスと軋みながら

根元近くまで入った。

「どうだ犯される気分は、嫌じゃねぇだろう」

強引にブラウスのボタンを外して乳房を握ると、激しく前後に揺すった。

若い頃にはさぞかし立派だったのだろうが、大きい割には柔らかくて

ブヨブヨした感触である。

「あッ酷い、そんなことしないでェ」

動きが滑らかになると、ようやく少し理性を取り戻したのか、与利子は

恨めしそうにこちらを見上げながら呻くように言った。

「駄目よッ、駄目ェ、こ、こんなおばぁちゃんを…」

「ふふふ、見ろ。身体は正直だぜ。ちゃんと空家で淋しかったと言ってる」

「あッ、いやァ…」

入れたままクリトリスを揉むと、何時の間にかコリコリと固くなっている。

盛りはとっくに過ぎているが、ジクジクと淫液が滲み出していた。

セックスを諦めかけていた女の、どうにもならない反応である。

「どうだい、こうなったら徹底的に強姦されてみるか」

「ハッ恥かしい」

ブラウスをはだけて見ると、先刻の爪痕がみみず腫れになって、乳房の上に

薄赤い線条が幾筋も浮かび上がっていた。黒くなった乳首が垂れているのを

咥えて吸ってやると、与利子は突然ブルブルと身体を震わせて

感覚の昂まりを示した。

「あァそこやめて、やめてッ」

「甘いじゃねぇか、まだ乳が出るのかい」

「くはァッ、くェェ…ッ」

二・三度突きを入れただけで、発情した中年女の快感の表現は何とも淫らで、

猥褻なものであった。

「うわァ来るッ、来ちゃうゥ。うわわわッ」

それから5分後、イクという言葉を知らないのか、与利子はクル、クルと

口走りながら突然激しく腰を上下に跳ねた。

「よしイケ、もっとイッてみろ」

それからしばらく、与利子はまるで瀕死の川獺のように全身を回転させながら

呻き、のた打ち回った。

ようやく落ち着きを取り戻してきたのは、イキ始めて二十分以上経ってからのことだ。

「快かったぜ。息子のことは何とかしてやるから安心しろ」

こちらは射精もせずに、まだ固いちんぼを舐めさせながら言うと、与利子は

エッと上眼使いの視線を向けた。

「親のところに謝りに行って来い。向こうだって娘の恥だ。たいしたことはねぇよ」

コクリと頷いた拍子にちんぼが咽喉の奥に刺さって、与利子はゲェッと

噎せたように咽喉を鳴らした。

「わかったか、それじゃ出すぜ」

「ウゲェ、ゲホッ、オェェェ…ッ」

後で聞いたことだが、息子の達夫は20日間留置場に留められたあと、

起訴もされずに釈放されたようだ。だが私には二度目の謝礼を要求する

気持ちはもうなかった。

与利子のようなタイプの女は、最初で最後にしておくほうが賢明である。



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