一、 つわりの現場
「おい、お前そんなとこで何やってるんだ」
その日、ふと思い立って女のアパートを覗きに行ってみたときのことであった。
入口の扉を開けるとすぐ横が台所と便所になっていて、その向こうに
狭い風呂場がついている。部屋は六畳ひと間だが、当時バス・トイレ付と言えば
木造アパートとしては上等なほうだ。
その風呂場のガラス戸に首を突っ込むような形で女が一人、こちらに
尻を向けている。
私が声をかけると、びっくりしたように女は慌てて身体を起こした。
「美佐代じゃねぇか、どうしたんだ」
「いえ、あの、別に…」
内部を見られたくない様子で、美佐代はガラス戸の隙間を身体で隠しながら言った。
「ちょっと疲れたみたいで、気分がすぐれなかったものですから」
「ふぅん、昨夜は泊りじゃなかったんだろ」
「ハイ」
「だったらタップリ寝ているはずだ。疲れるわけねぇだろうが」
「申し訳ありません。もう大丈夫です」
だが疲れたと言うより、どこか具合が悪そうな青い顔をしている。
「近ごろ元気が無いようだな。病気じゃねぇのか」
「いえ」
「女は身体が元手だ。気をつけないと身体をこわして辛いのは自分持ちだぜ」
言いながら、待てよ…、と思った。
「ちょっと、部屋に来い。聞きたいことがある」
昭和二十年代の後半、そのころ変態クラブはまだ非合法で、私が経営していた
『芸苑社』には、人生の重荷を抱えた女たちが、どこからともなく秋の枯葉のように
吹き寄せられて集まっていた。多いときには六畳に四・五人の女が寝泊りして、
雑魚寝しながら客を取る。
従業員の寮といえば聞こえは良いが、言わば女のタコ部屋である。
非合法だから、なるべく目立たないように服装も化粧も地味であった。
金山美佐代も、そんな女の一人だったのである。年令は三十台半ば、
それほどの美人でもなく、どういう事情があったのか聞きもしなかったが、
性格が従順なせいか、無理やり仕込んだマゾの雰囲気も身について、
年令のわりにはよく客にモテた。
「どうせバレるんだ、正直に言ってみろ」
女たちは昼間から仕事で出払って、部屋には二人だけである。
「お前、また孕んだんじゃねぇのか、さっきのはつわりだろう」
えっ…、と美佐代は怯えたように顔を上げた。ここで働くようになってから、
二年足らずの間に妊娠はこれで三度目である。
「どうして、もっと早く言わねぇんだ。早く始末しねぇと大ごとだぞ」
「あの…」
思い詰めたように、美佐代は膝でにじり寄るとタタミに両手をついた。
「お願いです。こ、今度だけは、私どうしても産みたいと思って…」
「何だとぉ」
「結婚していた頃から数えて、もう四回も堕ろしているんです。
お、お願いだから…」
「バカも休み休み言え。子を産んでクラブを辞めるつもりか」
「いえ働きます。一生懸命しますから、今度だけは…」
「それじゃ聞くがな、腹の子の父親は分かっているのかよ」
「………」
「それみろ、どこの誰かも分からない変態の子を産んでどうするんだ」
「で、でも」
「ガキなんか作ったら、ひと月やふた月は仕事だって出来やしねぇんだぜ。
良いかげんにしろっ」
「お許しくださいッ。そ、その代わり、産むまでは死んだ気になって働きます」
いきなり膝にしがみついて、感極まったように泣きじゃくる。
「わ、私もう年だし、この子を堕ろしたら、一生子供が持てなくなると思うと…」
「うるせぇな、いま何ヶ月になるんだ」
「三ヶ月、いえ、た、たしか四ヶ月に…」
「ちぇっ、どら腹を見せろ」
泣き伏しているのを仰向けにひっくり返してスカートの中に腕を入れると、
まだそれほど膨らんでいるわけではないが、たしかに子宮が固くなって、
下腹のあたりがしこりのようになっているのが判った。
「バカ野郎、おまんこがダラシねぇからこういう失敗をするんだ。気を付けろっ」
二、臨月の腹
どんなに罵倒してみても、妊娠が事実ならどうしようもない。
何とか堕ろさせようとしたのだったが、美佐代は必死になって抵抗した。
誰のタネか判らなくても、自分の胎の子であることは間違いないのだから
産みたいと言う。
先々の苦労は目に見えていたが、こうなると成り行きに任せるより他になかった。
乱暴に扱えば流産することもあるのではないかと思って、わざとハードな
スケジュールで客を取らせてみたが、一向にその気配もないようである。
夜遅く、身体じゅう鞭痕だらけになって戻ってきて、ミミズ腫れになった
乳房や尻をいたわりながら耐えている姿を見ると、つい可哀想になって、
このまま産ませてやりたいとも思う。
だが他の女たちの手前、タダ飯を食わせておくわけにはいかないのである。
そうこうしているうちに、外側から見てもハッキリと腹の膨らみが判るようになった。
五ヶ月を過ぎ、そろそろ六ヶ月目の半ばにさしかかっていることは歴然である。
私はあらためて美佐代を呼んだ。
「身体の調子はどうだ」
「えぇ、何とか…」
眼の周りにクマが出来て、かなり疲れている様子だったが、美佐代は
気丈な笑顔を見せながら言った。
「子供がお腹にいると思うと、何故だか励まされて元気が出ます」
「だがよ、そろそろ限界だぜ。孕んだ女を抱かせたと言って客から文句がきた」
「えッ」
とたんに笑顔か消えて、美佐代は不安そうな目をした。
「で、でももう少し、病院の費用がまだ…」
「そんなもの、どうにでもなるさ。いくらなんでも、これ以上客を回すわけには
いかねぇんだ」
「………」
「辞める気がないんだったら、寮にはおいてやるから女中でもやれ。
それが嫌なら独立して部屋でも借りることだな」
「ま、待ってください」
当時の住宅難は、今では考えられないほど酷いものであった。
働く口もなく無理に部屋を借りても、気楽に子供を育てて行けるほど
甘い世の中ではなかった。
「何でもしますから、お願いです置いてください。お願い助けて…」
美佐代にしてみれば、ワラをも掴む気持ちだったのだろう。
無情に追い出してしまうわけにも行かず、結局こちらも荷物になるのを
承知で背負い込んだかたちになった。意外だったのは、一緒に働いていた
女たちの反応である。客を取らない女がいると、その分だけ自分たちへの
負担が余計にかかる。それでなくても労働過重でヘトヘトになっているのに、
どうして特別扱いするのかと始めのうちは虐めなどもあったようだが、
やがて七ヶ月を過ぎ八ヶ月目に入ってロクに身体も動かせなくなると、
女たちは反対に身重の美佐代を労わるようになった。
母性本能の現われかとも思うが、肩で息をしている女をかばって
何くれとなく世話を焼く。
苛酷な労働だが、美佐代のぶんまで進んで客を取るようになったのは
不思議である。
そんなある日、私は再び美佐代を事務所に呼んだ。
「ずいぶん膨らんだな、予定日はいつだ」
「病院では、十一月の八日と言われました」
「ふぅん、あと三日か…」
近所の病院に予約はしてあるし、これまでの貯金で産着なども
買ってあるから心配はないが、出産も近くなると、さすがに男でも緊張した。
「ちょっと、裸になって腹を見せてみな」
ブカブカのワンピースを着て膨らんだ腹を隠してはいるが、上半身が
反りかえっている姿を見ると、私は急に妙な気持ちになった。
「えッでも、みっともないから…」
「今になって恥かしがることはねぇだろう。いいから見せろ」
オズオズと、美佐代がワンピースをたくし上げて首から脱いだ。
飛び出した腹の頂点に、少し出べそになった臍が盛り上がっている。
パンパンに張って光っている肌に、くっきりと深い数本の妊娠線が
流れるように脚のつけ根に向かって刻まれていた。
白い厚手のズロースが陰毛の生え際までズリ落ちて引っかかっている様子は、
これまで体験したことのない異形である。
私は女の動物的な側面をまざまざと見せつけられたような気がした。
「ズロースを脱いで、足を広げてみろ」
「は、はい」
いまさらイヤと言える筈もなかった。ふるえる指で、美佐代はズロースに手をかけた。
三、女肉の味
「ほう、面白いおまんこだな」
前屈みにズロースを取って目の前に立った女の股間に、鶏肉のような
色をした大陰唇が柔らかそうな感じで垂れ下がっていた。
手を伸ばすと、美佐代は二・三歩後ずさりしたが、歯を食いしばって
よろめきながら脚を広げる。垂れ下がった肉を掴んで、雑作なく左右に
ひらいて引っ張ってみると、まるでゴムのように自在に伸びた。
「きっと安産だぜ。どうだ、腹はまだ痛くならねぇのか」
「は、はい、大丈夫です」
「だったらそこに寝ろ。産む前に道具の具合を調べておいてやる」
事務的な抑揚のない口調で言うと、美佐代はギョッとした様子で息を呑んだ。
「良いだろう?産んだら当分は出来ねぇんだ。今のうちにイカせておいてやるよ」
「ひぇッ、で、でも…」
言葉を失って、美佐代は呆然とこちらを見つめた。恐怖と不安がありありと
顔に滲み出ている。
「どうせ変態の子だ。今から仕込んでおけば後になって役に立つぜ」
早くも乳汁を含んでいるのか、ボッテリと垂れた乳房を突くと、よろけた拍子に
膝の力が抜けて、ヘタヘタとその場にうずくまってしまった。
「よぅし、こっちにケツを向けろ」
仰向きにすると腹がつかえそうなので、横ざまに転がして脚をかつぎ上げると、
赤黒く色づいた尻の穴とワレメの継ぎ目がムキ出しになった。
見ると、ベッタリと白い粘液が染み出している。いくらなんでも興奮している
筈はないので、妊婦特有のおりものであろう。
委細かまわず、私は硬直した男根の先端を肉溝の凹みに当てた。
「うぅむ…ッ」
ひと思いに腰をいれると、美佐代は圧し潰されたような呻き声を上げたが、
実際には、それほど絞まっていると言うわけではなかった。
感覚としては、むしろブカブカである。分泌物が多いので、はじめからヌラヌラと
滑りが良くて、男根がナマ温かい肉の中で自由に動き回る感じだった。
「はぁッ、あ、あんまり、酷くしないでッ」
「バカ、まだ何もやっちゃいねぇよ」
「あッうぅん」
両手で腹を庇いながら必死に耐えようとするのだが、腰を使うたびに
体重がかかるので苦しげに喘ぐ。口をパクパクとあけて、美佐代は
けだもののような息を吐いた。
「やめてッ、かッ感じてきちゃうッ」
「いいからイッてみな。そのほうが産みやすくなるぜ」
おりものか淫汁か判らないが、下腹に毛が貼りついてしまうほどベタベタである。
ユサユサと揺れている乳房を鷲掴みにすると、乳頭から白いものがジュクジュクと
滲み出してきた。
「うぇぇ、かッ、かんにん、してぇ…」
快感から逃れようとして、途切れ途切れに呻く。筋肉が自然に収縮して、
痙攣を始めそうになるのが怖いのである。
「いけっ、ひと思いにイッてみろ!」
腹の上で弾みをつけて、二度三度抉るように奥を突くと、美佐代はたちまち
絶望的な声を上げた。
「あぁぁ、もう駄目…ッ」
とたんに、山のように盛りあがった腹の肉が、ヒク、ヒクと波を打った。
「イッ、いっちゃうッ。うッうゥゥッ」
一瞬、括約筋が絞まったような気がしたのだが、あるいは気のせい
だったのかも知れない。
美佐代の体内で男根が容赦なく動きつづけて、絶頂は連続的に少なくとも
三・四回はきた。
「いくいくッ、あぁもう…」
その度に、砂浜に打ち上げられたイルカのように白い腹を抱えてのた打ちまわる。
「ひィィ、ゆ、許してくださいッ」
「よし、それじゃそろそろイクぜ」
ようやく女のなかに精液を吐き終わると、私は何故か性欲も醒めたような感じで、
身体の半分もありそうに変形した腹を投げ出したまま動かなくなっている
女を見下ろしながら冷たく言った。
「もういい、病院で笑われないようにおまんこを良く洗っておけ」
実際、あまり後味の良いセックスではなかった。女を物扱いすることには
馴れているつもりだったが、臨月の女の味はむしろ動物に近い。
その次の日の朝、予定日より二日ほど早く陣痛が来て、美佐代は入院した。
産まれたのは、標準より少し大きい、健康で五体満足な女児であった。