一、白昼の淫事
今ではそれほど珍しいことでもないが、そのころ「よろめき」という言葉が
一種の流行語になっていた。
昭和30年代の後半、世の中が好景気に沸きたっていたころの話である。
村上三千代、39才…。
たまたま友人の家に不幸があって、参列した斉場の隣の部屋で、別の葬式に
来ていた女に声を掛けたのがきっかけで、それからズルズルとつき合うように
なった。おもて向きは品の良い奥様風で、とてもよろめくようなタイプには
見えない。女とは判らないものだ。
私が三千代の家に出入りしたのは、決まって午前10時から2時頃までの
時間帯だった。いわば、主婦として一番安全なフリータイムである。
訪ねていくのはせいぜい月に一度か二度、その度に、三千代は精一杯の
化粧をして待ち兼ねていたような素振りを見せた。
肉体はもう盛りを過ぎていたが、性欲は人一倍強い。熟れ切った女の情念が
いちばん旺盛になる年令であろう。
夫はどこかの会社の幹部社員で、夜にならなければ帰ってこない。高校生の
娘がいるのだが、学校から戻ってくるのはだいたい午後の3時すぎである。
約束の時間に玄関のチャイムを押すと、すぐに内側から鍵を開ける音がして
扉が開く。
「誰にも見られなかった?」
やはり気になるのであろう。三千代は胸の動悸を押さえて、いかにも
ホッとした様子を見せた。
なかに入ると応接間、その奥がふた間続きの和室である。豪華な
調度ではないが、見まわすと壁に娘の修学旅行の写真が掛けて
あったり、茶ダンスに旦那の湯呑みが伏せてあったり、生活の匂いが
いっぱいに漂っている。
時間が時間なので、部屋には手料理の食卓が用意してあって、
さりげなく生卵が一個添えてあった。
「いい部屋だな」
「そうかしら、あんまり掃除もしないんだけど…」
おかわりの茶碗を出すと、三千代はママごとでもしているように
ウキウキとした調子で言った。
「女はつまらないわ。家にいたって、何もすることがないんですもの」
「いいじゃねぇか、三食昼寝つき、それで男と遊べりゃ言うことないだろ」
「ふふふ、私って悪い女ね」
最近のように、誰でも気軽にラブホテルを利用するといった時代ではない。
相手の家で、旦那の留守に上がり込んで女房を盗む、その後ろめたさが
奇妙なスリルになって、反対に淫靡な欲情をそそった。
「そうか、それじゃどのくらい悪い女か試してやろう」
「あッ、ちょっと…」
飯はまだ残っていたが、いきなり肩に手を掛けると三千代は
びっくりしたように腰を引いた。
「だったら隣の部屋で…、ね、ね」
襖を開けると、奥の六畳に真新しいシーツをかけた布団が敷いてある。
普段使っているのではない。客用の厚みのある赤い掛け蒲団が
なまめかしく見えた。
「こっちのほうが落ち着くから、ね、良いでしょ」
三千代が急いでカーテンを引いた。だが外は真っ昼間である。陽の光が
直接にさし込むことはないが、明るさにはほとんど変化がなかった。
「早くしろよ、時間がねぇぞ」
「えッ、えぇ…」
時計は正午を少しまわっている。カーテンの横で、三千代はガラにもなく
甘えた声で言った。
「見ないでェ、恥ずかしいから…」
それ以上部屋を暗くする方法がないので、仕方なく背中を向けて
着ているものを脱ぐ。窓際に浮かんだ女の肌は、年令を忘れさせるほど
白くてまばゆかった。
「ねぇ、横に行ってもいい?」
「なに言ってんだ、早くしろ」
「あ、ハイ」
片手で陰毛を押さえて、爪先から布団に滑り込んでくる。
引き寄せると、下半身にタップリと肉がついて、身体全体に成熟した
女のボリュームがあった。
「私、太っているでしょ。嫌じゃないの?」
「そんなことねぇよ。年よりは若い」
「ほんと? 嬉しい…」
三千代は大きめの乳房を擦りつけるように寄り添って、喘ぐように言った。
「あぁ…、待ち遠しかったわ」
二、浮気問答
パンティを脱がせる手間がいらないので、いきなり股間に腕を入れると、
亭主を送り出した後で風呂に入ったのか、微かに石鹸の匂いがした。
ジャリジャリと少し濃いめの陰毛の奥に、もうジットリとヌメリが
滲み出している。
「ねぇ今日はタップリとヤッて、夜まで誰も帰って来ないから…」
「子供はどうしたんだ?」
「しおりはピアノのお稽古、近いうちに発表会があるんですって」
「へぇ、ピアノを習わせているのかい。豪勢だな」
しおりというのは一人娘の名前である。
「女の子だから、何か芸ごとを身につけて置かないと…」
母親の立場から解放されて、三千代は人が変わったように
淫蕩な女になっていた。
「あッそこ、いいわ…」
指を動かすと、その度に三千代はヒクヒクと内側の筋肉を締めた。
「旦那とはずっとヤッていなかったのかよ」
「だって、あの人、私のことなんかもう興味ないのよ」
「へぇ、女でもいるのかい」
「さぁ…、でもいいの」
投げやりな調子で言うと、三千代は目尻に淫蕩な小皺を浮かべた。
「私だって好きなことやってるんだから…」
「いいから言ってみな。旦那とは月に何回くらいヤルんだ」
「そんな、本当にやってません」
「それじゃ普段はどうするのさ。オナニーで始末しているのかい」
「ハッ恥ずかしいこと聞かないで、ウッ」
爪の先でクリトリスを掻くように刺激すると、三千代は腰を震わせて
うわずった声を出した。
「お、お願い、もう焦らさないで…」
髪の毛の匂いが心地好い。昼下がりのつかの間の情事は、いかにも
他人の女房を抱いているといった奇妙な猥褻感があった。
「ア、アッ」
上半身を起こしていきなり布団を剥ぐと、三千代は慌てて両足を縮めた。
構わず太腿に手をかけて左右にひらく。
若い女のような固さはないが、陰毛が太腿のつけ根までひろがって、
熟れた女の卑猥さを存分に見せつけている。脂肪ののった下腹部の
肉を掴むとブリブリと揺れた。
わずかにハミ出した肉ベラを開くと、なかは真っ赤である。
「ひでぇ、好きそうなおまんこだな」
「いやァ、見ないでッ」
両腕を曲げて顔を隠しているのだが、その腕の付け根に、少し前に
剃ったらしい腋毛がプツプツと伸びかけていた。
「へぇ、旦那とヤルときも、いつもこんなに濡らしてるのかよ」
「ち、違う…、こんなこと今までになかったのよゥ。あんたが好きだから…」
「うまいこと言いやがって、根っから助平なくせに…」
「いじわるッ、違うってば…」
「いいから、もっと脚をひらけ」
「イヤ恥ずかしい…」
「馬鹿、それじゃ入らねぇだろう」
「うふん、じゃ開かせてぇ」
どこか芝居染みた中年女の媚びである。
遠慮なく両脚を一杯に開かせて、上からのしかかるように体重をかける。
狙いをつけてひと思いに腰を落とすと、三千代はとたんに甲高い嬌声を
あげて弓なりに反りかえった。
「あ、いいぃッ」
相手が変わると、肉体は驚くほど新鮮な反応を見せる。それは男も女も
同じであろう。
「も、もっと、そっとやって…ェ」
「逃げるな、おまんこをこっちに向けろ」
「ダッ駄目、きつい…ッ」
「嘘をつけ、こんだけ濡れていりゃ心配ねぇよ。もっと締めてみな」
男根が肉にメリ込むような感じで、容赦なく腰を弾ませると、その度に
グチャピチャと粘り気のある音が鳴った。
「よ、止してッ、イッちゃうから…ッ」
「いいじゃねぇか、久し振りだ。思い切りイッてみな」
「ウァァ、駄目ッ、駄目…ッ」
飢えた肉体に淫らな杭を打ち込まれ、乱暴に突きまわされて、たちまち
快感が噴き出してくる。それは意志の力ではどうにも止めようのない
女の生理だった。
「どうした、まだイカねぇのかい。イカなきゃ抜くぜ」
「ま、ま、待って…。ウゥゥムッ」
それから三千代が歯を食いしばって全身でのけ反るまで、ものの二分とは
かからなかった。
三、決定的瞬間
「アァいいッ、どうしてこんなに快いの」
一度ナマの快感をさらしてしまうと、三千代は開き直ったように大胆になった。
ほとんど失神せんばかりの激しさで絶頂に達するのだが、快感の潮は
少しも退く様子を見せない。たちまち復活して二度三度と大波がきた。
「やめて、もう止めて、許して…ェ」
言葉とは反対に、肉体はジェットコースターのように暴走していた。
「く、くるしいッ、アゥゥ、いくゥ…」
まるで際限がなかった。成熟し切った女の凄まじい性欲である。
「こっち向け、下から入れてやる」
横抱きにして片脚を腰の上に乗せ、大きく股をひろげる。斜めに突き上げると、
根もとまでしっかりと埋まった。
「ああ快いッ、し、死んじゃう…」
「ようし良く締まるぜ。今度はケツを出せ」
ときどき態位を変えないと、こちらがもたないのである。射精してしまえば
それまでなので、出来るだけ引き伸ばしてきたのだったが、さすがに
限界だった。
コントロールしてきた力を抜いて、二・三回腰を使えば、大量の精液が
放出されることは目に見えていた。
「いいか、そろそろイクぜ」
「早くッ、早くちょうだい…ッ」
三千代がうわ言のように言った。
上から乗りかかって、あらためて最後のとどめを刺そうとしたときであった。
突然ガタンと音がして、部屋の襖が開いた。
……?
ギョッとして振り返ると、制服姿の少女がカバンを持ったまま、呆然と
立ちすくんでいた。
やばい…!
これがひとり娘のしおりであることは間違いなかった。
「え、えッ、えェェ…ッ」
三千代も気がついたが、一瞬何が起こったのか理解できなかったようだ。
そして次の瞬間バネ仕掛けのように跳ね起きようとした。
「待てっ」
とっさに乳房と肩を抑さえつける。
「抜くんじゃねぇ、いまイクところだ」
ヒィッ…、と三千代が咽喉の奥で啼いた。
ドクンと男根が脈動して、最初の精液の塊りが抜ける。続いてすぐに
二回目の脈動が始まった。
「し、しおり…ッ」
肉体の奥に熱い蜂蜜のような粘液を受け入れながら、三千代はまるで
夢遊病者のように叫んだ。
「しおりッ、いい、あァァ…」
あまりの光景に、少女は逃げることも叫ぶこともできず、その場に
凍りついている。そして三千代は、それきりぐったりと動かなくなってしまった。
気持が錯乱して、思考力が麻痺してしまったのであろう。三千代にしてみれば、
隠すすべもない決定的な瞬間である。
「あんた、しおりちゃんかい?」
男根の脈動がおさまると、私はゆっくりと母親のからだから離れながら言った。
「今日はピアノの練習はなかったの?」
おそらく、何かの都合で中止になったのであろう。少女は虚ろな表情で
かすかにうなづいたように見えた。
「ちょうど良い、お母さんも今終ったところだ」
「………」
「ホラ見てごらん。おまんこが可愛いだろう?」
目の前に全裸の母親が無残に股を拡げて、黒々とした陰毛を露出している。
ワレメの真ん中に、赤く色づいた肉ベラが垂れ下がって濡れ濡れと
光っていた。それは、思春期になったばかりの少女が見たことも想像したことも
ない光景だったに違いない。
「心配ないよ。お母さんは気持ち良かっただけだから、しおりもやってみるか?」
「止めてくださいッ。しおり、お願いあっちへ行って…」
ようやく起き上がって、三千代は両手で乳房を押さえながら言った。
「何も隠すことはないだろう。もう子供じゃないんだ」
「で、で、でも…」
「オタオタしていないで、早くおまんこを拭きなよ。滴が垂れるぜ」
まさかそんな恰好を晒すこともできず、三千代は世にも惨めな顔で
うつむいていた。
「良い性教育になったじゃないか。こんどは小父さんが実地に教えてやろう」
「や、やめて…、帰ってお願い…」
その後三千代がどうやってこの場を取り繕ったのか、残念ながら話は
ここまでである。本気で犯ろうと思えば、あるいは出来たかも知れなかったのだが…。