覗かれた女主人







一、 崖下の家


昭和三十年代の前半、戦災にもあわず焼け残った家がまだあちこちに

残っていたころ、日本家屋の浴室は意外と簡単に覗くことが出来た。

今では死語となってしまったが、バスルームが湯殿(ゆどの)と呼ばれていた

懐かしい時代である。

そのころ、私はまだ学生だったが、杉並の郊外にある善福寺というところに

下宿していた。最近ではいわゆるお屋敷町になっているが、当時は家の数も

まばらな郊外の辺鄙な住宅街であった。

もともと東京の山の手は、武蔵野のなだらかな丘陵を切りひらいて伸びた

町だから、目立たないようだが意外と起伏が多い。表通りは坂道で、

それぞれの家が石垣を造って段々に並んでいる。裏に回るとすぐ下の家の

屋根がちょうど眼の高さにあった。

隣家との間は、一メートルとは離れていない。北向きの台所の隣りに

三尺の曇りガラスをはめた窓があって、そこがその家の湯殿だった。

当時、換気扇などは付いていないので、使用していないときはもちろん、

夏などは湯気がこもると自然に窓を開ける。いわば、覗きマニヤには

絶好の条件が整っていたと言って良い。

暗くなって学校から戻ると、よく下の家の湯殿にぼんやりと灯りが点いて

窓が開いていることがあった。向こう側からは石垣の崖しか見えないから

安心だと思っているのだろうが、崖の上から身を屈めて顔を地面にくっつけて

見ると、小判型の木製の風呂桶や敷いてある簀の子までありありと見えた。

その日も裏庭にまわってみると、窓は閉っていたが、誰かが風呂に入っていて、

ザッ、ザァッと湯を汲み出す音までハッキリと聞こえた。

曇りガラスから透けて見える人影は、あきらかに女である。人影がこの家の

女主人であることはすぐにわかった。

「なんだ、またオバサンか…」

表の表札には菊池と出ているだけだが、戦争未亡人なのか、亭主と別れて

独身なのかは判然としない。

広い家に、入浴するのはいつ見てもこの女一人で、他に家族はいない

ようであった。初めのうちこそ熱心に覗いていたのだったが、いつ見ても

同じ女では面白くない。年令も四十才を超えているらしいこともあって、

いい加減飽き飽きしていた私は、未練もなくその場を立ち去ろうとした。

そのとき、ちょっとした異変が起きたのである。

「ほっほ、ほほほほほ…」

湯殿の中から、妙に華やいだ笑い声が聞こえた。

同時にガタガタと音がして、曇りガラスの戸が十センチほど開いた。

「暑いわねェ、あぁいい気持…」

えっ…?

あわてて身を屈めて引き返し、崖の上から首を伸ばしてみると、

奥にもう一人、確かに誰かがいるようであった。

男だ…!

チラリと見えた脚の形は間違いなく男である。

独り暮しの女の家で、珍しく男が一緒に風呂に入っている。これを見逃す

というテはなかった。

場所をずらして、隙き間から出来るだけ覗ける角度に変えると、少し丸く

なった女の背中が半分こちらを向いていた。ボリュームのある腰の横から

男の脚が一本ニュッと突き出して伸びている。緩慢な動きから察すると、

どうやら女は向かいあった形で身体を洗ってやっているらしいのである。

「ずいぶん固いのねェ、ふふ、ホッホホ…」

後ろ向きに背中を流してやるというのなら判るが、向かい合っているのは

入浴シーンにしては変ったポーズだった。

どう見ても男の性器を洗っているとしか考えられない。

次の場面を期待して、私はいっそう息をひそめた。

「………」

その後も女はしきりに笑い声をあげたが、何を話しているのか、湯気に

こもって聞き取ることが出来ない。

やがて、女が浴槽から湯を汲み出すと、ザッと正面から男の身体にかけた。

「ねぇ立って、いいんでしょ、アラ…」

相変わらずくぐもった声が途切れ途切れに聞こえた。ポーズが変って

男が立ちあがった様子、見えるのは、やはり女の背中半分と腰の丸み

だけである。

湯気と曇りガラスを通して、男の姿は極端にぼやけていが、背中の曲線を

たどって行くと、女の顔は男の股間に吸い付いているとしか思えなかった。

ゆっくりと背中が波を打ち、脚を開いて、股がベッタリと簀の子に貼りついて

いる様子は見ているだけで淫らな欲情をそそる。



二、覗きの妄想


結局、二人は期待していたようなセックスまではやらずに湯殿を出て

いってしまったのだが、本番は寝室でタップリと楽しむのだろうと、

その情景を想像して、私はいても立ってもいられないような性欲を感じた。

時間にすればほんの七・八分の間の出来事だったが、覗きというのは、

思うように全部見えないところにかえって欲情をそそられるのかも知れない。

これは若かった私にとってかなりのショックだった。

それからというもの、私は再び熱心に覗きをやるようになったが、入浴するのは

いつも女一人で、何故か男の姿が現れることはなかった。

とすれば、あれはやっぱり家族ではなく、何かの理由で外からやってきた

男だったに違いない。

畜生、うまいことやりやがって…

どこの誰かも判らない男に、私は奇妙な嫉妬さえ感じた。

独り身の女の家に上がりこんで、一緒に風呂に入ったあと、存分に楽しんで

行ったであろう男の舌なめずりを思うと、ひどく羨ましかった。

そんなに男が欲しいんなら、なぜ俺に言わねぇんだよ…

妄想は次第に膨らんで、四十才を過ぎた女の身体が、蕩けるような

淫欲の固まりに見えた。覗き窓の隙間からチラリと陰毛が見えたりすると、

何か貴重なものに出会ったような気がして胸がときめく。

そしてこの女が見知らぬ男を引き入れたと言う事実は、欲望を

より現実的なものにしていた。

畜生、犯ってみてぇな…

そう言えば、あの時からもう2ヶ月近く過ぎている。

その間一度も男の気配がなかったことを思えば、熟した女の肉体は

ほとんど飢えきっている筈であった。

よし、どうしても犯ってやる…

すぐ目の下の家といっても、こちらは下宿の学生だから、まともな面識はない。

これはかえって幸いであった。

風の強い日の午後、私は計画を立て、部屋にあった書き損じのレポートや

メモ用紙を持ち出して、崖の上からパラパラと撒いた。

そのうちの何枚か、開いていた湯殿の窓に入ったことを確かめると、

私はすぐ表に回って玄関の扉を叩いた。

「あっすいません。俺、この上の家に下宿している者なんですけど」

出てきたのは、四十を少し過ぎた感じの脂がのった色の白い女である。

初めて正面から拝む顔だが、目じりの皺や口元のほくろが、年よりもずっと

好色そうな女に見えた。

「あの、学校に出すレポートが風に飛ばされて、お宅のお勝手のほうに…」

事情を説明すると、女はちょっと驚いたような顔をしたが、すぐに納得して

なかに入ることを承知してくれた。

「すいませんね、大事なレポートだもんで」

板壁に沿って裏庭に回ると、湯殿の前に白い紙切れが散乱している。

女もついてきて

「アラここにもあるわよ」

などと言いながら、一緒になって拾うのを手伝ってくれた。

「ありがとう、オバさん親切だな」

確かに、オバさんと呼んでも可笑しくはないくらいの年の差だが、

意識してオバさんという言葉を連発すると、何故か性欲が昂まって

くるのが不思議だった。

「オバさん、ちょっと来てくれませんか」

背伸びして湯殿の中を覗きこみながら呼ぶと、女は何の警戒心もなく

近寄ってきた。

「この中にも入っちゃっているんで、取りに上がらせてもらっても良いですか」

背が低いので、女は中を見ることが出来ない。後ろから尻を抱えて、

グイと持ち上げてやると、女はアレッと軽い叫び声をあげた。

ズシリと重い尻で、指先に来た分厚い肉の感触に、たちまち男根が勃起する。

「ほら、あそこにあるでしょう。この窓から入ったんだ」

「あ、あ、そうね…」

女は息が詰まったような返事をしたが、こちらの要求は承諾しないわけには

行かなかったようだ。

「ほんと、取りに行きましょう」

「悪いですね、じゃオバさんも一緒に…」

「え、いいわ」

女は少し顔を紅潮させながら言った。発情しているわけではないが、

この反応中年好みの私にとってたまらない魅力である。

「どうぞ…」

玄関に戻って家に上がると、キチンと片付いた座敷を通って、中廊下の

突き当たりが湯殿になっていた。戸を開けて、先に中に入った女が、

こちらに背を向けて書類を拾っている尻がムクムクと動くのを眺めながら、

私はさりげなく声をかけた。

「ねぇ、オバさん…」



三、奇妙な強姦


振り向いた女の顔が、一瞬こわばる。入り口に立って、ズボンのチャックを下ろし、

硬直した男根を握ってしごいている男の姿に、とっさに声が出なかったようだ。

「ヤラしてくれませんか、俺、ひと月もヤッてないんで、こんなになっちゃった」

「………」

「俺、オバさんみたいな女の人が好きなんです。本当だぜ、嘘じゃねぇよ」

「あ、あんた…、何してんの」

「見てください。もうたまんねぇんだ」

太さには自信があった。存分に勃起した奴を突きつけると、女は振り向いた

姿勢のまま仰け反るように簀の子に尻餅をついた。

「や、やめなさいッ、止めて…」

「いいじゃねぇか、オバさん頼むよ。ね、頼みます」

一歩二歩近寄って行くと、恐怖と言うより若い男の迫力に圧倒されて、

女はパクパクと口をあけたまま後ずさりする。

露出した内股を隠そうとして、片手でスカートの裾を引っ張ろうとしたが、

何故か大声をあげる気配はなかった。

「悪いけど俺、オバさんとヤリてぇんだ。なぁいいだろう」

いきなりブラウスの襟元を掴むと、女は本能的に身を縮めようとしたが、

そのとたん、ブチッとボタンがひとつ千切れて飛んだ。

ブラジャーの紐が肩から落ちて、滑らかな胸と腋の下のくびれが露出する。

たるみ加減の乳房がグニャッとした感じで揺れた。

「オバさん、いいおっぱいしてるんだな」

「だ、駄目よ。恥かしい」

「俺だって恥かしいんだ。女にこんなもの見せるのは嫌だよ」

握っていた男根をしごくと、女は眼を皿のようにして反対にそれを見つめる。

「だから早くやろう。二人でヤッてしまえば恥かしくなんかねぇよ」

それ以上騒ぎ立てる様子がないので、私は立ったまま構わず着ている

服を脱いだ。ズボンを脚で廊下に蹴飛ばすと、斜めになった男根が

ビンビンと跳ねる。

「オバさんも脱いでよ」

「え、えッ」

「早くっ、もう我慢できねぇ。グズグズしていると本当に犯るぜ」

「ま、待って、ちょっと…」

若い女なら、決してこうはいかなかっただろうと思う。あるいは、中年を過ぎた

肉体に残った性への執着がそうさせたのかもしれない。

オバさんは、微かに震える指先で、自分からブラウスのボタンを外した。

「嫌よ、ヘンなことしないで…」

「別にヘンなことじゃねぇだろ。いいからズロースも脱ぎな」

「わ、わかったから、もう…」

生命に別状さえなければ、いまさら失うものは何もないのだ。ようやく腰を

浮かすと、女はスカートに手をかけた。

足首から抜いたパンティを取って匂いを嗅いで見ると、すえたような

甘いチーズの香りがして、私はそれだけでもう射精しそうになった。

「あぁ、快いよ。オバさん」

裸になった女の体型は、やはり若い娘とは違う。陰毛はそれほど

濃いほうではないが、全体に横幅がひろくて、触ると豊かな脂肪の感触が

伝わってきた。厚みを増した太腿を両手で抱えて、私はためらいもなく

女の股間に顔を埋めた。

「アッ、ひィ…」

ツンと酸えた匂いが鼻をつき、鶏のササミのような感じの肉片がこちらの

口の中にニュルッとした感じで伸びてきた。粘り気の強い淫液を舐めて

舌がクリトリスに触ると、その度にギクンギクンと腰が跳ねる。

「あ、あッ」

そのとき、女が突然切羽詰ったような声をあげた。

「駄目ッ、イッちゃうからッ」

「えっ、もうイクのかい」

「は、恥かしいからやめてッ」

「よぅし、そんなら一緒にいこう」

湯殿の簀の子に仰向けにして、二段にくびれた腹にのしかかって

体重を乗せる。

「あひぃ…ッ」

挿入の感触は、あれほど妄想を逞しくしていたわりには平凡な道具だった。

とは言えこちらも興奮しきっていたので、射精までの時間は短かった。

「あイク、イクゥッ」

女がイキはじめたとたん、私はたまらず男根を抜いて、顔に跨ると

ドボドボッと口の中にいっぺんに出した。

「うぐッ、ぐふッ」

抜いたあと、まだヒクヒクと腰を震わせながら、女の舌が亀頭の溝を

這い回るのがわかった。

このあたり、やはり年上の女の醍醐味である。





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