裏 庭 の 冒 険


 

そのころ私が経営していた秘密クラブには、時おり飢えた女から男を紹介して

ほしいという電話があった。大部分は、虫の良い自分勝手な依頼である。 

その日も受話器を取ると、絶対に秘密にしてくれというところまでは良いのだが、

条件を聞くと昼間はご近所の眼があるから駄目、夜は主人や子供がいるから駄目、

外出は正当な理由がないとできません…。 

それなら止めておけ、と私は阿呆らしくなった。 

だが、相手は意外にしつこいのである。

「お願いいたします。主人とは、もう三年も何もないんです」

「それは、そちらの問題でしよう」

「いえ、料金はお払いしますから、一度だけでも来て戴けないでしようか…」

「ご主人がいるところにですか?」

「遅くなる日があるんです。私、何とかしますから、どうかお願いします」 

名前は吉田登美子といった。 思いつめた調子で、ただ男に飢えている

だけとも思えない。いったいどんな女なのか、私は顔だけでも見てやろうと思った。 

指定された場所は女の自宅である。静かな新興住宅街で、時間は午後六時半…。

あたりにはまだ夕暮れの明るさが残っていた。 

途中で時間をつぶして、ちょうど定刻に家の前に着くと、すぐ横の木戸口から

普段着の女が身を乗り出して手招きしている。 

近寄っていくと、女はシィッと指を唇の前に立てた。年令は40才くらいか、

どこにでもいるような平凡だが品の良い主婦である。 

木戸のかげに身をかがめて、登美子は小声の早口で言った。

「ごめんなさい。娘の友達が遊びにきているもんですから、家に上がって

いただくことができないんです」 

こちらに…、

と招かれて裏木戸を入る。背中を丸めて玄関の横の植木の間を抜けると、

猫の額ほどの空地に出た。 

大きな家ではないので、裏庭といっても、人間が二人入れば一杯のスペースである。

「あの、ここでやって戴けませんか…?」 

登美子が立ち止まってこちらを向いた。緊張して顔がこわばっている。

「お、お願いします」 

女が自分でスカートを捲ると、ニョキッと白い太腿が露出して、パンティを

穿いていない大きな尻がムキ出しになった。 

すぐ横が隣家の浴室の曇りガラスである。 

正面の奥に二階建てのアパートの窓が並んでいて、その上に夕暮れの空があった。 

娘がいると言ったのも嘘ではないらしく、壁越しに女の子の笑い声がきこえた。

「す、すいません…。主人がもうすぐ帰ってくるんです」 

何かに憑かれたように震えながらズボンのファスナーを下げようとする。 

そのままやらせておくと、まだ柔らかいやつをズボンから掘り出して、

地面に膝をついた。だがいくら何でも、これでは立つものも立つ筈がなかった。 

口にくわえてしきりに顔を動かすのだが、どうしても固くなってこない。 

何とかしなければ…、登美子は気が急くのか、唇を離すと手を伸ばして

植込みの陰から小さなビニールの袋を出した。

「は、早く。駄目でしたらこれでやって…」 

開けてみると、お手製の男根である。ゴム管をスポンジで巻いて縫い合わせ、

コンドームを被せて丹念に作ってあった。 

家族の眼を盗んで一心に張り形を作っている場面を想像すると、私はようやく

この女の異常な行動を理解することができた。

「おめえ、露出狂だな?」

「エッ…」 

登美子が息をのんだ。こんなところに隠しているというのは、いつもここで

オナニーしていたとしか考えられないのである。

「初めからそう言えば良いんだ。それなら思いきり犯ってやる」 

男根がみるみるうちに硬直した。私は、いきなり登美子の尻をぐいとこちらに向けた。

「手をついて四ツン這いになれ!」

「やめて、ホ、ホントに見られちゃうッ」

「かまわねえよ、それが好きなんだろ」 

太った腹を折り曲げて地べたに両手をつかせると、張り形で後ろから

割れ目を開けた。

「ぐぇっ…」 

女が圧し殺したような声を上げた。

「主、主人が…」

「いまさら何を言ってるんだ。スリルがあって良いじゃねえか」 

登美子は歯を喰いしばって、いっそう高く尻を上げた。

誰に見られようと、こちらに実害があるわけではなかった。腰骨を掴んで

強引に揺すると、内部はドロドロで、とても締め具合を味わうなどといった

状態ではなくなっている。

「あッ、なかへ出さないで、お願いッ」

「知るか、あとは自分で始末しろ」

「いやァッ、くッいく…ッ」 

登美子はまた低く咽喉を鳴らした。 

射精まで10分とかからなかった。終わったあと、内股に流れる精液を拭く暇もなく、

登美子はブラジャーの間から白い角封筒を出して私に渡そうとした。

「あのこれ、本当に一度だけですから…」

「いらねえよ」 

それを無視して、裏木戸を出てから振り返ると、登美子が夕闇を透かすように

見送っていた。

つかの間の、だが一生に一度の冒険だったのであろう。




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