く そ 蛍



一、 食糧難時代

飽食に慣れたいまでは考えられないことだが、半世紀前、戦争に負けた

直後の食糧難は惨澹たるものであった。

飢えはすべてに優先する。焼け残った街に住んでいる人々は、指輪や

着物と引き換えに芋や雑穀を求めて、見知らぬ農家を訪れては頭を下げ、

情けを乞うた。百姓の横柄な応対には腹が立ったが、リュックサック一杯の

食糧欲しさには勝てなかったのである。

いわゆる買出し部隊、これに目をつけて、食糧を世話してやると言っては

女を誘い、強姦したあげく殺害した大久保清の連続殺人事件が世の中を

騒がしたのもこの頃のことだ。

当時、私は郷里に疎開してのんびりとした青春を謳歌していた。

静岡県磐田市、身内の親戚はすべて農家である。今ではサッカーで

誰知らぬものもない有名な町になったが、当時は一面の田んぼと畑で

人影もまばらな僻村であった。

それでも有難いことに、ここは深刻な食糧難など嘘のように食い物の

豊富な土地柄だったのである。

汽車で一時間ほどのところに静岡、浜松といった都市を抱えているので、

毎日のように買出し部隊がやってくる。農家の箪笥には彼らが置いてゆく

不急不要の高級衣料が積み上げられ、引出しには戦時中の供出を逃れた

指輪や貴金属がゴロゴロしていた。

その日、私は駅まで三十分ほどの道のりをブラブラと歩いて用を足しに

行ったのだが、その帰り道、ちょっと戻ったところで見知らぬ若い女に

声をかけられた。

「あのぅ、ちょっと…」

「何だ」

「このへんで、どこかお芋か何か、分けていただけるところを

知らないでしょうか」

「もっと遠くに行けば、いくらでもあるよ」

見ると、戦時中のスタイルそのままのモンペに粗末なブラウスを着て、

疲れ果てたように肩で息をしている。痩せてはいるが、はたちそこそこの

顔立ちの良い娘である。

「おねぇさん、買出しに来たの?」

「えぇ、でもそれが、安く売ってくれるところがなくて…」

「指輪とか、持っていねぇのかい」

「前には少し持っていたんですけど、みんな手放しちゃったから…」

そのころは物々交換が主流だった。きっとあちこち歩き回ったのだろうが、

インフレの激しい時代に、金で食料を売る農家はなかったのである。

「そんじゃ無理じゃないの。現金で買うのは高価いぜ」

「やっぱり、そうなのよねぇ」

女が途方にくれた顔を見ると、何故か急にこの女が可哀想になった。

こっちはまだ十七才の少年である。はたちと言っても年上の女に憧れる

年令だった。困り果てている様子に何とか力になってやりたいと思う。

「知り合いがいねぇんなら、俺んちのおじさんに頼んでやろうか」

「えっ、ほんと…?」

女は一瞬、マジマジと私の顔を見た。そしてすぐに服装や物腰から、

地元の少年だと察したらしい。

「有難いわ、お願いできますかしら」

縋るように頼まれると、嫌とも言えなかった。ここからかなり遠いことを

納得させて、私は女と一緒に田舎の長い田んぼ道を歩き始めた。

道の左右は芋の収穫がすんだ畑で、麦が植えられている。

十五分ほど歩くと潅漑用の小川があって、小さな木の橋がかかっていた。

その橋を渡ってまた十五分行くと次の小川、という具合に橋を三つ渡った

その先が、仲良しの親類の叔父の家である。

叔父の家では、私が町の女を連れてきたのを見て怪訝そうな顔をしたが、

けっこう歓迎してくれて、リュックサック一杯の芋を分けてくれることを

承知した。

女は何回も頭を下げ、モンペのポケットからくたびれた十円札を出して

渡そうとする。

「金なんか貰ったって仕様がねぇが、まぁ気持ちで良いよ」

それでもしっかり受け取って、かわりに蒸したてのさつま芋に当時

貴重だったユデ卵を添えて出してくれた。

「おねぇさん静岡かい。名前はなんていうんだ」

「木原紀子です。あの、またお芋を分けてもらいに伺っても良いでしょうか」

「こいつの紹介じゃ断われねぇ。何時でもお出で」

「有難うございます。助かります」

救われたような顔で、紀子は山盛りに芋を盛った笊にオズオズと手を伸ばした。



二、かえり道


よほど腹が減っていたのか、ユデ卵を二つ芋を三つ、またたく間に

食べてしまうと、紀子は久し振りに満たされた腹を撫ぜながら

明るい笑顔を見せた。

「美味しかったわ。皆さん、良い人ばっかりなんですねぇ」

「ゆっくりして行きな、お茶でもどうだ」

人間、褒められて悪い気はしないものだ。叔父はまだもてなそうとしたが、

紀子は汽車の時間が気になるようであった。

「あの、もうそろそろ、母が待っているものですから…」

これから一時間近い道のりを、重いリュックを背負って歩かなければならない。

とにかく持てる限界まで持っているので、両手には風呂敷包み、中味は

ぜんぶ芋である。

「おいお前、駅まで送ってやんな。重そうじゃねぇか」

人の良い叔父が、さすがに見かねたように言った。

「帰りは駅前の勝っちゃんところで自転車を借りてくればいい。送ってやれ」

ふん…、と私は面倒臭そうな顔をして見せたが、思春期の少年にとって、

若い女と一緒に歩くことに一種のときめきのようなものがあったことも

確かである。

叔父の家を出ると、あたりはもう夕方に近くなっていた。これからまた

橋を三つ越えて駅までたどり着くのは容易なことではあるまい。

5分もしないうちに、紀子はもう歩くのも辛そうな様子を見せはじめた。

「速く歩け、汽車に遅れるぜ」

「あぁちょっと、休ませて…」

必死で頑張ろうとするのだが、ハッハッと息を弾ませて、ともすれば

道端にしゃがみ込みそうになる。

「バカ、そんなところで荷物を下ろしたら歩けなくなるぜ」

こっちも風呂敷包みを持ってやっているのだが、指が抜けそうに痛い。

ときどき持つ腕を変えては女を励ましながら歩いた。

ようやく一つ目の橋にさしかかると、紀子は欄干に背負ったままの荷物を

乗せて、のけぞるように空を見上げながら大きな溜息をついた。

「はぁッ、もう…」

それから何故か怯えたような、かすれた声で言った。

「あの、どこかに隠れるところないかしら」

「何だよ。また休んでいくのか」

「うぅんちょっと、お手洗いが…」

「しょんべんならそこらでしろ。誰も見ちゃいねぇよ」

「いえいいの。大丈夫、我慢する」

紀子は自分を叱りつけるように言って身体を起こした。そしてまた

よろめく足取りで歩きはじめた。だがここまではまだ余裕があった。

女が本当に苦しみ出したのは、その直後である。

「お、お腹が、痛い、痛い…」

空き腹に芋と卵を詰め込んだのがいけなかったのだろうが、腹痛を

ともなって、激しい便意が突き上げてくるらしい。その上背中に

重い荷物を背負っているので、歩くたび腹に力が入ってますます

苦しくなってくる。

「えぇっ、お姉ちゃんウンコかよォ」

私が気がついたのは、二つ目の橋にはまだだいぶ距離のある

一本道の真ん中だった。

「仕様がねぇなぁ、ウンコなら荷物を下ろして畑の中でしろ。

待っててやるからよ」

「ダッ大丈夫、お腹が痛いだけだから…」

あたりには人影もなかったのだが、自分より年下の男の前で

大便をするところを見せるなど、死ぬよりも恥ずかしいことだったに

違いない。紀子は死物狂いで切迫する便意から逃れようと

もがいているようであった。

だがこの情況では、所詮どうなるものでもなかった。

「アッ、いやァ、くくく…ッ」

リュックの重さに耐えかねてよろめいた拍子に、紀子は絶望的な

声をあげた。

「おいっ転ぶな。しっかりしろ」

「駄目ッ来ないで、近くに来ないで…ッ」

顔の脂汗を拭くことも出来ず、紀子は必死に私を拒もうとした。

「うぅぅ、あぁ…ッ」

ようやく立っている股の間から、肛門の筋肉を圧し分けて、猛烈な

圧力で大量の軟便が噴き出してくる。それがモンペの内側に溜まって、

動けばヌルヌルと太ももを滑り落ちてくる。とうとう、紀子は崩れるように

リュックと一緒に路傍に尻餅をついた。

こうなれば、いくら女を知らない少年でもわからない筈がなかった。

「えぇッ、おめぇ洩らしちゃったのかよ」

「コッ、来ないでェェ」

構わず近寄ろうとすると、ひィ…ッ、と悲鳴のような泣き声が糸を引いた。



三、川土手のホタル


いくら食糧難だといっても、クソを漏らすまで背負うことはあるまい。

だがもう後のまつり、見るとモンペの尻のあたりがベットリと濡れて、

濁った汁が滲み出していた。

これでは汽車に乗ることなど、とても出来る相談ではなかった。

家に戻ると言っても、ちょうど道のりの半分ほど来たところだから、

この重い荷物を持ってはにっちもさっちも行かないのである。

思いつく方法と言えば、ここから5分も歩けば小川がある。とりあえず、

そこで汚れた身体を洗うことであった。

「荷物持ってやるから歩け。臭いから後からついて来な」

「す、すいません」紀子は消え入りそうな声で言った。

リュックを下ろしてやると、思ったよりずっと重い。これでは若い女が

背負って一時間も歩くのは始めから無理であったろう。

「ちぇっ、いい迷惑だぜ」

ブツブツと文句を言いながら、肩にメリ込むようなリュックを背負って

道を急ぐ。紀子は風呂敷包みを持って後ろからよろめくようについてきた。

モンペの中はクソが垂れ落ちて、もうグチャグチャである。

ようやく二番目の川のほとりまで来て、私は放り出すようにリュックを

土手の上に置いた。

「重てえっ」

「ごめんなさい。で、でもどうしよう」

「誰も来ねぇからよ、川ん中に入ってケツを洗いな。よく洗わねぇと臭うぞ 」

恥ずかしいなどと言っている場合ではなかった。紀子は無言でモンペを脱ぎ、

上着を取って川の中に入った。

まだ寒さには遠い季節だったことが救いである。

橋のたもとに腰を下ろして女の裸を眺めていると、夕闇が濃くなってきた

空気を透かして良く発育した乳房が見え隠れする。

ちぇっ、ヤリてぇなぁ…

川の流れにしゃがんだ格好で、紀子がベトベトになったモンペを裏返して、

溜まったクソを洗い流そうとしていた。

私はそのときはもう童貞ではなかったのだが、相手にした女と言えば、

田舎の学校の同級生を強姦まがいに乱暴した程度で、あとは

商売女しか知らなかったのである。偶然とは言えこんなチャンスを

見逃すテはなかった。

「よぅし、俺が手伝ってやる」

裸になって川に入ると、紀子は下半身を流れに沈めたまま、怯えた視線で

こちらを見上げた。

「な、なにをするの」

「ケツを出せ、洗ってやるよ」

「アッ、そこはまだ汚れてるから…ッ」

持っていたモンペを流されそうになって、慌てて腕を伸ばしながら

紀子は小さな叫び声を上げた。

「黙ってろ、きれいにしてやんだから…」

後ろから背中に手をかけて股の間に指を入れると、尻の穴を

抉るように揉んだ。

「あ、いや、う、うぅッ」

逃げることも声を出すことも出来ない。紀子は川の中で中腰に

なったまま、ガクガクと膝を震わせるばかりだった。

尻の穴から溝に添って指を伸ばすと、身体は冷え切っていたが、

不思議とそこだけは温かかった。

「ヒッ、ヒィィ…ッ」

「おい、もっとクソをしろよ。出せるだけ出しな」

「ウッ、ウムッ」

実際に出したのかどうか判らないが、腹が痛くて、このままでは汽車にも

乗れないだろう。突然手のひらにブクブクと奇妙な感触があって、それは

すぐ川の流れに消えてしまった。

「なぁお姉ちゃん、ヤラしてくれよ。荷物持ってやったんだから、な、好いだろう」

若い性欲はもう止めようがなかった。いきなりドンと尻を突くと、狭い川なので

すぐ横が雑草に覆われた低い土手である。

足がまだ半分川の中に入った状態で仰向けにすると、私は衝動のままに

女の股の間に割り込んでのしかかっていった。

「あひぃッ」

入ったとき紀子は短い叫び声をあげたが、後はされるがままである。

雑草の間から露出した土が肌をこするのが痛いのか、眉をひそめて

呻きながら、ガクガクと身体を前後に揺すった。

もう終列車には間に合わない。モンペを乾かして深夜の長距離急行に

乗るか、朝までここで過ごすしか方法がないのである。

そのとき、目の前をスッと一条の青い光が流れるように飛んだ。

「あ、ホタルだ」


気をそらせようと独り言をつぶやいてみたが、少年の盛んな精気は

もう抑えようがなかった。

「お姉ちゃん、イクぜ」

「いぃッ、あぁぁぁ…」

そのとたん、ドクドクッと堰を切ったように男根が脈動して、

私は紀子の身体を汚した。


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