一、 秘密の体験
それは、オサムにとって少年時代の遥かな思い出であった。
五才の春、妊娠していた母親が、いよいよ出産が近くなって
入院する。オサムは父親の実家の祖母のところに預けられる
ことになった。
おばぁちゃんといっても、五十才を半ば過ぎたくらいで、
マンションに独り住まいしているのだが、家庭の状況が
どうなっているのか、嫁と姑の仲はどうだったのか、
そのへんの詳しい事情は幼かったオサムには今でも
良くわかっていない。
「好い子にして、おばぁちゃんの言う事をちゃんと聞くのよ」
大きなお腹を重そうに抱えた母があれこれと気を使って、
やがていなくなると、オサムは何故か急に取り残されたような
淋しさを感じて落ち込んでしまったことを覚えている。
「オサムちゃんおいで、おばぁちゃんと遊ぼう」
祖母の晴世が機嫌を取ろうとして声をかけてくれたが、
母親と別れたショックのほうが大きかった。
これから一ヶ月近くの間、おばぁちゃんと一緒に
暮らさなければならない。いわば他人である。
そのうちに弟だか妹だかが出来ると言うのが嘘みたいだった。
それでも一日か二日経つと環境の変化にも慣れ
、晴世に甘えてまつわりつくことも平気になった。
母親以外の女と風呂に入ったのも初めての経験である。
「ハイ、ぽんぽんを洗ってあげるからこっちを向いて」
マンションの浴槽は狭くて、一緒に身を沈めると勿体無いように
ザァザァとお湯が溢れた。
身体中、石鹸の泡だらけにされて腰の周りやお尻を撫で
回されたあげく、小さなちんちんを指先で揉みしだかれた。
恥ずかしさはなかったが、母親にはされたことのない
やり方である。
そんなことが何回か繰り返されて、二・三日経ったある晩のこと…
「オサム、おばぁちゃんのところにおいで、抱っこしてあげるから」
布団に入ると、晴世が湿り気のある声でオサムを呼んだ。
なんとなく背中を向けているのを、二の腕を取って引き寄せると
汗ばんだ胸の中に抱え込む。
「ウーン、ムフッ」
抱かれたときの気持ちは別に嫌ではなかった。
甘酸っぱい乳の匂いと、軽い腋臭の女の香りが入り混じって
オサムの鼻を衝いた。
「可愛い、オサム…」
あどけない子供の顔を乳房に圧し付けるように抱きしめると、
晴世は突き上げてくる衝動に耐えきれないように身を揺すった。
「ハイ、おっぱい上げよう。お口に入れてごらん」
「ウフン、ちゅうっ」
鼻を鳴らして乳首に吸い付くと、種のない梅干のように色づいた
柔らかい珠がグニグニと口の中で転がる。
乳房で鼻を塞がれて息苦しくなって、オサムが無意識に足を蹴ると、
素肌にジャリッとした陰毛の感触が当たった。
「あぁッフン、オサム…ッ」
ビクビクッと腹の筋肉がふるえて、晴世は思わず仰け反るような
仕草を見せた。
「駄目よぅ、そんなに暴れちゃ。それじやおばぁちゃんが
足挟んであげる」
ウフフ…、
と含み笑いをして、晴世がオサムの両足を股の間に入れる。
「暑いよぅ」
「フッフッフッ、じゃおとなしくしなさい。おっぱい上げるから…」
乳房を掌で持ち上げるように、オサムの口元に突き出す。
否応無しに咥えながら、オサムは観念したように身体の動きを
止めた。胸から腹から太腿にかけて、貼りついてくるような
女の肌の感覚は、子供心に決して悪いものではなかった。
ただ、それからどうされたのか、記憶はそこまでで途切れている。
手を導かれておっぱいを触ったことくらいまでは確かなのだが、
それ以上、イタズラされたとか、祖母の性器を弄んだとか言った
情景が浮かんでこないのである。
オサムにとって、それは絶対に完結することのない幼年期の
秘密の体験であった。
それから十数年、そのときに産まれた妹は今年もう高校に
行く年頃になっていた。
オサムも大学生になったが、頭の中に、あのときの甘酸っぱい
乳の匂いがこびりついて離れようとしない。
六十才を超えた晴世を見ると、何故か血が騒ぐ、あの乳房に
もう一度顔を埋めてみたいという衝動が日増しに強くなってくるのが
自分でも不思議だった。
二、最初の飛沫
「おばぁちゃん、遊びに行っても良いかい」
学校の帰り道、思い立って電話をかけると晴世は気楽に言った。
「いいけど、今日もお風呂はいるの?」
「うん頼むよ。身体汚れているんだ」
これまでにも何回も来たことがある。晴世のマンションは私鉄の駅から
歩いて5分くらいのところにあった。
入り口のドアを開けると、オサムは大声で奥に向かって呼んだ。
「おばぁちゃん、来たよ」
「はぁい」
すぐ横の浴室から返事があって、晴世がタオルで手を拭きながら
言った。
「お風呂沸きましたよ。ちょうど良いから、そのまま入ったら」
「うん、そうする…」
言われるままに、玄関で下着まで脱いで浴槽に飛び込む。
オサムはいつか、十何年前のあのときと同じ気持ちになっていた。
「どうなの、お湯が熱くないのかい」
「あぁ、ちょうど良いよ」
風呂場が狭いのと肉体的に成長したこともあって、二人が一緒に
風呂に入るのを止めたのはオサムが小学生になってからのことだ。
そのころの晴世は、何かと口実を作ってはオサムをマンションに
呼んだ。姑が孫を可愛がってくれるのは嬉しいことだし、
第一、家事の手が省けることが有り難い。母親は何の疑いもなく、
むしろ喜んでオサムを家から出してくれた。
だから晴世とオサムの間に何があったかと言うことは、今日まで
誰にも知られていない秘密だったのである。
ドップリと首まで浴槽にひたりながら、オサムはボンヤリと
その頃のことを思い出していた。
「大きくなったわねぇ、もうすぐだわ」
筍の若芽を見るような、色の白い包茎の男根を洗いながら、
晴世は嬉しそうに言った。
「おばちゃん、くすぐったいよ」
「ごめんごめん、でもじきに気持ち良くなるから…。この中に
滓貯めちゃ駄目よ」
包皮を剥き上げると、まだエラが張っていない頼りない亀頭が
顔を出す。晴世はそこにザァッとお湯をかけて、指先で丁寧に
揉んでくれた。初めての精通があったのは、それから間もなくのことだ。
湯上りに、素裸のまま畳の上に仰向けに寝かされ、
まだ毛の生えていない生白い肉の筒を、祖母の手で
熱心に愛撫される。
「ホラ立ってきたでしょ。えらいわ、えらいわ」
「うぅん、うッ、うッ」
「そんなに固くなっちゃ駄目、ううんこっちは良いの。もっと
身体を楽にして…」
幼い性器がコリコリと勃起して、触るとピンと撥ね返すほど
硬直していた。両足を踏ん張らずにはいられない感覚が
下半身に充満してくるのを停めることが出来ない。
「オサムちゃんもう少し、もう少しよッ」
「うぅぅむ…」
何か出る、何か出るっ…
そのとき、くすぐったい痺れるような刺激が背骨から脳天に
駆け上がって、オサムはピクピクと爪先を震わせると、グタリと
全身の力を抜いた。
「あぁぁッ、でたわ、出たわ…ッ」
ベチャッと、液体が胸の上に飛んできたのは判った。
だが何事が起ったのか、オサムにはこの現象をはっきりと
自覚することが出来なかった。
ただひとつ間違いなく言えることは、思春期の少年にとって、
祖母から与えられる倒錯した快楽はどんな媚薬にもまさる
甘い餌だったのである。
「ああ可愛い。オサムちゃん、とうとう本当の男になったんだわ」
飛び散った最初の精液を濡れタオルで拭きながら、晴世は
うわ言のように言った。
それから堪り兼ねたように抱きしめて素肌をこすり付ける。
魂が抜けた人形のように、オサムはされるがままに抱かれて
ウットリとしていた。
歪んだ愛といえば愛だが、それでもオサムはまだ童貞だった。
祖母の晴世は、乳首を吸わせたり陰毛に触らせたりはしたが、
直接互いの性器を挿入すると言うことはなかったのである。
オサムが女を知ったのは、実は最近、それも晴世ではない
行きずりの若い娘だった。
何だ、こんなものか…
というのが童貞を捨てた後の実感である。
こんなのなら、晴世おばぁちゃんのほうがずっといい…
今では六十才をとっくに超えて、外見にも老いが目立つ。
それでもあの胸に抱かれて萎びた乳房を吸う快感のほうが
遥かに上だとオサムは思った。
よし、今日こそは…
オサムは勢い良く浴槽から立ち上がった。
三、淫らな血統
「おばぁちゃん…」
「はいはい、いまタオル持っていってあげるから…」
浴室の扉の前で仁王立ちになっていると、次の間から晴世が
飛んできた。あの頃とは逆に、今では成長したオサムのほうが
二十センチも大きい。
背伸びして肩から胸、両手を広げて腰の周りを拭こうとする
晴世の目の前にギョッとするほど怒張した肉塊があった。
細い筍のようだった男根が、ムクレ上がったように変色して
濃い陰毛の中から屹立している。
丁寧に、と言うより恐る恐ると言った感じで、晴世は陰毛から
立ち上る湯気を抑えるように拭いた。
「ねぇ、おっぱいが欲しい」
ゴツくなった肉体に似合わない甘えた声でオサムが言った。
「えッ、あぁそうね、あんたには…」
「おばぁちゃんでなきゃ、駄目なんだもん」
「はいはい、仕様がない子ねェ。あげますよ、上げますから…」
「うん、早くぅ」
何時の間にか、子供言葉になっている。
奇妙に倒錯した雰囲気であった。もう女とは言えない。
痩せて背中の曲がった老婆の胸に顔を埋めて、オサムは
思う存分饐えた女の匂いを嗅いだ。
「おばぁちゃん、俺、俺、たまんねぇよ」
「いいのいいの、誰にも言わないから、オサムは私のものよ」
「それじゃ何やっても良いんだな」
「こんなおばぁちゃんで良ければ好きなようにしなさい。
何やっても良いのよ」
乳首から唇を放すと、空気が抜けたように萎んだ乳房が
ダラリと垂れる。
オサムはふるいつきたいような愛着を感じた。
「いいオッパイだなぁ。俺、このおっぱいで育ったんだよね」
「そうだったら良いんだけどねぇ。オサムにはお母さんがいるでしょう」
「俺、おふくろのなんか全然憶えていねぇよ。おばぁちゃんのが好きだ」
突然顔を上げて、オサムは思いつめたように言った。
「俺、前からおばぁちゃんとやりたかったんだ。ほ、本当だよ」
「えぇッ」
「なぁ良いだろ。ヤラせてくれ、頼む。頼むからよぅ」
いきなり手を伸ばすと、陰毛はザラザラとした感じで中まではやはり
濡れていないように思えた。
「それじゃ嘗めてやるよ。な、いいだろ」
応える代わりに、晴世がわずかに脚を広げる。
ツーン…、と生臭いような淫臭が鼻を衝いた。意外なことには、
陰毛が乾いているわりには内部の湿り気はドロドロである。
「オサム、オ、オサム…」
晴世が、不自由な身体をずらしてオサムの股間に顔を寄せた。
「う、うぅむ」
怒張した男根に温かい舌の動きを感じると、それだけでオサムは
暴発しそうになった。
快感がどうのテクニックがどうのと言うのではなく、七十才近い老婆に
嘗められていると言うだけで絶頂に達しそうになる。
それは長い間オサムが身につけてきたセックスの習性であろう。
「お、おばぁちゃん…っ」
オサムは身を起こして、晴世の身体を引き寄せながら言った。
「俺、もう駄目だ。イカせてくれ。た、頼むよ」
「ヒィィッ」
しかし、上向きに股を開かせる体位はもう無理であった。
横臥した姿勢で片足を抱えてその間に腰を入れる。
ヌラヌラになった割れ目の真ん中に先端を当てて、女の身体を
グイと手前に引いた。
「ウェ…ッ」
そのまま二度・三度、前後に腰を揺すると完全に根元まで嵌った。
「気持ち良いのかい。よぅ、おばぁちゃん、気持ち良いと言ってくれよう」
まるで子供の頃に戻ったように、オサムは甘えた調子で言った。
「イクぜ、イクぜ、おばぁちゃぁぁん、イッちゃうよう…っ」
泣くような声で甘えながら、オサムがドッと精液を吐き出す。
「オ、オサム。嬉しいよ、やっと入れてくれたんだね」
晴世が途切れ途切れに言った。
それは長い間、異常な衝動と戦い続けた女の勝ち鬨だったのかも
しれない。そして最後に、晴世は呟くように言った。
「オサム、お前も…、お父さんとそっくりなんだねえ」