美肌社長の隠し部屋






一、色情履歴書


市原竜子の性癖は、もともと若い男が好みなのだった。

娘時代から、男なしではいられなかった。それは竜子が淫乱と言うより、

仕事や日常に活力があり、生まれつき事業家としてのエネルギッシュな

素質の一面だったのだろう。

高校を出るとすぐ美容師の見習いになったが、修業中ずっと男の切れ目は

なかった。それも、他の娘たちのように恋に夢中になったり男に入れ揚げたり

するのとは違って、セックスは濃厚で相手が何人変わっても貪欲に快感を

求めるのだが、旺盛な性欲はすべて明日のエネルギーの源になるのだった。

三十才で独立。

四十のとき、美容院から当時ブームになっていたエステに転向して

事業が軌道に乗った。

それから二十年、今年六十三才だが、青山と六本木にエステの店を、

原宿に流行の服飾の店を経営している。どの店も好調で、この社会では

名の知れた女社長である。

初恋は高校二年のとき、友達の弟で三つ年下の中学生と自分から進んで

無理やり関係を持った。

親が留守になったのを狙って、自宅の部屋で恥ずかしがって嫌がる

少年のズボンを脱がしたときのゾクゾクする気持は今でも忘れられない。

「よ、よせよ。やだよ俺…」

ようやく毛が生えたばかりで初々しい感じの白い男根はまだ皮を

被っていたが、手に触れると竜子は身体が震えるほど興奮した。

「ねぇ見てよゥ。あたしのここ、どうなってるか見てッ」

「知らねぇよ。止めろッたら…」

「あんたほんとに知らないんでしょ。あたしが教えてあげる。ホラこれが

女のここに入るのよ」

思いきり大胆に股を広げて、栗のイガを割ったように毛深い性器を露出する。

そのとき竜子はまだ処女だったが、気に入った男の子とどうしても

やってみたい。そんな衝動が突き上げてきて止まらなかった。

「ねぇ来てごらんなさいよ。ハメさせてあげるから、ね、ね」

「よく判かんねェよ。俺、初めてだし」

「平気だよ、絶対にできるわよ。わたしだって初めてなんだから」

自分からズロースを脱ぎ、制服のスカートを臍の上まで捲って、

ギコチない動作で少年を誘う。

ようやく到来した初めてのチャンスである。

オナニーは知っていたが、自分で触るだけでは面白くなかった。

やればヤルほど本当のセックスをしてみたくなる。可愛くて気に入った

タイプの男の子が欲しくてウズウズしていたのだが、親の眼のある

高校生ではそう簡単に自由が利くはずもなかった。

「やっぱし男とは違うのよね。ここに入るのよ。ねぇ早く…ッ」

竜子は自分で女の身体を確かめるように言った。

「そッそこが凹っこんでいるの、良いから強く圧して…」

「ウッウン、どうすんだよォ」

ハァハァと息を弾ませた少年が乗りかかって、汗臭い男の匂いを

嗅いだとき、もうどうなっても良いと思った。

「やってッ、そのまま圧して…ッ」

少年も、もう迷っている様子はなかった。オスの本能と言うのか、

片手を自分の硬直した男根に添えて自然に穴の中心を狙う。

「アァ嫌ァ、もっと強くゥ。あッあッ、来る来るッ、あんた凄いィィ…」

処女膜が破れた時は痛かったが、怖いとも嫌だとも思わなかった。

それよりも竜子は、男と女の四本の脚が絡み合って性器が繋がって

いることに血が逆流するほどの激しい性欲を感じたのだった。

それ以来、付合ってきたのはずっと年下の男ばかりである。

結婚は二度ほど体験したが、別れるときには何の未練もなかった。

男の精液を吸い尽くし、用済みになった道具を取りかえるような

気持である。

独身に戻ると、竜子はもう再び結婚する意志はなかった。

やがて五十才を過ぎると、身体にも贅肉がついて、美容と痩身が

ウリのエステでは店に立って看板になるわけにもいかなくなった。

自然、店は後輩の弟子たちに任せて経営に専念することになる。

そのポイントがいわゆるカリスマ美容師の育成であった。

女の客がすべてのエステの店に、見てくれの良い若い男の美容師を

つけて脱毛や痩身マッサージ、美肌のケアに当たらせる。

それが当たって、青山と六本木の店は毎日予約で満員の盛況を

見せていた。



二、カリスマの条件


「痛いッ、馬鹿…」

「あっすいません。申し訳ありません」

「何よ、あんた下手だねぇ。そんなんじゃお客さまを逃がす

だけじゃないの」

「は、はぁ」

「もっと、指先の力を抜いて軽く揉むのよ。女の感覚は微妙なんだから…」

深夜2時、客足の絶えた青山の店の個室である。素っ裸に全身マッサージ用の

パンツ一枚、竜子はサウナから出て火照った身体を惜しげもなくベッドに

投げ出していた。

六十才を超えても性欲はまだ衰えを見せていない。肉体はタップリと

脂がのって肥満していたが、軽く広げた太腿の厚みや、触れば揺れそうな

腹の肉に、むらむらと欲情の湯気が立ち上っている。

傍に立ってマッサージしているのは、最近この店に採用されたばかりの

カリスマの卵だった。

「あんたねぇ、女の感覚をナメちゃいけないよ。この店は気持良くないと

思ったら二度と来ませんからね」

「はい、気をつけます」

「そうかと言って、美容師が助平に見られたらおしまいなのよ。女には

プライドがあるから」

「はぁ…」

「セックスを感じさせないで、知らぬ間に気持ちよくさせてやるのが

エスティシャンの腕じゃないか。こんなんじゃ、あんたまだ素人だよ」

「はぁ、すいません」

「もっと真剣にやって頂戴。高いお給料をとって、普通なら手も出せない

ような女の子を自由に出来る商売なんて、ダテじゃないのよ」

「わかりました。一生懸命にやります」

こうなると、男は言いなりである。確かに給料は高い。

女社長の引き立てがあれば、やがてはテレビや雑誌に紹介されて

憧れのカリスマ美容師になることも夢ではないのだ。

新人らしい打算と懸命さで、男は脂ぎった女社長の内股から腰にかけての

ダブついた肉を一心に揉みほぐす。

「下手ねェ、揉んでるだけなら猿にでも出来るわ。もっと指を使って…」

「あっはい、こうですか」

「そうじゃないの、さりげなく毛の生え際を揉むのよ。鈍い子ね」

「あぁでも、悪いと思って…」

「何故悪いの、気持良いことは進んでやるのがサービスでしょう」

「はい、判りました」

「でもサービスは、もう少しやって欲しいと思わせたところで止めるのが

コツなのよ。判ってるの?」

「はい、じゃこのくらいで…?」

「あぁそう、そしたら土手の横に性感のツボがあるから…」

「えっ、ツボですか」

「女の身体をおぼえなさい。それがあんたの財産になるんだから」

なるほど、教え方は厳しいが流石に六十年の経験と数知れない男との

交渉から会得したテクニックだった。

微に入り細にわたり、駆け出しの指圧師などは思いもよらないツボを

知っている。これは確かに一種の企業秘密であることは間違いなかった。

「いいわね、快感のツボを抑えるの。そうすれば女は絶対に逃げない」

「はっ、はい」

「あッそうそうそこよ。あァ気持が良い」肥った身体を小刻みに揺すりながら、

竜子は露骨なヨガリ声を上げた。

一時間近く裸の身体を揉ませていると、いつもの情欲が自然に鎌首を

持ち上げてくる。

「ちょっと、あんた、おちんぼ出してごらん」

「えっ」

「立っていなくても良いのよ。大きさだけ確かめてみたいの」

露出した男根を眺めて発情するのは幼い頃からの竜子の性癖であった。

興奮してくると何故か相手の性器を観賞したくなる。

戸惑って立ちすくんでいる青年のズボンを脱がせると、竜子は躊躇いもなく

腕を伸ばして男根を根元から掴んだ。

「あら、思ったより大きいじゃない」

「はっ、そんなことはないです」

「大きいわよ。どうして立たないの?立たせてごらん」

握り方を締めたり緩めたりして肉の感触を楽しみながら、竜子は面白そうに

言った。だが緊張した肉体は男の意思では自由にならない。

「フフフ、まだ坊やなのね。男は自分で身体を操れるようにならなくちゃ駄目よ。

マサルを呼びなさい、店長のマサルを…」



三、指先の芸術


伊庭マサルは、テレビなどにも時おり出演する。客の評判も良いカリスマであった。

のっぺりとした表情のない顔で、こんなのが女たちには神秘的に

見えるのだろう。年令は三十だが、それでも竜子の半分である。

店を任されて青山に泊り込むようになってから、やがて二年になる。

言いかえれば最近の竜子社長のお気に入り、性欲の処理係りなのだった。

もう寝ていたのだろうが、十分ほど経って竜子の前に現れたときには、

黒服に蝶ネクタイで隙もなく身支度が整っていたのは流石である。

「マサル、いつものマッサージをやって…」

ガラにもなく甘えた声で、竜子が言った。

「あんたのテクをこの子にも教えてやって、良いマスクしてるから覚えたら

人気が出ると思うの」

マサルはちょっと上体を屈めただけで、無言で両手の指に脂のような

ものを塗った。コラーゲンという、人間の肌を作ると言われる高価な物質である。

男根を握られたまま呆然と立っている青年の横で、マサルは両手の指を

剥き出しの竜子の乳房の上に置いた。

若い頃はさぞかし大きく張っていたのだろうが、少し萎んで皺が見えるように

なった乳房が、見ていると小刻みに動く。先端の乳首がプルプルと細かく

震えて、たちまち勃起したように上を向いた。

「……!」

青年が、瞬きもせずマサルの指先を凝視する。

十本の指が震えながら、それぞれ違った動きで微妙に肌を這いまわる。

乳房の周りから腋の下、恥骨の上、腰から尻の裏側にかけて、それは

文字通り人間バイブレーターといって良い神技だった。

「あ、あッ、快い…ッ」

竜子は誰に憚ることもないヨガリ声を上げた。肥えて肉のたるんだ身体が

くねるので、何か異様な生き物がのたうつような感覚である。

「あぁ快い。たッ、たまんないッ」

ふくろごと性器を握り締められて、青年はその痛さに思わず眉を顰めた。

「お舐めッ坊や。何をぐずぐずしているのようッ」

グイッと握った男根を引き寄せられて、ベッドの横に跪く。

青年は夢中で女社長のダブダブのエステパンツに手を掛けた。

どんな場合でも、作業中に女を全裸にすることはタブーなのである。

それでは客を征服したことになって奉仕のサービスにならないと言うのが

竜子の持論だった。

エステパンツの横をずらすと、黒々とまるでタワシのように密生した

濃密な陰毛が露出する。粗い繁みを鼻で掻き分けながら、青年は

迷わず中心に顔を伏せた。

それほど濡れているわけではないが、クリトリスが固く大きい。

唇で吸いこんで舌を動かすと、その度に竜子の腰がビクンビクンと撥ねる。

「この野郎、余計なことすんじゃねぇ」

いきなり後頭部を抑え付けられて、青年はムフッと息を止めた。

口の中一杯に、膨らみきったクリトリスが脈を打っている。社長が絶倫なことは

就職のとき聞かされていたが、これが女の性器かと意外なほど巨大な

肉の塊に思えた。

「………」

口の中で、クリトリスが動くのである。恥骨の上で、マサルが指を

震わせている。それにつれて、男が舌を使わなくてもクリトリスの

ほうでブルブルと蠕動するのだ。

「あぁふツ、あぁふッ」

やがて、竜子が獣のような息遣いで喘ぎはじめた。この方法では女が

体力を使わず、マッサージの指のテクニックだけでイカされてしまう。

男にサービスさせて絶頂に達することが出来ると言うのが、女社長の

竜子の気に入ったのであろう。

「あぁうぅむッ、よぅしッ」

ガツン…、と顔全体を跳ね上げるような衝撃があった。

そのとたん、ジュゥッと小便のような塩辛いものが口の中に流れ込む。

「潮だ…!」

無意識に若者はそれを嚥んだ。

「ねぇ頂戴よゥ。マサル、今日も出してェ」

もう青年が相手にされているわけではなかった。

ブッとい太腿で蹴飛ばされるように社長の股間から離れる。

見ると、竜子は上半身を揺すってマサルにしがみついていた。

「マサルッ、わたしにあんたの若さを頂戴。お願いよゥ、お願いよゥッ」

高級クラブのマネージャーに似た黒服の前を開けて、掘り出した肉の

塊りに吸いつく。

それでもマサルは表情を変えていない。

能面のように直立不動のまま舐めさせている光景は、やはり一種の

カリスマであった。



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