一、牝猫の半生
「おい美歌、近ごろ下手になったな。もっと気を入れて、しっかりと舐めんかい」
ベッドの横から片足を床に投げ出したエゲツない姿勢で、男がタバコの煙を
無造作に天井に吹き上げながら言った。
「ワシももう年や、そう簡単には立ちはせんのやで」
「ム、ムグ…」
「ええか、根元からゆっくりと舐めあげて、フクロの裏側まで丹念に舌を使え」
「こ、こうですか」
「馬鹿、毛を噛んで引っ張る奴があるかっ」
投げ出していた脚の踵で、ゴン!と女の背中を蹴る。
グェッと息を詰めて、美歌は毛深い男の太腿にしがみついた。
あわてて半立ちになった肉塊を握ると、親指と人差し指の間から露出した
亀頭の先端に舌を延ばす。厚い脂肪に覆われた背中の肉がブリブリと揺れた。
「無理にイカさなくてもええんや。自然に眠くなるように、ノンビリとしゃぶれ」
それでも女は一生懸命に男根を吸い込み、口の中で転がしては舌先でしごく。
それが亀頭の神経に触るのか、男は時おり不規則に腰を震わせながら
叱り付けるように言った。
「仕様のない奴やな、二十年もワシの女をやっていて、まだコツがわからへんのか」
絨毯に両膝をつき、裸のままベッドに這い上がるような形で、美歌は哀しげな
視線で男を見上げた。
二十年と言われれば、本当にそのとうりなのである。このところ背中や
腰の回りの脂肪が厚くなって、めつきりと頭髪に白いものが増えた。
だが旦那の田代重吾は美歌に髪を染めることを許さなかった。
今年六十四才、荒淫の報いで、年令以上に老けて見える。
それにしても、田代重吾にはもともと中年を過ぎた女を好む傾向が
あったことは確かなようだ。
知り合ったのは、本番も生尺も客次第と言った場末の未亡人ヘルスで、
美歌はもうとっくに四十才を過ぎていた。ふとしたことから拾われて、それ以来、
妾とも愛人ともつかない、いわばセックス専用の女として暮らしてきた。
田代重吾は多賀屋という江戸時代から続く老舗の夜具布団卸問屋の息子で、
年令は美歌よりも二つ上だが、好色で性欲も強く、それなりに結構な
道楽者であった。
美歌を囲ってから新しく抱いた女は、知っているだけでも十人以上になると
思うが、どこで遊んできても、飽きもせず今日まで側に置いてくれたことには
感謝しなければなるまい。美歌にとって、この二十年は経済的にも恵まれ、
肉体を売って生きる生活から解放された安定した時期だったのである。
セックスの玩具とは言っても、それはそれで、美歌が過去に辿った道から
見れば文句を言える筋合いのものではなかった。
十四才で家出して処女を失い、十六のとき男に捨てられて自殺未遂騒ぎを
起こし、その後、際限もなく男から男に遍歴して、いつのまにかセックスを
売ることでしか生きることができない女になっていた。
それでも若いうちは股を開けば面白いほど女が金になった。
不自由なく好きな男に貢ぐこともできたが、二十代も後半になると、
この社会ではもうオバサンである。
男たちは若い娘を狙って次々に去っていったし、常連客を引き止めて
おくことも容易ではない。自分の子供のような小娘にお世辞を言って
客を取る辛さがようやく身にしみるようになった。そんなとき、たまたま
拾ってくれたのが多賀屋の田代重吾である。見栄や体裁を捨てて、
美歌は男の玩具になりきるよりほかになかった。
根っからの淫売と言ってしまえばそれまでだが、美歌の肉体に染まった
男へのサービス精神は、そのまま何の抵抗もなく性の奴隷の生活に
順応していった。
旦那の多賀屋の前では、どんなに恥ずかしい痴態でも曝すことができたし、
やれと言われれば、田代が連れてきた女に挿入した肉塊をクリトリスと
一緒に舐めることまで平気でやった。プライドを捨てたというより、
そのほうが自分は田代の妾だという確かな実感があったのである。
いろいろな体験があったが、二十年経ってみると、これから先いつまで
田代の女でいられるものか、ある日突然お前はゴミだと宣告を下される
のではないかという恐怖に似た不安が頭をもたげてくる。
それにも増して美歌にとって恐ろしいのは、あれほど盛んで飽くことを
知らなかった田代重吾の性欲が、最近とみに衰えを見せてきたことを
感じるようになったことであった。
二、飼い馴らされた女
だから、いっそう男の性欲を掻きたて、快感を昂揚させようとする。
その証拠に、旦那の肉塊が硬直してくれることが唯一のよりどころだった。
男が発情しているかどうかをはかる基準として、美歌はそれ以外の
方法を知らなかったのである。
「けッ下手クソやな、入れ歯を外してみい」
相変わらずベッドにあお向けになったままの横着な姿勢で田代が言った。
「ほんまなら、歯をぜんぶ抜いてから舐めさせるのが気持ちええんや。
よう覚えとき」
言われていることは、美歌にもすぐ理解することができた。上顎の歯が6本、
下顎の歯が4本、中途半端に残っていて、これでは入れ歯を外しても歯茎が
合わずかえって気持ちが悪かろう。
それでも言われたとうり、美歌はためらいなく入れ歯を取ってベッドの横に
置いた。こうすると唾液の調節が上手くゆかないので、男根の付け根から
袋の周辺にかけてたちまちベトベトになった。
「そやそや、臍の中までツバで濡らして、ゴマを綺麗に取らんかい」
こんなことがなぜ面白いのか、田代重吾は年令の割には毛むくじゃらの
下腹部をカエルのように上にむけて、ピクピクと震わせながら笑った。
「猥褻じゃのう、はっは。六十過ぎたババァが興奮して臍のゴマを
食っとる風景は…」
「クッ、クゥゥ…」
無遠慮にババァと言われたとたん、ベッドから半分のし掛かるように
重なっていた美歌の上半身が、小刻みに痙攣して男の身体にしがみついた。
「ヒィィ、はッ恥ずかしい」
「恥ずかしがることはなかろう、淫乱ババァがどのくらい興奮しているか、
じっくりと確かめてやるわい」
「ウエェ…」
「顔を上げろ。素っ裸になってワシの腹の上に乗ってみい」
寝たままの足で脾腹を蹴り上げられ、ノロノロと上体を起こす。白髪混じりの
さんばら髪、化粧の痕が落ちた裸の女は、決して見て美しいという
ものではなかった。
入れ歯を取っているので、口許が萎んで深い皺が幾筋も重なっている。
いわゆる梅干し皺である。弾力を失った首筋の肉が、乳房の谷間に
曲線模様を描いて幾重にも垂れ下がっていた。
「フッフッフッ、女がこうなる日をわしゃァ楽しみに待っていたんや」
先太に垂れて僅かに揺れている乳房を真正面から見据えながら、
田代重吾は妥協のない口調でいった。
「この身体に穴を開けて、初めて女になったのはいつや」
「よく覚えていないんです。ま、まだ子供のころで…」
「ふむ、それから今日まで、おまんこをしなかった日はないやろ」
「えッ、は、はい、そう言われれば…」
それは決して、男の言葉に迎合しているわけではなかった。
男にモテて、若い男がイクときの顔を見るのが楽しくてたまらなかった
十代の青春、一晩に七・八人の客を回してライバルとナンバーワンを
競い合ったソープ時代…。
田代の妾となってからも、見知らぬ女同士で抱き合って見世物をやったり、
旦那の前で複数の男に犯されて恥も外聞もなくヤリ狂う姿を晒したり、
たしかに、今日まで生きてきた日数に比べてセックスの回数が少ない
ということはなかった筈だ。
弛んだ太腿を拡げて男の腹に跨がった不細工な姿態で、美歌は
その時ふと、自分の肉体が空恐ろしいもののように思えた。
これだけのセックスを体験しても、美歌はまだ田代重吾の快楽の道具で
いたいのである。
「何十年も淫水を絞り続けて、まだおツユが残っていると言うのかい」
美歌の恐怖を見透かしたように、男はそれを催促するような残酷さで
言った。
「出来るもんならさっさとハメてみい。ちんぼはさっきから立っているんやで…」
「えぇッ」
慌てて中腰になって下を覗くと、半ば硬直した男根が女の尻のくぼみに
沿って斜めになっている。跳ねるように膝を浮かして、美歌はほとんど
無意識に肉塊を掴んだ。
男の腹を跨いでいたワレメの線は、先刻からパックリと大きく口を
開けている。熟しきった無花果のように、大陰唇の土手やクリトリスの
区別がなかった。
片手に摘んだ男根の先端を、美歌は大切な宝物を埋め込むように
穴の中心に当てた。 ヌラリとした感触があって、そこには外見からは
想像もできない粘り気のある淫液が驚くほど大量に溢れ出していた。
三、淫欲の限界
「ほうほう、えらく濡れているやんけぇ」
赤黒く毛深い腹に大きく息を吸って、男が満足そうに言った。
「干からびているかと思っていたが、こりゃ当分は水気タップリやな」
「わ、わたし、淫乱…」
咽喉の奥で、美歌はかすれた声で啼いた。
「旦那さまのおかげで、死ぬまで淫乱なんですゥ」
「恨みごとを言うな、仕込んだのはワシやがもともとはお前の素質や」
「恨んでなんかいません。有難くて…、ほ、本当に…」
「さよか。それが本気なら、まぁええ」
とたんに男根がピクンと脈をうった。その拍子に、亀頭の部分がヌルリと
無花果の中に入った。
「ヒィィィ…」
ヌラヌラの土手の中央から、突然痺れるというより蕩けるような感覚が
広がって、美歌は粘膜の柔らかいところを夢中で男の毛深い下腹部に
こすり付けた。
「動くなっ」
アッと思う間もなく髪の毛を鷲掴みにされて、美歌はガクガクと顎を上げた。
腰の力が抜けて、男の陰毛の上にベタリと尻餅をついたかたちである。
「ばかめ、お前に勝手に動かされたのではすぐにイッてしまうわい」
「うへェ、お許し…」
「年を取ると男も甲斐性がなくなる。精液の一滴一滴がどれ程大事か
判らんのか」
「でもッ、わ、わたしもう…」
「辛抱せい。イキたければ、あとでなんぼでもイカせてやる」
ようやく勃起した男根が簡単に射精しないように、両手で太腿を
抑えつけて固定すると田代重吾は得意そうに言った。
「よぅし入った。ちんぼがふやけて白くなるまで、おまんこの中で淫水漬けや」
だが美歌の方はたまらなかった。時おり微かに脈動する肉塊をくわえて、
穴の周囲の括約筋が無意識に痙攣してヒクヒクと男の肉塊を舐めまわす。
「た、たまんない。旦那さま…ァ」
「バカ動かすなと言うに、貴様、おまんこが自然に動くのか。この淫乱ババァ」
「は、はいッ、うわァイク、イッちゃうゥ」
「めす豚っ、イクなら勝手にイケっ」
掴んでいた髪の毛を捩じると、もともと不安定な姿勢で尻餅をついていた
美歌の乳房が大きく波を打つ。はずみで重心を失った身体がもんどり打って
ベッドから転落した。
「ぎゃッ、イク、イクイクゥ…ッ」
蛙が仰向けになったようにぶざまに手足を開いて、美歌はその瞬間
ズシンと音を立てて全身で跳ねた。
「ファッ、ファッ、それでもイキおったか。淫乱もここまでくれば貴重品や」
寸前で射精に耐えた男根を片手で握ったまま、田代重吾はゆっくりと
自分からベッドをおりた。
「生き恥を晒すのはこれからや、顔をこっちに向けて、目一杯股を広げてみい」
肥えた三段腹をグリグリと素足で踏み付けると、その度にぶっとい内股の
肉がゆさゆさと揺れた。
「ダッ旦那さまァ、狂いそう、狂わせてッ」
「だはは、もう十分に狂っているわい。もっとイケ、遠慮なく指を使ってもええぞ」
「ヒイッ、またイクイク…ゥ」
「そやそや、皺くちゃなおまんこに溜まった淫水を絞れるだけ絞れ」
「ウゥムッ、ウゥゥム…ッ」
狂態を見られることで一層興奮する。これまで何年も仕込まれ、自然に
身に付けてきた淫靡なテクニックである。やることが猥褻であればあるほど、
男の気持ちが離れないことを美歌は本能的に知っているのだった。
「とうとう、本物の淫乱になりおって…」
のたうち回る素っ裸の女を冷酷な視線で見下ろしながら、男が足の親指を
真っ赤に剥けた股間の粘膜に突き刺しながら言った。
「万一やで、明日にでもワシが死んだら、お前はどないするつもりや」
「えぇぇッ、そ、そんな…ッ」
「女の性欲には際限がないと言うが、ワシが死んだら淫乱をやめることが出来るか」
「いやぁッ、助けて下さいッ」
「阿呆ぬかせ。六十の女に助けてくれと言われても、どうにもならへん」
「ワッ、ワアァァッ」
堰を切ったように、美歌は慟哭した。
「嫌よぅ、いやァァッ、旦那さまァ…ッ」
「まぁええ、その時はワシの墓石におまんこをこすり付けてオナニーでもせいや」
抜き差しする男の足の親指に、ナメクジを踏みつけたような、異様に湿った
暖かさが伝わってきた。