二十五年目の狂宴
一、卒業アルバム
家の中を整理して、戸棚の奥から引っ張り出した古いアルバムを
ひろげて、私は思わず軽いタメ息をついた。
みんな、変ってしまっただろうな…
何年も見ることの無かったふるさとの高校の卒業アルバムである。
懐かしいと言えば懐かしかったが、正直なところ、覚えている顔も
少ない。同窓会にも一度も出ていなかった私にとって、それはもう
過ぎ去った過去の記録だった。
そうだ、確かにこの女の母親だった…
探し当てたのは、後列の右の端に立っているセーラー服の少女である。
記憶にある名前は白井敏子と言った。
地味な顔立ちで、それほどの美人と言うわけでもない。ただの同級生だが、
想い出は彼女の母親の方にあった。
高校二年の夏、私はこの同級生の母親と関係を持ったことがある。
前後の事情は忘れてしまったが、部活か何かの用件で彼女の家に行って、
敏子が席を外したスキに、母親が目尻にニッと卑猥な笑いを浮かべて
私の手を握った。まだ少年だったから、ビックリしてドギマギしていると、
母親は片手でズボンの前を握るように抑えながら、私の耳元に口を寄せて
「今夜おいで、待っているから」
と言うようなことを囁いたのである。
「おばさんはねぇ、あんたみたいな可愛い坊やが大好きなの。内緒で
いいこと教えてあげるから…」
もう童貞ではなかった私は、それが何を意味しているか容易に
察することが出来た。
敏子の家がどう言う家庭事情にあったのかは知る由もないが、
父親らしい男の気配が無かったところを見ると、あるいは離婚して
母子家庭だったのかもしれない。
年令は四十代そこそこで、いま思えば脂の乗り切った女盛り、
母親という眼をはなれた女としてみれば、さぞかし夜ごとに男欲しさに
のた打ち回るような生活を送っていたのであろう。
そしてこの夜だったか次の夜だったか、私は言われたとうりに、
敏子の母親と二人きりになった。
部屋は狭い公団の団地のひと間で、それもこの母親が仕組んだ
ことだったのだろうが、敏子はどこかに出かけていて姿を見せず、
私は思う存分、熟れきった中年女の欲情に翻弄されることになった。
「坊やのしたいことさせてあげるから、誰にも言っちゃ駄目よ。解っているわね」
念を押されるまでもなく、これが秘密の情事であることは承知の上だ。
思ったよりずっと淫乱な女で、最初から素っ裸になって女の毛深い性器を
舐めさせられたり、ちんぼをしゃぶって二度も射精させられたり、
イヤと言うほどナマナマしい年増女の性欲を味わったのだが、
まだ高校生の少年にとって、それは濃厚で強烈すぎる体験であった。
今思えばいいように弄ばれていたのだろうが、女とはこういうものだと
解ってしまえば馴れるのは早い。
その後何回か呼び出されて関係を続けたのだが、敏子には最後まで
黙っていた。やがて卒業すると何時の間にか名前も忘れてそのままに
なってしまったのだが、アルバムを眺めているうちに、突然ムラムラと
奇妙な欲望が首をもたげてきた。
私にとってはその後の女遍歴のきっかけを作ってくれた淫乱である。
そのころの年令から数えなおしてみると、すでに六十才を過ぎている
筈であった。
こいつは面白い…
消息を知るには、同窓会名簿を使って娘の敏子から聞き出すことが一番早い。
私はすぐに事務所の受話器を上げた。
「ハイ、モシモシ」
電話口に出たのは、姓も変ってすっかり中年のおばさん声になった敏子である。
二十年以上経っているので、始めは誰かわからなかったようだが、
名前と高校時代のアダ名を言うとアッと思い当たったらしい。敏子はとつぜん
頓狂な声を上げた。
「あら、まぁ懐かしい…、何かあったの?」
「いや、別に用事では無いんだが、実家のお母さんはお元気かね?」
「母なら元気でいますけど、相変わらず独りぐらしで…」
「久しぶりでそっちに仕事が出来たんでね。懐かしいから顔を見に
寄ってみようかと思って」
「あら嬉しい、母もきっと歓ぶわ。ぜひ寄ってあげてくださいな」
母親との異常な関係に気がついていない敏子は、何の屈託もない調子で言った。
二、悶えていた女
すっかり古びてみすぼらしくなった公団住宅のドアを叩くと、内側から
扉が開いて顔を出したのは、まったくの初対面と言って良い感じの
初老の女だった。
あの頃の蕩けるような肌の艶を失って、頬や目尻に半生を生きた年輪が
刻まれている。だが不思議なもので、その女の顔を見たとたん、
私には当時の印象が鮮烈に蘇えってきた。
「お母さん俺だよ俺…、解るかい?」
「えっ、さぁ…」
一瞬キョトンとして何かを思い出そうとしている様子だったが、二十五年も前に
戯れに肉体関係をもった高校生のことなど、覚えている筈もなかった。
「忘れちゃったのかなぁ。若いころさんざん可愛がってもらったんだけど…」
ちょっと拍子抜けしたが、当時の思い出や最近の様子を娘の敏子から
聞いてきたことなどをかいつまんで話すと
「あらま、そうだったんですか?」
ようやく危険な訪問者ではないことだけは納得した様子で、老婆は
ニィッと崩れた笑顔を見せた。
「ずいぶん昔の話なんでしょう?覚えていませんねぇ」
「その頃を思い出して、懐かしくてきてみたんだけど、良かったら話してみないか」
「そうですねぇ、汚いところだけど…」
このまま帰してしまうのは悪いと思ったのだろう。老母は部屋に入っても良いという
素振りを見せながら言った。
「私もすっかり年をとってしまって、何もお構いできませんよ」
敏子の名前を言ったことも警戒心を解く原因になったのだろうが、
都会と違って地方にはまだ人と人とのつながりのようなものが残っていた。
部屋に上がると、家具調度も昔のままでそれほど乱れてはいない。
この部屋で、娘の眼を盗んで痴態を繰り広げたのかと思うと、何故か
涙が出るような懐かしさがこみ上げてきた。
「お母さん、あれから結婚とかしなかったのかい?」
「ふふふ、イヤだよぅ。私しゃずうっと後家ですよ」
「淋しかったろうな、今日まで男ッ気なしできたのかい」
「仕方が無いでしょう。娘を嫁にやらなくちゃ、女は男とは違うんですから」
たしかに、女手ひとつで敏子を高校に通わせるにはそれなりの苦労が
あったのだろう。
人一倍強くて燃え盛る性欲を、世間に隠れて満たすためには、あんな方法も
やむを得ぬ手段だったのかも知れない。
この女の淫乱ぶりを知っている私は、何とかして話をそっちの方に持って
行こうとするのだが、年を恥じているのか女はなかなか乗ってこないのだった。
「思い出してくれよ。俺はそのころ高校生だったからなにも知らなかったけど、
お母さんのお蔭でいろいろ教えてもらったんだぜ」
「え、高校生…?」
「そうだよ、敏子ちゃんの同級生だったと言っただろ」
「あぁ、敏子のかい」
頭のどこかで朧な記憶が蘇えってきたのかも知れない。そのとき、
女の眼が微かに潤んだような気がした。
「お母さんにちんぼを舐めてもらって、二回もイカされてさ」
「ウフフ、いやですよぅ」
「そのとき、俺のこと好きだと言ってくれたじゃねぇか」
「はぁ、そんなことがあったっけかねぇ」
「そのことがずっと忘れられなくて訪ねて来たんだ。お母さん、もう一度
俺を好きだと言ってくれよ」
いきなり手首を握って引き寄せると、女はビクンと身体を固くしたが、
別に避けるでもなかった。
「でもあんた、こんなおばぁちゃんと…」
やがて、眼を逸らしたまま呟くように言った。
「好いんだってば、年なんて関係ねぇよ」
こうなれば、後はもう押しの一手である。
「お母さんだって女だろ、二十年も使わないおまんこ持ってるんじゃねぇか」
「あっぁぁぁ」
あの頃の淫乱ぶりからすれば、下手な口説きよりこうした迫り方の方が
効果があったのだろう。女は笑いとも呻き声ともつかない嬌声で咽喉を鳴らした。
「なぁ、もう一度昔に戻ってやろうよ。おまんこ舐めてやるよ」
「あ、あんた…、本気なのかい」
かすれたような声で老婆が言った。
「本当に、このおばあちゃんを女だと思ってくれるの?」
三、老嬢昇天
「良いから脱ぎな。俺だって、もう子供じゃねぇんだ」
混乱してガクガクと震えている襟元に手をかけて服を脱がしてみると、
上半身が痩せて鎖骨が浮き出していた。
だが乳房はしっかりと盛り上がって、黒ずんだ乳首が垂れ気味に
ぶら下がっている。若い頃は脂ぎって、もっと肥えていた印象が
あったのだが、これは意外だった。
「お母さん、痩せたねぇ。身体は丈夫なのかい」
思わず、そんな言葉が口から出たが、女は年令とともに肥るものでも
ないらしい。髪の毛は半分以上白くなっているのだが、裸にすると
陰毛はまだ黒々としていた。
顔を寄せて一本一本を掻き分けるように調べてみたが、僅かに数本の
白くなった毛が混じっているだけである。
女の陰毛は死ぬまで白髪にはならないのかも知れない。
陰毛に頬ズリしながら、鼻で割れ目の土手を広げて舌がクリトリスに
触れた瞬間、それまで観念したようにおとなしく、されるがままになっていた
女の身体がビクビクッと小刻みに震えた。
「ヒィィィッ」
何年ぶりか、もしかしたら十年以上感じていなかった強烈な刺激である。
「あッあんたッ、あんたッ…」
女は六十才を過ぎたとは思えない甲高い声で叫んだ。
「キッ、キツイィッ…!」
「快いんだろ、遠慮なく狂え。はじめはクリトリスでイカせてやるぜ」
「あぁ駄目ッ、死ぬ、死んじゃうゥ」
「まだまだこれからじゃねぇか。快くなってくるのはこれからだよ」
男根の勃起と違って、クリトリスはいくら固くなっても、快感が上昇する
だけ上昇して衰えを見せなかった。ヌメリは滲み出しているのだが、
昔のようにヌルヌルになるというわけではない。むしろサラリとした感じで、
臭いも無く唾液に近い。二十分ほど念入りに舐めていると、女は全身に
ベットリと汗を滲ませてゼイゼイと荒い息遣いになった。
「ヒェッ、ヒェェッ、タッ助けてぇぇ」
「ようし、それじゃそろそろハメてやろう。股を広げてみな」
両脚の間から顔を上げると、私は二・三度舌なめずりした後で言った。
「おかあさん、昔とちっとも変っちゃいねぇよ。相変わらずの淫乱だな」
痩せてボリュームが無くなった内股を手荒く掴んで、グイと左右に
広げる。真っ黒な陰毛の奥に、赤紫色に変色して湯気が立ちそうな
粘膜が鈍く光っていた。
「久しぶりなんだろ、思いきり突っ込んでやるからタップリと味わってくれよ」
亀頭の先端を割れ目からハミ出した肉片の中心に当てて、ひと息に
腰を入れると、キリキリと表皮が捲くられるような感触があって
根元近くまでギッチリと入った。
「ウゥゥムッ」
「おいっ、中味は全然弛んでいねぇぜ。流石だな」
外側が変色してビラビラと肉片が重なり合っているだけに、こんな締りが
ある道具とは思わなかった。
腰を捩じるようにしてゆっくりと抜き差しすると、そのたびに周囲の臓物が
吸いついてくる。女の性器を観賞する余裕も無かった少年の頃に比べたら、
年取った今は余程の名器だったことが解る。
「これだけの道具を持っていたんじゃ、あの若さで我慢できなかったのも
無理はねぇな」
「アヒ、アヒッ…」
だが女は、絶え絶えの息を吐くばかりで、ほとんど言葉を発することが
出来ない。形の崩れた乳首を舐めてやると、括約筋が痙攣してヒクヒクと
締るのがはっきりと解った。
「うう、たまらねぇ。おかあちゃんのおまんこがこんなに快いとは知らなかったよ」
それは間違い無く私の本音だった。
二十五年前のセックスは、女が妊娠することを恐れたのか、こっちが
射精しそうになると慌てて引き抜いて口の中に吐かされたものだが、
今となっては、もうその心配もなかった。私は溜まっていた精液のすべてを、
女の体内に注ぎ込んでやりたいと思った。
「俺も一緒にイクぜ。おかあちゃん、死んでも良いつもりで思いっきりイキな」
老女にとって、恐らくはこれが最後のセックスになるだろう。
私はゆっくりと深く、それから次第に速度を増して、耐えられる限界まで
前後左右に腰を振った。すると突然、女の身体が激しく硬直する。
「よおしっ、おかあちゃん…っ」
魂が抜けて、女の子宮に吸い込まれて行くような奇妙な一瞬、私は思い残す
こともなく大量の精液を老婆の体内に吐いた。