拾った女たち







一、 拾ってきた女


ラブホテルがまだ完備していなかった昭和二十三年の冬、遊ぶ場所と言えば

女を抱えた淫売宿か、いわゆる赤線地帯、それでなければアオカンしか

なかった。

そのころ、新宿の闇市でアルバイトしていた私は、けっこう羽振りが良くて、

盛り場から歩いて5.6分のところに四畳半ひと間のアパートを借りていた。

今はもう一流のビル街になっているが、花園神社から少し入った裏通りである。

毎晩のように街に出て、その夜客にアブれた売春婦をアパートに連れ込む。

女のほうでも下手をすれば野宿にもなり兼ねないので、誘えば驚くほど

簡単について来た。

服装もみすぼらしい街娼たちだが、夜ごと女が変るのは病み付きになるほど

面白かった。

椎名良子も、私にとってはそんな行きずりの女の一人である。

その夜遅く伊勢丹の角でひっかけて、泊るところもないというので、そのまま

アパートに連れてきた。年はハタチ、戦災で一家がやられて身寄りは誰も

残っていないという。

「それじゃ泊ってゆくか?宿賃はいらねぇが、その代わりヤルぞ」

「うん、お兄さんだったらいいよ」

良子は、救われたような顔で言った。寒空にどこで寝るつもりだったのか、

一晩身体を任せるだけで温かい布団にありつけるなら易いものだ。

部屋に入って一組しかない布団を敷くと、進駐軍放出の調度品や

当時珍しかったレコードプレーヤーなどを見回しながら、良子は

羨ましそうに言った。

「お兄さん良いわねぇ。私なんか自分で部屋借りたいんだけど、

住宅難だから」

「お前だって、そのうちに良いことあるさ。早いとこ寝ようぜ」

「うん」

パンティを自分で脱いで、良子は小さなハンドバックからコンドームを出した。

「悪いけど、サック嵌めてくれる?」

「決まってるじゃねぇか。お前、今日は何人とヤッたんだ」

「ひるま一人だけよ。嘘じゃないよ」

「昼間から客取ってんのか。たいしたもんだな」

「駄目よ。だってお金もっている人少ないんだもん」

シュミーズ一枚になって、脚のほうから私の横に滑り込んでくる。

「ごめんなさい、お邪魔します」

奇妙な挨拶だが、ヒンヤリとした女の肌の感触は心地よかった。

「そいつも脱げよ。寒くなんかねぇだろ」

「うん、じゃそうする」

部屋には安手の石油ストーブの匂いがムンムンしている。

言われるとうり素裸になると、良子はしがみつくように私の背中に腕を廻した。

「私がサック嵌めてあげるね」

黙って股を広げると、下のほうに手を伸ばしてモゾモゾと半立ちの

男根をさぐる。手さぐりでコンドームを装着することが出来るのは、

この種の女たちが持つ特技である。

「はい、いいよ」

確かめるように、固くなった肉塊を二三度しごいて、良子は私の顔を見て

ニコッと笑った。

「お兄さん、大きいわネ」

ハタチの小娘が身につけた精一杯のお世辞である。そのまま抱き寄せると、

外見がみすぼらしいわりには、しなやかに肉が締まった良い身体をしていた。

「上に乗れ。お前が腰を使えよ」

「はい」

肩まで布団をかぶったまま、脚を跨いで左手で肉塊を摘まむ。ワレメの

真ん中に当てて角度を決めると、ゆっくりと腰を沈めた。あまり濡れて

いないので、ゴムが貼りついてきしむような感じである。

「ねぇ私、どう?」

「悪くねぇよ。もっと締めてみな」

良子が下腹に力を入れてウンと息を詰めると、男根が微かに圧し戻される

ような感触があった。

「なかなか上手いじゃねぇか。練習すればきっと人気が出るぜ」

「ありがと」

乳房を上から擦り付けるように身体を伏せてクネクネと下半身を廻す。

ぼんやりと天井を見上げて感触を味わっていると、自然にヌメリが

滲み出してきて動きも楽になった。

「ねぇ、イクときは言ってね。私も一緒にイクから」

「判ったよ、もっと動かしてみな」

「あ、そこ、いい」

やがて、良子の息遣いが荒くなってきたとき、不意にコンコンと入口の戸を

叩く音が聞こえた。



二、アブレ牝犬


「誰?」

ギョッとして、良子は腰の動きを止めた。

「いや、サツじゃないかしら?」

「バカ、今ごろそんなもん来ねぇよ」

そのころアパートの入口は、ベニヤ一枚の引き戸である。

良子を上に乗せたまま、誰だ、と声を掛けると、引き戸の外から

震えているような低い声が聞こえた。

「わたし、ねぇ開けて、お願い」

「何だ、久代か?」

ここひと月ほどの間に、二三度抱いたことがある女である。

はじめは良子と同じように街を流しているのを見かけて泊めてやったのだが、

それからときどき客にアブレると、向こうからやってきて身体と引き換えに

泊っていくようになった。

いつ来るか判らないので気にもかけていなかったのだが、今夜はおそらく

久代も客がつかなかったのであろう。

「待ってろ。仕様がねぇな」

とんだ鉢合わせだが、構うことはない。

息を詰めて固くなっている良子をおいて布団から這い出すと、

私はコンドームを付けたまま、急いで寝間着を羽織って入口の戸を開けた。

「ごめんね、どうしても泊りが取れなかったもんだから、アラ、誰かいるの?」

弁解しながら久代はすぐに気がついて、奥の布団を覗き込むように言った。

「お邪魔だったのね。ヤッていたところなんでしょ?」

盛りあがった布団の中に誰かいることは一目瞭然である。

「良いから入れ。風邪を引くぜ」

「ねぇ、あの人誰なのよ。あんたの彼女?」

「遠慮することはねぇ。初めての女だ」

「へぇ、どんな人?」

とっさに自分と同じ街で拾われてきた女だと察しがつくと、久代は急に

強気になってヅカヅカと上がり込んできた。

「ちょっとあんた、顔見せなさいよ」

どちらかと言えば久代のほうが年上で顔も古い。

その自信があるので、久代は横柄な口調で布団の襟に手をかけると、

勢いよく一息に裾のほうまで捲った。

「ひぇッ」

「どきな。このお兄さん、あたいのお馴染みさんなんだから」

素っ裸で身体を縮めている女の背中を見下ろして、久代は居丈高に言った。

「勝手にもぐりこんで、油断もスキもありゃしない」

ずいぶん理不尽な理屈なのだが、こんな時は先手必勝である。

久代はいきなり爪先で良子の腰のあたりを蹴った。

「何よッ」

足蹴にされて、さすがに良子も必死の形相で身体を起こした。

「私は呼ばれたから来ただけじゃない。帰ってよッ」

「何さ初めてのくせして、デカい顔するんじゃないよ!」

いきなり、久代が女の髪の毛を掴んで左右に振った。

「ワッ、何すんのさッ」

だが女と言うやつは、洋服を着ているときと裸ではその動作が全然違う。

どうしても乳房や陰毛を手で庇おうとするので、良子はたちまち怯えたように

悲鳴を上げた。

「ヒィッお兄さんッ、たッ助けてェ」

「何言ってんだ。この泥棒猫!」

持っていたハンドバックで思いきり乳房を殴ると、良子はギャッと異様な

呻き声を上げた。あとはもう、やられ放題である。

男の奪い合いと言うより、これは一種のねぐら争いだった。

今でこそ新宿は二十四時間人通りが絶えることはないが、当時、この夜更けに

放り出されたら、得体の知れない凶暴な狼の餌食になるだけであった。

それが判っているから、二人とも必死である。

「馬鹿やめろ。隣りに聞こえるじゃねぇか」

「だってェ、こいつがあんまり図々しいんだもん」

「いいから二人で俺の相手をしろ。一緒に泊らせてやる」

名案と言うより、そうするしか収まりがつかない。股間にコンドームを

ぶら下げたまま私はニヤニヤと笑いながら言った。

「お前も脱げ、半分イキかけていたところだからな。ケンカしている

場合じゃねぇぞ」

「ほんと?悪かったわね」

まだ息を弾ませながら裸の女を睨み付けていたが、久代はどうやらそれで

納得したようであった。



三、六本の足


「ウゥ、寒む」

良子が全裸になっているので、久代も負けじとばかり着ているものをあたりに

脱ぎ散らして布団の中にもぐり込んで来た。

この時間まで街を流していたので、本当に身体が冷え切っていて肌が冷たい。

部屋には石油ストーブがつけっぱなしなのだが、それでも一人用の

せんべい布団に三人並んでいるので、女たちの背中や腰がモロに

はみ出していた。

自然、左右から私にしがみついてくることになる。

「おい、もうちょっと離れて寝ろ。これじゃ動けねぇよ」

「あら良いじゃない、温っためて上げるからさァ」

久代が、無造作に男根を握った。

「おちんちんが小さくなっているわ。ゴム取り替えなさいよ」

そう言えば、良子に嵌めていたのを抜いてからコンドームをつけたまま

なのである。

自分の権利を主張するように汚れたコンドームを剥がすと、久代は腕を伸ばして

自分のハンドバックから新しいやつを出した。

「これスペシャルなのよ。進駐軍のだから」

使い心地が変るわけでもないが、当時、米軍のコンドームは街の女たちの

間では貴重品だったのである。

「まだイッてなかったんでしょ。私がイカせてあげる」

二三度しごかれると、男根がたちまち勢いを盛り返して布団の中で跳ねた。

久代に嬲らせながら、片手で良子の陰毛を掻き分けると、もうべっとりと

ヌメリが滲み出している。クリトリスを揉むたびに、ヒクヒクと筋肉の震えが

伝わってくるのが気持ち良かった。

「お前が上に乗れ。もう寒くねぇだろ」

「うん」

男を横奪りした優越感で、久代は素っ裸のまま大きく腰を跨いだ。

今で言う3Pとは動機も内容も違うのである。

それでも久代はすぐ横に女がいることなど、全然気にならない様子だった。

久代が腰を沈めると、軟らかくてナマ温かい感触が男根を包んだ。

良子はじっと眼をつぶって、クリトリスを弄ばれるのに任せている。

私はその指の動きを少し早めながら言った。

「あんまり動かすなよ。ゆっくりとやんな」

「はい」

客にアブれた街娼が一夜の宿を借りるための代償である。

下から見ると久代の乳房は少し垂れて、先端がとがって揺れていた。

栄養不足なのか、肩の肉が落ちて薄いのが哀れだった。

「おい、お前も黙っていないで何かしろよ」

「えッ、な、何するのよ」

先刻からクリトリスをいじられて刺激に耐えていた良子が、びっくりしたように

目を開けてこちらを見つめた。

「この女のおっぱいを舐めてやれ。濡れ方が足りねぇんだよ」

こうしてこの夜ひと晩、果てしない女たちの競演が続いた。



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