好色娘の罠





一、 万引き母娘


私がその女を発見したのは、黄昏どき、新宿駅の西口にある闇市の

一角である。

当時、新宿の盛り場は東口の聚楽から伊勢丹の角あたりまでで、

歌舞伎町はまだ誕生していなかった。

西口といえば正面が工学院大学で、その奥に現在都庁ビルがそびえている

淀橋浄水場の広大な敷地が広がっている。

駅からガード下にかけて如何にも場末と言った雰囲気の闇市が密集していた。

昭和20年代、半ばの話である。

小学校6年生くらいの女の子を連れた母親が、人混みを縫ってガード下の

ほうに歩いて行く。年令は四十才そこそこであろう。

さりげなく、私はその跡を尾行けた。そのころは、まだ街に着物の女が

多かったが、色気も感じない粗末な和服姿で手に買物袋を持っている。

しばらく歩かせておいて、闇市の雑踏を抜け出したところで、私はおもむろに

後ろから声をかけた。

「おい、ちょっと待ちな」

「?」

 肩を掴むと、女が一瞬緊張した顔で振り向く。

「あんた、今どこから来た」

「えっ、あ、あっちから」

「馬鹿やろう、買物をして出てきた店の名前を聞いているんだ」

「・……」

「籠の中のものを出してみな」

とたんに、女の顔が凍りついたようになった。

「あ、あの」

「いいから籠を見せろ」

手を突っ込んでみると、出てきたのはメリケン粉の袋と、するめの束がひとつ、

あとは真新しい進駐軍放出の口紅である。

「どこで買った?」

「あ、あそこのお店で」

「そうかい、じゃ店に戻って本当に買ったのかどうか、確かめてみようか」

「そんな、私べつに」

「嘘をつけ。てめえ万引きの常習だな」

「い、いえあの」

そのころ私は駅の反対側にある闇市でアルバイトをしていたので、

捕まえてもどうということはなかったのだが、とっさに警備員のような

顔になって女を睨みつけた。

「シラを切るんなら警察に行くか?おい、どうするつもりなんだよ」

「……」

立っている膝がガクガクと震えている。すぐ横で、連れていた娘が訳が

わからず怯えてすくんでいた。

「一緒に来い、少し調べることがある」

「あッ、ちょっと」

「何やってんだ。早くこいっ」

西口は縄張りの外なので、一刻も早く抜け出さないとヤバい。

買物袋をもぎ取って歩き出すと、女はあわてて娘の手を引いてついてきた。

急ぎ足でガードをくぐると、あたりに焼けて廃墟になったビルが

いくつも立ち並んでいる。その中のひとつ、外壁をベニヤで囲った

焼けビルの中に入ると、ようやく足元の瓦礫の階段がわかる程度の暗さである。

二階にあがると突き当たりに二十畳くらいの真四角な部屋があって、

焼出された浮浪者が住み着いていたらしく、焚き火の跡やベトベトに

汚れた布団が散乱していた。

「ここで好い。話をつけようじゃねぇか」

「は、話って、何するんですか」

「子連れの万引きとは考えたもんだな。闇市荒らしは何時からやっているんだ」

「・・・・・・・」

女もこちらが正式の警備員ではないことに気がついたらしく、必死に

開き直ったような声を出した。

「帰してよ、大きな声だすわよ」

「何だと、万引きのくせしやがって、えらそうな口きくんじゃねぇ」

「だから、カンニンしてください。もうしないから、本当に出来心なんです」

「だったら着物を捲ってみな。女は良くそう言うところに隠しているんだ」

「ヒェェッ」

無造作に腕を突っ込む。グニャッと温かくて柔らかい太腿の感触があって、

着物を手前に引くと、何か固いものが帯の間から落ちてコンクリートの床に

小さな音を立てた。拾ってみると、進駐軍放出のライターと化粧品らしい

金属のケースである。

「見ろ、てめえ一人前の窃盗じゃねぇか」

「やめてッ、だッ誰かぁッ」

女は、とうとう本気でけたたましい金切り声をあげた。



二、狼の餌食


言い逃れ出来ないと思ったのか、女は娘を抱き寄せると、それを盾にして

部屋から脱け出そうとした。こうなれば、もう問答無用である。

「待てこの野郎、逃げるんじゃねぇっ」

「グッ、ゲホッ」

いきなり、乳房を突き上げるように拳骨で殴ると、女はよろめいて

あっ気なくその場に尻餅をついた。

「助けてぇッ」

その頬に平手で三発ほど、激しいビンタをくれる。

ここまでされるとは思っていなかったのか、女は尻餅をついたまま

呆然とこちらを見上げた。

「デカい声出しがって、まだ悪かったと思っていねぇのか」

「あぁあッ、トモ子ッ」

突然の恐怖で泣くことも忘れて立ちすくんでいる娘の洋服を掴んで

、母親から引き剥がすように部屋の反対側に連れていくと、怯えた娘が

かすれた声で咽喉を鳴らした。

「お、お母ちゃん」

「何すんのッ、トモ子を返してください」

夢中でいざり寄ろうとする横腹をしたたか蹴ると、息が詰まって、

背中を丸くしたままその場にヘタリ込んでしまった。

「ほう、トモ子って言うのかい」

肩を抱えて幼い娘の顔を覗きこむと、引きつって能面のように無表情である。

「いいか、お前の母ちゃんは泥棒なんだぜ。懲らしめてやるから良く見ておけ」

「・・・・・」

言葉も出ない様子で、眼を大きく見開いて無残な母親を凝視している

少女は哀れだったが、幼くて薄い肩の感触や、まだふくらんでいない

胸のあたりに視線をやると、私はムラムラと残忍な気持ちになった。

「それとも、お前が母ちゃんの代わりに罰を受けるか、どうだ」

「・・・・・・・」

ほとんど反射的に、トモ子がコクリと頷いて見せたのは意外だった。

本能が母親を庇おうとするのか、恐怖のあまり、人形のように頷いて

しまったのか判らないが、思いがけない少女の反応である。

「よぅし、それじゃ裸になってみな」

だが、手足が硬直して動かすことが出来ない。私は容赦なく

上着のボタンに手をかけた。

「タッ助けて、許してくださぁいぃッ」

女は、もう恥も外聞もなかった。尻餅をついて剥き出しになった太腿を

隠そうともせず、足首にしがみついてくる。

「その子を放して、お願い返してぇぇ」

「うるせぇな、少し黙ってろ」

「トモ子は何も知らないんですッ。変なことしないでぇッ」

「母ちゃんの身代わりになるんだってよ。親孝行じゃねぇか、いい娘を持ったな」

「ヒィィッ」

かまわず上着をむしり、強引にスカートを下ろす。

出てきたのは、微かに盛り上がりを見せてはいるがノッペリとした胸と、

ツルツルでひと眼で未熟とわかる一筋のタテ線である。

「やめてッ、やめて下さい。な、何でもするからッ、私をやって」

取り縋ってくるのを脚で払って、四ッ這いにした少女の尻を後ろから開くと、

案の定まだ色もついていない。

クリトリスらしいものは見えたが、内側は白くて幼児のものとそれほど

変ったところはなかった。最近では、小学校の4年生くらいで生理になる

女の子も珍しくないが、当時の子供の発育はこの程度のもので、

これでは快感どころか、入れても怪我をさせるだけである。

母親が必死になっているのは、この場合かえって好都合だった。

「そうかい、やっと判ったのかい」

娘の身体を放すと、私は振りかえって女の襟髪を掴んだ。ひっぱたいた時に

口の中を切ったのか、唇に血がこびりついている。

「身体で謝るというんだな。えぇっ、間違いねぇのか」

「わかったから、もう」

「初めからそう言えば良いんだ。手間をかけさせやがって」

女は恨めしそうにこちらを見たが、抵抗すれば何をされるかわからないと

観念した様子だった。

「ど、どうすれば良いんですか」

「決まってるだろ。脱げよ、おまんこまで全部見せろ」

「そんなッ、だ、駄目よ」

パシィン!もう一度、激しく頬が鳴った。

「言うとうりにしなけりゃ、遠慮なく娘を姦るぜ」

「ヒッ酷いことしないでぇッ」



三、犯され悲歌


「ぬ、脱ぎますから」

ブルブルと震える指先で帯を解きながら、女が哀願するように言った。

「脱ぎますから、お願い。あの子を外に出して下さい」

「自分の子だ。見せてやったからって、恥ずかしがることはねぇだろう」

「エェッ、エッ」

腰を浮かしかけたところを、有無を言わさず解けた帯の端を掴んで

手繰り寄せると、女はクルリと半回転して、汚れた布団の上に

つんのめるように倒れこんだ。

あわてて起き上がろうとするのを靴のまま踏みつけると、反動で

腰から下が大きく跳ねて股が開き放しになった。

「いい格好だぜ。もうちょっと脚を開け」

靴底で少し弛んだ感じの乳房をグリグリと捏ねると、カエルを仰向けに

したようにもがくばかりである。

腰巻の紐がほどけて、白い豆腐のような中年女の幅広い腹が

波打っていた。それを見下ろしながら、私はゆっくりとズボンから

ベルトを抜いた。

「てめぇパンツなんか穿いてんのか、そんなもん自分で取れ」

最近のような、洒落たデザインものではない。何の変哲もない厚手の

メリヤスズロースである。だが女は仰臥したままでは、自分で脱ぐことが

出来ないようであった。

「トモ子、こっちへ来い」

ふと思いついて、部屋の隅に蹲っている少女に声をかける。

「母ちゃんを助けてやれ。こっちに来て、パンツを脱がしてやんな」

「駄目ッ、トモ子、来ないで」

「てめぇは黙ってろ!」

こんなとき、女には恐怖を与えておくに限る。持っていたベルトを床に

向かって振り下ろすと、どこに当ったのか、ギャッと短い悲鳴を上げて

のけ反ったまま動かなくなった。

「早くしろっ。母ちゃんが可哀想だぜ」

前のめりに近づいてきた裸の娘は、相変わらず能面のような顔だが、

眼の周りに手の甲で涙を拭いた跡がくっきりと残っていた。

母親の足元にしゃがんでズロースを脱がそうとするのだが、体型と

ボリュームが違うので容易な作業ではなかった。

こちらは痩せて骨まで透けて見えそうな子供なのである。

猟奇的と言うか、淫靡なその情景を眺めていると、いっそう欲情が

昂ぶってくるのが不思議である。

私はそうそうにズボンと穿いていた靴を脱いだ。

「よく見てな。イイことやってやる」

トモ子を押し退けて、母親の股の間に入ると、微かな淫臭が漂っていた。

外はもう暗くなっていて、奥まではよく見えないのだが、陰毛はかなり

濃い感じである。

「ん?」

弾けそうになった男根に指を添えて、陰毛の中を探ったとき、

私はオヤと思った。もちろん快感などある筈もなく、カラカラに乾いて

いると思ったのだが、女の肉の内側がはっきりそれと判るほど濡れている。

グン、と一突きくれると、あっ気ないほど滑らかに根元近くまで埋まった。

「アゥ、ウゥゥッ」

流石に衝撃があったのだろう、女は全身を固くしたが、結合はスムースで

ほとんど抵抗はなかった。

腰を揺するとその度に露骨な音が鳴った。こんな場合でも、熟れた女の

肉体は奇妙に受け入れる反応を示すのである。

「ふぇぇぇ」

そのとき、呆然としていた少女が、初めて絞り出すような声を上げた。

まるで笛を吹くような哀しい泣き声である。

「トモ子ッ、あっちへ行きなさいッ。向うむいてェッ」

「いいからそこで見てろ。お前だって直ぐにやれるようになるんだ」

「嫌ァァ堪忍して下さいッ。う、うッ」

やがて、湿った匂いのする布団に組み敷かれた女がもがきはじめた。

暗い横で、少女が堰を切ったように少女が泣きじゃくっているのが

異様である。

「うるせぇっ」

「トモ子ッ許して、あぁ酷い、酷いわよゥ」

「口惜しいのか、それとも気持ち快いのかどっちなんだよ。えぇっ」

「うムム、うムムッ、コッ殺してェ」

手加減もせず突き上げるので、快感がたちまち上昇する。

女の道具の善し悪しを味わっている余裕はなかった。突然脳髄が

痺れたようになって、私は全身の重みを結合した一点にかけた。

「いくぜぇ、トモ子、しっかりと見てろっ」

強姦と言われれば、そうだったかもしれない。だが、こんな荒っぽい遊びが

出来たのも今はもう夢のような昔になってしまった。ビルの跡は銀行になって、

現在でも残っているのだが。



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