あ と が き
シャバでは、美歌の消息がようとして知れなかった。完全に、視界から消え去ってしまったのである。
もともと、私とは縁がなかった女だった・・・。
きゃらには、美歌に代わって新しいナンバーツーが出来た。夕子である。もうアルバイトではない、
夕子は一人前の銀座の女になっていた。
玉石寿々子の新居は、焼けた。焼け跡に、三人の死体があった。寿々子と瀬川和彦、それに
オナペット歌手の河井みゆきである。新聞が大きく書きたてていた。私が死んだ時の比では
なかった。情況では、どうやら三人で乱交パーティをやっていたらしい。原因は、煙草の火の不始末
ということであった。はたして、そうなのだろうか…? 私には、あれだけの騒動のあとで、
寿々子がどうやって、二人をまたあの家に引っぱりこむことが出来たのか、そのほうが
よほど不思議だった。やはり、抜群の演核力を持った女である。
加奈子は、あっさりとポルノ評論家をやめてしまった。今度は女性問題評論家という名前で、
肩書きの格を一枚あげたのである。それだけなら良い。同じ新聞の政治面を見た時、私は
驚倒した。次の総選挙に保守党から出るタレント侯補のなかに、堂々と加奈子の名前が
のっているではないか! あの、かっての女活動家だった加奈子がである。どうやら結婚する
相手を間違えたのは、私ではなく、加奈子のほうであったようだ。
翠のことについては、これ以上、触れたくない。ただ、村上という猫背の教師は、まもなく
学校をやめた。
これで、すべてである。
私は、大きな溜め息を吐いた。結局、また同じ結末になってしまた。もう何十回書き直して
きたことであろうか。まるで、何十年、何百年も前から、繰り返えしているような気がする。
だが、とにかくもう一回、もう一回だけ、書き直してみることにしよう。
どこか一箇所が変われば良いのだ。
そうすれば私だって、うまくシャバに戻ることが出来るかも知れない。
堅い一枚板の寝台を机の代用にして、私はまた木の葉の原稿用紙に向かった。萎え崩れそうになる
気持ちを立て直し、力を振り絞って愛用のモンブランを構えた。
始めは、やはり、こう書き出してみようと思う・・・。゜
俺は、ゴーストである。“幽霊"と訳して貰っては困る。
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