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コレクションの行方(後編) |
湯川いづみグループのテープコレクションについては、「わくら葉の妖精たちよ」で 大要の説明はしてあると思う。個別にやるとキリがないので重複は避けたいと思うが、 テープの原版はもうすでに存在しない。残っているのは俺のPCにWAVファイルで 保存された14ギガバイトの資料だけである。 画像と違って音声は容量が大きいので、これも危なく処分の対象になるところだった。 何しろ先代のPCはハードディスクが2ギガしかない。そこに65000枚5ギガの画像を 外付けハードディスク、MOフロッピーを使って詰め込んであるから、音声の保存など 夢だったのである。 そこを何とか工面して、40ギガのハードを持つ現PCに買い換えることができた。 IT文明の進化には感謝するばかりなのだが、それでも俺は約120本5000枚の ネガフィルム、350本の貴重なビデオテープを資料として失っている。 前・中編で述べたように、散逸してしまった写真も多いが、ネガとしてはしっかり 保存してあったものが、つい3ヶ月前、二度目の病気になって病院から退院して きた際、これはいかん、いよいよ俺も身辺整理をしなければならない時期になったかと 悩んだ挙句、ついに大決心をして、すべて廃棄処分にして燃えないゴミで出して しまったのである。 哀しいかな、俺はそのとき、フィルムがそのままスキャンできることを知らなかった。 もし知っていたら、どんな労力を払ってでも、たとえばこの「自我像三部作」の執筆を 遅らせてでもPCに取り込んで保存したろう。 もう一世代待てば、DVDだの100ギガのHDDなどが普及して、一時間ものの ビデオなどアッというまに取り込んでしまうことが出来るようになるのだろうが、 いやもうそういう時代になっていると思うが、残念ながら俺には時間も財布も、 そこまでやり遂げる余裕が持てそうになかった。 死んだ子の年を数えるようだが、失ってしまった資料の中から、今でも惜しかったと 悔やんでいるものをいくつか書き留めておこうと思う。 惜しいなと思われるのは、やはり初期の写真である。 実は、廃棄してしまったと思っていたネガの一部が、最近になってまだ残っている のを発見した。見ると芸苑社時代に蒐集した女の切腹デッサンの原画である。 これはかなり貴重なもので俺しかもっていない。画伯から直接送られたものだから、 いま掲示すれば反響があることは必至だった。 俺は「鬼畜図書館」に切腹に関連したページを持っているので、掲示板でそのことを 訴えてみたところ、パソコンに詳しい人がいてネガでもスキャンできるという。 俺は最近買ったスキャナーを持っているが、安価なのでどう見ても言われた機能が ついていなかった。散々励まされた挙句、遂にもう一台フィルムスキャン機能の ついた機械を買って試してみると、出来た!! 俺はさっそくこれをHPに構成して発表したのが、つい最近7月3日のことである。 今日は平成14年7月6日だから、僅か三日間で設置したカウンターは2800人が 来訪したことを示した。 今後、どれだけ伸びるかわからない。だが俺の切腹資料はこんなものではなかった。 まだまだ珍奇な女たちの演技が撮影されていたのである。 病気の直後のことであったとはいえ、もっと執念を持つべきであった。軽率に処分 してしまったことを悔やんでも悔やみ足りない思いである。 だが、これも一方では俺の単純な懐古趣味、センチメンタリズムであるような 気もする。たとえネガを復元することが出来たとしても、発表できる資料は 切腹などの特殊なものを除いてほとんどないのである。 例えば若いころ、門田奈子と志摩喬子と三人で同棲していたことがあったが、 俺が喬子と交わっている現場を、奈子が妬き餅半分に撮影した写真が、かなりの 枚数あった。内容はもちろん公開することはできない性質のものだが、若いときの こんな写真は懐かしいものだ。二人の女の複雑に絡み合った気持ちが、絵の中にも 微妙に表現されていて、どんな小説より、性欲の深淵を奥深く物語っていると思う。 初期のものといえば、モデルに応募してきた女たちの表情も、最近の女の顔とは 明らかに違うものがあった。 手をつけた女、何もしないで逃がしてやった女、使用前、使用後の微妙な変化を 写真から読み取ることができるのは、当事者ならではの特権であったろう。 最後に発見したネガ資料で、もうひとつ、思いがけなく残っていた貴重なものがある。 今では原本も博物館にしか存在しないであろう、フックス博士の名著『女』全三冊、 ディッキンソンの『ダス・ワイフ』全一冊に収録された写真資料のすべての複製ネガ である。原本は学術書で、今では古典になってしまった。 女の性の研究ではこれ以上のものはないといわれた奇書だが、俺はある機会に これを手に入れて、全部の挿絵を複写しておいた。これが奇跡的に手付かずで 残っていたのである。 まだ復元作業に取り掛かっていないが、著作権の期限はすでに切れている筈なので、 いつか発表してみたいと思っている。 さて次にビデオなのだが、これにはまた面白いいきさつがあった。 ビデオの時代になって、マサナオがビデオ屋でアルバイトしていたことは「わくら葉」に すでに書いた。 ルミがマサナオに惚れて、事務所で一緒に寝ることを許してやったとき、マサナオは ルミとの会話料に小遣い全部を入れ揚げて、翌日の食費にも事欠く貧乏だった のである。それでも一時間に3000円の料金がかかる女と、一晩過ごすことを認めた 俺の好意を、よほど恩に着たのであろう。翌朝になってマサナオが学校に行ってから、 ルミがコンビニのビニールの袋を持ってきて言った。 「マサナオがこんなものを置いていったんですけど・・・、旦那さまへのお礼の気持ち だそうです」 見ると、ダビングしたビデオテープが3本である。本人の口からはお礼ですとは 言い難かったのであろう。デッキにかけてみると、意外と質のよいポルノだった。 俺が気に入った様子を見て、 「マサナオって、こういう子なんです。何とかご恩返しをしたいと思ったんでしょう」 ルミは半ば得意げに、半ばホッと安心したように言った。 「ビデオ屋には、この程度の品物はいくらでも流れてくるのかな」 「さぁ、わたしも聞いたことないから・・・」 「よし、今度から良いものがあったらダビングして持ってくるように言っとけ」 「はい」 これで、テープさえ手に入れば一緒に寝られると思ったのか、ルミは嬉しそうであった。 そしてそれからというものは、マサナオは一本二本と面白いビデオが手に入ると 密かに店でダビングしては運んでくるようになった。 当時、裏ビデオはけっこう高価で、チラシなどで買うと一本4000円から5000円はした。 マサナオがどんなルートで手に入れていたかは知らぬが、それが無料でどんどん こちらに回ってくる。ビデオ屋の旨い汁だけを戴いているような感じで、ルミにマサナオを 抱かせたことは、決して俺の損にはならなかったのである。 もちろん、得難い変態物の情報が入ると、何としてでも手に入れようと努力もしたが、 こうして溜まった裏ビデオが、いつの間にか300本を越えていた。 なかには明らかに双子とわかる姉妹を犯すやつ、ドイツ製の国際的に有名なシリーズ 「スレイブ」の全巻、これは女を乳房だけて吊り上げたり、小陰唇に穴を開けて、 1キロ以上の分銅を2個も3個もぶら提げて見せたり、乳房や尻が針ねずみになるほど 針を打って、おまんこを太い糸で縫いつけたり、厚い板の上に巨乳を置いて、直接釘と ハンマーで打ち付けたりといったハードなものだ。。 ロリータものでは、わかる読者はわかると思うのでタイトルだけ挙げると、「13才の私」、 「少女の放課後」、「飲ませてともみ」、「少女の道草」などなど、今なら持っているだけで 罪になるというのがゴロゴロとあった。 だがいくら何んでも、こんなビデオが葬式のとき棺桶の中に入りきれないほど出てきた としたら、俺の名誉はいったいどうなるというのだ。 やむなく俺は一本一本のテープを鋏で切断し、目立たない黒いビニール袋に入れて 四回か五回に分けて廃棄してしまったのである。好事家にとっては涎が出るような、 数十万円の価値があるコレクションだったが、背に腹は変えられないとはこのことだ。 そのなかで、俺が今でも捨てられず、どうしようかと迷いに迷っている逸品がある。 後で出てくる話なのだが、「銀の鈴」こと、マゾ牝美砂子が俺に差し出したご主人さま 撮影のスペシャルビデオである。 タイトルもなければ音楽も入っていない。純粋に素人が撮った15分ほどの作品 なのだが、これが、人間の常識を超えた美砂子のご主人さまへの奉仕の実態を まざまざと写し出しているのだ。 もちろん顔はハッキリと判るし、知っている人が見れば、これが美砂子本人であることは 疑う余地がない。こんなテープを第三者の手に渡すということは、自分を捨て、将来の 生活のすべてを投げ出すに等しいのである。 「ようやくご主人さまに撮っていただきました。私は家畜化しているでしょうか。どうか、 淫神さまのお裁きをお願いいたします」 美砂子がこのテープを俺に渡すとき、気持ちの中には、ようやく宿願を果たした という安堵と、これから判定を受ける緊張が入り混じっていたと思う。 俺を信頼してとか、これまで薫陶を受けた御礼に、などといった次元の話ではなかった。 美砂子は文字どおり、家庭も人格もご主人さまのために捨てていたのである。 テープの内容は、よくあるAVのように、女が転げまわって情欲にもだえるといった 種類のものではなかった。 最初、後ろ手に股縄を掛けられた美砂子が、首に犬の首輪を嵌めて正面を向いて 立っている。ご主人さまからそこに立てと命じられたのであろう。これから起こる 出来事への期待と、恥ずかしさに怯えた表情は絶品である。 すぐに首縄を引き寄せられてご主人さまの近くに寄るのだが、舐めさせられる前に、 片手三本の指で乳首を捏ねられる。 美砂子がよく 「ご主人さまに乳首を触られて、傷があかぎれみたいになって痛いんです。千切れても 良いと思って我慢しています」 と言っていたが、これだな、と思った。容赦ない捩じりかた、悲鳴ひとつあげず、全身で 激痛に耐える姿は、メスになりきった女でなければ出来ないアクションである。 それでも美砂子は耐えて、ご主人さまのものを必死に咥えようとする。後ろ手に 縛られているから、顔全体を股間に埋めて、恥も外聞もなく大きな口を開く。そうでも しなければ、上を向いたご主人さまのちんぼを唇で捉えることが出来ないのである。 髪の毛が上下に動いて、ゲクッ、ゲクッ、と咽喉の奥まで嚥み込んでいることは判るが、 慣れない女だったら、このへんでウゲェッと噎せ返ってしまうところだ。 「飲むか・・・?」 美砂子は正座して、顔を正面に向ける。ちんぼを半ばほど咥えて、ご主人さまの顔を 凝視しているのであろう。目は一点を見据えたまま動かなかった。そして静かな 時間が流れる。 小便を少しずつ小刻みに排出できるのは、ご主人さまの特技なのである。 美砂子はご主人さまを凝視したまま、一滴も漏らさず排泄される小便を嚥み 下しているのだった。 さすがに片手にビデオカメラを持っているので、自由が利かないのであろう。 ここで画面がちょっと途切れる。 今度は美砂子が仰向けになって、股縄を外され、おまんこをカメラに向けて仰臥 している。アングルは、常にご主人さまの目線であろう。 「欲しいか」 「はい」 「どっちに欲しい?」 「どちらにでも・・・」 「だって、こいつは一本しかないんだよ」 「さ、先に、おまんこのほうへ・・・」 「ふぅん、おまんこのほうか好きなの?」 「いえ、いえ、ご、ご主人さまのお好きなほうへ・・・」 こんな会話が、途切れ途切れに続く。 やがて、画面いっぱいにご主人さまが指で男根を圧し下げて、前の穴に入れる。 「ああぁ、イッちやう!」 「美砂子は淫乱だな」 「はッ、はい、イッ、イッ・・・」 「さっきから、何回イッた?」 「さ、三回です」 「それじゃ、今度は後ろにしようか?」 「お願い・・・、します」 ほとんど体位を変えず、前から後ろに穴を入れ替えるだけ、ご主人さまが脚を 投げ出したところへ、美砂子を身体ごと引き寄せたといった形だった。 「あぁイク、あぁイク・・・!」 美砂子のアナルは、前穴と変わらないくらい筋肉が鍛えられていた。 これは美砂子自身が、自宅で旦那の目を盗んでは肛門にバイブを入れて ご主人さまからの刺激に耐えられるようにトレーニングを積んだ成果なのである。 そしてようやくご主人さまが射精したらしく、男根の動きが穏やかになったところで プツリと画面が切れる。 「あの、ちょうどそこで電池が切れてしまったものですから」 行きつけのラブホで、一巻見終わった俺に、美砂子が申し訳なさそうに言った。 「如何でしょうか、ご主人さまには、満足していただけたのでしょうか」 「良かろう、きっと満足しただろうよ」 「そうですか、良かった・・・」 美砂子はホッと胸を撫で下ろしたような笑顔を見せた。 「おまえは、ビデオの原版を持っているのか?」 「はい、一生の宝です。そのテープは、淫神さまにお供えいたします」 こうして俺の手元に残ったテープを、ビニールの袋に包んで燃えないゴミで 捨てられるか? だがしかし、誰の目にも触れさせるわけには行かない。その代償に内容を詳しく 説明したのだから、諒としていただきたい。 俺が死んだら、誰にも判らないように股の間に挟んで、棺桶の中に入れて貰いたい ものだと思う。 この言葉を美砂子が読んだら、身体を畳に擦りつけて、泣いて悦ぶだろうなと 思いながら、俺は今この原稿を書いている。 そして、一本のけもの道をひたすら歩いて、おそらく自分の泉を見つけたであろう 美砂子へのはなむけの言葉を結びとして、「けもの道、淫ら道」は、ひとまず 終ることにしよう。 最後まで、勝手な理屈を読んでくださった読者の皆さんに感謝する。 |
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