青いリンゴの唄 (2







        三、処女調教

 乳房に、炎の影が揺れている。

 天井の裸電球が霞んでしまうほど炎があがると、万里子はやっと

落ち着きを取り戻したようであった。

 痩せてはいるが、しなやかで均整のとれた肢体は、ちょうど子供から

大人への境い目にあたる。中性的で、妙に甘酸っぱい色気があった。

乳房は膨らんでいるのだが、腰まわりの線がまだ女になり切っていない。

16才という微妙な年令が醸し出す色気である。

「お前を買った客は得だな」

 火は、人の心の中までも暖めてくれる。

 小麦色の肌が炎に明滅するのを楽しみながら、源次郎は上機嫌だった。

「今どき、お前みてえな若い娘はなかなか抱けねえからよ」

 男の目的が、ただの遊びでないことは理解することができる。

だが売りものにされるというのは、たまらなく哀しかった。

「私、どこに行くの?」

 万里子は、不安そうに聞いた。

「だから、いいところを紹介してやると言ってるんだ」

「もう、帰れないんでしよう?」

「そんなに心配することはねえさ」

 源次郎は、新しい薪をかまどに放り込みながら言った。

「今は自由主義だ。淫売だって稼げばいくらでも楽ができる」

「淫売…?」

 その言葉のもつ暗い響きを、万里子はゾッとする思いで口ずさんでみた。

「そうさ、せっかく一発いくらで金になる身体じゃねえか。まだスレていねえし、

客は悦ぶぜ」

 パチパチと火の粉が跳ねた。

「こ、怖くない?」

「どうせ、一度は誰かに犯られるんだ。ハメてしまえば、あとは誰とやっても

同じようなもんよ」

 嫌だと言っても、逃げられないことは骨身にしみてわかっている。万里子は

うなずくよりほかになかった。

「まあ、始めが肝心だからよ。ひと思いに穴をあけてやるから言うとうりにしな」

 二の腕を掴んで引き寄せると、グタリと上半身が傾いて、自然に

脚を投げ出すかたちになった。

「いいか、もう騒ぐんじゃねえぞ」

 投げ出した脚をひらくと、生え揃ったばかりの細くて軟らかい縮れ毛が、

クッキリした縦割れの線にそって貼りついていた。

 なかは薄い紅色で、びらびらに囲まれた中心がまだ傷ついていない。

滑らかな粘膜がわずかに陥没しているだけであった。

「生娘か…、ちょっと勿体ねえな」

 されるままになって、万里子は怯えた眼で男を見上げていた。

恥ずかしさと言うより、まるで金縛りにあったように身動きできないのである。

「仕方がねえ。少し痛えかもしれねえが我慢しな」

 立ち上がって、源次郎は雨に濡れた兵隊ズボンのベルトをはずした。

「ど、どうするの?」

「見るか、こんなのが入るんだぜ」

 ズボンを膝まで下ろして正面を向くと、万里子はヒーッと息を引いた。

「驚くことはねえ。パン助になってアメ公にでかい奴をブチ込まれる

よりゃましだろう」

 割り込もうとすると、万里子は両脚をピンと伸ばして反りかえった。

「そうじゃねえ。もっとケツを上げて、股をひらけ」

「出来ない…ッ」

「ちぇっ、こうやるんだよ!」

 源次郎は、それほど太くない少女の内腿をがっしりと両脇に抱えた。

「まっ、待ってッ」

「いいから、眼をつぶってろ」

 凹みに先端をあてて狙いをつける。両手で胴のくびれを抱えて、

手前に引き寄せながらひと息に腰を落した。

「ぎぇぇっ」

 万里子は、全身を硬直させた。

「イッ、痛いッ」

「辛抱しろ、はじめはみんな痛えんだ」

「アアッ、酷くしないでェッ」

 見ると、亀頭が膨らんだ割れ目の中央を圧し潰して、半分だけ

メリ込んでいる。ほとんど濡れていないので、無理にこじ入れようとすると、

乾いた粘膜がまわりの肉を捲き込んで余計に痛みを増した。

「ヒィーッ」

 肩でズリあがりながら、万里子は甲高い悲鳴を上げた。

 戦争中、娘たちはセックスに無知、と言うよりセックスそのものが

タブーだった。女が結婚するまで処女であることを要求されていた時代、

万里子が過剰な拒絶反応を示したとしても無理からぬことであった。

「痛いッ、駄目ェ…」

 のけぞって、万里子は夢中で凄惨な痛みから逃れようとした。

「静かにしろ。濡れていねえから、暴れるともっと痛えぞ」

「お願いッ。ガッ我慢できない…」

「うるせえ、この野郎っ」

 一喝して、平手で頬っぺたを張る。源次郎は女の身体を突き放して

立ち上がった。

「そんなことで商売ができるかっ」

「か、かんにんして…」

「もう子供じゃねえんだ。我が儘もいい加減にしろ」

 脱ぎ捨てたズボンから、兵隊用のごつい革のベルトを抜いた。

「淫売はそんな甘いもんじゃねえんだぞ」

「アッ、許してくださいッ」

 バシーンと、小気味良い音が腹の上で鳴った。

「ひぇぇッ」

 万里子の身体が海老のように跳ねた。

「てめえ、おまんこが出来ねえんならブッ殺してやる!」

「しますッ、しますからッ」

 鞭が鳴るたびに、万里子は身をよじった。無意識に手が宙を泳ぐ。

たちまち小麦色の肌に太い鞭の痕が幾筋も浮かび上がってきた。

「わぁっ、ぶ、ぶたないでッ」

 バシッ…。

 激しい一撃がモロに乳房をとらえた。

「ウウムッ…」

 のけぞって意識が朦朧となった。ときどき筋肉がヒクヒクと痙攣している。

「立てっ」

 源次郎は、焚き火の中から燃えさしの角材を抜いた。

「立たねえと、毛を焼くぞ」

 ボンヤリと、万里子が瞼をあけた。眼の前にチロチロと角材の火が

燃えている。

 熱い…。

 迫ってくる熱気に、万里子は本能的に顔をそむけた。

「てめえ、ヤチ焼きを知っているか」

 角材を突きつけたまま、源次郎が言った。

「女郎が客を取らねえと、ここの毛を丸焼きにされるんだぜ」

「ヒェッ」

 あわてて腰を引こうとしたとき、ジリッと音がして、微かな

毛の焼ける匂いがした。

「わァッ。熱いッ、怖い…ッ」

 我を忘れて、万里子は恐怖に引きつった声を上げた。

「やらないでッ。お客とるからッ、淫売になるからァ…」

 弾かれたように、仁王立ちになった男の脚にしがみつく。

「お、お願いッ。何でもしますからッ」

 毛深い太腿にとり縋って顔をあげると、視界いっぱいに赤黒く怒張した

男根があった。

「うぐぅ…」

 何を考える余裕もなく、万里子はそれを口にくわえた。

「この野郎、誰が舐めろと言った」

 誰に教えられたのでもなく、救いを求めて無意識にとった行動である。

「も、もう一度、やってェ…」

 腰を抱えて、粗い下腹部の毛に顔をこすりつけながら、万里子は哀願した。

「私、我慢するから…ッ」

 やらなければ殺される…。痛いの怖いのと言っている場合ではないのだ。

「本気でやるっていうのか…?」

 男の股間に顔を埋めたまま、何回も頷く。

「仕様がねえ、もう一度やってみるか」

 源次郎は、燃えさしの角材を焚き火の中に抛った。

「淫売になると言ったんだ。その言葉を忘れるんじゃねえぞ」

 いきなり後頭部を抑さえて、ぐいと腰を突き出す。

「うっぷ…」

「根もとまで舐めておかねえと、あとで痛えぞ」

 息が続くまで押さえつけておいて、離すと唇から鼻のまわりにかけて、

唾液でベタベタになった。

「罰だ、今度は自分でやってみろ」

 源次郎が仰向けになると、怖いほど太くなった肉柱がぐいと天井を向いた。

「ど、どうするの?」

「淫売になりたかったら、突っ込んで自分で穴をあけてみろと言ってるんだ」

「うぇぇッ、はい…」

 脚を精一杯ひろげて、万里子はようやく男の腹を跨いだ。



    四、淫売への道


「そんな恰好じゃ駄目だ。もっと身体を立てろ」

「こ、こうですか?」

 ウンコしゃがみにすると、猫の舌のようなびらびらが正面を向いた。

 パックリと割れた肉のはざまは、内部が真っ赤に充血していたが、

処女のしるしはそのまま残っているようであった。

「よ、よくわかんない…」

 万里子は、腰を浮かして股の間を覗き込みながら、泣き出しそうな

声を出した。

「てめえ、自分の穴がどこにあるのかも知らねえのかよ」

「こッ、ここですか…」

「バカ野郎、もっと奥だ」

「はい…」

 指を添えて、それらしいところに狙いをつけてみる。身体を沈めようとすると、

薄皮を破られるような緊迫した感覚があって、思わず眉をしかめた。

「ほらビクビクしてないで、ひと息にやってみな!」

 源次郎が、いきなり全身の重さを支えていた万里子の足首を掬った。

「ギャァッ」

 脳天を突き抜けるような劇痛と一緒に何かが裂けた。

唾液に濡れた亀頭が、穴の入り口を割って中程まで一気にメリ込んでいる。

「見ろ、簡単に入ったじゃねえか」

 下から腰をはねると、沼地に杭を打ち込むようにひと突きごとに

グッグッと根もとまで埋まっていった。

「ウムッ、ウウム…」

 半分気が遠くなって、万里子の身体がグラグラと揺れる。危うく後ろに

倒れそうになったのを抱き留めて、源次郎はつながったまま身体を起こした。

「いいか、しっかりと味わっておけ」

 のしかかって両足を肩にかつぐ。源次郎は木の実のような乳首をつけた

膨らみをがっしりと握った。

「一生に一度なんだからよ。てめえ、やっと女になったんだぜ」

 万里子は、ヒィッと男の肩に爪を立てた。

 生まれて初めて異物を受け入れたショックで筋肉が収縮するのか、

とき折りぎゅっと喰い締めるような感触が伝わってくる。

 動かすとコリコリと直接骨をこするような感覚があった。

全体に、軟らかい肉の厚みがまだついていないのである。

「安心しろ、ちゃんと入ってるぜ」

 握った乳房を荒々しく前後に揺すると、残酷なリズムに合わせて、

万里子はガクガクと首を振った。

「イタイ、痛いよゥ」

「馴れていねえからだ。少しくらい痛くても辛抱しろ」

「早く取って、お願いっ」

「これからは一日に五人も六人も客を取るんだ。そんないい加減な

気持ちじゃ勤まらねえぞ」

「はッ、はい…ッ」

「こうやって男をイカせるんだ。淫売になったらしっかり稼ぐんだぞ」

「わ、わかったからッ。もう止めて…」

 痺れるような痛みが太腿から足先まで広がってくる。それは

嬲り殺しのような、地獄の責め苦だった。 やがて、男の腰の動きが

激しくなった。

「ほらっ、もっと締めてみな。腰に力を入れろ!」

「くっ、くっ、くうっ…」

 万里子は、歯を喰いしばって耐えた。

 もう少しで声を上げようとしたとき、身体から、突然ヌルッと錘りの

ようなものが抜けた。

「口をあけろ!」

 いきなり歯ぐきをこじあけられ、口の中が熱い塊りで一杯になった。

 ドボッ…、と上顎の奥にナメクヂを吐き出されたような気がした。生温かい

液体が一定の間隔をおいて噴き出してくる。

 嚥みこもうとして、万里子は激しく噎せかえった。

「ぐふっ、げえっ…」

「バカ、吐くんじゃねえ」

 残ったしずくを手で絞り出しながら、源次郎が言った。

「孕ませるわけにゃいかねえんだ。ぜんぶ飲んでしまえ」

 げくげくと咽喉をならして、万里子は唇のまわりに溢れた液を

手の甲で拭った。なにげなく見ると、薄赤い色に染まった粘液が

ベッタリとついている。

「血…!」

「何でもねえ、生娘にゃつきものだからよ」

 こともなげに言って、源次郎は勢いの衰えた炎の中に新しい薪を投げた。

「初物だと、こっちも早えや」

 そのままゴロリと筵の上に横になった。

 穴のまわりがズキズキと脈を打っている。まだ中で芋虫が這いまわって

いるような感じだった。

 気が緩んだのか、万里子は急にシュクッとすすり上げた。

「泣くな、もう終わったんだ」

 腕を曲げて万里子は涙を拭いた。それから俯いたまま、か細い声で言った。

「わたし、淫売になれるかなァ」

「何故よ?」

「だって、こんなんじゃお客さんきっと嫌がるわよ」

「ちぇっ、いらん心配するもんじゃねえ」

「上手くできないし…、叱られたらどうしよう」

 涙が込み上げてきて、自然にしゃくり上げる。

「良い道具もってるじゃねえか。男の扱い方は、これからちゃんと教えてやるよ」

 いつのまにか自分で淫売になると決めている様子を見ると、さすがに

可哀想になって、源次郎は少女の腰に手を伸ばした。

「こっちに来い。あした洋服を買ってやるから、今夜は火のそばで寝ろ」

「ハイ…」

 ときどき鼻を啜りながら、万里子は男の横で丸くなった。背中から横腹、

尻から太腿にかけて太いミミズ腫れが幾筋も交叉している。

「痛えか?」

「ウゥン、平気…」

 撫でてやると、万里子は後ろを向いたまま小さな声で言った。

「気持ちいい…」

 穴の中も、傷ついて爛れているだろう。

 どっちみち、鞭の痕が消えるまでは売り物にならない身体である。

客を取らせるには、まだ暫く時間がかかりそうであった。

 ところが翌朝、万里子はひどい熱を出した。筵の上で小刻みに

身体を震わせている。

 空はさわやかに晴れていたが、昨夜の雨がいけなかったのだろう。

明け方からおかしくなって、体温はどうやら39度を超えているようであった。

「薬なんかねえぞ」

 額に手を置くと、肌が冷たいわりにはそこだけが火照ったように

熱くなっていた。舌打ちして、源次郎は軍靴の紐を結んだ。

「ただの風邪だろう。着るものを買ってきてやるから、それまで我慢してろ」

 コンクリートの床から、素肌に冷えがしみ込んでくる。

 それでも源次郎が出ていったあと、万里子は浅い眠りに落ちた。

 戻ってきたのは、それから二時間ほどたってからのことだ。焚き火はとっくに

燃えがらになっていた。

 買って来たのは毛布と下着一式、洋服はそのころ流行った派手な

プリント模様のワンピース…。洋服は似合いそうもないが、万里子は

進駐軍の毛布がこれほど暖かいものだとは思わなかった。

下着もアメリカ製で、袋から出そうとすると源次郎がとめた。

「そいつは店で使うんだ。まだ穿くんじゃねえ」

 結局、パジヤマのかわりに男物のラクダのシャツを着せられて、

万里子は毛布に横になった。それでも筵に比べたらどのくらい

楽になったか知れない。

「具合はどうだ?」

「少し眠ったから…、だいぶ良くなったみたい」

 身体中がダルくて、ひどく熱っぽい感じだったが、万里子は無理に

笑ってみせた。

「そうか、それじゃデキるな」

「えっ…?」

「お前、まだ一度しかハメてねえんだぞ。それじゃ客なんか取れねえよ」

 源次郎は、厳しい顔で言った。

「今のうちに馴らしておかねえと、後で苦労するぞ」

 熱が出ようが病気だろうが、商売女としての訓練はして

おかなければならない。遊ばせておくわけにはいかないのである。

「できます、練習させて…」

 観念して、万里子は眼をつぶった。

 圧し潰された穴の周囲に、まだ棒を挾んでいるような感覚が残っている。

 挿し込まれたとき、火傷の痕をこすられるような痛みがあったが、

昨夜に比べれば、耐えられないほどのものではなかった。

「まだ痛えか」

「ダ、大丈夫です」

 夜になって、今度は犬のように四ツ這いにされて一時間近く犯られた。

二回とも、あのナメクジの味がするドロドロを飲まされなかったのが

僅かな救いだった。

 精神的なショックに肉体の疲労が重なって発した高熱は、若い生命力が

逞しく克服してくれた。

 次の日は二回、また次の日も三回と、幼い肉体はその度に男に順応していった。




<つづく><もどる>