魅くものと魅かれるものと、奇しき縁に結ばれた男と女



(1)


田沼 葵の手記「愛奴への道」


読者の皆様へ

私には子供の頃から緊縛願望がありました。

テレビの時代劇や刑事ドラマなどで、主人公が悪者に捕まり、縛られて監禁されたり、

拷問をされるシーンを見ると、密かに体を熱くしていた記憶があります。

SMという世界があるのを知ったのはいつだったか、定かではありません。ただ、それ以来

ずっと忘れることはできませんでした。こっそり隠れて読んだSM小説やコミック誌で、やがて、

ひそかな願望を持つようになっても、その時の私にとっては別世界のことでしかなかったのです。

自分とは関係のない世界、ただの空想だけの世界。いろいろな思いをずっと心の奥底に

隠しつづけていたように思います。

そんな私が、ある日、心から御主人様とお慕いできる方と出逢いました。それは運命とも

言える出逢いでした。

ここに書き記した「愛奴への道」は、そんな二人の愛の記録です。ご意見、ご感想など、

お聞かせいただければ幸いです。

では、どうぞ最後までごゆっくりとお楽しみくださいませ。                 田沼 葵




12月×日 【調教第1日目】

 とうとう逢えた。パソコン通信で知り合ってから今日で10日目。

まだ顔も声も知らないうちから私のことを大切な人、愛しい人、

そして「もう離さない」とまで言って下さった方だった。

その言葉に嘘はないと信じることができた方だった。

そして、この方こそ、私が探し求めていた御主人様だと思えた人に、

とうとう逢えた。やっと巡り逢えたその人を実際に「御主人様」と声に

出して呼べる日が来たのだ。

 昨夜は、まるで新しく生まれ変わろうとしているような心境になった。

御主人様の奴隷として生まれ変わり、育てていただくことに、

もう不安はなかった。

御主人様を心からお慕いし、お仕えしていこう、そう心に決めて

今日という日を迎えた私だった。

 まず近くの喫茶店で少しおしゃべりした。やはり恥ずかしくて、

御主人様の顔をまともに見ることは出来なかった。

「僕でいい?」

「はい」

 ただ一言、そう返事するのが精一杯だった。それで充分な答えのはず。

 それから数時間後、私は御主人様の奴隷として生まれ変われたのだ。

 ホテルの部屋へ入ると、まずビールで乾杯をした。そのうち御主人様が

私の隣へ来て下さって、まず手を取り、そして引き寄せられた。

膝のうえに仰向きに抱っこされ、いっぱいキスをして、何度も「可愛い」と

言って下さりながら、服を脱がせて下さった。

 四つん這いの姿勢で待たされ、御主人様が鞄からまず取り出されたのは

黒い首輪と鎖だった。

「皮のにおいを好きになるんだよ」

 そうおっしゃりながら、御主人様が首輪をして下さった。

ずうっと憧れていた首輪だったから、それだけで心が震えた。

御主人様は首輪に鎖をつけると、そばの柱に繋いだ。そして、

正座している私を黒い綿ロープで後ろ手にしっかりと縛って下さった。

御主人様の縄掛けは気持ちよかった。

左右の足首にもロープがかかる。少しずつ身動きできなくなっていった。

そしてその身動きできなくなった私を御主人様はしばらく眺めておられた。

「幸せだなぁ」

 ぽつりとそうおっしゃったのが嬉しくて涙が溢れてきた。

 次に登場したのは大きな鈴のついた洗濯バサミだった。

その洗濯バサミの鈴が両方の乳首で音を立てた。乳首の痛みのなかで、

私は思いっきりマゾになっていた。

 続いて革製の棒状の口枷をして下さると、御主人様は浴室へ

行ってしまわれた。しばらくすると口枷で自由が利かなくなった口元から

涎が流れ出してきた。

浴室から戻られた御主人様は涎を流している私をご覧になって、

とても喜んで下さり、その涎を吸い取って下さった。

 そのあと、剃毛していただけることになった。

御主人様は、それまでの責めを解くと、私を仰向けに寝転ばせて

大の字に固定された。直角とまではいかないけれど、いっぱいに

開いた両足。お尻に座布団を2枚敷かれ、私の恥ずかしいところは

丸見え。その姿で剃って下さった。

優しく剃刀が動く。私は御主人様に剃っていただける喜びを噛みしめていた。

剃り終わると御主人様は赤ちゃんのようになったそこに

ボールペンで「愛奴」と刻まれた。

 そのまま、再び洗濯バサミを乳首とラビアにつけて下さると、

クリトリスを優しく愛撫して下さった。

ほとんど指の感触を感じないのに体中に快感が走る。

御主人様は愛撫を続けながら私にいろいろ聞かれた。

今までのSM経験や、今の気持ち、奴隷になる決意等々。

 バイブでも愛して下さった。凄く感じた。昇りつめそうになって、

体が独りでにガクガクした。少しだけ蝋燭もいただいた。もっと欲しかった。

 そのあと休憩。

ベッドでギュッと抱きしめられて、いっぱいキスして、いっぱい愛して下さった。

そのとき御主人様の乳首を舐めさせていただいた。

御主人様のちっちゃな可愛い乳首を、音が出るくらい思いっきり

おしゃぶりしたら、上手だって褒めて下さった。

そして、これから調教がうまくいったら御褒美に舐めさせて

くださることになった。嬉しかった。御主人様の乳首をおしゃぶりしているとき、

赤ちゃんに戻ったような気がした。なんだか、とても穏やかな気持ちになって、

心の中が空っぽになって、一心におしゃぶりしていた。

御奉仕させてもらったあと、一つになれた。

 再び調教。今度は立ち縛りでベルトの鞭をいただいた。

本当の鞭のような痛さはない。でも乳首やアソコに当たると結構痛かった。

早く本物の鞭をいただきたいと思った。

 そして、もう一度バイブ責め。もの凄く感じた。

「イッていいよ」

 御主人様のお許しが出たとたん、体がガクガク飛び跳ねた。

立っていられないくらいになって、ロープに体を預けて、声をあげ、

昇りつめてしまった。こんなに感じたのは始めてのこと。

 そのあとベッドで少し休ませてもらってから一緒にお風呂へ入った。

湯船で抱っこされて、とってもいい気持ちだった。

お部屋に戻ってからも、しばらく抱っこしていて下さった。

 調教が終わったあと、始めての食事をした。並んで歩くときは

腕を組ませて下さった。駅まで行くタクシーの中では、

ずっと手をつないでいて下さった。そして私が電車に乗るのを見送って下さった。

 今日は、ずうっと最初から最後まで、「可愛い」「嬉しい」「幸せ」と

言って下さった御主人様だった。

いっぱいいっぱい可愛がっていただいて、愛される喜びをしみじみと感じた。

調教のつらささえ、私にとっては御主人様の愛情に感じる。

私が調教に耐える姿を見て、御主人様が悦んで下さるのなら、

それで私は幸せ。

どんな痛い目にあっても構わない、御主人様がそれを望まれるのならば……

 私は御主人様の奴隷、唯の奴隷ではなく、愛奴。

愛奴の称号は私だけに下さると言って下さった。

「もう僕の前から消えないで」

 御主人様は何度かそうおっしゃった。

私も「捨てないで下さい」と言った。



12月○日 【調教第2日目】


 今日は私のために用意して下さった首輪をいただいた。

金色で「愛奴 葵」と名前の入った黒い首輪。

それをしていただいて、鎖をひかれて歩いた。

今日の口枷はボールギャグ。これも私のために用意して下さったものだ。

 御主人様は私を立ったまま柱に縛りつけ、ベルトで叩かれた。

優しく、時折激しく……

 早く本物の鞭でもっと激しく叩いて欲しい。そう思いながら悶えていた。

 そのあと剃毛。

剃りあがったところへ「愛奴」と書いてくださった。

 そして蝋燭での調教。蝋燭を口にくわえて、自分で蝋を落とす。

自ら進んで動き、蝋を落としていた。とても気持ちよかった。

ずっと御主人様にクリトリスを可愛がってもらいながら、

蝋の花びらを散らした。あとから剥がしていただくのも気持ち良かった。

 合間合間に口移しでビールを飲ませていただいて、

御褒美に御主人様の乳首を舐めさせて下さった。嬉しかった。

思いっきり吸いついた。

 休憩の時、「このまま時間が止まればいいのに」と言ったら、

涙が出てきて、御主人様の胸で泣いてしまった。

 アヌスへも調教開始。

少しだけ指を入れて下さったようだった。

「アヌスの経験は?」

 そう聞かれたとき、処女じゃないので申し訳なかった。

 最後は、御主人様と一緒にお風呂へ入った。

 逢ったばかりなのに、もう逢いたくなっている。きっと御主人様も

同じ思いをされているだろうと思うと、それだけで嬉しい。

 もし前世というのがあるのなら、御主人様と私は、いつの時代か、

同じ人間だったのかもしれない。

そう、Sの心とMの心を持つ一人の人間だったのかもしれない。

一つの魂が、Sの部分とMの部分とに別れて生まれ変わって

しまったのだ。きっとそうだ。

親子、兄弟姉妹といえども、これほど似ていることはないと思う。



1月×日 【調教第3日目】


 約束の時間の15分前くらいに着くと、御主人様はもうすでに

車の中で待っていて下さった。

「お待たせしました」

と言いながら車へ乗り込む。

「お待ちしてました」

と御主人様。

 そのまま初詣に行く。あいにく時折時雨模様の天気だったが、

そんなに寒さは感じない。特に御主人様と一緒だから、

心は全然寒くはなかった。境内は人も少なく静寂そのもの。

御主人様を手を繋ぎ、指を絡ませて歩く幸せ。 無事お参りもすませ、

近くで食事。昼間っからビールを頂く。

そして、そのあと、通りすがりの公園を散策。

「写真を撮ってあげよう」

 バッグをゴソゴソしておられた御主人様がカメラを取り出された。

そのあとのことを考えて、ちょっとドキドキした。

コート姿と、コートを脱いだスーツ姿を撮っていただいた。

御主人様も撮って差し上げた。

  そのあとホテルへ。結構綺麗なホテルだった。

 最初、ソファーでずいぶん長い時間をかけて愛して下さった。

真っ赤なスーツも気に入って下さった。

今日の下着はゴールド。

これも「いやらしい下着…」と言って褒めて下さった。

 今日は奴隷としての誓いを立てる日だ。生まれたままの姿になって、

首輪をつけていただいてから、私が書いた『奴隷誓約書』を読みあげた。


            『奴隷誓約書』

 一、私は御主人様だけの奴隷として、これからの人生を命ある限りお仕えす

  ることを誓います。

 一、私は身も心もすべてを御主人様だけに捧げ、御主人様の所有物になるこ

  とを誓います。

 一、私は御主人様に悦んでいただけることだけを生き甲斐にして、誠心誠意

  ご奉仕させていただくことを誓います。

 一、私は御主人様から奴隷の印を刻んでいただけることを最大の喜びとして、

  御主人様が理想とされる奴隷となるよう、精進することを誓います。

 一、私は御主人様がお望みになることであるならば、どのような調教、折檻、

  拷問も喜んでお受けすることを誓います。

 一、私は御主人様の命令には常に服従することを誓い、万一、御主人様の意

  に反するようなことがあった場合には、どのようなお仕置きも覚悟いたし

  ます。

 なお、この誓約書の内容については誰からの強制でもなく、私が自ら望んだ

 ものであります。

 そのあと御主人様からの『奴隷契約書』を見せて下さった。

一通り読ませていただいたあと、御主人様を見る。

「誓える?」

 御主人様の言葉に私は黙ってうなずいた。

そして改めて『奴隷契約書』を読みあげた。


            『奴隷契約書』

 一、ご主人様を愛し尊敬し、絶対服従を誓うこと

 一、ご主人様の所有物として心と肉体のすべてを捧げること

 一、ご主人様に奉仕し、尽くすことを幸せと悦びとすること

 一、折檻と拷問に耐えて喜悦し悦楽する真性マゾ奴隷となること

 一、すべてのアブノーマル行為を理解し受け入れること

 一、マゾ奴隷の証として、ピアス、刺青、焼印で体を飾ること

 一、投稿、交換調教、貸出調教で、マゾ奴隷としての姿を晒すこと

 一、マゾ奴隷として淫乱で淫靡な化粧と服装をすること

 一、最愛の奴隷、愛奴としてご主人様から生涯愛されること

                           以上

 奴隷の証としてのピアス、刺青、焼き印は本当を言うと少し怖い。

でも御主人様がそれを望まれているのだから、私は御主人様の所有物

としてそれを受け入れるだけ。そう堅く心に誓った。

最後の『生涯愛されること』を読み上げたとき、その言葉がとても嬉しくて、

涙が止まらなかった。

 今日、新しく教えて貰ったのは、白い晒しの越中褌。

「この褌姿が葵の正装だよ」

 御主人様はそうおっしゃりながら褌をギュッと締めて下さった。

とても恥ずかしかったけど気持ちよかった。

それから背面合掌縛りもして下さった。少し痛かったが、出来たので嬉しかった。

手ぬぐいで猿轡もしていただいた。御主人様は、緊縛と猿轡に呻き声をあげて

悶える私を見て楽しんでおられた。

「もっと声をあげて悶えなさい」

 そう言って御主人様が乳首に洗濯バサミをつけて下さった。

つけて下さったとき、アソコにキューンと甘酸っぱい快感が走る。

もう、痛みより快感を感じるようになった。

そして、いろいろなポーズを写真に撮って下さった。

「こっちを向いて。もっといやらしい顔をして」

 そう何度も言われた。そんないやらしい顔をした私が次から次へと

カメラに収まっていった。

だんだんと背中に回した手の感覚がなくなってきていた。

縄を解かれたときには痺れきっていて動かすことが出来なかった。

 少し休憩したあと、好例になった剃毛の時間。

ベッドの端っこに両足を開いて固定され、お尻の下には枕が差し込まれた。

両手は頭の上で一つに縛られた。

天井の鏡には。そんな私の姿がはっきりと映っている。

その姿で剃毛。

そのあと、「愛奴」と書いていただく。いつもと違ったのは、

その「愛奴」の文字を千枚通しでチクチクと突き刺して、なぞられたこと。

また違った痛みに声をあげていた。

「刺青をしたら敏感になった」

 そうおっしゃるほど、そのあとの責めに凄く感じた。

バイブ、乳首とラビアへの洗濯バサミ、そして御主人様の指と舌での

体中への愛撫。全身くまなく感じていた。鼻の穴まで感じた。

 御奉仕もさせていただいた。足の指からアナルまで丹念に

心を込めて御奉仕させていただいた。

私の舌の動きに合わせて時折声を出しておられる。

感じておられるのだろうか。もっともっと感じていただきたい。

そう思いながらの御奉仕だった。

 そのあとは蝋燭。今日の蝋燭は細くて、見るからに熱そう。

きっと前のより熱いはず。そう思ったら、思った通りに熱かった。

蝋が落ちたとき、低温蝋燭は熱の暖かみがゆっくり広がるような気がするが、

こういう細い蝋燭は、熱がそのまま急速に走るような感じ。

もちろん温度の違いはあるが、熱の広がり方に違いも感じる。

そしてそのあと、御主人様が手にされたのは金属製のクリップだった。

小学校の家庭科のお裁縫箱に入っていた、運針の時に使うような

クリップが2つ、皮のベルトについていた。

「これはね、今まで誰も耐えられなかったんだよ。だから葵には

耐えて欲しい、この責めを楽しんで欲しい」

 乳首をクリップで撫でながら、御主人様はおっしゃった。

そのとき私は絶対耐え抜いてみせるという、意地みたいなものを

感じていた。御主人様の愛奴としての意地、かな。

やがて「深呼吸して」と言われ、そのとおり深呼吸をすると、

御主人様はクリップで乳首を挟み、ゆっくりと力を抜かれていった。

徐々に痛みが強くなる。御主人様が手を離されると、洗濯バサミとは

比べものにならない程の痛みが体を駆け抜けた。

と同時に、洗濯バサミの何倍も強い快感がアソコに走る。

耐えられたと思う。御主人様も感激されて、

「ありがとう」と何度も言って下さった。

 そのあとも責めが続いたが、はっきりと覚えていない。

御主人様の動きや、おっしゃった言葉、責めの内容、それらを細かなところまで

はっきりと覚えていたいのに、詳細な調教記録を作っていきたいと思うのに、

いつも、あとになると思い出せない部分が多い。

夢中になってるからだろうか。

御主人様の世界にのめり込んでしまっているからだろうか。

 責めを解かれて、今度はベッドの上で、自分で蝋燭を持つ。

御主人様は私を愛撫して下さって、私は自分で自分に蝋を垂らす。

バイブでイキそうになる。アヌスと両方にバイブをいただいた。

アヌスへの本格的な調教も近いうちに始まるだろう。

そしてそのまま御主人様と一つになれた。

私の体の蝋がそのまま御主人様にくっついて、どっちが蝋燭責めを

受けたのかわからなくなった。

 そして、最後は二人でお風呂に入った。これもすっかり恒例となった。

 ホテルを出たら雪が降っていた。

 御主人様の指を「魔法の指」と名付けた。

だって、いつもアソコに触れるか触れないかの微妙なタッチで、

うんと気持ちよくして下さるから。

そんな御主人様の「魔法の指」が大好き!

   

− つづく −





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