鈴 の 音                 

(上)  


篠原歩美       
           



 スカートの中で、また鈴が鳴った。

恥ずかしい事をしていながら、何でもないような顔をして、

この雑踏の中を歩いている。大好きなあいつに、逢うために。

 音がすることは分かっていながら、音がする度、恥ずかしくて

胸がきゅんとなる。鈴の音が誰かに気付かれはしなかったかと、

胸がどきどきする。

 自分が気にするほど、他人は気にしていない。鈴の音が

したからって、女のあそこに鈴を付けているなんて誰も考えない。

そう、自分に言い聞かせるんだけど、鈴の音を聞いた他人の意識が、

あたしの股間に集まるように思われて、そうなるともうだめ。

「何だその音は。」

「何でもありません。」

「どこに鈴を付けているんだ。」

「やめて下さい。」

「鈴を見せてみろ。」

「スカートをまくらないで。」

「うるせえ。」

「やだ、やめて、恥ずかしい。」

「パンティーもはかねえで、淫乱か、お前。」

「違います。大声だしますよ。」

「すきにしな。」

「やめて下さい。」

「何で、おまんこに鈴を付けているんだ。」

「お願いです、手を離して下さい。」

「そんな音を立てて、男を誘っているんだろ。」

 こんな妄想が頭から離れなくなって、人前であそこに

鈴を付けているという恥ずかしさの他に、淫らな事を

想像してる恥ずかしさが合わさって、耳に心臓が

移ってきたみたい。これが、空想だけならいいけれど、

もし本当になったら、みんなから変態だと思われて、

親と会えなくなるばかりか、会社もやめさせられて、

この街にだって居られなくなるだろうし、どうやって

生活していけばいいか分かんなくなる。

 このスリルは半端じゃない。この恥ずかしさと緊張が、

あいつの意志をこの身体に刻み付けて、重苦しい痛みを

伴って心を縛り付けている。あいつが望んだことをしている

苦しみは、やっぱり心地良い。あいつのことを身体で

感じていられる喜びは、快感。

大好きなあいつの言いつけを守っているあたしは、超可愛い。

「鈴は女のお守りなんだってよ。」

「へええ、知らなかった。いわれとかあんの?」

「わかんない。でも、鈴は女なんだと。」

「えええ?どういうこと?」

「二つの穴が割れ目でつながってる。」

「え?」

「おまんこと尻の穴だよ。」

「やだ。大きな声で言わないでよ、恥ずかしい。」

「本当かどうかは分かんないけど、よくできた話だよな。」

「う、そおう?」

「だからさ、お前、お守りなんだからつけろよ。」

「ああ、いいよ。」

「下着の替わりにな。」

「え?」

「スカートの中に付けるんだよ、きまってんだろ。」

「え?ショーツはかないで?」

「きまってんだろ。」

「どうやんの?前?後ろ?」

「まかせるよ。歩いてチリンチリンってなりゃいいんだ。」

「え?音を立てるの?あの中に入れちゃうんじゃなくて?」

「きまってんだろ。」

「何を入れたらいいの?」

「自分で考えろよ。」

「う、うん、分かったよ。」

「俺の女だって感じで、いいだろ。」

「鈴の音がするたびに、おまえのことを考えろってか。」

「ああ。」

「鈴の音で、あたしはおまえの女です、って歩きながらみんなに知らせる?」

「いいだろ。こんなに愛されてる女ですって音だよ。」

「そうかなあ?」

「きまってんだろ。」

 生理ではないけれど、タンポンを入れ、その紐に鈴を結ぶことにした。

安全だし、感じて濡れてきても、それと気付かれずに済む利点がある。

「それと、あそこの毛剃っておけよ。」

「う、う、うん。いいけど。」

「それと、脇の下は剃るな。」

「え?それ、困る。」

「おれは困んねえから。」

「そんなあ。」

「小説じゃ、髪の毛まで剃られたんだぞ。」

「何の小説か知らないけど、それは小説でしょうよ。」

「脇の毛か、頭の毛か、どっちがいい。」

「どっちがいいって言ったって。」

「いやか。」

「分かった。やってやるよ。」

 この季節、長袖なんて着られるわけがないし。

 剃るなって言われた日からそう日にちは経っていないけど、

誰が見ても、明らかに、手入れをしていないって分かる程度には、

脇毛は生えている。恥ずかしいだけじゃなく、それは、ちくちくと痛い。

 両腕があげられない。まるで二の腕を身体に縛り付けられて

いるのと変わりない。電車に乗っても、吊革につかまれないし、

髪の毛にだってさわれやしない。どうしても腕をあげなきゃ

なんない時なんて、もうびくびくもの。鈴の音もそうだけど、

気にしながら周りの人を見まわすと、みんなあたしのことを

気にしてるみたいに思えて、何の根拠もないのに、みんな

あたしのことを淫らな女だって見ている、そう考えてしまう。

だから、恥ずかしくなって、だから、感じてしまう。

どっちにしても、あたしは淫らか、やっぱり。

「行くぞ。」






「待ったか、くらい言えよ。」

「待ったか。」

「ばーか。」

「言ったとおりにしてきただろうな。」

「ああ。」

「飛び跳ねてみな。」

「今?ここで?」

「きまってんだろ。」

しかたねえな、やってやるか。

「可愛い音だ、どうやったんだよ。」

「ここじゃ言えねえよ。後で見りゃいいだろ。」

「前か、後ろか?」

「前だよ、超恥ずかしかったんだから。おまえも興奮しろよな。」

「ああ、そんで脇毛は?」

「あれから剃ってないよ。」

「よし、じゃ、飯食いに行こ。」

「それだけかよ。」

「お前なあ、」

「何だよ。」

「お前マゾだろ?マゾならマゾの言葉遣いってあんだろうが。」

「ご主人様、申し訳ありませんでした。あれー、お許し下さい。」

「何やっての?」

「ご無体な、おやめ下さい。」

「分かった、分かったよ、もういいって。」

風が気持ちいい。スカートの中にも忍び込んで、毛の無いあそこを

撫でていく。

「いい店だね。」

「ちょっと狭いけどな。」

椅子に座った時、鈴の音がした。隣のテーブルの客に間違いなく

聞こえた、と、思う。せっかくの食事なのに、恥ずかしくて

食べる気分じゃなくなっちゃうよ、これじゃ。

「スカートをもっとまくれよ。」

「そんな、隣の客に聞こえるって。」

「見せてみろよ、鈴。」

「ここで?」

「きまってんだろ。」

「いいけど、早くしてよ。」

「スカートまくったって、足開かなきゃ見えねえだろ。」

 ちょうど死角になっていて、他のテーブルの客からは、

恥ずかしいところは見えなさそうだから、そこんところは

安心だけど、カップルのもう一人が、テーブルの下に頭を

突っ込んでいるのは、かなり変。

「早くしてってば。」

「もしかして、これ、タンポンか、考えたな。」

「触らないで。それと、もっと小さい声で喋ってよ。」

「乙女チックで良いよ、毛がねえのもよ。」

「乙女だって毛はあるよ。」

「けがれを知らない、うぶな身体って意味だよ。」

「けがれちゃった奴を、毛を剃ってごまかしたのが気にいったって

いうの?いっとくけど、こうしたのは、おまえだからな。」

 男って奴は、恥ずかしがりやな女に、恥ずかしいことを

させるのが好きなんだ。そんなこと一度もしたことありません、

なんていう清楚で、何も知らないような女が、淫らなことをすると、

興奮するんだな、きっと。

「料理が来る前に、それ、外しておけ。」

「もういいの?」

「うるせえ、さっさと行って来いよ。」

 森のステーキセットと和風ハンバーグセット、べつにさ、

どうでもいいけど、茸ののったステーキと、大根おろしソースの

ハンバーグってだけ。まあ、メインは美味しかったから

文句はないけど、付け合わせの、ジャガイモとニンジンは、

いかにも冷凍食品って感じで、嫌いじゃないけど食べなくていい。

「残さないで食べろよ。」

「おまえだって、ニンジン残してる。」

「下で食ってみろよ。」

「え?」

「おまんこに入れてみろよ。」

「もっと小さい声で。」

 よくもそんな恥ずかしいことを、やらせるよ。

「油でスカートが汚れちゃうよ。」

「なめればいいだろ。」

「卑わいだな、なんだか。」

「それがいいんだよ。」

 ただでさえ恥ずかしくて体が熱いのに、あそこにこんなの

入れたら、人前で一人エッチ状態じゃん。

「おれのもやるよ。」

「もっと入れんの?」

 タンポン挿入って感じ。しかも、みんなに顔を見られて。

「いい顔してるぜ、うまいか?」

「こんなコトしてるあたし見てて、嬉しいか?」

「ああ。」

「耳貸してみな、もっと喜ばしてやる。」

「耳引っ張るなよ。」

「このニンジンなんかより、あなたの方がずうっと、美味しいわ。」

「ばーか、きまってんだろ。」

「お、喜んでる、喜んでる。」

 単純。ことエッチに関しては、男なんて言葉一つで簡単に

喜んでくれる。

「足を開いてろ。」

「何?」

「股を閉じるな。」

「何で?」

「すみません。これ、さげて下さーい。」

 あ、あいつ、わざとナイフを落としたな。足を閉じるなって、

この姉ちゃんがかがんだら、こっちを見たら、1mも離れて

いないのに、ショーツをはいてないし、興奮してるし、

わああ、毛も剃って無いし、もしかしたら臭いまで気付かれ

ちゃうかも知れない。立ち上がったけど、あたしの顔をちょっと見た。

何か、さげすんだような目。見られたかな。

「あのな。」

「感じたか。」

「何で?!」

「恥ずかしかっただろ。」

「そりゃそうだけど、いきなり感じるか!?」

「そんじゃ、じっくり感じさせてやるか。もう一回鈴付けてこいよ。」

「え?だってタンポンが、」

「持ってきてねえのかよ。」

「ばーか。あるよ、ちゃんと。おまえの考えることくらい、分かってるよ。」

「好きだな、お前も。」

「おまえに合わしてんだよ、一生懸命に無理してさ。どうだ、

意地らしくて、可愛いだろ。」

「行くぞ。」





「誰か来たけど、おまえ何か頼んだのか?」

「何も頼んでないよ。」

「そうだよな、飯食ってきたばかりだしな。」

「まちがいじゃない?」

「ラブホテルにノックしてくるのって、なんだろうな。」

「事故?事件?」

「まさか、お前、行ってみな。」

「うん。」

 え?いきなり二人の男が押し込んできた。やめて!

「う。」

 あ、男にお腹を殴られ、あいつが倒れちゃた。

「はあ、あ、う、あ。」

 恐くて声が出ない。どうしよう。あっと言う間にあいつ、

縛られちゃった。床に転がされてる。男がこっち見た。

こっちに来る。ちびで、薄笑いを浮かべえる変態野郎。

でかくて、怒った顔のスケベ野郎。

「可愛いじゃねえか、おとなしく言うことききな。」

 ふるえるように、うなづいちゃった。恐い。

「よし、こっちに来な。」

 素直について行くしかない。

え?入り口と反対のドア開けたら広い廊下に出たけど、

シーツが山になって置いてあったり、掃除機やほうき、

バケツなんかがあったり、そうか、従業員用の通路か。

裏から全部の部屋に通じてたのか。

「ここだ、ここだ。」

 三つ向こうのドアを開けて入っていった。もう一人の男が

私の背中を押す。がっちりした大男のむっつりスケベ。

乱暴するなよ、おとなしくついて行ってるのに。何?この部屋!?

「裸になりな。」

「やだ。」

 見たこともない奴の前で、恥ずかしいよ。できねえよ。

「本当は好きなんだろ?見られんのがよ。」

 むっつりスケベ、やだ、鞭持ってる。今、脱ぐから、打たないでよ。

近寄らないでよ。

「客の居るレストランで、おまんこ出してよ。」

 え?見られてた。こいつらに見られてたんだ。それで、

後を付けられた。

「痛ーい。やめろよ。」

 鞭が太股にあたった。脱ぐよ、さっさと脱ぐから、鞭はやめろよ。

ひりひりするよ。

「甘っちょろいSMごっこしてるから、ちょっと教えてやろうと思ってな。」

 やっぱり。

「後付けたら、ここに入ってくるからよ、飛んで火にいる夏の虫、

ここはよ、前にバイトしてて、後輩も、」

「あんまりべらべら喋んなよ。」

「そうだったな。」

 もしかしたら、ここの従業員もこいつらの仲間か。

「痛い。打つな、変態。」

 分かってる、脱ぐよ。畜生、鞭を持った、むっつりスケベ、最低。

「脇毛の手入れくらいしとけよ。ばばあじゃねえんだからよ。」

「うるせえ。」

 恥ずかしいの我慢してやってるんだ。お前みたいな変態に、

関係ねえだろって。 あーあ、恥ずかしくて、恥ずかしくて、顔が熱い。

顔が腫れ上がってゆくみたいだ。

「ブラジャーもとるんだよ。」

 分かってるよ、死ぬほど恥ずかしい思いしてんのに、一人の時みたいに

出来るわけないじゃない。

「人前でおまんこだしてる淫乱女が、うぶみたいな振りして、オッパイを

手で隠してたら、スカートが脱げないだろう。」

 人前で立ちション出来る奴等に、この恥ずかしさが分かるか!

「出来ないんだったら、脱がしてやるぞ。」

 近づくな、脱がされるなんてとんでもない、自分でやる。

「やっぱりな、パンティーはいてねえよ、この女。」

 あー、最悪だ、隠しようがない。

「手をどけろよ。さっきから、鈴の音が気になってたんだよ。」

「痛い。」

 鞭は嫌だって。スケベ野郎、やめろって。

「ほおう、その紐はタンポンか、そんなとこに鈴付けて。淫乱。」

「違う。」

「パンティーもはかねえで、みんなにおまんこを晒して、鈴まで付けて

男を誘うのが、淫乱じゃなくてなんなんだ。」

 違う。絶対に違う。私は、あいつのもの。私の身体は、あいつだけのもの。

淫乱じゃない。

「それも取りな。そんなの入ってたんじゃ、チンポが入らねえからな。」

 ああーあ。もう駄目だ。こんな奴等の前で、中腰で、足開いて、

あそこからタンポン引っぱり出すなんて、死ぬほど恥ずかしい。

「おいおい、淫乱よ、糸引いてるぜ。」

 嘘、やだ、見るな、そんなとこ。

「触られてもいねえのに、感じてんのか。」

 やだやだやだやだ、恥ずかしい、なんで?

「さて、さっさと縛るか。」

 両手首を縛られ、上につるし上げられ、右足膝を縛られ、大きく股を

開くように吊るさられた。丸見え。何で、こんな事に。もう、恥ずかしい。

「おまんこと尻の穴がひくひくいってるぞ。」

 知らない、そんなこと。いくら嫌がっても、身体が勝手に反応するんだ。

裸だけでも、恥ずかしいのに、縛られて、どうなっちゃうんだ。

「おい、早いとこ、ここにこいつの男を運んどかないと。」

「ああ。そうだったな。」


<つづく>



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