螺 旋 階 段 [オットマン]




 足元に転がって、足立の脚を見上げていた。
いつものように両手を後ろ手に縛られ床に横臥し、今日は両足を閉じた状態で膝と足首を縛られている。
「芋虫のようだな。」
見下ろしながら足立は笑っている。
屈辱を感じながらも、それが嬉しかった。
この屈辱感も含めて、足立が満足していると感じられるのが嬉しいのだった。

 ソファーに座っている足立の片足が、顔にのしかかってくる。
足の重さを顔で支えているせいで、潰された鼻は十分な呼吸ができなくなっていた。
「はぅ・・・。」
口を開けて息をしていると、足の指が容赦なく口に押し込まれる。
全ての指を口に入れようとし無理だと悟った足は、ずっしりと顔に押し付けられた。

 口に含まされた親指を吸うように唇をすぼめる。
指と指の間や指の裏側を舌先で舐めまわす。
ざらついた足からは、微かに石鹸の匂いがしている。
さっき浴びたシャワーのお陰で、汗の匂いも無く塩辛い味もしなかった。

 這いつくばって居れば思うように足を舐める事もできるのだが、この姿勢では身動きが取れない。
同じ指をずっと舐めているばかりでは、足立の満足を得られないと感じ頭を微かに動かした。
首を回せば舌の届く範囲は増えても限界はあり、舌先を伸ばしてチロチロと指を舐める。
「しっかり舐めろよ。」
わたしの思いを知ってか足立はじりじりと足を移動させ、全ての指を舐めるように促していた。
ソファーに座る足立の足置き、これが今のわたしであった。

 プライドなんて簡単に忘れてしまえる。
閉鎖された空間の中に足立といる間は、人という殻を脱ぎ去り椅子にも犬にも奴隷にも何にでもなれた。

 足立は言葉で縛り、命令でわたしを何にでも変えられる。
足立の声は耳に心地よく馴染み、言葉は疑う余地も無くダイレクトに届く。
その言葉にどんな罠があろうとどうでもよいと思っていたし、またそんな罠を張ることを、足立は楽しんでいる様でもあった。

 言葉巧みに丸め込まれて、嫌だと言った事でさえ結局承諾してしまうのだ。
言葉の駆け引きにかけては、足立はすこぶる弁がたち、人を煙に撒く話し方を心得ていた。
そしてわたしときたら、言葉で丸め込まれる事すら楽しんでいるのだった。

 このように後ろ手に縛られて床に転がされ、まるで物になったような錯覚を楽しむ。
そして足立もわたしを物のように扱うことを面白く思っている。

 それでいい。。お互いに楽しいならそれでいい。
互いに必要とする部分が重なっている事が重要で、それが唯一わたし達の接点でもあった。

 全ての指を舐め終えると、もう一方の足が顔に圧し掛かり、舐めるように強要してきた。
わたしに躊躇は無くその足も、親指から順に舐めていく。。。
爪の形や指のくびれを口腔で記憶するように、土踏まずまで舌を這わせていく。
足立がくすぐったいと感じることを期待し、土踏まずは柔らかく舌を這わせていた。

 唾液で濡れた足が、乳房をぐりぐりと踏みつけてきた。
足の指が乳首を捻る。
唾液でぬめる指の感触に、ざわりと腕や背に鳥肌がたっていく。
足の指がキュッと折曲がり乳首を捉え、ぬるっと離れていった。
その感覚を足立は楽しんでいるのだろう、何度も飽きずに繰り返された。
「あうぅん。。」
未知の感触に、声が漏れだす。

 手指の滑らかな動きや鋭い捻りは無い、無骨な動きであるから良いのだった。
淫らなぬめりと足の重圧に、胸の奥から燻る官能の煙。。。
不確かで煙のような官能は、わたしの体中に充満しつつあった。

 もう一方の足が、腕を下から上に滑る。
鳥肌を逆なでする足に、身震いしてしまう。
ゾクゾクとした感触。
官能と言うには不確かな快感である。
だけど、不確実な快感に漂うのは好きだった。
焦れる感じが心地よいのだ。

 「足蹴にされるのが、気持ち良いんだな。」
足立の容貌に冷ややかな色が射していた。

 腕をなぞっていた足が首にあてがわれる。
ジワジワと脚の重さが首にかかってきた。
首への軽い圧迫感が徐々に息苦しさに変容していく、だけどわたしにはなす術などなにもない。
冷たい眼を見返す余裕すら喪失していた。

 硬く閉じた目に映る暗闇のなか、顔が充血してきたのか熱くなっていく。
首を締められているのかと、錯覚してしまうほど苦しかった。
全身をくねらせ脚から逃れようともがいても、拘束された四肢では逃れようも無い。
逃れたくてのたうっているのか、苦しくてのたうつのか、それさえ解らない。
何でもするから、息をさせてほしい。。。
その思いで頭はいっぱいになっていく。
声にならない叫びに足立は気付きもしない、いや気にも留めていないのだった。

 更に足が重くなり、暗闇に落ち込む手前。。圧迫が解かれた。
虚ろに脚の戒めも解かれつつあることを感じながら、ひたすら呼吸をわたしは繰り返す。
不足した酸素を取り返すかに、何度も意識的に深呼吸をした。
胸に回されたロープは深く息を吸い込むたび、きつく戒めを自覚させていた。
自由に呼吸できる開放感を、ロープの締めつけにさえ意識できた。

 「こっちにおいで。」
優しい声であった。
背中に脚を差し入れ足立は、身体を起こすのを助けてくれた。
膝の間に座り込み、背中を足立に預ける。
さらりと冷たい足立の肌、爬虫類のようだった。。。

 「デカイケツだなぁ。」
足立のそんな言葉にいつもならくってかかるのだが、声を出す気力すら残っていない。
呼吸が整うまで足立の手は身体を撫でさすり、軽く乳房をもてあそんび続けた。

 「足置きは苦しいな。」
耳元で囁く声に無言で頷く。

「でも、苦しいだけじゃ無いかっただろう。」
頷くのを一瞬躊躇う。

 苦痛からの開放にわたしは贖われている。。。
様々なわだかまりという澱が、すっきりと消えていた。
この開放は、全ての出来事を贖うに値する開放でもある。
わたしは深く頷き。。。足立の腕に溶けていった。







つづく