螺 旋 階 段 ・ 4





 ロープがスルスルと解かれていく・・・。
締め付けられていた躰が、ため息を吐き出し。。。
そして、深く息を吸い込んでいく。
肺の隅々まで空気が満たす。
開放感に躰が膨らむ錯覚すら覚えた。
「下着を脱いで、こちらに来なさい。」
そういった足立は、ロープのほつれを直しまとめだしている。
真剣にロープと格闘している様子。
ロープをまとめている足立は、こちらに関心はないようだった。
だけど、脱ぐ事自体が恥ずかしい行為だった。
ロープに足立の注意が向いている間に脱ぎ終えれば。。。
気休めであったけれど、そう思うことで気恥ずかしさが少しだけ軽くなった。

 足立に背中を向け、スリップの肩紐ををずらし床に落とす。
ブラジャーを外す。
剥き出しの胸に指の痕が、薄っすらと残っていた。
スリップとブラジャーを小さくたたみ、バックの中に入れる。
残された最後の下着。。。ショーツを脱がなくてはいけない。
深呼吸をして、両手の親指をショーツにかけ。。。最後の下着を脱いでいった。
ショーツはまちの部分が、湿っぽくなっているようだった。
恥ずかしさに、ショーツをたたみ急いでバックに隠した。

 両手を陰部の前で組むようにし、乳首とアンダーヘアーをさりげなく隠した。
振り返ると、足立と視線があってしまう。
これまでの一連の動作を見られ、その心情を見透かされてしまったらどうしよう。。。
わたしは意味も無く、心の葛藤に気付かれる事を恐れた。
弱みを見透かされたような、気がするからだった。
平静を装うように、足立の顔を見つめ続けた。
ロープを持つ足立の前に、のろのろと小刻みな歩を進めていった。

 「両手を後ろに組みなさい。」
そう言われる事は予想していた。
だけど、両手を後ろにまわす事ができない。
ただ足立の眼を見つめる。。。睨みつけるように、じっと見つめるしかできない。
「縛ってほしくないのかな?」
余裕を感じさせる穏やかな声だった。
このまま固まっていたらわたしを置き去りに、足立は帰り支度をするだろう。
そんな確信を抱かせる、足立の余裕が悔しかった。
わたしにはそんな余裕の欠片も、残されていない。
躰にロープを直にかけられたい気持ちと、羞恥心でいっぱいだった。
このまま帰ったら、きっと後悔をする。。。後悔はしたくない。
意を決した。
のろのろと、両腕を後ろ手にまわしていく。
縛られたい願望が、羞恥心に勝っていたことを、恥じ入りながら。
もう足立の顔を見続ける事は、できなかった。
俯き加減になって後ろに腕を回し、眼を閉じていた。
気配を感じさせない足立は、わたしを見ているのだろう。
指の痕が残る胸やアンダーヘアーを見ているのだろう。
羞恥心よりも縛られたい願望を選んだわたしを、いやらしい変態だと思っているのだろう。
恥知らずな自分自身に、顔が熱くなっていく。

 「後ろを向きなさい。」
言われるがままに後ろを向いた。
両手首にロープがかけられ、縛りが始る。
「もっと胸を張りなさい。」
素早くその声に従ってしまう。
胸の上部と下部にロープが通された。
ロープはさほどきつくも無く、呼吸も楽にできる。
背後で足立はロープを引き抜いたり結わえている。
縛りに集中しているようで、一言もしゃべらなかった。

 両腕の拘束は、不可思議な安心感を感じさせる。
縛られているのに安心感を感じるのは、なぜなのだろう?
この状態ではどうしようもないという諦めからは、落ち着きが生まれるとは思えない。
身を任せる事ができる安心感や安堵感なのだろうか?
縛られてそんな事を感じるなんて、信じられない。
抱きしめられる感じにそれはどこか、似ている気がした。
ロープが肌を滑る感じは、愛撫のようだった。
スルスルと滑るロープが、肩から前に回され胸の下のロープを通り、肩から後ろに回されていく。
脇にロープが通される時は、くすぐったさに躰をくねらせていた。
何度か脇にロープが通される。
何時の間にか上腕が固定され、拘束がきつくなっていた。
絶望的な感情が生まれてもいい筈なのに、ホッとした気持ちでロープを受け入れていた。

 ベットに腰掛け足立は、完成した縛りを眺めている。
わたしの姿を見ているというよりも、ロープの具合を吟味しているように感じられる。
ロープで強調された胸は卑猥にみえたが、強く羞恥心は感じなかった。
恥ずかしい姿を隠す手だてがあるのに、隠さないでいる事が羞恥を煽っていたようだった。
隠しようの無い状態において、諦めがついたのだ。
「縛られた感想は?」
感想。。。どう答えよう?
『少し恥ずかしい』や『抱きしめられてるみたい』では、あまりにもおかしな返事だとおもった。
かといって長々と感想を連ねる気もない。
『縛られた胸が卑猥に見えました』も的外れな気がする。
「こたえる気が無いのかな?」
クリップを取り出し足立は、ニヤニヤと笑っている。
答えなければクリップをつけるぞと、脅している。
「動かせません・・・腕が。」
クリップを恐れて陳腐な返事してしまう。

 軽く手のひらを動かし、来るように足立に命じられる。
クリップで苛められる。。。乳首にクリップを付けられる。。。戦きながらも足立の目の前に立った。
視線でベットに上がるように促す。
足立の機嫌を損ねる事をなによりわたしは恐れていた。
素早くベットに上がり足立の方を向き正座をする。
両腕は拘束されているから、抵抗しようも無い状態である。
足立はクリップを開き、しごくゆっくりと乳首に近づけてきた。
クリップはじわじわと乳首を狙って、近づいている。
恐怖でわたしはクリップしか、見えなくなっていく。
躰を反らしクリップを避けようとしても、容赦なくクリップは乳首を追いかける。
乳首の先端に冷たいクリップが触れ・・・
「イヤ!」
反射的にベットに倒れこみ、クリップから逃れていた。
「面白いやつ。」
足立はかがみこんでわたしの顔を覗き込んでいた。目の端が笑っている。
両脚が横すわりになった状態で、倒れこんでいたわたしは身動きがとれず逃げ場は無い。
クリップに戦き躰を強張らせ、目をぎゅっと閉じわたしは固まるしかなかった。





つづく